空白始点   作:サングレ

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第二話 悪運という名の

 

 

 

 

 

結風という少女は悪運が異常に強い。しかしそれと同じ位に生存運が高く結果としてプラマイゼロという比較的平凡な運勢に落ち着いている。

今日も市役所の帰り、見回りついでに人通りの少ない森林公園を迂回して本部に戻ろうとした時だった。

白昼堂々の探偵社とマフィアのガチ抗争を見てしまった。

 

「まだ昼ですよ……」

 

建物の影に隠れ広場の一部始終を見守る。しかし如何せん遠すぎる。ビル3個分は離れているのだ。

各所にメールを送った後、そっと軍用望遠鏡を取り出し覗いてピントを合わせた。後はお得意の読唇術を発揮する。

 

「鏡花に……ひかり?光か。うん?泉鏡花?」

 

1月程前に軍警から届けられた手配書の中にそのような名前があった気がする。確か久遠寺が「世も末だねェ」と言っていた。

 

「あの子か」

 

そうこうする内に着物の女性の異能により銀髪の少年は文字通り切り刻まれ、マフィアの黒服の連中が取り囲んだかと思えば自動車が飛んで来てなぎ倒した。

同時に、結風にサングラスをつけた青年が背後から声をかけた。

 

「班長、この区画の隔離と遊撃班の配置完了したッス」

「ご苦労様ですゆきじー」

 

ゆきじーと呼ばれたこの色素の薄い茶色の髪にサングラスをかけた青年、雪島千歳。結風の直属の部下だ。

目鼻立ちは掘りが深く、明らかに異邦人で有るが彼もまたワケありの人種なのだ。

 

 

 

その時、広場の方で動きがあった。

 

「ワァ、タイミング最高!」

 

はっきりよく通る声が響き、全ての集中がそちらに向く。

鳥打帽を被った青年と年齢不明の黒ずくめの男。

組合の、精鋭。

 

「どっから入って来やがった!?」

「此方結風、展開部隊は」

 

驚きの声を上げる雪島と彼のインカムマイクをひったくり通信を入れる結風。

 

『こちら、に、西区画かいせきはん……異能者に、お、おそわれましたぁ……!!げほ、げほ!』

 

雑音の中途切れ途切れに聞こえる悲痛な声に下唇を噛みしめる。

 

「班長!」

「今度は何ですか!」

 

結風の嘆きをかき消す様に轟音が響き、組合の精鋭更に四人が追加された。

 

「突撃するッスか?」

「……いいえ、待ちましょう」

 

インカムマイクに口を寄せ、言う。

 

「抗争を開始して少ししたら飛び出しますよ。軍警への根回しお願いします。それから本部に伝令を走らせなさい」

 

凄惨たる斬撃が繰り広げられる。

探偵社の銀髪の少年が血文字に弾かれ、マフィアの着物の女性は名状し難き混沌の物体に打撃を加えられ地面に叩きつけられる。

頭をかち割られた者、腕を吹き飛ばされた者。上半身しか残らぬ者、下半身しか残らぬ者。風に乗って人間の体液が気化した臭いが流れてくる。鉄錆にも似たその臭いが普段、家族が憩い笑い会う場所に流れる。

綺麗なモニュメントを携えた噴水にパシャリと主人を無くした腕が浮かぶ。

そして、終ぞ結風は決心する。

 

「行きますよ」

「OK姉貴!全員かかれ!」

 

 

一糸乱れぬ展開。闘争の場面を取り囲む男達。流行りの服に似合わぬ拳銃、日本刀、戦闘用ナイフ、機関銃。

スキールニル遊撃班だ。

 

「そこ迄です。この区画は我らスキールニルが包囲しております。無駄な抵抗は止めなさい。お勧めはしません」

 

はっきりよく通る声で結風は言う。

 

「其れでもまだ抗争を続けるというのであれば、軍警の実働部隊一個小隊お呼びしてここで血肉舞う世にも珍しい花火大会でも開催しましょうか?」

 

その脅し文句に組合の鳥打帽の青年はヒュウと口笛を吹いて戯けた。

 

「良い案だねぇ。けどもっと良い案があるよ」

 

この場に似つかわしくない綺麗な瞳を向けて笑うと言った。

 

