たとえ全てを忘れても   作:五朗

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 サブタイトル名はもしかしたら変えるかも……

 


第三話 君に決めた

 

 ―――全くの予想外だ。

 

 【ロキ・ファミリア】の副団長たるリヴェリア・リヨス・アールヴは、目の前の惨状に眉根を顰め小さく嘆息した。

 今、リヴェリアたちはダンジョンの中層にある安全階層(セーフティポイント)にある『リヴィラの街』にいた。ダンジョンに共に潜っているのは、団長のフィンとアイズ、ティオネとティオナの姉妹にレフィーヤを合わせて六人。ダンジョンにもぐる目的は、単純に資金稼ぎとなっている。怪物祭(モンスター・フィリア)の一件で破壊されたアイズの予備の剣の代金を返済するためだ。その金額は四千万ヴァリス。大金は大金だが、アイズの実力ならば一月もかからないうちに十分返済可能な金額である。とは言え人手があるに越したことはない。話を聞いたリヴェリアはフィン等を誘いダンジョンに潜った―――のが表向きの理由。裏にはもう一つの理由があった。それは怪物祭(モンスター・フィリア)の一件以来、様子のおかしい【ファミリア】の三人(・・)の気分転換のためだ。

 あの一件以来、【ファミリア】のムードメーカー的存在であるティオナは似合わない物憂気な溜め息を良くつくようになり。アイズは前々から問題にしていた過剰な訓練が、更に自分を追い込むように厳しくなり。レフィーヤはアイズが乗り移ったかのように魔法の修行を打ち込むようになった。

 三人がこうなった原因はわからず、事情を知ってそうなティオネとロキは沈黙する始末。流石にこのままではいけないと、団長であるフィンと相談している時に、タイミング良くアイズからダンジョンの話が出たことから、共にダンジョンに行くことにしたのだが―――。

 

 ―――まさか、こんな事が起きていたとは……

 

 荒くれ者が多いオラリオだが、ダンジョン以外で死人が出るような事件は意外と少ない。一時期は色々とあったが、最近ではあまり聞くことはなかった。住民の殆どが冒険者であり、そう簡単に死ぬような輩ではないという理由等が色々とあるが、最大の理由は【ファミリア】同士の抗争を避けるためだろう。自分たちの【ファミリア】が殺されたとなれば、抗争は避けられない。抗争が起きれば、当事者の【ファミリア】だけの話では済まず、様々な問題が起きる。それは皆避けたい。

 そういった諸々の事情等から、今リヴェリアの目の前にある光景のようなモノは、そうそうお目にかかれるような代物ではなかった。

 リヴェリアは昔の色々(・・)とあった時代を経験したことから、この光景に怯むことはなかったが、ここにいる者で少なくとも一人はこの光景に免疫はなかった。その一人であるレフィーヤは、顔を青くしてアイズの後ろで蹲っている。咄嗟の判断でレフィーヤを背後に追いやったアイズが、厳しい顔で地面に転がる頭のない男の死体を見下ろしていた。相当強力な力で破壊されたのだろう。男の頭部のあった場所には、まるで果実が潰れたかのような跡が地面にベッタリと残っている。

 リヴェリアは気分を入れ替えるように小さく頭を振ると、この場の代表者である男に向き直った。先程まで現場検証をしていたのだろう、足元に乾いた血が付着した男が、一目でわかる不機嫌な顔で睨んできている。

 

「あぁん? おいっ何勝手に入ってきてんだテメェっ! ここは立ち入り禁止だぞ!? 見張りの奴は何やってやがんだっ!! あいつ以外通すなって言っただろうがっ!!」

 

 中層に降り、今日は『リヴィラの街』で宿でも取って休もうかと話をしていた時に、街の様子がおかしいことに気付き周りから話を聞いたところ、『ヴィリーの宿』で殺しがあったとの話を耳にした。流石に放って置ける訳が無く、リヴェリアたちはここ―――自然の洞窟を利用した『ヴィリーの宿』へとやってきてみたは良いが、やはり歓迎はされていないようであった。

