魔法と人の或る物語   作:シロ紅葉

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15話

「あれ、ここは?」

 

 目を覚ますとそこは見慣れない部屋だった。周りには家具もなく、生活臭が一切漂ってこない殺風景な部屋だ。

 一目でここが空き家だとことは寝起きでも分かる。

 体を起こすと、激しい痛みが襲ってきた。肩には包帯が巻かれていて、そこから痛みを感じ取る。

 

「だれが治療してくれたんだろう」

 

 痛む肩をさすりながら、記憶を辿る。心当たりといえば――。

 

「あ! 起きたのね! よかったわ」

 

 ブロンズ色の髪をした女性が突然入室して、私のそばまで寄って胸を撫で下ろす。

 

「もしかしてあの時助けてくれた人?」

 

 女性は覚えてくれていたことが嬉しかったのか明るい表情になる。

 

「正解。わたしは穂高緋真《ほだかひさな》。あなたと同じく魔法使いよ」

「あ、えっと……私は雨宮彩葉《あまみやいろは》です。助けてくれてありがとうございます」

「彩葉ちゃん……か。可愛い名前ね。とりあえず彩葉ちゃんでいいわよね」

「え? あ、はい。それでいいです」

 

 有無を言わせぬ強引さのある言い方にたじろぎながらも言葉をつなぐ。

 出だしからペースを持っていかれている。

 なんとか、こっちからも話しかけないと。といえば、そうだ!

 

「私……魔法使いになったんだ……よね?」

「そうよ。同じ魔法使い同士仲良くやっていきましょって言いたいところなんだけど。まずは彩葉ちゃんの意志を確認しておくべきかしらね」

 

 それまで笑顔を絶やさなかった穂高さんが、一転して真面目な表情になって私に詰め寄る。

 その変化に身構えながら、続く言葉に耳を傾ける。

 

「彩葉ちゃんはこれからどうしたい?」

「……え?」

 

 思わず不意を打たれる言葉。

 

「どうって言われても。私は……」

 

 言葉が見当たらず言いよどむ。

 両親がいなくなり一人ぼっちとなった。そして、魔法使いとなった。

 つまりこれからは全人類が敵となる。仲の良かった友人すらもこれからは敵同士となる。

 帰る場所もなければ、安息の場所もない。それ以前にどう生活していけばいいのかも分からない。

 いつアンチマジックに見付かるかという恐怖に怯えながら生きていかなけれならず、このままだと見つかれば両親と同じ道を辿ることになるのかな?

 それに付け加え身寄りの人物もいなければ、頼れる人もいない。考えれば私にはありとあらゆる意味で救いようがなかった。

 魔法使いとなった今なら分かる。

 両親が、魔法使いがどんな気持ちで生きているのかを。

 恐怖と不安に押しつぶされそうになる私にそっと優しい温度が重なった。

 その手は私の気持ちを和らげるように――

 そして、しっとりとした声がかけられる。

 

「もし彩葉ちゃんさえよければ、私と一緒に来ないかしら?」

 

 それは私にとっては予想だにしていなかった救いだった。

 俯いていた顔を緋真に合わせて目をみる。

 どうやら嘘は言っておらず、本気で迎え入れようとしていることが伺える。

 

「魔法使いとしての生き方。魔法の使い方も教えてあげられるし悪い話しではないわよ?」

 

 普通に考えれば誘いに乗るべきだ。だが、一つの懸念があった。

 

「どうして、初めて会ったばかりの私にそこまで優しくしてくれるんですか?」

 

 私の疑問に対して、きょとんとする穂高さん。まるで何を言っているのか分からないといった様子だ。

 変なことでも聞いたのか、私が混乱してしまいそうになった。そして、柔和な笑みを浮かべて答えてくれる。

 

「そんなの決まってるじゃない。困っている人を助けるのに理由なんていらないわよ。それに、私のことを疑わずに名前まで教えてくれたじゃない。それって私に対して心を許しているってことになるわよね?」

「……あ」

 

 その言葉だけで十分だった。そもそも危険を犯してまであの戦場に入り、私のことを助ける必要などなかったはずだ。穂高さんは好意で助けてくれたんだ。

 無礼を働いた自分を思いっきり責めたくなる衝動を抑え、穂高さんと向き合う。

 

「変なことを聞いてごめんなさい。それから――」

 

 もはや穂高さんの誘いに断る必要なんてなかった。だから、私の中にはもう答えは決まっていた。

 

「これからはお世話になります」

 

 夢も希望も将来も何もかも失くして失意の中に堕ちそうなところに、光り輝く希望を追い払う必要性なんてない。

 差し伸べられた救いは私にとっての生きる気力だった。

 

「ふふ、こちらこそよろしく」

 

 

 一九九八年 一二月 

 

 雨宮彩葉《わたし》はこれまでの生き方と決別し、人としての生を終える。

 そして今――新たな魔法使いとしての第二の人生を歩んでいくために、未来への一歩を進めた。

 

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