たとえ全てを忘れても 作:五朗
迫り来る死を前にして、身動きどころか指の先さえ動けない中、自分を守るように男の前に立ち塞がる少女の背中に無言の絶叫を上げる。
白みゆく視界の中、少女の山吹色の髪の色だけが微かに見えていた。
どれだけ声を上げようとしても、掠り声すら上げられない。
消え逝こうとしていた意識は、少女の―――レフィーヤの言葉で蘇ったように持ち直したが、身体の方は全く変わらず微動だにしない。
未だ死に逝く直前。
痛みすら最早遠く、感覚さえ感じられないでいた。
だが、シロの頭にはそんな事などつゆほど気にかけてはいない。
ただ、目の前の少女のことだけであった。
―――駄目、だ。
やめろ、レフィーヤ。
無理だ。
その男は止まらない。
止められない。
いいから逃げろ。
もう、どうしようもない。
例え奴が何もせずここから離れても、もう俺は助からない。
だから、もう―――
必死に声なき声を上げる。
届かない懇願の声に応えるものはいない。
だが―――
―――本当にそうか?
逃げ―――
何処か、遠く、近く、声が聞こえた。
淡々と、機械的な硬質的な男の声が。
問い掛けられる。
―――もう、本当に打つ手はないのか
何を―――そんなものがあればっ
男からの問いに、何故かシロは疑問を感じることなく答えていた。
悔しさを滲ませた返答に、しかし男の声は嘲笑うこともなく、ただ淡々と告げる。
―――いや、お前は知っている
―――分かっている
―――まだ、手はあると
そんなものはないっ!
否定する声は震えていた。
それは、何故か。
もう、どうしようもないことを再度認識させられるからか。
自身の無力を見せつけられるからか。
彼女が無為に死んでいくことを理解させられるからか。
いや、違う。
―――いいや、ある
あるわけがない……
否定の声は、何時しか弱まっていた。
力なく萎れるように小さくなる声には、無力感が漂っていた。
―――ある、自ら手放すことで、まだ立ち上がれる方法があることを、お前は知っている
……そんなものっ
弱るシロに、それでも男の声は機械的に、淡々と告げていく。
―――なら、見捨てるのか?
ッッ!!?
葛藤が、震える程の迷いで意識が揺れる。
これだけは、とギリギリの所で
何もかもが偽物で、紛い物の自分が持つ唯一の
―――彼女はこのままでは死ぬぞ
それ、は……
手放せば、どうなるかがわからない。
予想すらつかない。
もしかすれば、死、すらあり得るかもしれない。
―――あの男は躊躇なく手を下すぞ
そんなことは―――っ
だが、別に
何より恐ろしいのは―――
―――では、どうする
俺、は……
揺れる。
迷う。
これまでにない葛藤が意思を苛んでいく。
ぐらぐらと揺れるそれは、今までとは違う。
これまで俺が迷わなかった理由を。
確かにそれは正しい。
元々俺の命など天秤の皿にのることはなかった。
では、何故今こうまで迷っているのか―――。
それは……。
―――お前は、
俺、は―――
怖いのだ。
ああ、そうだ。
俺は怖い。
手放せば、繋がりが切れる。
それが自分にどんな影響を与えるのかがわからない。
前例などあるわけがない。
だが、これ迄の経験から自身の中から
それが、怖い。
ヘスティアとの……ベルとの―――家族だと言ってくれたあの暖かな世界。
短くとも、確かにあったあの時間。
それが、ただの
―――もう無理だと諦めるのか
声は、容赦なく告げてくる。
こちらの葛藤などないものとして。
淡々と。
機械的に。
何の感情もなく。
なのに、まるで責め立てられるように聞こえるのは、何故なのか。
それは―――。
ああ、きっと、それは、もう、答えを決めてしまっているからだろう。
―――それとも、これまでのように、ただ、
声が、選択肢を迫る。
助けるのか。
見捨てるのか。
手放すのか。
手放さないのか。
―――決めるのはお前だ
その答えは―――ああ、もう、とっくに決めていた。
どうあっても、俺はこれを選んでいただろう。
これまでと同じように。
例え、それで誰かを悲しませるとわかっていても。
ああ、だが―――。
―――そう、お前が決めるのだ
ただ、一つだけ。
一つ、これまでとは違うことがある。
おれ、は……
―――どうする
俺は……
―――お前は、
俺は――――――ッ!!!
たす、け―――るッ!
そう、俺は選ぶ。
例え
大切にしたいと、願う相手を傷付けてしまうとわかっていても。
俺は
だが、それは―――
―――……そうか
ああ、助けるッ!!
俺の答えに、微かに何らかの感情を見せて声が消えゆこうとするなか。
俺は告げる。
そう、
――――――っ!?
