たとえ全てを忘れても   作:五朗

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 勢いで書き上げたので、後ほど修正する可能性高し。

 変なとこありましたらご指摘お願いします。



第六話 弓

「大分落ち着いてきたな」

「まあ、でもまだ油断は出来ないけど」

 

 リヴェリアの魔法によってその数を大幅に減らしたモンスターの残りを片付けながらのシロの言葉に、フィンは五人一組でモンスターと戦っている冒険者たちの姿を見ながら応える。フィンの応えに無言で同意したシロは、モンスターに手こずっている冒険者たちの下へと駆け出していった。フィンは冒険者たちを追い詰めようとしたモンスターを一刀の下に切り伏せるシロの姿を見つめながら呆れた声をもらす。

 

「あれでLv.1だとか、本当になんの冗談だって話だね」

「確かに、経験や技術もそうだが、あの身体能力もLv.1とは到底信じられない」

 

 呆れ声を上げるフィンに、リヴェリアもまたLv.2を含んだ小隊が苦戦していたモンスターを一蹴するシロの姿を見ながら呆れた声を上げた。シロの戦闘を興味深い研究対象を観察する学者のように目を細め見つめていたフィンが、その観察結果を報告する。

 

「単純に身体能力だけでもLv.2どころじゃない。Lv.3の上位に匹敵……下手をすればLv.4に届いているかもしれない。ここまでとなると、本当にLv.1なのか怪しいところだね」

「……冒険者の中にはギルドにLv.を偽っている者もいると聞くが、シロもそうだと言うのか? 確かに、ここまでの力がある事実から考えてみれば……いや、それはないか」

 

 シロの自己申告であるLv.1という証言自体に疑いの疑念を向けるフィン。それも仕方がないことだろう。Lvというモノはそれ程までに絶対だ。Lvが一つ違うだけで、文字通り次元が違う。昨日まで手も足も出なかったモンスターを、Lvが一つ上がってしまうと一撃で倒してしまえる事もある。

 推定Lvが3という驚異的なモンスターをLv.1の冒険者が倒せるはずがない。しかし、現実にシロはモンスター(Lv.3)を倒している。Lvが一つ違うだけでも絶望的な相手が、二つも違う。それも同Lvの中でも驚異的な防御力を持つモンスターをだ。

 なら考えられるのはそう多くはない。

 その一つが、シロはLvを偽っているという疑念だが。

 それはリヴェリアに一笑に伏せられた。

 その余りにも断定的なリヴェリアの応えに、フィンは若干の戸惑いを覚えた。

 

「? 随分とはっきりと断言するんだね? 彼が嘘を言っていないという根拠でもあるのかい?」

「……根拠、ではないが、嘘をつくというのはどうにも……」

 

 ジッ、と下から覗き込んでくるフィンの視線から逃れるように、その細い顎先に手を当てたリヴェリアは、ふっと小さな笑みを口元に浮かべると、誰にも聞こえない声で呟いた。

 

「―――“正義の味方”には、似合わないからな」

「リヴェリア?」 

 

 唐突に笑みを浮かべたリヴェリアにフィンが戸惑った声で彼女の名を呼んだ。リヴェリアがこんな感じの小さな笑みを浮かべる事はそんなに珍しいことではないのだが、今彼女が浮かべるものは、初めて見るものだと感じてしまったために。

 

「どうかし―――」

 

 ―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオォォォォォォ…………

 

 だが、その疑問を解決するための問いかけは、突如出現したモンスターによって遮られた。

 現れたモンスターは、一見すると巨大な蛸のように見えた。十本以上の長い足は、その全てが食人花のモンスターから構成され、その一本一本が、意思を持っているかのようにばらばらに蠢いている。その足とも触手とも呼べないものの起点である中心には、極彩色をした明らかに女の形をした上半身が存在している。高さは目測で約六Mはあるだろうか、確かに大した巨大さだが、問題は縦よりも横。足なのか触手なのかはわからないが、足を折りたたんだ状態でも、十Mは超えている。余りにも巨大だ。遠く遠距離で確認するその姿は、大きさを度外視するならば、海辺に潜むと言われる半人半蛸(スキュラ)のように見える。

 しかし、十を優に超える触手()が一斉に咆哮を上げながら広場に侵入してくるそのモンスターの巨体を見上げるフィンとリヴェリアには、以前戦ったモンスターの面影をその姿に重ねていた。モンスターが寄り集まって型どられたと言った点でも良く似ていた。以前『遠征』において五十階層で遭遇した女体型モンスター。その構成物こそ芋虫ではなく食人花と違うが、それ以外は本当に良く似ていた。

