たとえ全てを忘れても   作:五朗

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エピローグ 【ステイタス】

 

 

 

 

 

 

「―――それで……どうなんだい」

 

 薄暗い部屋の中、少女の声が響いた。そう広くない部屋の中に響く、不安に震えた声。

 

「……結論から言おう」

 

 ゴクリ、と喉が鳴る。深く、長く息が吐き出される。身体の奥に溜まった怯えを息と共に吐き出す。揺れる視線を意志の力で押さえつけ、目の前に力なく座る男……一柱の男神を見つめる。

 少女―――一柱の女神からの問いかけに、顔を俯かせた男神が顔を上げることなく口を開いた。

 

「身体に問題はない」

「―――っ」

 

 男神―――ミアハの言葉に、女神―――ヘスティアは顔を輝かせた、が―――直ぐに訝しげに顔を歪めた。

 

身体(・・)は、って……他に、何か問題が、あるのかい?」

「……わからない」

「……へ?」

 

 普段の穏やかな様子からは考えられない眉間に皺を寄せた険しい顔で、ミアハは視線を上げることなく一つ一つ呟くように言葉を零す。躊躇うように口を震わせたヘスティアは、逃げ出しそうになる身体を自分の腕で抱きしめる。

 

「わからないって……ミアハ、それはどういう……」

「以前言っただろ。彼の身体は左腕から侵食を受けてると……」

「う、うん」

 

 ミアハから視線を外さないまま、ヘスティアは小さく頷いた。

 

「身体に問題はない、と先程言ったが、正確に言えば、今以上に侵食を受ける心配はないという事だ」

「……それは、いいことじゃ?」

 

 訝しげに首を傾げるヘスティアをチラリと見たミアハは、小さくため息を吐きながら下を向いた。そのまま凍りついたように動かなくなったミアハに、ヘスティアが恐る恐るといった様子で声をかける。

 

「………………」

「ミアハ?」

 

 ヘスティアの呼び掛けに肩をピクリと震わせると、ミアハはゆるゆると顔を上げた。

 

「…………ヘスティア」

「な、何だい」

 

 青ざめた顔色のミアハに、思わず息を呑むヘスティア。どもりながらも続きを促すが、腰は完全に引けていた。

 

「彼の身体は、既に侵食を終えている」

「―――ッ!? そっ、それはどういうことだいッ!!?」

 

 耳に入ってきた情報が一瞬理解できず固まったヘスティアだったが、直ぐに我に返るとミアハへと掴みかかる。

 

「落ち着けヘスティア」

「お、落ち着けるわけないだろっ! どういうことなんだよ一体!?」

「落ち着けと言っている」

 

 胸元を掴んでくる手に自身の手を当て、ミアハが一言一言区切るように言葉をかけると、はっと我に返ったヘスティアがバツが悪そうな顔で謝る。

 

「っ―――ご、ごめん、ミアハ……」

「心配なのはわかるが」

 

 何処か苦しげに顔を顰めながらミアハがヘスティアの手を包むように手に取ると、自分の胸元から動かした。ヘスティアは両手を自身の胸元まで戻し、ゆっくり深呼吸を一つすると、ミアハを見上げた。

 

「……それで、どう言う事何だい」

「言葉通り。彼の身体は既に侵食を終えている。君も直ぐに気付いただろ。体格は一回り近く大きくなって、身長は私と変わらない程にもだ。もはや、以前の彼とは別物といってもいい」

「……問題は」

 

 小さな声で、ヘスティアが呟いた。視線は既にミアハから足元へと変わっている。ミアハはヘスティアの頭頂部を見下ろしながら小さく首を横に振った。

 

「言っただろ、わからない、と」

「っ―――だからっ、何がわからないんだいっ!!?」

 

 両手で拳を握り、叩きつけるように言葉を発するヘスティアに、ミアハは苦渋に満ちた言葉を零した。

 

「……全て」

「全てって……?」

 

 自分の力不足を嘆くような言葉に、思わずというように顔を上げたヘスティアの目に、普段の優しげな様子から信じられないような険しい顔をしたミアハが映り込んだ。

 

「私からも聞きたいんだが……」

「……何だよ」

 

 うっ、と息を呑みながらも応えるヘスティアに、ミアハはスッと目を細めながら問いかけた。

 

「彼は、人間かい?」

「っ、ど、どう言う意味だい?」

「そのままの意味だ。彼は本当に人間なのか?」

「……そのはずだよ」

「本当か?」

「……多分」

 

 思わず、と言うように顔を逸したヘスティアを見下ろしたミアハは、腕を組むと過去を思い返すように目を閉じた。

 

「…………確かに、彼の身体は人間だ。しかし……」

「しかし……何だよ」

 

 非難するようなヘスティアの言葉に、目を開いたミアハが断言する。

 

「中身は、明らかに人間ではない」

「人間じゃないって……」

「……唯一つ言える事は、見かけは人だが、中身は人間ではないナニかだ」

「…………」

 

 何か確固たる証拠があるのだろう。ミアハは迷いのない声で断言する。“シロ”は人間ではない、と。明らかに好意的なものではないミアハの言葉に、しかしヘスティアは何の反論もせずただ黙り込んでいた。暫くの間、何も言わないヘスティアを見つめていたミアハだったが、踵を返すと、ピタリと足を止めた。そしてそのままヘスティアに背を向けたまま語り掛けてきた。

 

「友として忠告しておく…………アレとは出来るだけ早く縁を切ったほうが良い…………アレは……良くないものだ」

 

 そのままミアハは、ヘスティアの返事を聞くことなく歩き出した。ミアハの背中が闇の奥へと消えていく。そして、一人残されたヘスティアは、伏せた顔を歪ませると、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……シロくんが……ただの(子供たち)じゃないことなんて……そんな事、わかりきったことだろ……」

 

 闇の中、目を瞑る。

 瞼の裏に浮かび上がるのは、数ヶ月前の情景。倒れていたシロをこの部屋まで連れてきた夜のこと。

 雨に濡れ、倒れていた。

 原型を留めていない服を身に纏い、今にも止まりそうな呼吸をしていた。

 浅黒い肌に、色の抜けた髪。

 不思議な、雰囲気を持った男。

 

「君は……一体何者なんだい…………シロくん――――――」

 

 空への問い掛けと共に一枚の紙を取り出す。

 それには、一人の男の【ステイタス】が、書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■シロ■

 

 Lv.1

 

 力:C694

 

 耐久:B789

 

 器用:D564

 

 敏捷:C657

 

 魔力:B711

 

 《魔法》

 

 【■■■■■】

 

―――使用不能

 

派生魔術 

―――【解析】

 

・魔力を通す事により対象の状態を把握する。

 

―――【強化】

  

・魔力を通す事で一時的に対象の能力を補強する。

・対象に指定はないが、無機物、自己、他人の順に難易度は上がる。

 

―――【■■】 

 

―――使用不能

 

 

 《スキル》

 

 【無窮之鍛鉄】

   

   ・自己より強大な敵と対する際に発現。   

   ・強制成長。

   ・【ステイタス】の随時更新。 

   ・敵の強大さに比例し効果増大。

   ・成長に比例し、肉体・精神への負担増。

   

   

 




 
 感想ご指摘お待ちしています。

 二章の予定はありますが、更新の予定は未定です。
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