そうだ、違う。
そこが違う。
何かに流されるようにして助けるのではない。
迷い、葛藤し、悩み―――それでもと選んだ。
それは、助けなければいけないからじゃない。
それは―――
俺は―――俺がっ
激しく、嘆くように、悲鳴を上げるように―――
そして、誇るように。
叫ぶ。
その俺の言葉に、白く染まった世界のなか。
誰かが……笑った気がした。
「馬鹿な……」
「え……う、そ……何で」
誰かの震える声が聞こえた気がした。
可笑しなことだ。
もう耳は、ごうごうと自身の中を流れる血の廻る音しか聞こえないのに。
どれだけ血を失ったのか。
濃い霧の中にいるかのような視界に映るのは、微かな人影が二つだけ。
両手はだらりと垂れ下がり、感覚はなく。
確かどちらかの腕の骨は半ばから折れていた気がする。
足も同じく片方の骨が砕けていた筈。
何処もかしこも傷だらけ。
無傷なところなど何処にもない。
腹など横一文字に切れ込みが入り、
だが、それでも。
「……その身体で、何故立てる」
俺は、立っていた。
壁を支えにすることなく、砕けた足で地面を踏みしめ。
今にも崩れ落ちそうだが、それでも二つの足で確かに立っていた。
「っあ……」
「っ! シロさんっ!?」
声を上げようとするも、ただ喉の奥でごぼりと音が漏れ、喉奥からあふれでた血塊が溢れ落ちるだけ。
ぐらりと倒れそうになった身体を無理矢理意思の力だけで支えながら、再び口を開く。
「―――ぁ、何を、している」
「っ」
ぼやけて像を結ばない世界のなか、それでも違うことなくオッタルを睨み付け。
声を向ける。
「貴様の、相手はっ―――オレ、だろうがっ」
ずっ、とただ立っているだけでも
「何を、よそ見して、いる―――っ」
その場にいる全ての目が、意識がその男に向けられていた。
有り得ない。
有り得べからず光景だ。
最早死に体。
いや、死んでいていも何ら可笑しくない身体でありながら立っている。
それどころか声を上げ、前へ進もうとしている。
死者が歩いているような。
そんな不気味で恐ろしい姿。
しかし、それを見る者達の中に抱かれているのは、忌み嫌う負の感情ではなかった。
「認めよう」
誰もが固唾をのみ黙り込むなか、唯一口を開く資格があるオッタルがシロに応える。
「貴様の力を」
先程まで浮かんでいた驚愕の顔はなく。
既にその精神は平静を取り戻していた。
「だが、そこまでだ。最早決着は着いた。その身体でどうする」
シロの身体が最早限界をとうに越えているのは誰の目から見ても明らかだ。
腕は折れ、足は砕け、更に腹は裂けて中身が見えている。
瞬いている間に死んでいても可笑しくはない。
そんな姿だ。
「剣は全て砕け、腕も折れたその身体で、何をするつもりだ」
「なに、を―――だと……」
ゆっくりと、シロの顔が上がる。
その目は霞がかかっており、最早何も見えていないことは外からでも明らかであった。
知らず駆け寄ろうとしたレフィーヤだったが、
「はっ―――」
シロの小さく笑う声に思わず足を止めてしまった。
「……何を笑う」
「っ、ぁ……は、はは……笑うさ、ああ、笑うとも……何をする、つもりだと?」
ゆっくりと、何処を見ているのかわからなかった視線が、次第に定まっていく。
ゆらゆらと揺れていた焦点が定まり、死を間際に更に凄みを増した視線がオッタルを貫いた。
「貴様を、倒すのさ」
「ほう」
知らず、オッタルの口端が歪んだ。
嘲笑ではない。
それは自然と浮かんだものであった。
強がりではない。
そうオッタルは直感していた。
だが、目の前の男は今まさに死に逝こうとする姿だ。
笑えはするが恐れることなど欠片もない。
ない、筈なのに。
オッタルの手は何時しか強く大剣の柄を握りしめていた。
「武器もなく、身体は朽ちる間際だと言うのにか」
「は、はは……確かに、だが、な……」
シロの視線が、オッタルから少し離れる。
その先には、大粒の涙を流しながら今にも駆け寄ってきそうなレフィーヤの姿があった。
「たとえ、武器がなく、とも……この、身体が、朽ちようが―――」
それに、小さく笑みを返し。
もう一度、オッタルを視線をやる。
視線は鋭く刃物のように。
それでいて、口元には皮肉げな笑みを浮かべ。
「俺の、意志が折れない限り―――止まることは、ないっ」
「覚悟はよし。だが、ただ吠えるだけならば犬にもできよう」
一歩、オッタルが前に出る。
それだけで、圧力が何倍にも増す。
レフィーヤが思わず前に手を伸ばすが。
それだけしかできないでいた。
