魔法と人の或る物語   作:シロ紅葉

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66話

 日が昇って、私たちの午前中の行動は、徒歩で咲畑町に向かう。

 覇人は朝起きたらすでにいなく、咲畑町で大人の時間を楽しむとのメモ置きがあったから、私たちもそれに合わせることにしたまでのこと。

 というのは建前で、本音を言うと時間まで暇だし、何よりも前回と違って、今回はみんながいる。

 それだけで行くには十分すぎる理由になった……んだけれども、纏は覇人を探してくると言ったきり着いてすぐに別行動。

 残った女の子組で時間つぶしとなった。

 前回と違って、今回は蘭がいる。

 どうせ、やることもないんだし、いろんなところを回ってみよう。

 

 洋服店で着せ替えしてみたり。

 

 アクセサリーを眺めてみたり。

 

 ゲームセンターなんかを回ってみた。

 

 そうすると、見えてくることもあった。

 

 蘭は、ラフで動きやすい服装が好みみたい。でも、なぜか一回り大きいサイズの服ばかり選んでいた。どうやら、緋真さんのおさがりを着ることが多かったらしくて、そのせいで一回り大きい服ばかり着ていたんだとか。

 

 アクセサリーには興味なし。そういうのとは無縁だったみたいなので、適当なやつで着飾ってあげた。あまりにも似合っていたから、茜ちゃんと褒めちぎっていたら、素っ気なくされた。でも、なんか照れていた。

 本人はずっと戦闘員や四十二区での暮らしもあって、おしゃれとは無縁だったみたいでこういう機会があまりなかったから、いざ女の子らしい付き合いとなったら気恥ずかしさがあるのかもしれない。

 

 あと、ゲームセンターには行ったことがないと言っていたわりには、ものすごく場慣れしている感があった。特にUFOキャッチャーは上手かった。ぬいぐるみとかだと荷物になるから、おやつにと思ってお菓子にしてみたんだけど、これがすごいことにワンコインで大量に落としてくれた。おやつどころか夜食にもいける量。

 土砂崩れのように流れ出てきたお菓子の数々をみて唸ったのは私たちだけでなく、たまたま通りかかった一般人も遠目に驚いた様子をしていた。

 なんだか、誇らしげに蘭を自慢してやりたくもなったけど自重して置いた。

 あまり騒ぎ立てると蘭、怒るしね。怖いし。

 

 手に着替えの服とお菓子の袋をぶら下げて、休憩がてらに喫茶店に入る。

 荷物を置いて、軽い物を頼んでから、一息ついたところで手近にあった雑誌に手を出してみる。

 ちょっと前に話題になったホテル街全焼の記事が掲載されている雑誌も残っていた。そんなことはどうでもよくて、どうせなら最近起きた事件について載っている記事がないかと探していたら――あった。

 

「……なに、この記事……」

 

 ――両端《ターミナル》付近にて三名の遺体

 

「この事件、別の日にも起きてますよ」

 

 茜ちゃんはそのことが載っている記事を見せてくれる。

 

 連日して続く、謎の連続猟奇殺人事件。

 遺体は爆薬のようなもので肉片が飛び散り、大量出血死。あるいは鋭利な刃物で切断されたのち、そのまま放置。ただ、殺人を愉しんでいるだけの快楽殺人鬼の仕業と見られているとのことだった。

 

「……うげ……っ。こんなことをする人がいるなんて信じられない。しかも、これ。わたしたちが隠れているところに近いし」

 

 場所は毎回違っているけど、どれも咲畑町郊外だった。林の中だったり、高架だったりと。

 

「まだ、こんなひどいことが続くようでしたら、ここを出る前に私たちで捕えて、咲畑町の人たちに安心してもらえるようにしておきたいですね」

「――いや、その必要はないわよ。この事件……今日の深夜に解決してるわ」

 

 蘭が記事のある一部分を指示してくれる。その部分を読むと確かに書かれていた。

 

 犯人は死亡していて、しかも自殺をしたとのことらしい。

 

「どういうこと? なんで自殺なんかしたんだろ」

「たぶん、こいつ……魔法使いよ」

 

 周りに聞こえないように、ささやくように蘭が声にだす。犯人に驚きはあったけど、内容が魔法使い絡みなので、ちいさく反応した。

 

「分かるのですか」

「まあね。こんな頭おかしい奴が人であるわけないわよ」

「じゃあ、自殺っていうのは嘘で戦闘員にやられたってことなんだね」

「そういうことになるわね」

 

 こんな人格破綻者のことなんて全然分からないけど、危険人物に間違いない。殺されて良かったというわけではないけど、少なくとも私たちや町の人たちが安全に暮らせるようになったことはいいことだと思う。

 

