私が次に意識が戻ったのは暗い世界だった。見渡す限りが黒く染まっていて、目を瞑っていると錯覚するほどに暗い世界で意識はあった。
「あれ、ここ……見覚えがあるような」
うーんと頭を捻って、考えてみた。
ダメだ。数秒も経たない内に諦めてしまう。
「まあ、いっか。忘れているってことはたいしたことじゃないよね。うん」
すでに状況的には現実離れしているようなものだし、どうせ夢の中だろうとあまり深く考えないようにする。だからといってこの暗闇の中、動き回ることのもなんだか怖いし。……さて、どうしよっか?
とりあえずやることもなく、頬をつねってみたりする。残念なことに痛みがあった。
「いたい。もしかして現実? でも私撃たれて血がいっぱいでてたような。ということは死んだの! もしかして、天国? でも痛いってことは現実。あ、そっか天国って現実にあったんだ」
「そんなはずないでしょ」
「……!? だれ!」
突然聞こえた声に思わず身構えてしまう。右へ左と顔を動かすも暗くてなにも分からない。上下左右があるのかも怪しい。
そんなときだった。まるで天使が降臨したかのように、私の目の前で光が収束し、人型に形作られていく。その姿はわたしだった。
「わ、私!? ん、違う。こんなの私じゃない」
「なにを言っているの。あなたよ」
「全然違うって! なんか小悪魔っぽくなっているし、偽物すぎるというか、怪しすぎる」
姿かたちは私そのものだが、瞳の色は赤く、髪は黒い。着ている服もデザインは同じだが、私の好んでいる暖色系の色合いとはかけ離れ過ぎている。やっぱり偽物だ。
「当然じゃない。私はあなたの負の感情の塊みたいなもんなんだから」
「??? 負の感情? 塊?」
なにを言っているのか分からない。
「分からないの? あなたが想ったことなのよ。あんなにも憎しみや絶望を溢れ出していたじゃない。そのおかげで私はここまで大きく育ってしまったのよ」
「憎しみや絶望って……母さんたちのこと?」
「そうよ」
あっさりと肯定する黒いわたし。あまりにも淡々と進んでいく会話にどう対応していいか分からなくなる。それ以前に内容についていけず困惑する。
私はふと何気ないことが気になって切り出す。
「……ところで、最初に聞いておきたかったんだけど、あなたは何者なの」
「考え込んでいるなと思ったらそんなこと気にしていたの。簡単なことよ。私はあなたの魔の力。悪意や憎しみ、狂気、絶望、悲しみ、辛苦。そういった負の感情が募って集まった力」
「だからそんなに黒いの?」
下から上まで全身眺めてから尋ねる。
「初めはここまで染まってなかったのよ。だけど、あなたが強く願ってしまったから。ほら、こんなにも染まってしまったわ」
「なんなのよ。それじゃあ私が原因ってことなの――」
「せっかく二度も忠告してもらえていたのに、あなたはそれを聞き入れなかったからこの事態を招いたのよ」
「二度の忠告?……あ、」
思い出すのは昨日の夢。ここと同じ場所で私は目の前の人物と対面した。そして、先ほどの光景がフラッシュバックする。
脳の奥底に封印されていた記憶がズルズルと引き出されていくような感覚。今まで忘れていたのが不思議なくらい鮮明に思い出していく。
「思い出した? そう、あれは私からの警告。予知夢という形で見せたの。まあ、あなたからすれば悪夢の類になるかしら」
「そんな……だって……私、何も知らない。あんな恐ろしい夢が現実になるなんてあり得ない」
次々と溢れてくる記憶。そのすべてが先刻の事態を表していた。
「そして、二度目は奏の言葉よ」
「え、母さんの言葉?」
突然の母さんの名前に思わず、聞き間違えていないか確認するように尋ね返す。
「言っていたでしょう。絶望に囚われないで。何者にも負けない心を持って強く生きてって」
確かに母さんはそういっていた。あの時、意識も朦朧としていたが、母さんの感情のこもった言葉をはっきりと覚えていた。
「なのにあなたは、それすらも無視しこちら側に堕ちてきた。魔法使いの根源。魔の領域に」
「魔法使い? 何を言っているの?」
「人は誰でも善と悪を持って生きている。それが人が人でたり得る証。だから、この世に悪を持っていない人間なんていない。だけどね、より強い悪意は人を壊してしまうの。魔力の根源は憎悪や妬み、狂気。ほら、全部壊してしまいたい、滅茶苦茶にしてしまいたいという感情があるでしょう。それが魔力。魔法使いの力の源」
黒い彩葉はうっすらと微笑を浮かばせながら語りきった。
「そんなことない。確かにあの時、私はそういった感情があったかもしれないけど、そんなことまでは考えてない!」
叫ぶ。間違いであると言ってやりたかった。
「考えていなくても、一度強い感情を出してしまえばもう戻れないの」
黒いわたしは言葉を切り、私に抱き付き顔と顔がくっ付きそうな距離で甘美なる声で告げた。
「受け止めなさい。あなたの抱いた罪を――さあ、これがあなたの欲した魔力《ちから》」
そして、黒いわたしは私を強く抱きしめると体が溶けるように中へと入っていく。
心の蔵から入り、そのまま血液とともに体を循環していく。どす黒い感情が体を汚染しているのが分かる。
胸が苦しい……っつ! 張り裂けそう……っ。
――黒 ――黒 ――黒 ――黒 ――黒 ――黒 ――クロクソメアガッテイク――
眠っていた魔力が呼び起こされて、与えられた黒い衝動に支配され。
溜まった欲望の解消に駆り立てられた。