悲嘆に染まる顔を、震える身体でそれでもと必死に動かそうとする。
だがそれは、何の結果を出せることなく。
絶望に染まる目が、シロへと向けられる。
それに、シロは―――。
「っは―――俺は、犬ではない―――そうだ、俺はっ」
それに、シロは不敵な笑みを返し。
全身に力を込めた。
身体のあちらこちらから何かが砕ける音が聞こえる。
血が吹き出し、腹から何か大切なものが落ちていく。
それでも、背を伸ばし、顔を上げ、オッタルを睨み付ける。
「たとえ、どうしようもない程に偽物であっても、紛い物であったとしてもっ!!」
「っ」
「幾度でも立ち上がり、貴様を打ち倒すっ!!」
何を感じたのか。
オッタルは足を止めると剣をその場で構えた。
前には既に死に体の男が一人。
警戒するものなど一つもない。
それなのに、オッタルは迷いなく剣を構えた。
それを前に、シロは先程までの弱々しい姿から一変させ、声を張り上げていた。
変わらずその身体はぼろぼろで、血だらけだと言うのにも関わらず。
まるでそんな様子は欠片も感じられない強さで声を上げ―――告げた。
「何故ならばっ―――」
自分に、相手に、そして世界に宣言するように。
シロはその
「―――【この身体は剣で出来ている】ッ!!」
―――荒野が……広がっていた。
目の前には、ただ罅割れ、乾ききった大地が広がる荒野。
動くものはおらず、また木も、草も、虫一匹すら
ただ、乾ききった風だけが吹いていた。
そこに、気付けば一人、立っていた。
動揺はない。
驚きもない。
何故ならばここは己自身の中であるから。
直感ではない。
ただ、無理なく何の疑いもなくそれがわかっていた。
何よりもここに来たのは初めてではない。
また、何故ここにいるかもわかっていた。
進むのだ。
行先は、わかっていた。
顔を上げる。
前へ。
遠くに、一つ丘が見える。
その丘が境界であるかのように、その頂上付近から向こうが見えない。
砂嵐だ。
あの丘の向こうを、まるで厚いベールのように砂嵐が隠している。
入ればただですまないのは誰もがわかるだろう。
鑢のように全身を削られ骨すら削り尽くされてしまうだろう。
だが、自分の行く先はその向こうにあった。
だから、行く。
躊躇なく。
一歩を踏み出し―――
―――イイノカイ?
―――背後から、声をかけられた。
「―――何がだ」
踏み出そうと上げかけた足を元に戻し。後ろを振り向かず声に応える。
誰かとの誰何はしない。
オレは、こいつを知っているからだ。
―――ワカッテルダロ
「……見捨てる訳にはいかない」
そう、見捨てるわけにはいかない。
そのために、オレは立ち上がったのだから。
―――ヘェ……ホントウニ?
「…………それ以外に何がある」
笑いを含んだ疑いの声に、自然と返す言葉が低くなる。
―――ヒヒヒ……タシカニ、ナ。オマエニハソレダケデジュウブンダナ
「………………」
―――タダソレダケノリユウデ、オマエハキリステルコトガデキルンダカラナ
「―――っ」
ざわりと胸の奥が蠢く。
吹き上がる耐えがたい不快さに食いしばった歯が軋みを上げた。
―――ン? ドウカシタカ?
「否定は、しない…………確かに、俺は―――」
そう、どう言い繕うと。
どんな綺麗な言葉で飾ろうと、結果を見ればそれは切り捨てたのと変わりはない。
そんなことは、オレが一番わかっている。
―――エランダ?
「……そうだ」
そう、選んだ。
絆を切り捨て、目の前の命に手を伸ばすと。
―――イイヤ、チガウネ
「違う?」
その言葉に、知らず眉間に力が籠り、問うように続きを促す。
―――エランデナンカイネェヨ
「どういう、ことだ」
―――エラブッテノハ、ダイナリショウナリクラベルモンサ。ダケドオマエハソンナコトシチャイナイ
「そんな事は―――」
そんな事はない。
これまではそうだったかもしれない。
だが、これは違う。
迷い、躊躇い、覚悟を決め―――選んだ。
選んだ、筈だ。
―――ナイッテカ?
「―――っ」
まるで心の内を覗かれているかのようなタイミングで告げられた声に、思わず息を飲む。
―――エランデネエヨアンタハ。アンタハタダステテルダケダ
「………………」
嘲笑いが含まれた声が、淡々と投げつけられる。
―――メノマエデガケカラオチカケテイルヤツガイル。ダケドリョウテハフサガッテイル―――ダカラモッテイルモノヲハナシタ
…………それ……は……
「――――――」
―――タダソレダケ
反論は―――
「…………」
―――出来なかった。
―――ヒテイハシナイノカイ?