 

「リヴェリア、これは……」

「ああ、良く似ている―――だが」

「始末するのが先決だね」

 

 互いに頷き合うリヴェリアとフィン。

 

「……冷静に話し合うのは結構だが、このままではボールス達が全滅するぞ」

 

 戻ってきたシロが肩を竦めながら悲鳴を上げ逃げ惑うボールス達へと視線を向ける、と。巨大なモンスターが広場に侵入してきた時点で逃げ始めた冒険者たちと一緒に避難するボールスが、怒声とも悲鳴ともつかない声で『さっさとどうにかしろっ!』と叫んでいる姿が見える。

 

「どうにか、か……あの足一本でも厄介だと言うのに」

 

 苦笑を浮かべたシロが、蠢く蛸足と成り果てた食人花たちを見やる。足となった食人花は、元の姿よりも一回り以上も太くなり、更にはその黄緑の体皮には、真紅の葉脈がびっしりと浮かび上がっている。まるで憤怒に染まり狂乱に落ちた狂戦士のようだ。明らかに先程まで相手にしていた食人花よりも手強く見える。

 

「厄介なんて謙遜が過ぎると思うけど?」

「何を言っている? お前たちと違って俺は常にギリギリだ」

 

 フィンはシロの言葉に笑うと、手に持つ槍を構えた。

 フィンの視線の先にあるのは、極彩色の女の形をした上半身。その顔にあたる部分は、目も鼻もなく、ただ口だけが確認できた。人を軽く一飲みにできそうな大きな口は、眠り込む人のように薄く開いている。人で言うと髪にあたる所は、緑色の髪が腰の部分まで届いている。肩から肘までは普通の人間と同じだが、そこから先は無数の触手となっている。今は上半身の意識がないためか、その全てが咆哮を上げる食人花()の上へとしなだれかかっている。

 

「どうやら皆集まったようだ。ほら、私たちもさっさと行くぞ」

 

 巨大な女型のモンスターの周りに、今まで行方知れずだったアイズとレフィーヤ、そしてティオネとティオナの姿を見て走り出すリヴェリア。シロとフィンはその後ろを追いかけ戦闘を始めたアイズ達の下へと近付いていく。

 駆けるシロたちの前で、食人花が執拗にアイズに襲いかかっていた。モンスターに備わった下肢の全ての食人花が、アイズに食らいつこうとその牙を剥き出しにしている。

 

「アイズを狙っている!?」

魔法()に惹きつけられているのかな?」

「その可能性は高いな」

 

 それぞれに意見を言いながらアイズを追うモンスターに接近するシロたちだったが、ティオネたちの方が早かった。ティオネとティオナがアイズに殺到する食人花へと飛びかかり、構えた獲物でもって一刀の下切り伏せる。姉妹が魅せた斬撃は、見事に通常の食人花よりも太いその身体を真っ二つに切り分けた。だが、半ばを断たれた足が、その断面から血の如く樹液のようなものを垂れながしながらティオナを弾き飛ばした。自分の技の結果に満足したように会心の笑みを浮かべ油断していたティオナは、咄嗟に大双刃(ウルガ)の鉄塊の如き剣身を盾にするが、一瞬も耐える事も出来ず地面を転がっていく。しかし、ダメージを感じさせずに直ぐさま立ち上がったティオナは、大双刃をモンスターへと向けた。

 

「ちょっとどう言うことっ!? 真っ二つになったのに何で動けるのっ!?」

「この馬鹿ッ!! ありゃもう足の一本にしか過ぎないのよっ! 動くに決まってるでしょっ!!」

 

 ティオナの文句にティオネが叫んで忠告する。頬を膨らませ未だぶーぶーと不平不満を口にする妹に忠告しながらも、ティオネは襲いかかる触手を両手に持つ湾短刀(ククリナイフ)でもって切り裂いていく。ティオナ()のように一撃で切り伏せることはできないが、冷静に冷酷に一瞬にして触手を確実に切り刻み行動不能にしている。足が次々に打ち取られ、動きの精彩が失われると、ティオナとティオネは申し合わせたように共に飛び上がりモンスターの女体型の上半身へと襲いかかる。が、そこで初めて女体型の上半身が動く。しつこくアイズの後を見つめていた顔をティオナ達の方へと向けると、腕の触手を一気に伸ばし矢のように放出した。

