魔法と人の或る物語   作:シロ紅葉

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55話

「中々いい反応するわね」

 

 彩葉たちが隠れ家としているホテルから、直線距離およそ八百メートル先のショッピングセンター。

 

 ――その屋上。

 

 寒風にさらされながら御影蘭は、もぬけの殻となったホテルの一室から目を外した。

 

「殺さない程度にするつもりではあったけど、かすりもしないなんて。やるわね」

 

 仕留め損じたことに思うところはなかった。むしろ、仕留めてしまっては作戦が狂ってしまうからだ。

 携帯を取り出し、手馴れた手つきで天童纏に電話を繋げる。

 待ちわびていたのか、ワンコールもしないうちに携帯から声が溢れ出す。

 

「蘭か! 二人の様子はどうなっている!?」

 

 出るなり、単刀直入に結果だけを催促する。最早、そこにしか興味がないようだ。

 

「急かすんじゃないわよ。安心しなさい。二人とも無傷で降りて行ったわ」

「……そうか」

 

 安堵の息が漏れている。気が緩んだことは確かだ。先刻までどれほど張り詰めていたのだろうか。

 蘭は凄腕の狙撃手だ。殺さずに部屋から追い出す様な真似をするぐらいなら、楽勝なことだというのに。

 ここ数日、ともに行動し、纏はそのことを理解はしていたつもりだった。だが、相手が纏の友達ともなれば、話は別だ。信頼しているとはいえ、気になって仕方がなくてもおかしいことではない。

 

「まさか、本当にここにいるとはね。ここで張っていて正解だったわ」

「ああ。あの情報提供者には感謝しないとな」

 

 纏と蘭が魔法使いの所在を掴めたのは、とある二人の人物からの目撃情報だった。

 

 

 昨日深夜――いまから二十四時間ほど前になるか。

 咲畑町で目当ての魔法使いを捜索していた折に、偶然にも一人の魔法使いを発見し、殺害した後のことだ。

 夜は長く、無駄な時間を浪費したくなかった戦闘員の一行は、警察に人間の死体発見の一報を入れた。

 アンチマジックは対魔法使いの専門組織だ。ゆえに、魔法使いを殲滅後、そのまま各区に駐屯している研究所に連行する手筈となっている。

 これは、魔法使いという存在そのものが、表舞台に晒されないようにするためであり。内密にすることによって、民間人に余計な不安を与えないようにするための処置である。

 だが、時と場合によっては、警察に遺体の回収だけを行ってもらうことがある。その場合はあとから警察署に向かい、身元を魔法使いだと明かした上で回収させてもらっている。

 警察の到着と殺人の現場で辺りは祭りの様相となっていた。その隙に乗じて現場を後にした矢先に、とある二人組が現れた。

 

「魔法使いと思われる方を目撃したのですが……」

 

 女性が透き通った美しい声で話しかけてきた。

 その二人は連日の魔法使い騒動の中心となった野原町からやってきたと告げる。そして、この町でソレと思しき人物を発見したと言うなり、用事があるとさっさと去っていった。

 纏たちは藁にも縋る思いでその話しに飛びつくと、速攻で監視室詰めとなっている樹神鎗真《こだまそうま》に連絡を取り、ホテル周辺の監視カメラを洗い出すと、件《くだん》の魔法使いが写っていたことから発覚した。

 

 

「よく俺たちがアンチマジックの戦闘員だと気づけたものだよな」

「あんた、何のためにそのバッチを持っているのよ」

 

 纏の胸には紫色で染色された戦闘員を表すバッチが付けられている。

 艶のある磨かれた証。分かる人が見れば、一目で新人だと見抜くことは容易だ。

 

「あ、……そうか。こいつがあったからか」

 

 そのことにまだ馴染めていないのか、纏は思い出したかのようにバッチを認識した。

 だが、蘭はそれでも不意には落ち着かなかった。

 なぜなら、その二人組はあまりにも浮き過ぎていた。

 人間、事件の一つや二つ起きただけで、野次馬のように騒然となっている場に溶け込もうとする。あるいは、何があったのかと目を引かずにはおれず、事態を把握したがるものだ。

 自分には関係ないことだと分かりきっているくせに、当事者になりたがろうと事件に群がる有象無象の人――人――人。

 

 ただ、『知りたい』という欲求に突き動かされた存在。

 

 生まれながらに持ち合わせている本能がそうさせているのだろう。

 収束を見せるまで、あるいは飽きてしまうかするまでは、何も行動をしない群衆の中から、その二人は軽く黙祷を捧げただけで、あっさりと興味を失くし、戦闘員のもとへとやってきたのだ。

 関心が有るのか無いのか。どちらともつかない。こういった風景は見慣れているのかもしれなかった。

 

「気にしすぎかしら」

「手掛かりもない中で、示された光だ。せっかくの好機を逃すわけにもいかなかったし、事情聴取ができなかったのは仕方がないことだ」

 

 訳ありの様子とも思えたのだが、情報提供をしてくれた手前、深くは追及することは出来なかった。

 

「――彩葉たちが出てきた」

 

 ホテルのエントランスから夜逃げでもしているかのように吐き出されていく彩葉と茜が姿を現す。

 

「これより、追跡を開始する」

「あたしがそっちに向かう前に、決着を付けておきなさいよ」

 

 その言葉を胸に秘めた纏は、謝辞を残す。

 友情という糸を手繰った先に待つ綻びは。

 

 

 引き裂かれるのか――。繋がれるのか――。

 

 

 忘れられない夜が始まる。

 

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