魔法と人の或る物語   作:シロ紅葉

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25話

「いやーまったくどうなっちまうのかとドキドキしたぜ」

 

 同日、人気が失せた通り道で灰色の頭髪が冬の寒さを一層際立たせている少年。近衛覇人は現れた。

 そこは、先刻までとある四人組が集っていた場所。

 少女が三名、男性が一名。

 顔見知りという雰囲気ではなかった。

 そもそも少女、雨宮彩葉と楪茜と所縁のない知り合いであることは明白だ。

 覇人は二人とは五年前からの付き合いである。

 そこから今日までであのような二人組と一緒になっているところはおろか、そういう知り合いがいる話など聞いたことがなかった。

 極め付けの最後の一幕。

 あろうことか男性は茜を斬りつけ、何食わぬ顔でその場を少女とともに去っていたのだ。

 

「あの反応からすると茜までなっちまったみたいだな。――厄介な奴まで現れちまったみたいだな」

 

 覇人は少女のことを知っている。

 水蓮月――その風体からは誰にもわかり得ないであろうその正体は、アンチマジックのA級の戦闘員だ。そして、その頂点に立つ最強の戦闘員。 

 その場に居合わせていたわけではないが、四人の様子を眺めている時分には、まだ確証はなく手探りな状態であると思われた。

 

「覗き見とは趣味が悪いのではなくて」

「汐音《しおん》か……」

 

 覇人の背後から女性の声が響く。

 振り返れば、銀糸と見紛うほどの細く整った長髪を背に流し。首元にはネックレス。手首にはシルバーのリングといった装飾品を身に着けた女性。悠木汐音《ゆうきしおん》が優雅に立っていた。

 

「あの二人はお友達かしら?」

「ああ、そうだ――って、見てたのかよっ!」

「見ていない、とは一言もいってませんことよ」

 

 意地悪く笑う汐音。

 

「あの接触の仕方、ほぼ間違いありませんわね」

「ああ。そうだろうな。仮にもA級の戦闘員だ。下手なことをするわけがねえしな」

 

 覇人は茜の流した血で濡れたアスファルトに手を置き、精神を集中させる。

 検索《リサーチ》。

 感じ取るは気配。

 魔法使いの血液には魔力が宿っている。

 覇人は間違いであってほしいという懇願とともに全神経を研ぎ澄まし、指先で触れた血液の内部を探る。

 構造の中に宿る元素には不必要な存在を探る。

 穢れた汚染物質は秒数を置かずに、触れると同時に感覚として分かる。

 そんなものがあるはずがねえと思いたい気持ちは十分にあった。けど、結果としては目に見えて分かっていたはずだった。やる必要性の欠片もねえことは知っていたはずなのに。心のどっかでは確かめずにはいられなかった。

 

 ――やっぱりな。確かめる必要もなかったな。 

 

 

 あっけなく、希望的観測は星屑となって散り行く。微弱ながらの魔力を感じ取ってしまったからだ。

 

「どうでしたの?」

「……予想通りだ。楪茜は魔法使い。二日前に覚醒した彩葉を含めて、三人の魔法使いがこの場にいることになる」

「やはりですの……。私には関係がないけれども、覇人にとっては残念な報せではなくって」

「まあな。茜には悪いことをしたと思っているよ。……あいつは俺たちが巻き込んだも同然だ」

 

 覇人は指に付着した血を汐音からハンカチを受け取って拭う。

 そのまま、ハンカチをその場で捨てる。

 持ち歩いて魔力を辿られないようにするためだ。

 

「それにしても、あの二人の戦闘員からはただならぬ気配を感じましたわ。特に男性の方はA級、あるいは――」

「よせよ。最悪の展開ほど当たるってもんだぜ」

 

 汐音のその先の言葉を発する前に覇人が遮る。

 

「ふふ、分かったわ。本当に最悪なのは――今夜、ですものね」

 

