たとえ全てを忘れても   作:五朗

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第三話 三度目の敗北

 とある狼人(ウェアウルフ)の話をしよう。

 彼は強い狼人(ウェアウルフ)であった。

 どれだけ叩きのめされても、力の差を見せつけられても、決して屈する事なく、咆哮を放ち立ち上がり挑みかかる。

 不屈の男である。  

 しかし、その狼人(ウェアウルフ)にとって、敗北は身近なものであった。

 敗北、そう、敗北だ。

 彼は、幾度も敗北した。

 その敗北を与えるものは、常に同じものであった。

 

 

 

 最初の敗北は、彼がまだ少年と呼ばれる時代。

 辺境とも呼べるただ草原が広がる土地の流浪の民である狼人(ウェアウルフ)の群れの族長の息子として、彼は生まれた。

 『弱肉強食』―――その言葉を、少年は父親から良く聞かされていた。

 大都市や国々とは無縁の広大な草原に生きていた少年時代。仲間の狼人(ウェアウルフ)と共に、少年は無限に広がっていると信じていた草原を駆けていた。崇拝する神などなく。神の恩恵(ファルナ)を授けられずとも、彼らの群れは周辺では最強の一角であった。ダンジョンから出て野生と化したモンスターは蹴散らす事など造作無く、時折出会う低レベルの冒険者たちと揉めた時でさえも、彼らの一族は一度たりとも負けることはなかった。その要因は、その身に宿る月夜に覚醒する種族の力だけではなく、長い歴史の中に刻み込まれてきた一族の『技と駆け引き』によるものが大きかった。

 故に、父親は言う。

 『いつだって、自分(てめぇ)の牙を磨け』、と。

 彼らは圧倒的な強さを所持しているわけではない。低レベルの冒険者ならともかく、一線級と呼ばれる冒険者を前にしたならば、抵抗することなど出来はしなかっただろう。真に圧倒的な力の持ち主の前では、自分たちは無力である。

 それを、少年の父親は良く理解していた。

 だから父親は言う―――『強くなれ』と。

 殺されないために、奪われないために、食われないために、強くなれと。

 幾度も父親は息子に説いた。

 故に、少年は強くあろうとした。

 強くなろうとした。

 それは本能に寄るものであり、父の教えに寄るものであり、また、守りたい者があるからに寄るものであった。

 少年には、幼馴染の少女がいた。

 狼人(ウェアウルフ)にしては、珍しいくすんだ金の長髪を持つ少女だった。

 少女は、生まれた時からずっと少年と共にあった。

 少年の覚えている最初の記憶にも、少女の姿は常に傍らにあった。

 少女は美しかった。

 幼い頃も、宝石のように輝かんばかりに美しく。

 成長と共に、その美しさには磨きがかかった。

 そして、美しさの宿命か、その少女(宝石)を手に入れようと、少年と歳の近い多くの男児が少女に手を伸ばすことになる。

 『欲しけりゃ奪え』―――それが部族の教えだった。

 その単純極まりない教えに従い、少年は少女を巡る戦いに飛び込んだ。

 結果として、少年は少女を手に入れた。

 それは、少年にとって当然の事であった。

 少年は当たり前のように思っていた。

 少女が自分の傍にずっといることを。

 純粋に、無邪気に、自然に、愚かしいまでに、疑いもなく、信じていた。

 少女は、脆弱だった。

 病弱ではなく、ただ単純に少女は弱かった。

 精強な部族の一員とは思えないほど、穏やかで、優しかった少女は―――それに反比例するかのように、『強さ』はなかった。

 しかし少年は、少女が『弱い』事を気にすることはなかった。 

 少女が弱ければ、その分自分が強くなれば良いと考えていたから。

 少女のために、少年は強くあろうとした。

 その思いに答えるかのように、少年の身に宿る力は強さを増し、何時の間にか大人の戦士に遜色ない程の強さを身につけることになった。

 雄大な自然の中、少年は生きていく。

 その傍には、常に大切な少女がいた。

 不安などなかった。

 疑問などなかった。

 恐れなどなかった。

 心配などなかった。

 ずっと、続くと思っていた。

 