 リヴェリアは、チラリと横にいるフィンを見下ろす。

 

「まあ落ち着いてくれよボールス。悪いけどお邪魔させてもらってるよ」

「っち……オメェかよ」

 

 視線だけでリヴェリアに返事したフィンは、片手を上げながら親しげに男―――ボールス・エルダーへと近付いていく。筋骨隆々の巨漢であり、凶相に黒い眼帯を着けたその姿は、どう見ても山賊の親分にしか見えないが、これでも一応は一線級の冒険者で、冒険者が取り仕切る『リヴィラの街(この街)』の事実上のトップである。

 『オレのものはオレのもの、てめえのものはオレのもの』と言ってはばからない付き合いたくない輩ではあるが、フィンはその立場から何度か話したことはあった。その性格や気性を知るフィンは、両手を上下させながらボールスへと小さく笑いかけた。

 

「しばらくダンジョンの探索をしようと思ってね。宿として街を利用させてもらおうと思ってたんだけど、殺しが起きたとなったら流石に無視できないだろ。今後のためにも、早急に解決しておきたいし。協力させてもらえないかい、ボールス?」

「ハンっ! ものは言いようだなフィン。だけどよぅ、そりゃ余計なお世話だ。なに心配はいらねぇよ。こっちにも当てはあるんでな」

「あて?」

 

 太い両腕を組み、ボールスが鼻を鳴らし言い捨てるのを見て、フィンは小さく小首を傾げた。

 

「ああ、色々と物知りな上に腕も立つ野郎がいてな、そいつが―――っと、どうやら来たようだな」

「?」

「おう入りな」

 

 入口の向こうから名を呼ぶ声が届き、言葉を途中で止めたボールスが部屋を仕切る帳の向こうへと視線を向けると、自然とフィンたちの視線もそちらへと向くことになった。帳の向こうからボールスの部下らしき男が入室の許可を求め、それをボールスが認めると、ゆっくりと帳が持ち上がり、一人の男が部屋へと入ってきた。

 

「―――邪魔するぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――邪魔するぞ」

 

 部屋に入った瞬間、思わずシロは目を見開いてしまう。予想外の場所に、予想外の人物がいたからだ。彼女達の活動の場は深層域であり、中層のリヴィラの街(ここ)に立ち寄る事はないと思っており、シロは彼女等とここで出会う可能性を全く考慮してはいなかった。

 しかし、それはシロだけでなく、彼女等―――アイズたちもまた同じであった。シロと同じく目を見開き暫くの間両者の間に沈黙が満ちた。その停滞を破ったのは、この場にシロを呼びつけた男であった。

 

「―――おい、もうそろそろいいか」

「っ、あ、ああ。すまない、少しばかり予想外の顔が揃っていたからな」

 

 苛ついた様子を隠そうともしない声のボールスに、驚いたように顔を上げたシロは複雑な顔をしながら【ロキ・ファミリア】の面々を見回した。

 

「ああん? 何だ、お前【ロキ・ファミリア】と知り合いだったんか?」

「まあ、そういったところか……」

 

 ボールスの質問に気を取り直すように小さく溜め息を吐いたシロは、未だ驚愕から抜け出せないアイズたちから視線を外し、地面に横たわる死体へと意識を向けた。

 

「……この男が」

「そうだ。一応まだ動かしてねぇが、何かわかるか?」

 

 死体を見下ろしながら呟いたシロの言葉に頷いたボールスが、せっつくように顔を寄せてくる。

 

「『ステイタス』の確認は?」

「まだだ。準備はさせているが、まだ時間がかかるだろうな」

 

 眷族の恩恵を暴く特殊な薬がある。『解除薬(ステイタス・シーフ)』と呼ばれるその薬は、発展アビリティ『神秘』を習得した数少ない者が、『神血(イコル)』をもとに作成する特別な薬であり、材料やその目的からして、非合法の道具(アイテム)であった。一般的に売られていないものであり、裏市場(アンダーグラウンド)のみ売られている。そして冒険者しかおらず、その中でも色々と訳ありの者が多くいる『リヴィラの街』(この街)にもその薬は売られていた。