「……ああ」
ああ、そうだ。
その通りだ。
どう言葉を飾ろうと。
どんな葛藤があったとしても、
そこにどんな過程があったとしても、
そう、なのかもしれない。
だが、そうであっても―――
―――ヒヒヒッ……アア、コワイコワイ
「それが、真実だとしても……それで、誰かが救えるのなら……」
―――イインジャネェノ? ステルノモエラブノモケッキョクオンナジコトダ。オマエノスキニシタライイ
「―――」
ニヤニヤとした笑い顔が浮かぶような声を最後に、シロは止めていた足をゆっくりと動かし始めた。
前へと―――。
―――シヨクナク、タダモトメラレルママニスクイツヅケル【エイユウ】ネェ……【セイギノミカタ】トハヨクイッタモンダ……
進む。
ひび割れ荒れ果てた果てなき荒野をただ進み続ける。
草木の一つすら見えず、黄昏に染まった空の下。
ただ歩み続ける。
何もない。
本当に、ここには何もない。
だから、歩き続ける。
ここにある筈のものを見つけるために。
乾いた風に身を晒し。
進んでいるのかわからない程に代わり映えのしない荒野を進み続け。
何時しか、風に砂が混じり始めた。
瞬く間に風の勢いは強まり、最早まともに目を開けることもできない。
砂嵐から顔を塞ぐために持ち上げた手すら隠してしまうほどの嵐の中を、しかし止まることなく歩み続ける。
砂はその一粒一粒がまるで鑢のように身体を削っていく。
いや―――削られているのはそれだけではない。
―――ケズレテイク
豪々と鳴る打ち付ける砂粒が乘った風に体を切り裂かれながらも、何時しか歩む足に変化を感じた。
丘を、登っている?
―――ケズラレテイル
望洋とした意識の中、それでも立ち止まることなく進む。
確信がある。
―――タイセツナ―――ダイジナモノガ―――
この先に―――。
この丘を越えた先に、求めるものがあることを。
―――タイセツナキオクノナカノオモイガ
歩みは遅い。
それこそ、亀の歩みの方がまだ早いほどに。
それでも、足は確実に一歩一歩踏みしめていた。
―――ケズラレ
巌よりもなお堅い、鋼鉄の意思により進む足を止められることなど、何人たりとも叶わないだろう。
そう、例えどんな凶悪な化物が襲いかかろうとも。
そう、例えどんなに強い英雄が立ち塞がっても。
そう、例えどんな万能の神が命じたとしても。
彼の歩みを止めることは出来はしない。
―――オモイデガ、タダノキロクヘト……
また、微かな変化に気付く。
傾斜が少し緩くなった。
目指す先はもう間近。
確信が、男の歩みを更に強く、硬くする。
もう少し―――そうだ、この足があと一歩進めば―――。
―――ダケド、ソレデモ
男の足が、
「本当に、いいの?」
小さな、幼さを感じさせる少女の声。
淡い、白雪を幻視させる美しい声音に、止まる筈のない歩みが―――止まった。
その声を聞いた時、意識よりも先に、この身体が動きを止めた。
その声の主を―――オレは
「―――それは……」
再び止まってしまった足をその場に、振り替えることなく眼前の砂嵐を見つめながら声を漏らす。
しかしそれは形になることなく削られ消えていってしまう。
何も言えず、何も出来ず立ち尽くすシロの背中に、再び問いかけられる。
「……本当に、いいの」
再びのそれは、問いではなかった。
微かに尖ったそれは、僅かに責めるような色が混じっていた。
それに、シロの身体はまるで怯えるようにビクリと震えた。
「っ、オレは―――」
「そのまま進めば、本当になくしてしまうのよ」
「―――っ」
何を言おうとしたのか、開かれた口はその声によって閉ざされてしまった。
責めるようでありながら、悲しみを見せるその声に、シロは続く言葉を飲み込んでしまう。
「それでも、あなたは本当に進むの? 本当にそれでいいの?」
「……ああ、そうだ」
答えた声は、酷く苦く感じた。
棘のついた塊を吐き出したかのような痛みと苦しみを感じるのは、何故だろうか。
オレは、何故、こんな思いを抱いているのか。
わからない……。
何故、オレはこんなにも……。
「……そう」
小さく、呟くようなその声には、一体どんな感情が込められていたのか。
男には、わからなかった。
「それは、あなたを待っている人を捨ててまですることなの」
「……」
責めるような言葉でありながら、それは何処か気遣うかのような穏やかな声色だった。
それはまるで、何も知らない小さな子供を心配するようなもので。
その幼さを含んだ声に反し、大人びた様子を感じ取れた。
「あなたは、いいのかもしれない」
声と共に、荒野を進む小さな足音がシロの耳に触れる。
乾いた土と砂利を踏みしめる音が、不思議に吹き付ける砂嵐をすり抜けて聞こえていた。
「どんな葛藤があったとしても、どんな綺麗な理想を目指したとしても、それは
同時に、その少女の声も同じく。
足音が聞こえる毎に、その声ははっきりと、まるで耳元で聞こえるかのように。
そうして、何時しか少女の吐息すら感じられるまでの近さへ。
振り返れば、そこに少女はいるだろう。
聞こえる位置から、少女は自分の腰辺りの身長しかない。
「―――でも、
―――淡々と、穏やかと言ってもいい声が、唐突に冷えきった刃となった。
「
責めるようなものではない。
非難でも、悲嘆でもない。
ただ、純粋な疑問。
―――何故?