 最初に魔法使いが現れてから三日は経っている。

 その後のアンチマジックの展開は恐ろしく早かった。

 戦闘員を集め、翌日には雨宮源十郎と奏の二名が散った。

 残すは一人。否、新たに追加された分を含めると二人。

 だがその所在も割れている。こうして、戦闘員を的確な場所に送り込んだことが証明している。そして、たったいまその片割れの魔法使いと接触していた。

 覇人と汐音の最悪が当たれば自ずと先は予見できる。

 

「間違いないな。俺もあんたも今夜は死ぬ気で挑まねえとな」

「不吉なことは言わないで下さる。気分が滅入ってしまいますわ」

 

 憂いの籠った溜息を零す汐音。

 

「そりゃあ、俺だって同じ気分だっつーの。ま、取り合えずはこの場では大事にならなかったのが幸いだったな」

「心配なら手助けしてあげればよかったのではなくて。お友達なら怪しまれることもないのでは」

「まだ俺のでる幕じゃねえよ」

「カッコつけちゃって。律儀にもあの人のお願いを守っている、ということですの?」

「それが俺の役目でもあるからな」

「覇人も苦労しているのではなくて? 面倒事を二つも三つも押し付けられてしまうなんて」

 

 同情の意も込めて汐音は言った。

 

「苦労はしてるけどな。だが、その見返りに俺の目的の手助けもしてくれたんだ。安いもんだと思っているぜ」

「覇人がそれで納得しているのなら良くってよ。ただ、私なら絶対に断ってますわ」

 

 断固拒否の意で返す汐音。

 汐音にとってはそれだけ嫌悪することを覇人が平然と行っていることが信じられないようだ。

 

「あんたならそういうと思ったよ」

「トゲのある言い方をしますわね。そもそも汚れ仕事は女性の仕事ではなくてよ」

「はいはい、分かったよ」

 

 覇人は適当に同調して、切り上げる。

 

「ところで、汐音」

「なにかしら?」

「俺はこのまま頼まれごとを続けるが、あんたはどうするんだ? 本来の予定とは狂っちまっているが」

 

 汐音は少しばかり考え込む。

 

「……そうですわね。世話好きの緋真のことですから、このままあの子たちにくっ付くんでしょうですし。今夜をやり過ごしたら一旦、私一人で戻ろうと思いますわ」

「確かに、緋真ならそうするだろうな」

「まったく。あの女は誰彼かまわず、助けようとするのですからっ! おかげで何もかも滅茶苦茶ですわ! だから嫌いなのですよ」

「相変わらず、緋真とは仲が悪いな。仲間なんだから仲良くしろよ」

「断固拒否しますわ! 何度あの女に振り回されているとお思いで。両手の指では足りませんことよ」

「そうは言ってもだな。あれがあいつのいいところでもあるんだしよ。もちろん汐遠のスケジュールに沿って動くところも評価できるぜ……」

 

 積年の恨みが溜まってるのか、怒りのボルテージが急上昇していく汐音。

 それでもなお、口調な静かなもので沸々と湧き出してきているような印象である。

 間欠泉の如くいつ爆発するかも分からず、なんとか気を落ち着けさせようと覇人は努力してみるが、結果的には火に油を注ぐだけとなってしまった。

 

「あの女にいいところなんてありませんわ。無駄に世話焼きなだけでこちらのことなど何も考えていませんのよ。特に年下相手に。保母……なんて天職なのじゃなくって」

「意外と向いてそうだな」

 

 緋真は昔から年下相手となればすぐに手を出していく性質がある。

 そうして打ち解けるのも早く、気づけば子だくさんの母親のようになっている。

 その様子からすれば、なるほど言いえて妙だと納得する覇人。

 

「もうここで別れて、後は三人にさせてあげればよろしいのではなくて? 緋真なら一人で連れてこられるでしょう。これなら私たちも危険な目にも遭いませんし……名案ではなくて?」

「おい。今夜、マジで頼むぜ。彩葉と茜は俺の友達《ダチ》でもあるんだからな」

「本気なわけないでしょう。私も一応引き受けた手前、不本意ながらやりますわよ」

「そうか。だったら話しは決まりだな」

「ええ。今日一日はよろしく頼むわ」

 

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