「殺人が娯楽となった人間……ですか。言われてみれば、普通の人間なわけがないですよね」

「こういう連中は表の社会ルールに縛られることに対して、苛立ちとかストレスがきっかけで魔法使いになっているパターンがほとんどね」

「たしかに、殺人が愉しみになってしまえば、自由気ままに生きれず、窮屈な生活かもしれませんね。その点、裏側に来てしまえば、これが当たり前なんですよね」

「表の規則では警察に取りしまわれて、罰を与えられることになるわ。だけど、こっちではアンチマジックに命を狙われる代わりに、誰も殺人を罪に問うことはないわ。常に誰かが殺し合うんだもの。

 殺人は――合法とされるのよ」

 

 物騒な話になってきた。

 私は魔法使いになってしまってから、みんなとも離れて、辛い想いしかしていないのに。中には、魔法使いになったおかげで楽しく生きていられる人間がいる。

 

 表と裏。

 

 表側って幸せなのかな。

 裏側って幸せなのかな。

 もうどっちがどっちなんだか分からないや。

 

「思ったんだけど、こういう魔法使いがいたら、やりたい放題に生きているってことなんじゃないの。ねえ、もしかしたら、そのうち魔法使いも殺したりするのかな」

「魔法使い殺しなんて実際にあるわよ」

「……やっぱりあるんだ」

 

 蘭は戦闘員としていろんなことをみたり、体験してきたりしてるから、そういうところも見てきてるのかな。

 普通に生活したいのに、人からも命を狙われて、魔法使いからも命を狙われる。

 大抵の魔法使いって生きている心地なんて実感していないんじゃないのかな。そう思うと、人とも魔法使いとも仲良く出来ている私たちって、けっこうおかしな集団かもしれない。

 

「だからこそ、アンチマジックは手当たり次第に魔法使いを殺していくのよ。

 裏側に善悪なんてものはないのよ」

 

 いくつもの死体をその手で築き上げてきたからなのか――

 蘭はひどく無機質で、冷たく、それが当然のように言った。

 その姿は、私たちとは違う血みどろな蘭の人生の一端。

 

「今夜、両端《ターミナル》に挑むときには、その今朝の戦闘員とすれ違うかもしれませんよね。ということは見つかり次第、見境もなく襲われるということになるのでしょうか。出来れば、争いなんてせずに済めばいいのですけど」

「どんな奴が来ていようとも、少なくとも見逃してもらえることはないわ」

「……困りましたね。これじゃあ、一気に両端《ターミナル》の攻略が難しくなりましたね」

 

 段々と雲行きが怪しくなっていく。

 昨日まではけっこう簡単そうだったのに、やっぱり本職がいるとなると場慣れしているから、そう簡単に通れないよね。

 

「暗くなってもしょうがないよ。それにさ、ほら。こっちには元戦闘員の蘭と纏もいるし、意外となんとかなるかもしれないよ」

「……あんたは、ほんとにもう。どれだけ気楽に考えているのよ。

 こっちの区に残っている戦闘員は、A級の天童守人と最強のA級の水蓮月。

 そして――S級の神威殊羅。

 だれと当たってもロクな眼に合わないわよ」

「……あー……そういえばそんな格上しかいなかったね」

「なにも考えてなかったのね」

「でもさ、こっちには覇人がいるよ。月ちゃんと殊羅とも一回戦っているし、私と茜ちゃんも一度殊羅とは戦っているんだし、なんとかなるって」

「あんたたちは手も足も出なかったって聞いてるわよ」

「ボコボコにされて、危機一髪のところで助けてもらいましたもんね」

「それは……うん……そうだけど、これでも私たちだってちょっとは強くなったつもりだし、なんとかなるって。うん。なる……なんとか……ね!」

「不安だわ」

 

 あれから色々あって私の戦闘手段もだいぶ、形になってきている。茜ちゃんだって、魔法の扱い方も上手くなっているし、体力もついてきているから、見違えるほどに成長できているはず。

 

「サバイバル生活もやりましたしね。身も心も以前とは成長できましたから、手も足もでないなんてことにはもう、なりませんよ」

「……はぁ、あんたたちみたいに生きれたら、あたしもよかったのだけれど」

 

 溜息一つ零す蘭。

 幸せが抜けたかのような重い表情をする。

 そこへ見計らっていたようなタイミングで幸せ運ぶウェイターがやってきた。

 机に並べられる食事と甘い物。

 ともかく、これで蓋をさせておこう。

 

「このことは考えてもしょうがないよ。当たって砕けろってことでやっていこうよ」

「そうです。彩葉ちゃんは勢いで殊羅さんと戦っていたのですから、今回もきっと大丈夫ですよ」

 

 加減されていたけどね。でもその通り。あんな感じの戦闘員が待ち構えていると、いまは思っておけばいいよね。

 

「茜が一人だと楽なのだけど、あんたたち二人が揃うと、なんか疲れるわ」

 

 そう言うと、蘭は手元の料理を口に運んでいく作業に入った。私たちもそれを合図として食べ始める。

 うん。おいしい。今度、纏たちも連れてきてあげよう。

 

 

 

 

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