 

 

 終わりは、唐突だった。

 少年が十二の誕生日を迎えた年。

 それが、最初の敗北だった。

 少年の家族は、部族は、少女は―――死んだ。

 少年を残し、全ては無くなってしまった。

 月が、綺麗な夜のことだった。

 奪ったのは、一匹の怪物。

 北の果てに存在する『竜の谷』から降りてきた、飛べない竜。

 少年の父親は正しかった。

 世界は『弱肉強食』。

 戦いを挑むも傷一つ付ける事も叶わず無様に気絶し、目を覚ました少年は、肉塊となった家族の、死に絶えた部族の、上半身だけとなった少女の前で、理解した。

 これが『世界』だと。

 これが『摂理』だと。

 これが『真理』だと。

 弱ければ、どう足掻こうと、ただ奪われる。

 自分たちがこれまで奪ってきた『獲物(弱者)』と同じように、己よりも強い者が現れれば、自分たちが奪われる側になる。

 簡単で、単純で、子供でも簡単に理解できる。

 笑える程、簡単だ。

 

 『……強くなくたって、一緒にいるのに』―――風にかき消されそうなか細い声が、少年の耳を甘やかに震わせる。

 

 じゃあ、強くなければ、自分は今も少女の傍にいられたのだろうか……。

 答えてくれる人は、もう、何処にもいない。

 

 

 

 

 

 二度目の敗北は、少年の終わり、青年の始まりの時代。

 部族を滅ぼされ、唯一人生き残った彼は、『強さ』を求めた。求めた先は、世界三大秘境の一つである『ダンジョン』を有する都市。世界の中心と呼ばれるそこには、多くの神々と、最も強い『冒険者』が集うという。

 彼は草原の新たな『主』となった怪物に付けられた左頬の傷の上に、刺青を刻んだ。

 弱かった過去を忘れぬように、戒めとして、傷の上に刻んだ刺青は、何の皮肉か、己が欲してやまない『牙』に似ていた。

 長い旅路の果、彼は都市(オラリオ)に辿り着いた。

 直ぐに彼は『恩恵』を与える神を探した。誰でもいいわけではない。長い旅の間、少年は様々な知識を得ていた。それは全て『強さ』を手に入れるため。主神選びに失敗すれば、自分の望みが遠ざかると理解していた。

 そう長いとは言えない彼の人生の中であっても、神がどのような性格のモノかは良くわかっていた。その多くは享楽的で刹那主義とも言うべきで、下手な神を主神とすれば、振り回され強さを求める邪魔になるばかりなのは自明の理であった。

 しかし、時間が掛かるだろうと思っていた主神選びは、良い方に予想外に終わった。

 驚く程あっさりと、彼が契約しても良いと思える神と出会えたからだ。

 彼が選んだ最初の主神の名は、『ヴィーゼル』。

 長い鳶色の髪と、同じ目の色をした寡黙な男神であった。

 『ヴィーゼル・ファミリア』の構成員の殆どは若輩といっても良い若者ばかりで、その多くは獣人であり、どことなくその雰囲気は、彼が捨て去った筈の思い出の中のそれに似ていた。

 都市(オラリオ)での生活は、思っていたよりは悪くはなかった。例の如く団員たちとは衝突を繰り返してばかりであったが、それも何時の間にか良い方向へと打ち解け。何時しか彼は、父親と同じく【ファミリア】を率いる長となっていた。

 そう、【ファミリア】は彼にとって二つ目の部族(家族)となったのだ。

 (ヴィーザル)がおり、団員達(部族の仲間)がおり、そして少女(彼女)がいた。

 彼女は、少女と違い、少年に次ぐ強さを持っていた。強さを求める彼に引っ張られるように、【ヴィーゼル・ファミリア】の団員達も『牙』を磨いていた。団員の中でも数少ない『人間(ヒューマン)』の彼女もその一人であり、その強さは彼も認める所があった。