―――どうして?
変わらない。
凪ぎの海のようにその声に荒げた様子は欠片もない。
「そんなの関係ない」
それが、まるで鋭い刃で刺されているような気持ちになるのは―――。
こうまで動揺してしまうのは―――何故なのだろうか……。
「そんなのわからない」
身動ぎ一つ、息すらできているのかわからない中―――何か、小さくて、柔らかくて、暖かなものが、背中に触れた。
「突然、
それは、少女の手。
彼女の手だ。
触れれば溶けて消えてしまいそうな。
淡雪のようなその儚さ。
「泣いても、叫んでも……誰も、応えてくれない」
オレは、それを―――
「唯一応えてくれる人を待って、過ごす日々が、どれだけ辛いのか……あなたにはわかっている?」
背中に感じる小さな温もりに押し出されるように、
「―――ああ、そうだな……きっとオレは、わかっていないんだろうな……」
言葉が、零れるように吐き出された。
弱々しいその声は、何処か諦めを感じさせるものがあった。
「それでも、あなたは進むんだ」
背中に触れていた手のひらに、少し力がこもったように感じられたのは、気のせいなのか……。
「……そうだ」
鑢のような砂を含んだ風は、今も変わらず全身を削っている。
口を開く度に、針でも飲み込んだかのような痛みだ。
前後左右から吹き付けてくる風は、何時からか前からしか吹いてこなくなっていた。
「そうなんだ……」
声の最後が小さく消えていったのは、落胆したからなのか。
それとも、また別の理由があるのだろうか。
とりとめもなく、そんな事を考えながら。
オレは、彼女に自分の思いを晒け出す。
「そうだ―――オレはわからない。わからないまま、進む」
そうしなければいけない。
そうしなくてはならない。
何故か、そう思った。
「あなたは、もうそう決めてしまったんだ」
少女の声に、悲しみの色があった。
背中の
「っ、ああ、決めたっ」
それを引き留めるように声を上げた。
温もりは、少しずつ離れていく。
「なら、あなたはもう
まるで、壊れた機械のように―――そう続いて聞こえた声は、幻聴だったのか、それとも本当に少女が口にした言葉なのか。
「そうだっ―――止まるわけにはいかない」
だが、たとえそれが幻聴であっても本当に少女が言ったのだとしても、関係はない。
もう、オレは決めたのだ。
そうだ、選んだのだ。
あの影が言ったことは間違いではない。
ああ、そうだ間違いではない。
だが、それは―――
「そうまでして、あなたは【正義の味方】に―――」
「違うっ!」
正解でもないっ!
「え?」
「そうじゃないっ!」
微かな、指一本分の温もりが離れようとして、止まった。
「ちが、う?」
「オレは、確かに選んだっ」
そうだ、オレは確かに選んだ。
あの影が言うのには捨てたのだろう。
「どんな結果になろうともっ、今この時
確かに、ああ、
「だがそれはっ―――【正義の味方】になりたいからじゃないっ!」
だけど、やはりそれでも違う。
違うんだ。
「なら―――何で? どうしてあなたは……」
淡々とした口調は既になく。
動揺と混乱でその声は明らかに揺れていた。
背中に触れていた温もりは、何時しか強くなっていて。
それを背に、オレは声をあげる。
「それはっ……オレが―――」
レフィーヤが伝えてくれた思いがオレの背中を押す。
―――ベル・クラネルはこう言ったんですよ『お兄ちゃんだって思っているんです』って―――
「オレがっ!! ベルの兄貴だからだっ!!」
「っ―――ぁあ……」
その声は、小さく噛み締めるような強さで。
何処か嬉しさを滲ませていた。
「あいつが、こんなオレでも兄と言うのならっ―――あいつに、失望されるわけにはいかない」
「……無茶苦茶よ。何でそれでそんな兄と呼んでくれる子を捨ててまでするの? 逆じゃないの?」
肩を竦めるような調子の言葉に、呆れたような声を返される。
「はは―――あいつはな。ベルは、女の子との出会いを求めるためだけにダンジョンに来たと言うような男だ。なら、ここで
「……バカね」
溜め息が混じったその声は、呆れが八割笑いが二割といったところか。
同感なので思わず頷いてしまう。
「そうだな」
「あなたもよ」
責めるような口調と共に背中に小さな痛みが。
どうやらつねられたみたいだ。
「ああ、そうだな」
「でも、その子はいいとしても。もう一人はどうなの」
つねったのは一瞬で、直ぐに彼女は背中に手を触れるだけにすると、もう一人の家族について聞いてくる。
その声には、最初に感じたものとはまた別の、穏やかなものを感じられた。
「ああ、きっと彼女はわかってしまうだろうな」
「そうね。まず間違いなくわかると思うわ」
そう、彼女との契約が切れてしまえば、きっとわかってしまう。
何処にいようと、彼女は感じとるだろう。
オレとの
「泣くだろうな」
「あなたが泣かせるのよ」
あれだけ【
きっと悲しませてしまう。
泣かせてしまうだろう。
「悲しませることになるな」
「ええ、とても苦しいわ」
これまでも、何度か機嫌を損ねた事があったが、その時は何時も美味しいものを作って機嫌を取っていたが……。
そうだ、特に彼女はじゃがまるくんが好きで。だから、何時もそれで機嫌を取っていた。
だが
「……流石に、じゃがまるくんだけじゃ、無理だろうな」
「ええ、じゃがまるくんだけじゃ……へ?」
呆けた、可愛らしい戸惑いの声が上がる。
それを小耳に挟みながら、何処かわざとらしさを滲ませ困ったように唸り声を滲ませた。
「そう簡単に許してくれないだろうな」
「え? ちょ、ちょっと待ってっ!?」
焦った声と共に、少し背中を引かれる感覚が。
それに、自然と口元に笑みが浮かぶが、気付かれないように何か? と小さく首を傾げて見せた。
「何だ?」
「何だ? って―――あなたは何を言っているの!?」
ぐいぐいと背中を引きながら、彼女の慌て混乱した声が聞こえる。
「何をと言われてもな。どうしたら許してもらえるのか考えているんだが?」
「許してもらえるって……あなた、まさか―――」
何か問題があるのか?
