魔法と人の或る物語   作:シロ紅葉

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10話

 人波に揉まれながらも、私は魔法使いとアンチマジックの戦闘音と思われる場所へとたどり着けた。

 実際の戦闘音なんて聞いたことはなかったけれど、地面が砕けるような音や何度かちらりと見えた光の玉をみた感じ、普通の人間が起こせれるはずがないと思う。だから、その衝撃音を頼りにここまでやってこれることが出来た。

 だけど、その音はもう聞こえない。きっと、戦闘が終了したんだ。

 

「ここだ」

 

 ここまでの全力疾走で乱れた息を整え、落ち着かせる。

 

「……よし」

 

 高まる鼓動を抑えつけながら、街灯の明滅する路地裏内へと入っていく。

 まず最初に感じたのは、この先に何が待ち構えているのかという恐怖。続けて鼻を抑えたくなるような鉄分の臭い。

 やめておけばよかったかな。けれども、自然と足は前に進んでいく。好奇心もあるのかも知れない。

 ゆっくりと一歩一歩進んでいく。所々に砕けたアスファルトの欠片があり、地面も抉られたような跡が残っている。

 

「なに、これ……一体どうやったらこんなことになるの」

 

 やっぱりここで魔法使いとアンチマジックが戦っていたんだ。多分父さんと母さんが。

 と、そこで足元で変な違和感を感じた。水たまりに足を入れたときのような、ぴちゃっと跳ねる音が聞こえた。けど、昨日も一昨日も雨が降っていないのに雨水なんてあるわけがない。

 ――よく見れば赤かった。

 

「……血?」

 

 最初に感じたのはもしかしたらこれなのかもしれない。

 胸を突き破る勢いで高鳴る心臓。視線だけで流れを追っていく。そこには、人が横たわっていた。

 ソレを見せたかったのか、一瞬の光と鳴り響く雷鳴。そのおかげではっきりと誰なのか確認できた。

 

「母さん……? 父さん……?」

 

 見間違えるはずがない。母さんと父さんが離れた距離で倒れていた。私は何も考えず、母さんのそばに駆け寄った。

 母さんを抱き起して必死で声をかけてみるも返事がない。体は冷たかった。唇も紫になって、顔には生気がなかった。

 ポツポツと降り始める雨。それはやがて、大粒のものに変わっていく。まるで私の心情を表しているみたいで、涙は雨に流される。

 何度もゆすって声をかける。認めたくなかった。母さんが死んでいるなんて。だから、何度も何度も声をかける。

 その一方で、激しさを増していく雨。現実を否定したくても脳が、触ったときの冷たさが、残酷にも母さんの死を突き付ける。

 

「どうして、母さんと父さんがこんな目に」

 

 ザワっと嫌な感じが駆け抜ける。

 母さんと父さんは何もしていない。町の人を傷つけたわけでもない。毎日楽しそうに生きて、おいしいご飯を作ってくれる母さん。何の仕事しているのかよく分からなかったけど、毎日頑張っている父さん。そんな人として当たり前の日々を過ごしてきた母さんと父さんが、魔法使いということだけでどうしてこんなことにならないといけないの。

 

 ――誰がこんなことを。いや、犯人は分かっている。今日一日で何度も聞いた名前、天童守人だ。私の友人、天童纏のお父さん。

 

 頭ではこんなことを考えては駄目だと分かっているのに負の想いが止まらない。

 

 仇を取りたい――憎い。

 

 二人を返してほしい――悲しい。

 

 私にもっと力があれば、母さんと父さんを守れるだけの力があればいいのに――恨めしい。

 

 許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。

 

 ――何が?

 

 もうなんだかどうでもよくなってきた。

 その時、背後から声がしてピタリと止まる。

 

「やはり、こうなってしまったか」

 

 人の気配。――コイツダ。元凶はコイツにチガイナイ。

 あふれ出てくる想いや思考に駆り立てられ、その人の顔を一目見てやろうと振り向く。

 

 

 ――それは叶わなかった。

 

 パンっと渇いた音が鳴ったと思ったら、私の胸の辺りに赤い染みが出来た。

 あれ、どうして私、血を流しているのだろう。

 激しく叩きつける雨に体が弱っているせいか、それとも過剰なまでの憎しみで満たされて、感覚がおかしくなっているのか、撃たれたのに不思議と痛みは感じなかった。血流を止めるように胸に手を当てるけども止まらない。そのまま体の力が抜けて、母さんに覆いかぶさるように倒れる。

 私、死ぬのかなあ。もっと生きてみんなと一緒にいたかったなあ。

 ああ、でも悔しい。こんな残虐なことをした人物の顔すら見れずに逝ってしまうなんて。

 最後そんなことを考えながらやるせなさと共に私の意識はそこで終わった。

 

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