 彼は、もう間違えないと誓っていた。

 自分が強くなるだけでは駄目だと、周りも強くなければと。

 自分が在り方を示し、引き連れていく。

 そうすれば、まだ『弱い』彼らも、何時かは自分と同じく『牙』を手に入れ、『強者』に奪われる『弱者』ではなくなると。『弱肉強食』のこの世界に抗える戦士となることが出来ると、信じていた。

 生まれてから十六回目の年、彼は一人都市(オラリオ)を出た。

 行き先は、かつての故郷。

 『怪物』を討つために。

 心配する仲間を置いて。

 彼女を置いて。

 何時も浮かべていた勝気な笑みは鳴りを潜め、その顔には似合わない弱々しさが浮かんでいた。

 失った少女(初恋)を、彼女は癒してくれた。

 彼女が与えてくれた『愛』は甘く、優しく、何よりも暖かった。

 何もかも忘れて、それに溺れてしまいたいと、そう思ってしまうほどに。

 しかし、彼はそれを振り払った。

 全てを残し、彼は一人、『怪物』の下へ向かった。

 死ぬかもしれない。

 勝てないかもしれない。

 不安は、確かにあった。

 だが、逃げるわけにはいかなかった。

 自分がもう『弱者』ではない事を示すためにも、過去と決着をつけるためにも。

 行かなければならなかった。

 誰に言わずとも必ず戻ると自身に誓い、彼は故郷へと旅立つ。

 もう、何も失わないために。

 そして、前へと進む(彼女と共にいる)ために。

 

 

 

 終わりは、やはり唐突だった。

 その日は、雨が降っていた。

 故郷にて、一晩かけての死闘を戦い抜き、遂にはただ一人で怪物である『草原の主』を打倒した彼は、己が強者であることを示し、もう誰にも何人も奪われないと確信を得た。自分は強くなった。同じように団員たちも強くなろうとしている。それならば、きっと大丈夫。もう、あんな事はない。

 そう、信じていた。

 そう、疑わなかった。

 そう、無邪気に信じていた。

 あの時と同じように。

 そして都市(オラリオ)に勝利の凱旋をした彼を待っていたのは、二度目の敗北だった。

 彼女が、死んだ。

 ダンジョンに潜り、そして死んだそうだ。

 彼が故郷へと一人旅立った後、彼女は頻繁にダンジョンに挑んでいたという。

 都市(オラリオ)にも噂が届く『怪物』。

 そんな『怪物』を、ただ一人で倒しに行くという彼に、少しでも近づけるように。今度は、置いていかれないために、彼女は強くなろうとしていたそうだ。しかし、実力を弁えない無謀とも言える挑戦が長続きするはずもなく、あっさりと、彼女は死んでしまった。

 すまない、すまないと謝りながらも、傷だらけ団員たちが涙ながらに語る話を聞きながら、彼は、吠えていた。

 声なき咆哮を。

 言葉のない叫びを。

 延々と、延々と……。

 強くなった筈だった。

 奪われる『弱者』ではなく、『強者』である筈なのに。

 なのに、奪われた。

 じゃあ、自分はやはり『弱者』のままなのだろうか。

 『強者』などではなかったのか。

 いや、そんな筈はない。

 自分は確かに『強者』だ。

 だが、他がそうじゃなかっただけだ。

 あいつらが、弱すぎたんだ。

 (強者)がいなければ、生きられないほどあいつらが弱かった。

 

 弱い。

 

 弱いっ。

 

 弱いッ!

 

 弱いッ!!