 

「そうか……頭がないがこれは?」

「言っただろ。なんにも動かしてねぇ。最初からこうだったんだよ」

「そう、か……」

 

 顔を顰めながら肩を竦めるボールスを無視し、シロは死体の周りを見渡した。特に周囲に散らばる頭だったものをその鋭い鷹のような目を更に細めながら確かめていた。一般人なら胃の中のものがせり上がってくるだろう光景を、シロは嫌悪も忌避も何の感情も見せない顔で観察していた。

 

「頭がないことがそんなに気になるのかい?」

 

 そんなシロの背中に、穏やかな口調で問いかけてくる者がいた。

 

「【ロキ・ファミリア】団長フィン・ディムナ……」

 

 周囲を見分していたシロの顔が、肩越しに後ろに向けられる。その視線の先に立っていた子供―――小人族(パルゥム)の姿に、シロの目の中に警戒の色が宿る。

 シロの目に警戒の色が宿った事に気付いたフィンは、警戒を解かせるためか敵意がないことを示すように口元に笑みを浮かべた。

 

「『フィン』でいいよ『ヘスティア・ファミリアのシロ』」

「……シロと呼べ」

 

 かつて名乗った際の言葉をそのまま返すと、シロは一瞬眉根に皺を寄せたが直ぐにそれを隠すように顔を死体の方へ向け、背中越しにフィンに言葉をかけた。

 

「ふふ、そうかい。じゃあ、シロ。それで、何かわかったことでもあったのかい。まだ部屋に入ったばかりなのに」

「―――あるわけがないだろう。俺は探偵でも何でもないんだぞ」

「タンテイ?」

 

 シロの言葉の意味がわからず、小首を捻るフィンだったが、気を取り直すと確かめるように再度問いかけた。

 

「本当に何もわからないのかい?」

「ああ」

 

 顔も向けず背中を向けたまま返事をするシロに、フィンは肩を竦めてみせる。その後ろでシロの態度に苛立ちを隠せないティオネを視線だけで嗜めながら、フィンはぺろりと自身の右手の親指を舐めた。

 

「…………まあ、君がそういうならそうなんだろうね」

「だが、あのボールスがわざわざここまで呼んだというには、何か理由があるのだろう?」

 

 押し黙り何事か考え込むフィンの隣りから、代わりのようにシロに声をかける女がいた。声をかけられたシロは、溜め息を飲み込みながらゆっくりと先程と同じように背中越しに後ろを振り返った。

 

「……リヴェリア・リヨス・アールヴか。【ロキ・ファミリア】の副団長までいるとはな」

「『リヴェリア』でいい。それで、何故、お前はここに呼ばれた?」

 

 わざとらしくフルネームで呼ばれたことに対し、不快げに目を細めてみせたリヴェリアは、一言一言区切るようにシロに質問をする。

 シロはリヴェリアの質問に直ぐ傍に立っているボールスに視線を向けた。 

 

「さてな、それは本人に聞いてくれ」

「だってさボールス? どうして彼をここに呼んだんだい?」

 

 フィンがとことこと歩き、ボールスの隣に立つと、下から覗き込むようにボールスの顔を見上げてきた。

 

「ふんっ! さっきも言っただろうが。こいつは色々と変な事に詳しいからな。色々と重宝してんだよ。短い付き合いだが、口は硬ぇし、腕は立つとわかってるし、何より金が掛からねぇしな。今回の件も何かこいつならわかるかと思って試しに呼んだだけだ」

「……ふぅん」

 

 腕を組み顔を背けながら言い放つボールスに、フィンはボールスとシロをチラチラと見比べながら意味有り気に鼻を鳴らしてみせた。意味有り気な視線から逃げるようにフィンから顔を離したボールスが、死体の横で膝をついて何やら調べていたシロに声をかける。

 

「で、シロ。オメェ本当に何もわかんねぇのか?」

「まだ圧倒的に情報が足りんからな。もう少し色々と調べさせてもらうぞ」

「まあ、最初からおめえに頼むつもりだったからな」

 