 

「ちょっ―――っ?!」

「くっ!?」

 

 一斉に襲いかかる槍衾の如き無数の触手を慌てて切り払うティオナとティオネ。触手の槍は一方向からだけではない。曲線を描き四方八方からティオネたちへと襲いかかる。空中にいるため足元からも触手が迫っていた。死角から襲い来る触手の群れを何とかくぐり抜けたティオナとティオネは、砂煙を立てながら地面に着地すると、改めて武器を構え巨大なモンスターを睨みつけた。

 

「次はこちらの番だね」

「でかくて硬い、か……相性は悪いが仕方がない」

「それでは―――そこのエルフっ! 背の弓を貸せ!」

 

 モンスターと相対するティオナとティオネを挟むようにその横を駆け抜けたシロとフィンの二人は、同時に大地を蹴りモンスターに踊りかかった。その後ろ。ティオナとティオネよりもずっと後ろでは、立ち止まったリヴェリアがエルフの男から受け取った弓を構えている。リヴェリアの持つ弓の持ち主は、仲間でも友人でもない初めて会った相手からの命令に無条件で従った。何せ相手は王族(ハイエルフ)。その呼びかけを拒否する事などそのエルフの男の脳裏に一欠片も浮かんではいなかった。

 シロとフィンがそれぞれの獲物でもって巨大なモンスターに斬りかかる中、リヴェリアはエルフの男から受け取った濃紺色の大型の破砕弓に矢を番え構え、立て続けに矢を放つ。リヴェリアが放った矢は狙い違わず全てモンスターへと迫るが、その全てが触手に弾かれてしまう。だが、それは狙いどおりだった。触手が矢を弾く際に生まれる隙を、熟練の戦士であるシロとフィンが見逃すわけがない。シロの双剣が、フィンの槍が、食人花を切り裂き突き穿つ。フィンたちの攻撃に食人花は矢よりシロたちの攻撃に意識を向けると、そこにリヴェリアの短槍のような巨大な矢が突き立った。無数の触手を持つこのモンスターであっても、シロとフィン、そしてリヴェリアの三人の攻撃を捌き切ることは不可能であった。徐々に追い詰められていくモンスターの触手()が、力を無くしぐにゃりと形を崩した。

 

「ボールスっ! こちらはこいつで手一杯だっ! 指揮はお前がやれっ!」

 

 シロは遠目で自分たちを見ていたボールスに声をかけると、返事も聞かずにモンスターへと斬りかかっていく。シロの言葉に何か言おうと口を開いたボールスだったが、顔をぴしゃりと一つ強く叩くと怒りも露わに未だ残る食人花の残敵にあたる他の冒険者に八つ当たり気味に怒声で指示を出し始めた。

 その姿をチラリと確認し、口元に小さく笑みを浮かべたシロは、女体型の腕から放たれる触手の槍を飛んで避けると、そのままその上に乗って一直線に駆け出した。振り落とされるよりも速くモンスターの肩口に辿り着くと、双剣を大きく振りかぶり巨大な円を描いた。大地を切り裂くように深々と足元を切り裂いた斬撃は、見事モンスターの肩を切断した。

 切り落とされた肩の上に乗ったシロは、共に重力に従い落ちていく。破鐘を叩いたかのような悲鳴を上げる顔が一気に遠ざかる。切断された巨大な腕が地面に落ちる直前に腕からシロは飛び上がる。上昇し広がる視界の端に、赤い髪の女と戦いながら広場から遠ざかるアイズの姿が映った。

 訝しみ、細めたシロの目を影が覆う。

 

「―――ッ」

 

 モンスターが残った片腕の触手を鞭のように振り回し叩きつけようとしていた。

 咄嗟に剣を横に振り、迫る触手を全身を使って逸す。何とか直撃は避けたが、宙に浮いていた身体は踏ん張る事は出来ず吹き飛ばされてしまう。

 吹き飛ばされるシロと入れ替わるように、フィンたちの奮闘に奮い立った他の冒険者たちが女体型に挑みかかっていく。だが、腕を片方切り落とされ、触手を幾つも切断されても、モンスターは未だ強かった。触手を大きく広げ、風車のように振り回し群がる冒険者たちを吹き飛ばしていく。だからといって、後方だからといって安全ではない。触手が届かない位置で詠唱を始めた魔道士は、魔力を検知され範囲外と思われたところまで伸びてきた食人花に率先して襲われてしまう。