 

 弱いから、あいつら(彼女)は死んだ。 

 俺がどれだけ強くなろうとも、傍にいなければあいつら(弱者)は死ぬ。

 なら、どうしたら良い……。

 最初は、ただ自分が強ければ良いと思った。

 しかしそれは、更なる強者の前に噛み千切られた。

 次は、周りも強くなれば良いと思った。

 しかしそれは、自分の手の届かないところで踏み潰された。

 じゃあ、次は、今度はどうすればいい。

 自分が強くなったとしても、周りを強くしようとしても、どうしたって、弱い奴は死んでしまう。

 

 『……すまない』―――(ヴィーゼル)の謝罪の言葉が心を掻き乱す。

 

 その言葉(神の謝罪)が、『弱者』の犠牲を認めているようで。

 あいつらが死ぬことが、仕方がないことであると言っているかのようで。

 そんなこと―――許せるか。

 許せるものか。

 だけど、どうしようもない。

 弱い奴は、どうあっても死ぬ。

 強者()の手が届かなければ、弱者(あいつら)は死んでしまう。

 常に傍にいることなど出来はしない。

 ならば、彼の負けは最初から決まっていた。

 こうして、彼は二度目の敗北を喫した。

 どれだけ自分が強くなろうとも、どれだけ敵を打ちのめそうとも、救う(勝つ)ことのできない存在(弱者)

 強者である筈の彼に、常に敗北を与えていたのは、彼よりも強い『強者』ではなく、ただのか弱い『弱者』であった。

 彼よりも弱い『弱者(彼女たち)』こそが、常に彼を打ちのめしてきた。

 

 

 

 死んでしまえば、何もかもおしまいだ。

 もう、あの甘い香りを吸うことも。

 あの柔らかな身体を抱きしめることも。

 あの暖かな温もりを感じることも。

 あの優しさに触れる事も―――。

 全て、全部消えてしまう。

 なら、どうしたら良い。

 どうすれば、あいつ(弱者)らを救うことができる。

 どうやれば……。

 

 

 

 彼は器用ではなかった。

 学も特になく。

 ただ強くあろうとした。

 強くなろうとした。

 それだけだった。

 それだけの人生だった。

 だから、誰かを説得できるような口の上手さも、教養も有ろうはずがなく。

 彼が考えつくものは不器用なものでしかなく。

 乱暴な方法でしかなく。

 その真意が伝わることは希であり、誤解しか伝わるしかなく。

 しかしそれを理解しながらも、彼はそれを続ける他がなかった。

 それしか、なかったからだ。

 それしか、方法がなかったからだ。

 もう、自分が負けないためには。

 もう、『弱者』が死なないためには、それしかないと思っていた。

 だから、そうした。

 例えそれで自分がどう思われようとも。

 敗北は、これ以上重ねたくなかったから。

 それでも、やはり敗北を重ねてしまう。

 どう足掻いても、溢れ落ちていく『弱者』を全て掬い上げることなど出来ようはずもなく。

 ただ、自分に出来る事を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、彼はある男と出会った。

 不思議な、不可思議な男だ。

 強者であるはずの彼を、ただ一撃でもって叩き伏せた男だ。

 その時は、酷く酒に酔っていたとはいえ、例え一線級の冒険者が相手であっても一発で倒されるほどにやわでないはずなのに、どうやられたか覚えていないほどに、完璧に倒されてしまった。

 勿論、目が覚めた後はその男を探した。目的はやはりリベンジだ。やられっぱなしでいられる筈がない。例え酒が入っていたとは言え、負けは負けだ。負けっぱなしでいられるはずもない。