そんな肩を竦めながら聞くような軽い調子に、彼女の呆れたような声が返される。
だが、そこにはそれ以外のものを含んでいるようであり。
「ああ、帰るよ―――オレは」
それに応える為に、オレは頷く。
「帰って、謝って、許してもらいたい」
「……あなたは、わかっているの? このまま進めば、あなたは」
苦しげな、彼女の震える声が聞こえる。
背中に触れた彼女の手もまた、微かに震えていて……。
「―――ああ、そうなんだろうな」
「ならっ!?」
疑問ではない。
責める声が向けられ。
オレは応える。
「大丈夫だ」
「っ」
息を呑む音が聞こえた。
混乱と困惑。
疑問と不審。
返ってきた言葉の意味が分からないのだろう。
思考が纏まらず言葉が出ない彼女に、オレはもう一度応えた。
「きっと、大丈夫だ」
「何で、そんなことが―――」
否定の色を含んだ彼女の声は、弱々しく。
オレの言葉が信用できないのだろう。
いや、信じられないだけか……。
「それは―――」
確かに、それは仕方のないことだ。
きっと彼女は、オレ自身よりもオレの事を知っているのだろう。
だけど、彼女の知らない事もあった。
思いもよらないんだろう。
オレが
「―――覚えているからだろうな」
オレが、覚えていることを。
「え?」
「覚えているんだ」
気の抜けたような。
予想外過ぎたのだろう。
戸惑いでもなく、疑問でもない。
ただ、純粋な感情の発露。
「まさか―――そんな筈はっ、だってあなたは―――」
彼女の続く言葉は、ああ―――よく分かっている。
確かに、オレが覚えている筈がない。
だがな―――
「だけど、覚えているんだよ。
そうだ、
それでも覚えているんだ。
確かにオレはどうしようもない程に紛い物で、どこまでもいっても贋物だが、この身体だけは、間違いなく本物なのだから……。
「から、だ―――が?」
やはり、まだ信じられないのだろう。
戸惑うように震える彼女の手が、確かめるように背中を撫でるようになぞっていく。
「だから、オレは進める。たとえ―――たとえ全てを忘れてしまうとしてもっ―――この先へオレはっ」
「……そう、なんだ」
だから、オレは進める―――。
彼と同じように―――。
「ああ」
「そっか……ああ、なら仕方がないわね」
はっきりと。
強く頷くオレに、彼女の諦めたような、それでいて何処か苦笑するような声が。
「すまない」
「どうして謝るの」
「それは―――」
むう、とむくれたような調子の彼女の声に、咄嗟に何かを言おうとしたが。それが形になるよりも、彼女の声の方が早かった。
「いいわ。許してあげる。だけどただじゃダメよ。絶対に、帰って謝らなくちゃダメよ。残されるのは、本当に辛いんだから……」
「っ、ああ」
明るい声の中に確かに感じられた悲しみに、思わず口元を噛み締めながら強く頷いてみせる。
「なら、直ぐに行かなきゃ」
「―――っ」
ぐっ、と背中を押された。
きっと、彼女は力一杯押したのだろう。
背中に押し付けられた彼女の熱は強く、熱く。
だけど、その力はとても弱くて。
それが、どうしようもない程に苦しく、悲しく……。
直ぐにでも振り返りたいと沸き上がる感情を、それでも振り切るように足を上げ―――。
前へ―――。
「―――頑張れ……女の子を助けるために行くんでしょっ! 胸を張ってっ! 顔を上げて行きなさいっ!! そしたらっ―――そしたら
―――進む。
砂嵐の中を。
最後の一歩を。
彼女の声を背中に。
オレは―――前へ、進む。
そして――――――――――――
「頑張れ……頑張れ……」
前へ。
消えていく背中向けて声を上げる。
きっと、もう彼の耳には届いてはいないだろう。
だけど、そんな事は関係はなかった。
もう、迷いはなかった。
―――ホントウニヨカッタノカ?