 頭を指先で掻きながら後ろに下がったボールスが、シロが何やら死体の首の辺りを調べているのを眺め始めた。すると、暫らく何やら確かめていたシロが動きを止めポツリと呟いた。

 

「ああ……―――やはり、か」

「何がやはりだったんだい」

「あ! テメェフィンっ! 何勝手に近づいてんだよ!」

 

 シロの呟きに敏感に反応したフィンが、ボールスの横を通り過ぎシロの隣で同じように死体を見下ろした。後ろから慌てた様子で近付いてくるボールスを、フィンは肩越しに手をぱたぱたと動かし牽制する。

 

「いいからいいから」

「っくそ! これだから高Lvの冒険者って奴は……」

 

 フィンの後ろで悔しげに拳を握り締めぷるぷると震えながら苛立たしげに顔を顰めるボールスの後ろで、その一連の様子を見ていたティオネが不機嫌さを隠さずに『お前にだけは言われたくないんだよ』と呟くのを、レフィーヤが肩を掴みながら必死にティオネを宥めていた。

 そんな後ろの様子を一切気にする事なく、シロはチラリとフィンに視線を向けると、死体の首を指差した。

 

「死因は頭部の破壊ではないようだ。見ろ、首の骨が折れている。それも相当な力でやられたな。身体や服に争った形跡がないところからも、それこそ一瞬で殺られたのだろうな」

「君の言い分だと、まるで最初から頭を潰されて殺されたとは思ってなかったみたいな言い方だね」

「周囲に散った血の量から何となくだが……生きていた時に頭を潰されれば、もう少し派手に血が散っていたはずだ」

「ふぅん……良く知ってるね」

「まあ、な」

 

 どことなく探るような物言いに、シロはフィンを見つめながら応えた。

 

「…………」

「死体の方は後で『開錠薬(ステイタス・シーフ)』を使って調べるしか手がかりはないか。次はこいつの荷物でも調べるとしよう」

 

 黙り込んだフィンを尻目に、室内の隅に置かれたバックパックへ視線を向けるシロ。その後ろについていきながら、フィンはシロと同じように物色された形跡が明らかにある荷物へと意識を向ける。

 

「荷物、ね」

「どうやら犯人はこいつの荷物に用があったみたいだからな」

「確かに、随分と乱暴に荒らされている」

「物色、というよりも……苛立って荒らしたというように見えるな」

 

 ヒョイっと、シロとフィンの傍からリヴェリアの顔が覗き込まれる。シロとフィンはチラリとリヴェリアに視線を向けたが、互いに何も言わず荷物へと直ぐに向き直った。

 シロとフィンの前にあるバックパックは、強引に引き裂かれ中身をかき出されており、その原型が辛うじて推測できる程度の状態であった。確かにリヴェリアの言葉通り、焦って中身を取り出したと言うよりも、何か苛立ちを紛らわしたようなそんな様子が伺えた。

 

「確かにそう感じるな。この様子では、中身がお気に召さなかったか―――目当ての物が見つからなかったか」

「目当ての物……」

 

 シロの言葉に、リヴェリアが顎に手を当て小さく呟いた。

 

「その証拠に、金になりそうな物が幾つかあるが、どれも手付かずのままだ」

「本当だ」

 

 シロはバックパックの中から被害者のものであろう財布や、何かのドロップアイテムを取り出してみせた。

 

「ん? これは冒険者依頼(クエスト)の依頼書だな」

 

 中身を確認していたシロが、何やら血に染まった一枚の羊皮紙をバックパックから取り出した。ざっと血で読めない部分以外を読み取ったシロが、それが冒険者依頼(クエスト)の依頼書であることを声に出すと、近づいてきたフィンたち以外の『ロキ・ファミリア』の面々の中で代表するようにティオネがシロに声をかけた。

 

「へぇ~で、何て書いてあるのよ?」

「……どうやらこの男は内密に単独で三十階層に何かを獲りに行ったそうだ」

「何か?」

 

 先を促すようにティオネが質問するが、シロは否定するように頭を左右に振った。

 