 その男の情報については、直ぐに手に入ることができた。

 随分と有名人であり、そこらの酒場で聞けば大抵の奴が知っているほどだった。

 驚くことに、その男が『冒険者』になったのはここ二ヶ月ばかりの事であり、レベルはまだ一であった。

 有り得ない事である。

 例え酒が入っていたとしても、Lv.1にLv.5が倒すことなど不可能だ。しかし、事実として彼は敗北した。

 どういう事だと、更に男について調べ始めた。

 そして、知った。

 自分を倒した男が、最近噂に聞く『赤い男』だと。

 『赤い男』―――その頃、オラリオの一部(弱者の間)で広がり始めていた噂。

 ダンジョンで、街中で、危機に瀕した時、助けを呼べば現れる男の噂話。

 その『赤い男』は、助けを求める者の前に現れ、救った後、何の見返りも求めることなく立ち去るのだという。

 気に入らない噂だった。

 何が気に入らないのかといえば。

 色々とある。

 色々とある、が―――特に気に入らないのは、この『赤い男』は、ただ『救う』だけだからだ。

 『救う』だけで、後は何もせず放り出すだけ。

 助けた後の事は何も知らないときた。

 なのに、周りの奴は勝手に騒いでいる。

 無邪気に、無責任に、騒ぎ立てる。

 『お人好し』と言う奴がいる。

 『傲慢な男』だと言う奴がいる。

 『親切な男』だと言う奴がいる。

 『正義の味方』だと言う奴がいる。

 酒場で、ダンジョンで、『ホーム』で、そんな話をして、『弱者』を調子に乗らせてしまう。

 大丈夫だ、と。

 ダンジョンで何かがあったとしても、『赤い男』が助けてくれる、と。

 何時もは足を向けない場所であっても、何かがあれば、『赤い男』が助けてくれると。

 それは、助けてもらったことがある(弱者)程そう思う。

 そして、結局死んでしまう。

 『赤い男』が助けた者も、『赤い男』の噂を聞いた者も、『いざとなれば』といもしない助けを信じて死地へと自ら進んでいく。

 馬鹿な奴だと思った。

 『赤い男』も。

 そんな噂話に踊らされる奴ら(弱者)も。

 しかし、嘲りはそう長くは続かなかった。

 『赤い男』の名を、『仲間』の口から聞いた。

 嬉々とした様子で、興奮した口調で『赤い男』の活躍を語る『仲間』の中には、彼が心を寄せる少女の姿もあった。

 一瞬、嫌な予感がした。

 だが、彼はそれを無視した。

 気のせいだと。

 例え気のせいではなくとも、彼女は強い。

 これまでとは違い、彼女は自分よりも強く、そしてまだ強くなろうとしている。

 だから、大丈夫だと。

 彼女は、『世界』に殺される程弱くはないと……。

 そう、確かに彼女は強かった。

 強くなろうとした。

 一人で階層主にまで挑むほどに……。

 あいつらしいと思った。

 何時かやるだろうとは思った。

 だが―――その要因の一つに、あの男が関わったという話を聞いた。

 嫌な予感は、更に強くなった。

 焦りが募る。

 苛立ちが止まらない。

 『ホーム』の中でもあの男の話を良く聞くようになった。

 少女の口からも、良くその男の名前が出るようになった。

 彼は、男を探した。

 探し出した後、どうするつもりか自分でもわからないまま、彼は『赤い男』を探し始めた。

 しかし、どこを探しても男は見つからなかった。

 男の所属しているという【ファミリア】で網を張ったが、欠片もかすることなく。

 どうやら、あの男は【ホーム】に寄り付かないらしい。

 男の居場所の手がかりとなるものなど掴めず。

 ただ、焦りと苛立ちだけが、積み重なる日々が続いた。

 そんな中のある日、少女が姿を消した。

 どうやら危険な場所に仲間を連れずに向かったという。

 ―――過去の記憶(敗北)が脳裏に過ぎった。

 心が騒ぐ。

 急いだ。

 お荷物を二つも引きずりながらも、出来るだけ早くと彼女の後を追いかけた。

 幸いなことに直ぐに彼女の行き先が判明し、後はそこを目指すだけとなる。逸る気持ちを押さえ、しかし慎重に過ぎることなく最大速で目的地を目指した。

 そして、見つけてしまった。

 ずっと探していた匂いを。

 あの酒場で嗅いだ、あの男の匂い。

 瞬間、走る速度が上がり、二人を置いて駆け出した。

 そこで見たものは、『赤い男』の背中。

 モンスターを倒したばかりなのか、両手にはそれぞれに幅広い剣を持っていた。

 その姿を見た瞬間。

 高まり続けていたあらゆるものが爆発し。

 

 

 

「シイィィイイロオオオオオォォォォォォォッッッ!!!!!」

 

 

 

 理性など一瞬で蒸発し、『敵を殺せ』とばかりに本能が命じるままに男に襲いかかってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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