「いいのよ。あなたも聞いていたでしょ」
後ろから唐突に声をかけられるが、予想していたから驚きはなかった。
何時の間にか、あれだけ激しかった砂嵐は、まるで幻のように消えていた。
―――マアナ、マサカアンナケツロンニイタッテイタトハ―――ワラエルナ
「ええ、本当に笑えるわ」
目の前に広がっているのは、これまでと変わらないどこまでも広がる荒野だけ。
でも、きっと変わるのだろう。
どんな風に変わるのか、それは楽しもあり、また怖くもあった。
ただそれも、彼が生き延びられれば、だけど―――。
―――ダケドアレハツヨイゼ。イタレバスコシハマシニナルガ、ソレデモアノバケモンニハトドカナイ。アレハヘタナエイレイヨリモツヨイゼ。オレハカクジツニアイテニナラナイネ。キレテシマエバマジュツモドキモツカエナイダロウシ、カチメハナイトイッテモイインジャナイカ?
「そうね。
そう、このままでは無理だ。
身体のスペックが多少上昇しても、あの英雄の頂に手をつけた男には敵わない。
それは、どうしようもない程に残酷な事実。
だけど―――
―――
「だから、用意をするわ」
そう、だけど。
あの数多の英雄と同じく。
勝つことが不可能と言われた相手に挑むには、武器が必要だ。
―――ナンデソコマデスルンダ? アレハエミヤシロウジャナインダゼ
「そんな事、わたしが一番よく知っているわ」
そんな事は、言われなくても分かっている。
当たり前だ。
だって―――
「だって、わたしが
―――アア、ソウダッタナ
『―――生きたい』
あの子は、そう願った。
願ってくれたから、わたしはその願いを叶えてあげた。
本当の『魔法』で―――。
だから、彼が
「ちゃんと、あの子がシロウじゃないことはわかっているわ」
―――ジャア、ナンデダ?
「それは……」
なんで?
そんなの決まっている。
ああ、確かに彼は衛宮士郎ではないのだろう。
その身体だけは、衛宮士郎のものであったのは間違いはない。
でも、肝心のその中身は全く違うモノだ。
確かに似てはいる。
それでも、やっぱり違うモノ。
何処までも贋物で。
どうしようもない程に紛い物で……。
だけど、そうであっても―――
「―――あの子はわたしの
―――アン?
だって、あの子は言ってくれた。
覚えているって。
覚えてはいないけど、覚えているって。
なら、それでいい。
それだけで、十分。
わたしは、あの子のお姉ちゃんだ。
「だから、助けるのは当たり前」
―――アレガオトウトネェ……
心から沸き立つものが感じられる。
自然と笑みが浮き上がり、跳ねる心に従うように勢い良く振り向いた。
「ふふ……だって、弟を助けるのはお姉ちゃんとして当たり前だから」
振り向いた先には、黒い影と―――
「だから、あなたも助けてくれるわよね」
「―――不本意だが、君が言うのなら仕方がない」
一人の英霊。
眉間に皺を寄せて不満を露わにしているけど、ちゃんとわたしには分かっている。
「素直じゃないわね」
丘をゆっくりと下りながら彼の元へと向かう。
―――フ~ン、デ、ケッキョクドウスルツモリナンダ?
黒い影の疑問にわたしは得意気に指を立てて応える。
「結局のところ、ここでまともに魔術が使えないのは基盤がないだけなんだから。だったら
―――ツクレバッテ……ソンナカンタンニツクレルヨウナモノナノカ?
呆れたような声に肩を竦める。
錬金術ならまだしも、そんなの―――
「知らないわ」
知るわけがない。
―――オイ
「だって、わたしには
そう、わたしにはそんな知識や技術は必要がない。
―――小聖杯たるこの身には。
―――アア、ソウイエバソウダナ
「わたしは聖杯なんだから、必要な魔力さえあれば、
そう言って、手を伸ばす。
何処か憮然とした顔をしているような気がする彼へと。
「なら、新しく『魔術基盤』を創るなんて事も簡単よ」
「その魔力を提供するのは私なんだがな」
本当に素直じゃない。
それが、何か可愛らしくて。
思わず小さな子供に聞くような様子で問いかけてしまう。
「あら、嫌なの?」
「残念なことに―――拒否する理由がないからな」
小さく肩を竦め、彼が―――『アーチャー』が手を伸ばす。
「ふふ……素直じゃないわね
「―――っふ」
色々な意味を込めたわたしの言葉に、彼は一瞬虚をつかれた様子を見せた後、小さく微笑んで―――ああ、やっぱり変わらない。
つられて、わたしも笑って。
願う。
あの子が、ちゃんと家族の元へ帰れるように。
あの子の、お姉ちゃんとして―――。
光が―――溢れていた。
黄金の光が、あの男の足元からとめどなくまるで泉のように沸き上がっている。
その勢いは次第に、加速度的に強くなり。
瞬く間に大通路をその黄金の光で満たしていく。
まるで太陽がそこにあるかの如く。
黄金の光は大通路をあまねく照らすだけでなく、ついには分厚い天井を、硬い岩盤すら貫くように天地を貫く光の柱となる。
空へ駆け昇る光は地上を超え、バベルを超え―――遂には空の彼方へと。
下へ―――地下へ―――星の源へと到らんと進む光は、遂には神すら知らぬ深層すら超え―――星の中心へと。
その中心である大通路では、あまりの目映さに、その場にいる全員が目を閉じるか手を翳してその視界を守ろうとするが、気休めにもならなかった。
誰もが混乱の中にいた。
何が起こっているのか何もわからない。
悲鳴も疑問の声すら上げられず、ただ光の奔流の中耐える。
どれだけの時間が過ぎたのか。
十秒?