「そこまでは読めなかった、が。ここまで得られた情報から考えられる可能性としては、犯人の狙いはこいつの命ではなく、荷物に用事があった可能性が高い」

「確かにその可能性が高いね」

 

 フィンが同意の声を上げると、ティオネが警戒するように死体を見下ろした。三十階層と言えば、中層の中でも深層に最も近い場所だ。パーティーを組むとなれば別だが、単独でそこまで潜るのは、それなり以上のLv.は必要である。

 

「だけど、三十階層を単独でって……それこいつかなりの高Lv.の冒険者なんじゃ……」

「それは今からわかりそうだな」

「え?」

 

 ティオネの疑問に応えるように、シロが室内への出入口へと視線を向けた。シロの視線に誘導されたように、その場にいる全員の視線が出入口へと向けられた時、出入り口に掛けられた臙脂色の模様の帳が勢い良く持ち上げられ、一人の男が獣人の小男と共に室内に駆け込んできた。

 

「『開錠薬(ステイタス・シーフ)』が来たみたいだな」

 

 駆け込んできた男がボールスの前で何かを取り出して見せるのを見ていたシロが、男が取り出したものを見て小さくその正体を呟いた。

 

「『開錠薬(ステイタス・シーフ)』……眷族の恩恵を暴くための道具か……だが、それ単体では神々の錠は解除できないはずだが」

 

 シロの呟きを耳にしたリヴェリアが、不快げに眉根を歪め視線を細めた。本人の了承もなく『恩恵』を暴く薬に対し、嫌悪感を示すリヴェリアに、シロは視線を寄越した。

 

「必要なことだ」

「……わかっている」

 

 シロを一瞬だけ睨み、リヴェリアは『解除薬(ステイタス・シーフ)』を持ってきた男と一緒に入ってきた獣人の小男が死体に何やらしているのを視界から外した。『解除薬(ステイタスシーフ)』の溶液を死体の背中に垂らしながら、指を淀みなく走らせる獣人の小男は、暫らくして死体の背中から碑文を思わせる文字群が浮かび上がるのを見ると、後ろを振り向きシロに声を掛けてきた。

 

「シロの兄さん」

「手間をかけたな。さて、一体何処の誰だが……これは―――」

 

 立ち上がって横にずれた獣人の前を通り死体の傍に膝をつき、その背中に視線を向け『神聖文字(ヒエログリフ)』を解読したシロが驚愕の声を上げた。ボールスが焦った様子でシロの肩を掴み乱暴にその体を揺らした。

 

「おいシロっ! 何て書いてんだよっ! こいつは何処の誰なんでぇ!?」

「……名前はハシャーナ・ドルリア。所属は【ガネーシャ・ファミリア】」

「……は、あ?」

 

 思わずシロの肩から手を離し、ヨロヨロと背後に後ずさるボールスに、追い打ちのようにシロの言葉が掛けられる。

 

「―――Lv.4の冒険者だ」

「「「ッッ!!?」」」

「おい、嘘だろ!」

 

 室内に驚愕の声が上がる。

 明らかになったその事実は、とある事実を示していたからだ。それは、死んだ男―――【ガネーシャ・ファミリア】所属のハシャーナ・ドルリアがLv.4であるということは、それを容易く殺した者は確実にそれ以上、最低でも同格の力を持つ存在であるということ。

 

「ボールス」

「ああんっ!! 何だシ―――ッッ!!??」

 

 目に見えて動揺を露わにするボールスに、立ち上がったシロが声を掛ける。苛立たし気にシロを睨みつけてくるボールスを迎えたのは、シロの鋭い視線であった。

 

「今すぐ街を封鎖しろ」

「どっ、どういうことだテメェ説明し―――ッ!!?」

 

 気圧されたのを誤魔化すように、ボールスが更に声を大きくする。荒くれ者そのものなボールスが、険しい顔で唾を吐き散らしながら怒鳴りつけるのを、シロはただジロリと視線を向けるだけで黙らせると、何処か遠くを見通すように目を細めた。

 

