魔法と人の或る物語   作:シロ紅葉

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14話

「……い、……て」

 

 弱く、か細い声が聞こえる。激しく降り付ける雨に打たれるその様は泣いているようにも見えた。

 

「何を言っている」

「お願い、私を助けて」

 

 自我を取り戻すことができた彩葉は必死で救済を求める。しかし、相手を間違えていた。

 天童守人はアンチマジックの戦闘員だ。役目は魔法使いの殲滅。そして、彩葉はその殲滅対象。

 そんな彩葉が嘆願を求めたところで死という名の救済が待っているだけだ。殺してくれと言っているのと同義だ。

 守人は不気味に笑う。

 

「いいだろう。その望みを叶えてやろう」

 

 苦しませる必要などない。死を望むのならば、一撃で楽に終わらせる。

 刀をも粉砕する拳が彩葉に襲い掛かる寸前、二人の間を割るように炎が舞い降りる。

 地についた炎が激しく渦を巻き、人影が覗ける。

 

「……だれ?」

 

 夢か何かかと思った。違うのならば、天国へと連れ行く神か。冥界へと誘う門か。いずれにせよ、すでに死に体を漂わせる彩葉にはそう思わせるには十分すぎる状況だった。

 炎が勢いを弱め、中から女性が現れる。その容姿はブロンズ色の髪をしており、琥珀色の瞳をした女性だった。

 

「まさか……お前が」

 

 驚きの表現。だが、明らかに彩葉とは違う意味合いでの表現となっていた。 

 守人は思わぬ人物に目が釘づけになる。特にその髪色にだ。

 女性は守人の方へは一瞥もくれることなく、雨に打たれて脆弱した子犬のような彩葉をみつめる。その瞳は優しく、彩葉には救いの手に見えた。

 

「たすけて」

 

 女性は柔和な笑顔を見せて答える。

 

「もちろん。だけど、ごめんね。ちょっとだけ手荒くなってしまうわよ」

 

 小規模の魔力弾を彩葉に撃つ。衰弱した彩葉には、それだけで意識を失くしてしまうほどの威力があった。

 そこで初めて守人の存在に気づいたのか視線を感じ取った。

 

「どうしたの? わたしのことをみつめて。どこかで会ったことがあったかしら?」

 

 記憶にないようで、何のことだか分かっていない様子で頭を傾げる女性。

 

「間違いない。その髪色、その若さ、随分と成長したようだがお前だな」

 

 守人は脳裏に焼き付いたあの日の記憶を呼び覚ます。忘れもしない炎のなかで佇む、当時十五歳だった少女の姿を。

 

「あら。もしかしてわたしのことを知っているのかしら? だとしたら、ごめんなさいね。あなたのことは覚えていないわ」

「ああ、覚える必要はない。ただ、この私に殺された、という事実だけ覚えておけ」

 

 猛々しく襲い来る守人を炎の壁で遮る。だが、障害物など意にも介さずすり抜けてくる。とっさに女性は彩葉を抱きかかえ、逃走を図る。

 

「逃がすか」

 

 女性を追う守人。月光の下で始まる追いかけっこ。さながら、獲物を追う捕食者と我が子を守りながら逃走する動物界の食物連鎖のようでもある。

 市街地へ出ると、銃を女性に向けて放つ。それが脅威となり、群がっている民衆は蜘蛛の子を散らすが如く去っていく。 

 弾は命中しなかったようで、女性は怯むことなく逃げ足を緩めない。

 結果として、無関係の人間を追い払えただけでも良しとして、再び追跡を始める守人。 

 炎の魔法を槍状、球状、波状、壁状に使い分けながら応戦する女性。

 次第に町中に拡がる炎。

 だが、守人にはあらゆる魔力に触れる魔具がある。

 

 

 時には破砕し。

 時には掴み取り。

 時には盾と化す。

 魔法に対して絶対なる掌握が行われる無敵の魔の手。

 恐れることはない。如何様にも阻害されない、攻めと護りを一対とする手段。

 

 

 炎を投げ飛ばしていては、周りに伝播していき被害が拡大していく。いくらでも噛みつける攻撃と防御があっても、それは一個人だけが有するものだ。ゆえに避けられないものだけを掴んでは人的被害に及ばない方向へ放り投げるしなかなく、それ以外は運動神経で避けながら追う。

 瀕死の少女を背負いながらとはいえ、女性と違って周囲に気を配りながらでは、そうそう追いつけるようなものではなかった。

 そして、ついにその姿は視認できないようになった。

 

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