 文字通り相手になっていない。蠅でも追い散らされるように冒険者たちが倒されていく。対抗できているのは、フィンたち高位の冒険者たちだけであった。

 

「―――っもう! 面倒すぎっ!?」

 

 文句を言いながらティオナが大双刃(ウルガ)を振り回す。ティオナは幾度もその刃をもって食人花の身体を切り飛ばしたが、精々長さが短くなるだけで動きは止まらない。

 

「まあ、(魔石)が埋まっているだろう上半身を狙うしかないんだけど……」

 

 そう言いながら地面に落ちていた短槍を足で蹴り上げ掴み取ると、女体型の上半身目掛け投げつける。女体型の丁度水月を狙って放たれた短槍は、突き刺さる直前に腕から生えた触手によって阻まれてしまう。砕かれ舞い散る槍の欠片を見上げながらフィンは嘆息する。

 シロの手によって片腕になっても女体型の触手による防御は未だ鉄壁のままであった。あの触手の盾を前に、遠距離から攻撃を通すのはほぼ不可能だろう。

 可能だとすれば、それは―――。

 

「やっぱりリヴェリアたちに任せるしかない、か」

 

 フィンが振り返って目を向けた方向。広場の東側最奥―――そこには島の湖を背にし立つリヴェリアが杖を水平に構え詠唱を始めていた。

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ】」

 

 その力を示すように大きく広がる魔法円(マジックサークル)

 幾重もの翡翠色をした円が輝き、中心に立つリヴェリアを眩い光粒と光条が照らし出す。放出される魔力が、遠目で見守る魔道士たちの心胆を震え上がらせる。

 

「【押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ】」

『ッッ!!??』

 

 強大な魔力の出現に、敏感に反応した女体型が広場の中心から島の端へ―――リヴェリアへ向かって進撃を始めた。立ちふさがるものを全て吹き飛ばし進む巨躯のモンスターを阻めるものは誰もいない。進路上にいた冒険者たちが慌てて逃げ出していく。

 短くない距離であったが、女体型はリヴェリアの詠唱が半ばを超えた辺りで辿り着いた。無数の触手と食人花がリヴェリアに咆哮と上げ襲いかかる。リヴェリアと女体型とに残された距離は二十M程度。女体型にとっては最早間合いの中。女体型の触手がリヴェリアへ向け伸ばされる。

 と、リヴェリアは詠唱を中断し横に飛んで触手を避けた。

 魔法円(マジックサークル)から離れ、女体型の攻撃を避けたリヴェリアだが、詠唱は中断され魔法は失敗に終わる。しかしリヴェリアは魔法が不発に終わった事に悔しげな様子を見せることもなく、女体型の攻撃から逃げ続けるだけ。その様子に戸惑うように身体を揺らした女体型がその首を傾げた時であった。

 

「―――【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

『!!??』

 

 女体型の顔が後方に向けられる。振り返った女体型の顔の正面の先には、広場西側最奥に立つ一人のエルフの姿があった。山吹色の魔法円(マジックサークル)の上に立つエルフの少女―――レフィーヤが魔法の詠唱をしていた。強力な魔道士が複数いて初めてできる囮攻撃(デコイ・アタック)

 (リヴェリア)の強力な魔力を隠れ蓑に、本命(レフィーヤ)がリヴェリアに合わせて詠唱をする。

 レフィーヤの詠唱が佳境へと至る。

 本能的に間に合わないと悟った女体型が、咄嗟に湖に飛び込もうとするが、そこに立ち塞がる者がいた。

 

「ここを通りたければ俺を倒してからにしろ」

 

 双剣を構えたシロの姿に、相手をしている暇はないと判断した女体型が反転、島の南側めがけ逃げ出していく。ただ逃げ出すことだけに集中した女体型の足は速く、あっという間に島の端に近付いていく。だが、島の南端にたどり着くよりも先にレフィーヤの魔法は完成した。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】ッ!!」

『――――――AAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaッ!!!!!』

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――

 

 ――――――

 

 

 

「―――リヴェリア」

「?」

 

 炎の中で蠢く女体型の姿に、まだ決着が着かないと判断し、モンスターの下へと向かおうとしたリヴェリアの足が、シロの呼びかけによって止まった。振り返ったリヴェリアの前、シロが手を差し出していた。

 

「その足元の弓、借りていいか」

「……私のものではないが、まあ、構わんか」

 

