魔法と人の或る物語   作:シロ紅葉

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52話

 結論からすると、魔力漏れは原因に傷を受けたことではなかった。

 体中をまさぐる様に確かめたし、間違いはない。そもそも全く身に覚えがないんだし。

 では、魔力漏れの正体は何だったのかというと、一枚のカードだった。予想の斜め上の物が出てきたことで、これ?! と疑ってしまったけど事実らしい。

 そのカードは父さん。いや違うのか。母さん……からの手紙に入っていたキャパシティで使うとかいうカードだ。持ち主は父さんとのこと。てことはやっぱり父さんの物か。なんかややこしいね。

 

「ふーん。じゃあこれに魔力が塗られていて、それを追って来たってことなんだ」

「ええ。その通りです」

 

 カードには魔力が極薄にコーティングされているとのこと。魔法使いは魔力を感じ取ることが出来るので、それを追って来れば自然と魔法使い同士で出会うことになる。

 えっと……如月久遠《きさらぎくおん》と名乗った女の人はそう指摘してくれた。

 

「けど、そんなものを持ち歩いていたのなら、アンチマジック……ううん。魔力検知器に見つかってしまうはずなんじゃあ」

 

 魔力検知器はその名の通り、魔力を探るアンチマジックの開発した魔具の一つ。魔法使いにとっては気にかけておかないといけない大事なこと。

 

「流れているのはごく微量の魔力なので、魔法使いでしか感知できないような代物のようです」

「あ、だったら安心だね」

 

 そうならそうと先に言ってくれたらいいのに。“私を見つけて”って歩き回っていたのも同然なのかとドキッとした。

 

「ほんとです。微かに感じます」

 

 カードを表裏にして弄びながら気配を感じ取ってみる。言われてみれば確かに魔力の気配がする。意識的に探ってみないと分からないレベル。これなら気づけなくても納得。というか、そんな機能があったなんて。何気に便利アイテムなのね、これ。

 

「仮にカードがなかったとしても、あなた方は少々話題になっておられるので、目に留まりやすいのです」

「そうなの?」

 

 裏社会、もとい魔法使いのネットワークは侮れない。

 

「野原町での火災事件。続けて管理者宅の敷地内でA級、S級戦闘員との戦闘。どれも裏社会では十分すぎるほど目立つ話題だ」

「すべて、知っているのですね」

 

 思い返せば波乱の日々だった。もう、ずっと昔のような気がする。

 

「ええ。私《わたくし》たちは――全てを把握しています。この数日で亡くなられた魔法使いたちのことも」

 

 ――!! それには心当たりがある。一つだけ。それは逃亡生活中に森の中で見捨てた魔法使いのこと。

 

「ごめんなさい。……迷惑、かけているよね」

 

 謝って何とかなるようなことでもないけど、謝らずにはいられなかった。

 しかし、如月久遠は頭を振った。

 

「あなた方が悪いわけではありませんよ。同じ魔法使いとして、救いの手を差し伸べられなかった私《わたくし》にも非があるのです」

 

 意外な一言だった。

 

「あなたが責任を感じる必要はないと思うが、……言っても無駄なことなのだろうな」

 

 零導珀亜は嘆息を込めて諦めを感じさせていた。

 

「悪い人たちじゃなさそうみたいだけど、これからどうするつもりなの」

「どうやら私たちを追って来てくれたようですけど、非難するためというわけではないのですよね」

 

 魔法使い同士での交流を目的にしているようには思えない。さっきの態度からすると、私たちを責めるわけでもないし、何の用だろ?

 

「本来ならあなた方に助力させていただきたかったのですが、私《わたくし》の立場上、叶わないのでせめて助言だけでもと思いまして」

「それって戦闘員が私たちを狙っている話のこと?」

 

 如月久遠は首を縦に振って続けた。

 

「すでに存じていましたか。現在この町には五人の戦闘員が隠れひそんでいます。そのうち三名があなた方を標的としています」

 

 三人。多分、纏たちのことだ。やっぱりこの町に着いているみたいだね。

 

「彼らは捜索の傍ら、目に付いた魔法使いの殲滅も行っています。本日の深夜にも一名、亡くなられた方がいます」

「!! そうなのですか……。また、私たちの知らないところでそんなことが起きていたなんて」

「さすがに続けてだと嫌になってくるね」

 

 私たちが悪くないなんて言われたけど、森の中でのこともあって、間接的には繋がりがあるんだと思うと胸が痛い。

 