「犯人はまだこの街にいる可能性が高い」

「どう言う、こった……オレが犯人ならとっととずらかってるぜ」

「そうだな。犯人の狙いがハシャーナの命ならば、な」

 

 シロは横たわる死体をチラリと見ると、ハシャーナのバックパックを探っていたフィンが血に濡れた依頼書を見ながら応える。

 

「この男―――ハシャーナが高Lvの冒険者であると判明したことで、犯人の狙いが依頼書にあった荷物である可能性が限りなく高まったからね。ここまで高Lvの冒険者なら、ある程度の実力者ならその驚異は一目でわかるはずだし。狙うにはリスクが高すぎる。何より彼が持っていた依頼書。タイミングが良すぎるからね。犯人はハシャーナの依頼書にある物が欲しかったが……この如何にも八つ当たり的な惨状からして、残念ながら犯人は目的の物を手に入れていない。なら、ここまでして手ぶらで逃げ出す可能性は低い、ということかい?」

「―――ボールス。一つ聞きたいが、ここに来る途中で聞いた話では、容疑者の女は随分と特徴的な女だったらしいな」

 

 フィンの言葉に返事をすることなく、シロはボールスに向き直る。

 

「あ、ああ。街でチラッと見たが、遠目で見てもわかるぐれぇ良い身体をした女だったな」

「そうか……なら、やはり……」

「おい、テメェ一人で納得すんなっ! いいから答えろやッ!!」

 

 顎に手を当て何やら考え込みぶつぶつと呟き出したシロに、ボールスが近付き怒鳴り声を上げる。シロは小さく息を吐くと、頭を振った。

 

「……殺人犯を逃がしたくなければ今すぐ街を封鎖しろ。今はそれしか言えん」

「ッ! テメェ―――」

「僕も同意見だよボールス」

 

 肝心な事を何も口にしないシロに、思わず手を上げそうになるボールスをフィンの声が止めた。

 

「ッッ!!! わかったよッ!! クソッタレめッ!!! おいこらさっさと北門と南門を締めにいけッ!! それと街にいる冒険者を一箇所に集めろ!! いいか―――」

 

 ボールスが部屋の隅で事の成り行きを見守っていた部下たちに八つ当たりのように怒鳴り散らしながら指示を出すのを尻目に、シロは静かにその場から立ち去ろうとした。が、それを阻むようにシロの目の前に一人の小柄な影が立ちふさがった。

 

「―――どこに行くんだい?」

「あとの事は頼む」

 

 足元から見上げてくる碧眼に圧力を感じ足を止めたシロだったが、直ぐに足を動かしフィンの横を通り過ぎた。

 

「僕は何処に行くんだいと聞いたんだけど?」

「……犯人を探しにだ」

 

 部屋から出ようとするシロの足を、フィンの感情を感じさせない刃のような鋭い声が止めた。立ち止まったシロは、振り返る事なく背中越しにフィンの質問に応える。

 

「何かわかったのかい?」

「最悪の考えが一つほどな。確かめるために単独で動きたい」

「……一人で、かい」

「ああ」

 

 互いに背中越しに話し合う二人。穏やかと言ってもいい口調で話し合う二人だが、その間には真剣勝負にも似た緊張感に満ち溢れていた。その一触即発といった雰囲気に、様子を伺っていた【ロキ・ファミリア】の面々の緊張がピークに達しかけたその時、高まった緊張を散らすようにフィンの楽しげな声が上がった。

 

「一人じゃまずいだろ。いくら君が強いとは言ってもね。だから―――」

 

 そしてフィンは顔を上げとある方向に視線を向けた。視線を向けた先には、様子を伺っていた【ロキ・ファミリア】の面々の姿が。その中の一人に目を向けたフィンは、にこやかに笑いながらその人物を指差した。

 

「リヴェリア。彼について行ってあげて」

「……は?」

「……え?」

「「「え?」」」

 

 

 

 




 感想ご指摘お待ちしています。

 昨日寝落ちしたから上げられなかった……すみません。

 ……ロキたちやベルたちの様子も書いた方がいいかな?
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