一分?
それとも十分以上?
時間の感覚すら曖昧となる中。
その輝きの、音もなく光だけが広がるその中心から、ゆっくりと歩く足音が響き―――。
同時に、光は少しずつ吸い込まれてゆくように光の中心―――いや、足音が聞こえてくる場所へと集まってゆく。
収まっていく光量。
僅かに回復した視界。
自然と、その場にいた者達全ての視線が足音が聞こえてくる方向へと向けられる。
少しづつ形となっていく光の中の影。
一人の人影。
やがて、それは色を持ち、一人の人物を描き出す。
赤と黒、そして白で描かれたのは―――一人の騎士だった。
「……貴様は―――何者だ」
何処か、呆然とした様子でオッタルの口から疑問の声が上がった。
戸惑い、不審、疑問―――流石のオッタルであっても、
既に光は消え失せ。
視界は良好。
まるで幻だったかのように、あの光は跡形もなく消えていた。
残されたのは、まるで今、生まれたばかりのように傷どころか汚れ一つない―――見たことのない赤い外套と黒い鎧を身につけた男の姿。
その男を知っている。
知っている筈、なのに―――。
だが―――あまりにも違う。
違いすぎた。
その身体に満ちる存在感が―――。
「―――何者、か」
男の―――オッタルの問いかけに、少し、思考を傾ける。
オレは―――何者なのか?
【正義の味方】―――?
馬鹿な―――冗談でも口に出来るわけがない。
まだ何も定まっていない―――決めてもいない、覚悟もないのに、どの口で言える。 なら、何だ?
【ヘスティア・ファミリア】―――?
―――言える訳が無い。
どんな恥知らずだ。
自ら切り捨てたモノを語れるものか。
では、自分は何者なのだ?
それは―――。
そんなものは―――。
ああ―――ない。
あるわけがなかった。
何故ならば、オレは―――。
「―――何者でもない」
足を、一歩前へと。
ゆっくりと、何も持っていない両手を広げていく。
「―――ただの偽物で」
既に繋がりはない。
何とか魔術もどきが使うことが出来ていた彼女との繋がりは感じられない。
だが―――。
しかし―――。
「どこまでも擬い物でしかない―――」
確かな繋がりがあった。
大地の奥深く。
そこに新たに。
恐らく―――いや、確実に初めて刻まれた【魔術基盤】。
それとの繋がりが。
硬く、強く―――しかし違和感なく―――まるで自分の一部のようにすら感じられるほどに。
「だが―――オッタル」
心の奥で―――
―――
―――呪文を詠唱する。
「
27の魔術回路に、魔力が流れ込む。
電子回路に電流が流れ込むかのように、停滞なく流れ、満たし―――繋がった。
そして、この世界で初めて【魔術】が行使される。
「―――間違いなく本物の伝説ッ!!」
広げられた両腕。
―――創造の理念を鑑定し
開かれた掌。
―――基本となる骨子を想定し
そこに、稲妻の如く魔力が集い―――形を成していく。
―――構成された材質を複製し
「「「「「―――っ!!!!」」」」」
―――制作に及ぶ技術を模倣し
声にならない声が上がった。
それは驚愕の声だったのか。
それとも歓声だったのか。
どんな感情が込められたものかは、口にした本人ですら分かっていなかっただろう。
―――制作に及ぶ技術を模倣し
ただ、一つだけ言える事は。
―――成長に至る経験に共感し
その場にいた全ての者が、
―――蓄積された年月を再現し
説明などいらない。
―――あらゆる工程を凌駕し尽くし
何故ならば、彼らは―――彼女らは数多に違いがあろうとも、頂きを目指す者であることに違いはないのだから。
だからこそ、言葉は不要。
知識など無用。
ただ、目にしただけで理解した。
「貴様が最強だと吠えるのならばっ―――」
それが―――
ここに、幻想を結び剣と成す――――――ッ!!!
―――
「―――恐れずしてかかってこいっ!!!」
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