「それを責めていては何も始まりはすまい。これぐらいのことは裏社会では日常的だ」

「その通りです。魔法使いとアンチマジック。この両者の争いは日々激化しつつあります。

 ――三年前の四十二区の崩落以降ですが」

「その地区はたしか――」

 

 緋真さんが元々住んでいた地区の名前だったはず。そして、謎のガス爆発と天候の悪化によって閉鎖区画となって立ち入り禁止となった場所だ。当時はテレビでも騒がれていたことを幼いながらも覚えている。

 

「あれは魔法使いと戦闘員の争いの結果です。

 双方と住民を含め、死傷者五十万人。惜しみなく投与された上位戦闘員数十名と大量破壊兵器ともなりかねない魔法の入り乱れた大災厄です。その傷跡は深く、二種類の屍の山を築き上げ、四十二区そのものを崩壊へと追いやりました。

 後の世に“屍二《しに》の惨劇”と呼ばれるようなり、四十二区は閉鎖区画となり果てたのです」

 

「なにそれ……聞いていた話と全然ちがうじゃない」

「世間には公表できない類の裏社会を揺るがす事件でもある一件だ」

 

 世界の裏側は、私の想像の遥か上をいっていたということか。それに、五十万人といえば、四十二区に住んでいた人たちはほぼ全滅に近い数字だ。公表も出来ないわけだ。

 

「あれ以来、しばしの安息が迎えられましたが、結局私たちは相いれない存在。アンチマジックはさらに強力な魔具を手に入れ、再び各地で争いが起きるようになったのです」

 

 裏の住民にとっては息苦しさすら漂う世界の状態。どこまでいっても私たちは危険な存在で、一般の人々からすれば魔法は区を壊すほどの怖れられる力なんだと突きつけられた。

 

「そういえば最近、天童守人さんの噂をよく聞きますけど、それと関係があるのでしょうか」

「うん。たしかに。具体的にどう有名なのかは知らないけど、名前は見るね」

 

 といっても、名前自体はつい最近まではっきりと覚えていなかったけど。

 

「あの男を筆頭にして、魔法使い狩りが激しくなっているのは明らかだ。いずれにせよ、あの壁がある以上はもう逃れることは叶わないだろう」

「……壁」

 

 各区画は周囲に見上げるほどの高い壁で囲まれていて、一つの要塞と化した島が続いている。区画から出ようと思えば、門を潜り抜けないといけないけど、魔法使いとして逃亡している今なら、警備も厳重にされていることだろうし、言っていることは最もなことだろう。

 

「あれは他所の区から逃亡してきた魔法使いの容易な侵入を防ぐ役割を持ち、区画内の住民の安全を約束されているものです」

「そんな役割があったんだ」

 

 初耳だ。でも、そっか。そのために区画内で必要な物が揃うようになっているのか。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。それって逆に言えば、区画内で魔法使いが見つかった場合、安全なんて保障なんてされな――あ、そのためのアンチマジックということですか」

「その通りです。一度、魔法使いとして見つかった以上は、彼らは執拗に追いかけてきます。あなた方は逃げているようで、あの壁で挟み込むようにして追い詰められていたのです」

「区画内に逃げ場がなければ、他所の区に逃げるしかなくなる。必然的に壁の方へと追いやられることになるのは道理だということだ」

「住民を守る要塞が、一転して牢獄にもなるのです。……私《わたくし》が檻を解くことが出来ないせいで、あなた方には辛い思いをさせてしまうことに、心を痛めるばかりです」

 

 痛切な言い方に、本気で心から思っていることなんだと伝わってくる。

 

「そんな……気持ちだけでもありがたいですよ」

「こっちにも事情があるから、逃げも隠れもするつもりはないよ」

「命を落とすことになったとしてもだな」

 

 言われるまでもない。そんな危険があるのは十分に承知している。

 

「それでも大切なことがあるから、

 ――私は逃げない」

 

 この想いだけは絶対に変わることはない。たとえ、死ぬようなことになったとしても、纏との繋がりを絶ちたくはない。それは茜ちゃんも同じ気持ちでいてくれる。

 

「やはり、あなた方はこれからの時代に欠かせない存在となりそうです」

「え?」

 

 時代? 存在? 一体何のことなのか?

 

「こちらの話しです。それでは、あなた方の無事をこの青い空の下で祈らせてもらいます」

 

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