 そう言いながらエルフの男から強制的に取り上げた(一応任意です)弓をリヴェリアはシロに渡した。受け取った弓を確認しているシロに、リヴェリアは目を細めて問いかけた。

 

「使えるのか?」

「当てる程度は」

 

 返答を聞きながら視線をシロの腰に佩かれた剣を見やるリヴェリア。優れた戦士は剣だけでなく弓の腕も良い。王族(ハイエルフ)の森で育ち、狩猟が少ない趣味の一つであったリヴェリアの弓の腕は一流と言って過言ではない。そして同時に弓を操る人の力量を見抜く目も持っていた。その目からしてみて、しかしシロの腕前は何故か判断がつかなかった。

 

「矢は残り一つだぞ」

「十分だ」

「ここから狙うのか?」

「ああ」

「……正気か?」

 

 リヴェリアの言葉通り、ここから女体型までの距離は軽く数百Mを超えていた。腕の良い、それこそ超一流の弓を腕を持つ者であっても、精々届かせるのが限界で、射抜くどころか狙い付けることすら難しい距離である。

 巫山戯ているのかと言うように、リヴェリアの声が低くなる。

 しかし、シロはそんなリヴェリアの言葉を聞き流し、弓の弦の張りを確かめていた。

 

「シロっ」

「まあ、大丈夫だ」

 

 リヴェリアの苛立った声に、シロは肩を竦めると弓を構え。

 そして―――。

 

「【強化開始(トレース・オン)】」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――

 

 ――――――

 

 

 

 炎矢の豪雨が女体型に降り注ぐ。

 滝のような紅蓮の魔力の弾丸がモンスターの全身を削っていく。厚くぶ厚い皮膚を破り、太く硬い幹を砕く。瞬く間に女体型の巨体が砕けて小さくなっていく。万に届こうとする炎矢は十秒以上もの間降り続け、着弾地点である島南端付近を炎の海に変えてしまった。

 しかしそれでも女体型は未だ滅びてはいなかった。

 全ての足を燃やし砕かれてもなお、焼き爛れた極彩色の上半身を痛みを訴えるように振り回しながら、鈍い絶叫を上げていた。

 

「これで―――終わらせるっ」

「お供します、団長っ!」

「―――いっくよぉーッ!!」

 

 女体型が島の南端へ逃げ出すのを見て、既に後を追いかけていたフィンたちは、レフィーヤの砲撃の範囲外で待機し、攻撃が終了したのを確認するとモンスターに向かって跳躍した。フィンの長槍が、ティオネの二刀の湾短刀(ククリナイフ)が、ティオナの大双刃(ウルガ)がモンスターの身体に叩き込まれる。第一級の冒険者の嵐のような斬撃が、燃えて脆くなったモンスターの身体を細く砕いていく。

 

「Hiiiiiiiiiiiiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!!???」

 

 甲高い悲鳴を上げた女体型は、海老のように背を仰け反らせたかと思うと、そのまま極彩色の上半身を下半身から切り離した。

 

「ッ! 逃がすなっ!」

「はいっ!!」

「っ、だめっ!? 間に合わないっ?!」

 

 既に島の南端近くにいた女体型は、切り離した勢いで宙を飛び、上半身は既に湖の上空にあった。後は落ちるだけで湖の中に落ちてしまい逃げられてしまう。

 既に距離が離れているため、接近戦を主とするフィンたちには攻撃手段がない。例え手に持った武器を投げつけても腕の触手に振り払われれてしまう。

 打つ手がない。

 そう、諦めかけた時であった。

 フィンたちの頭上をナニかが翔け抜けたのは。それは女体型が防御をする暇を与える間もなくその身体に突き刺さると、何の停滞もなく分厚い体を貫いた。女体型の体を貫いたそのナニかは、モンスターの最大の急所である核を正確に射抜き砕いた。

 

「「「―――ッ!!??」」」

 

 核を砕かれた女体型は、他のモンスター同様その身体を塵と化し空にばらまかれる。

 余りの急展開に呆気に取られていたフィンたちであったが、直ぐさま気を取り戻すとナニかが飛んできた方向へ顔を向けた。

 だが、その視線の先には誰の姿もない。

 いや、正確には見える範囲に、だ。

 戸惑いの声を上げるティオナ達の中、ただ一人フィンは気付いた。

 今の攻撃をした者が誰であるのかを。

 何か根拠がある訳ではない。

 ただの勘でしかない。

 それでも断言できた。

 先ほどの攻撃は―――。

 

 

 

 

 

 

 




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