「君たちをこの場で消して、何も無かった事にする」

「……仕方有りませんね。畜生相手に言葉は通じないものです」

 

結風は自然な仕草で右手を横に振った。

そして、冷徹な声が響く。

 

「スキールニルの名において命じます。制裁を開始しなさい」

 

そして制裁が始まった。

 

銃撃音に打撃音に異能の発動音。あらゆる音が混ざり合い、もはや誰が何を使い何が誰を傷つけてるのか誰にもわからない。誰もが必死に「敵」を攻撃する。

結風は首筋から葡萄の木を生やす青年に切りかかった。

目にも留まらぬ速さで3度ほど戦闘用ナイフを振るえば木は切り刻まれ屑となる。

 

「ワォ、この国の女の子はアグレッシブだね」

「貴方達のお陰でね!嫌でもこうなりますよ!」

 

真垂直に降られた結風の刃を、鳥打帽の青年、スタインベックは手持ちのナイフで受け止めた。刃と刃が擦れ合う歪な音が発生する。両者一歩も譲らず、お互いナイフを弾いて後方飛びで距離を取った。

再びの激突、刃が交わる。しかしどんな斬撃も互いに届かず時間だけが流れる。

 

「ねぇ君、どうしてそっち側にいるの?」

 

平坦な表情で、しかし楽しそうにスタインベックは問うた。

 

「ボクはね、家族の為だ」

 

金属音を背景に、そう言う。結風は目を細め、接近してきたスタインベックに刃を振るった。そして、答えた。

 

「奇遇ですね、私もです」

 

スタインベックの刃が垂直に振り下ろされる。結風は横に弾く。

 

「大家族でさ、妹がいるんだ」

「私は兄がいます。両親の顔は知りません」

 

結風の刃が懐を狙う。スタインベックは下に弾き距離を取る。

 

「可愛いものなんだよ、守ってあげたくなる。妹の為ならなんだって出来る」

「愚直に一途な兄が好きです。兄の為なら何でも出来ます」

 

スタインベックの刃を、結風の刃が正面から受け止めた。

 

「それが死ぬことだとしても?」

「それは無理です」

 

刃を弾き、体の中心に渾身の蹴りを決めたのは結風だった。スタインベックの体は面白いほど吹き飛び地面に叩きつけられた。

 

「何せ側に居たいんでね」

 

体勢を立て直したスタインベックは優しく笑う。そしてナイフを懐に収め、代わりにレース糸で括られた紙束を取り出した。

 

「いいね、最高だよ。お礼に良いの見せてあげたくなった」

 

青色のインクでビッシリと文字が書かれた紙束。一見すれば子供の落書き。狂気的に、細かい字で、恐らく英語で書かれたそれ。

冷気が骨の髄に満ちるような感覚。あれは只の紙ではない。

牧師服の若い男がそれを見て眉根を寄せた。

 

「使うのですかスタインベック。些か速すぎでは?」

「遅かれ早かれスキールニルの応援が来るよ。なら先に使った方がいい」

「……止めませんよ」

 

レース糸を引きちぎり、紙束をばら撒いた。不自然な風が、それらを全て舞い上がらせ光の帯へ変わって。

異能の発動音が無慈悲に響いた。

そして光の帯は形に変わり、粒子が弾けて何十体もの獣人の獣と化した。その爪が、結風に振り下ろされる。

 

「なっ……!!」

 

突然の事に判断が遅れ、1度に様々な思考と命令を受け取った体は動かなくなった。目の前の風景が、酷く、酷くゆっくりと流れた。

 

「姉貴!!」

 

誰かの怒号に感覚が戻る。後ろに飛び退けばレンガを陥没させる爪。そして横からの射撃。獣人は一瞬、体がひしゃげ、それから紙屑に変わった。見れば片膝をついて銃口から煙を上げるマシンガンを構えた雪島。素早く駆け寄り結風を守るように数多の獣人に狙いをつけた。

 

「何スかこいつら!」

 

享楽を堪えるように笑みながらスタインベックは言った。

 

「只の異能生命体だよ。もっとも、タフネスは桁違いだけど」

 

陥没したレンガ道。まともに喰らっていたら頭くらい簡単に吹き飛んだだろう。

自分の頭部が陥没し、脳漿と脳を散らしながら絶命する……その予想を軽く頭を振って振り払った。

こういう時、戦闘に向く異能を持つ久遠寺や英介が羨ましくなる。2人ならこの状況など危機でも何でも無いだろうに。

そこまで考え、そして気づく。獣人はスキールニルの面々しか狙ってない。今、一体が遊撃班の1人の銃火器に晒され紙屑と化した。

そして最悪な事に 今、このメンバーに戦闘に向く異能を持つ人間がいない。

結風を除き、全員が、だ。

この状況の最適解は。

 

「雑魚マラソンして敵を此処から引き離しますよ」

「組合はどうするんスか!?」

「探偵社とマフィアに任せます……展開開始!東区へ!」

 

一瞬だけ別方向へ走って、国木田に襲いかかろうとしていた胸元をはだけさせた男に飛び蹴りを食らわせた。

発砲を続ける国木田と背中合わせになり、言う。

 

「申し訳ありません、此処までしかお力添えが出来ないようです」

「構わん、此方とて柔ではない!……しかし、其方は平気なのか?」

「人間相手なら戸惑ったでしょう。しかし運が良い事に獣です、あなた方よりマシでしょう、それでは」

「……武運を祈る」

 

脱兎のように走り出し、ジャケットの裏側から銃を取り出す。メタリックな見た目のそれはデザートイーグル。両手で持ち、東区にある広場で轟く銃撃戦に混じった。的確に狙いを付け発砲、空薬莢が地面に落ちる頃には一体の獣人は紙屑へ変わった。素早く走り回りながら、重い反動をいなしながら的確に、仲間に流れ弾が当たらないように。

獣人の中に、やたらと素早い個体が居るのが目に付いた。それが、雪島の背を狙っている事にも。

額に汗をかきながらマシンガンを連射する雪島は数体纏めて獣人を相手しているので気がついていない。結風は一も二もなく走り出す。そして、雪島に振り下ろされた爪をデザートイーグルを盾に受け止めた。重く、速さと体重が乗った一撃が結風の足を、手を軋ませる。

 

「ぎぃっ……!」

 

しかし受け止め切れず、爪の一部が腕に突き刺さる。

滴る血がレンガに血溜まりを作った

 

「姉貴!」

 

それに気づく雪島が片手で発砲。獣人を蹴散らした。

 

「姉貴、腕が……!」

「構わないでください、あと少しです。……背中を預けていいですか」

「モチロン!」

 

お互いの死角を補助し合う背中合わせに。銃身が多少傷ついたが操作に影響は無い。左腕から血が止まらないが利き手では無いので支障は無い。火かき棒でも突っ込まれてるような激痛だが問題は無い。

其処からは壮絶な蹂躙戦が始まった。

頭である結風が負傷したとわかった構成員達の奮闘、何より結風の奮闘。

 

そして、唐突にそれは終わった。

構成員が投擲したナイフが獣人に当たるのと、雪島が弾幕で数体を蹴散らすのと、結風が最後の一体を撃ち抜くと同時にその場に静寂が戻ってきた。

 

「終わりました?」

「……っスね」

 

似つかわしくない硝煙の匂いが鼻に付く。空薬莢が一面に散らばり、午後の日差しを受けて輝いていた。危険な程加熱した銃身を軽く振って冷ます。

 

「静かですね」

「組合の方を蹴散らしたんスかね」

「それならそれで探偵社対マフィアの第2ラウンドが始まってますよ。静か過ぎます、私達が離れてから……5分しか経ってません」

「そう言われりゃあ……」

 

探偵社達の抗争の場へと歩みだす。一瞬だけ木々の隙間から見えた光景に背筋が冷え、弾かれたように駆け出した。

辿り着いた其処は、もはや戦場跡地。血で拭ったような跡や鉄柱の突き刺さった遺体が其処彼処にあった。

駆け寄って来た雪島に指示を出す。

 

「解析班全てを回しなさい、それから直ぐに探偵社に連絡を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




効果音を大量に使いたいのですが、なるべく使わないよう努力しています。
でも時々自制出来なくなります。ッパァーンスパパパーンとかめちゃくちゃ使いたいです。
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