さて、それでは少しだけ近況報告を。
バイトを始めたおかげで土日が消えましたやったね!(血涙
そして執筆時間も減りました……。まあ今まで通り更新はしていく予定ではあります。もう少ししたら夏休みですしね。
今のところはそんな感じです。
ということで、本編へどうぞ。
怒りが頂点に達した黒ウサギと司から逃げ出してきた英太と飛鳥は、噴水のある大広場で肩で息をしながら項垂れていた。
「さす、がに……保たない、のだけれ、ど………」
「ハァ……俺も保たねえよ……。ったく、本気で追って来やがって」
「まぁ、発端は私達にあるのだけれど……」
「……後のことはその時に考えるってのが俺の座右の銘でな」
「この前、『事前と事後の準備整え、面白おかしく生きる』って言ってなかったかしら?」
「し、知らねえなぁ………」
「……まあいいわ。それよりも、やっぱり遠くで見るより壮観ね」
飛鳥は視線を橙色に染められた街並みに移す。
煉瓦造りで街並みが整えられており、今は祭りのおかげか、出店やコミュニティが出展したであろう工芸品などが展示されており、かなりの賑わいを見せている。
「ま、あの司……いや、鬼に追いつかれるまでは時間があるだろ」
「鬼って……。確かに纏う雰囲気は鬼のそれだったけれども」
「つまるところ鬼ごっこ、というわけだが、ただ逃げ回るんじゃつまらねえ。ここは一丁、観光しながら逃げるか」
「そんなことしてるとすぐに追いつかれるわよ?」
「そう言うならそわそわすんなって。ぶっちゃけ楽しみなんだろ?」
「うっ………」
英太に図星を突かれ、口ごもる飛鳥。英太はその姿にふっと吹き出す。
「……………なによ」
「いいや、なんでも。それじゃあ行きましょうかお嬢様。エスコートは不肖この私めにお任せくださいませ」
頭を垂れ、膝をつき、片手を差し出す英太の姿は物語などで見たことのあるような執事そのものの振る舞いだった。
飛鳥は思いがけない英太の行動にキョトンとするが、すぐさま悪戯げな顔になってその手を取る。
「ええ、ならエスコートをお願いするわ。でも私、ワガママだし頑固だから簡単に満足するとは思わないことね」
「そんなこと百も承知だっつの」
飛鳥の差し出された手を取り、二人は賑わう街の中へと消えていった。
******
英太達が街の観光を始めた頃、十六夜は人目につかないような路地裏にいた。
傍らには四つん這いで愛理沙が荒い息を吐いていた。
「……ここまで来ればそう追いつかれないだろ」
「私は一刻も早く捕まりたいです……」
「ヤハハ、同行人の俺がそれを許すとでも?」
「同行人というより人攫いだと思うんですけど……」
恨めしそうな目で愛理沙は十六夜を睨むが、当の本人はどこ吹く風で明後日の方向を向いて口笛を吹いている。
愛理沙はその態度にため息をつき、言いくるめることを諦める。
「それにしても、不思議ですね。ここの建造物、日本にはないような物ばかりですよね」
「まぁ異世界だしな。見たことないようなもんがあっても仕方ねえだろ」
「まぁ、私にとっては逆廻先輩の方が人間味なくてほんとに普通の世界に適していたかどうか不思議ですけどね」
「お?何か言ったか?」
「いえなんでもないですよ、
「おい、今酷い書かれ方した気がするんだが」
「そんなことありませんよ。ほら、さっさと行きますよ先輩」
愛理沙は不服そうな十六夜の手を掴み、大股で歩き始める。
その時の表情は、嬉しそうにニヤついていたのだが、この事を愛理沙は自覚することもなく、そこにいた十六夜も知ることはなかった。
******
早々に捕まった耀と抵抗することなく、そして逃げることもなくその場に留まっていた満は、白夜叉にことの顛末を話していた。
話を聞き終わると、白夜叉は深いため息をつき、頬杖をつく。
「流石にそれはおんしらが悪いとしか言えんの。脱退というのはそんなに口軽く言って良いものではないものだ」
「で、でも私がそう言ったわけじゃ……」
「そもそも僕は後で知らされたわけで……」
「言い訳無用じゃ。結局はそれに便乗しておるだろうに」
「「……………隠し事していた黒ウサギも悪い」」
「それもそうだが……、それと脱退とは釣り合っておらんだろうに。ま、この話はもうよい」
「でも……流石に悪い事をしたという自覚はある」
しゅん、と落ち込む耀にいつものような姿の面影もない。これでは完全に叱られて落ち込んでいるただの少女である。
満はその姿を見かねたのか、白夜叉にある事を申し出る。
「では、黒ウサギと仲直りできる方法はないのですか?」
「仲直り、とな?ふむ………、おんしらが何か心のこもったものをプレゼントする、というものであれば黒ウサギは落ちると思うぞ」
「誰も落とす方法は聞いていません。……でも、それが一番妥当なものですね」
「よし分かった。そういう事であれば、このようなものがあるぞ。ほれ、読んでみるがよい」
白夜叉はそう言うと、一枚の羊皮紙を満に手渡す。それは"火龍誕生祭"で開催されるギフトゲームの一つであった。
「…………造物主達の戦い?」
「人の手で作られたものをギフトとして持つ者に参加権利があるギフトゲームだ。耀ならば条件を満たしておるであろう?」
「確かに」
「じゃあ僕はサポートとして参加すればいいのかな?」
「………大丈夫。一人で何とかできる」
「いや、そういうわけには………」
「それに、最初から手札にあるカードを無作為に切るわけにはいかないから」
「なるほど、ね………」
満は耀が言わんとすることを理解する。
要は『どれだけ自分の手札を隠した状態で上にのぼることができるか』ということだ。
初っ端から強カードを切って勝ったとしても、それはあまりよろしくない。以後はそのカードの存在がバレているため、対策がされやすいからである。それは、他に握っている不利を有利に覆すカードなどにも言える。
そこまでの思惑があるかどうかは満の知るところではないが、満はなにも反論せずに了承する。
「分かった。無理だと判断したらいつでも言って。勝てるように助力はするから」
「ん。ありがと」
満の気の利かせたような発言に無表情で返す耀。その表情は初めよりは幾ばくかは穏やかになりつつあるのだが、それに満が全く気づく様子はなかった。
「………おんしらそんなに仲よかったかの?」
首を傾げて二人を訝しげに見る白夜叉は別だったが。
「まぁ、なんでもよいか。それでは、健闘を祈るぞ二人共」
「大丈夫、問題ない」
「策は万全にはします………さっきの耀の一言で一気に不安になったけど」
外で鬼ごっこが行われている途中に、耀の"造物主達の戦い"への参加が決定したのだった。
******
エスコートしろ、と頼まれた英太は飛鳥と腕を組んで街中を歩いていた。
「で、お次は何処へ?」
「次はあそこがいいわ!あの店先に展示物があるお店!」
「へいへい。仰せの通りに」
最初の方は面白がって楽しんでいた英太だったが、好奇心旺盛なお嬢様こと飛鳥によって、事あるごとに興味のある店に連れていかれては店主の説明を聞き、展示物を前にはしゃぐ飛鳥の相手をしては周りから温かい目で見られていたのでかなり疲れており、何より先程から歩きっぱなしなのだ。少しは休ませてほしい、と愚痴をこぼしたい英太だったがーーー
「………?どうしたの、英太君?こっちをじっと見て」
「いや、何でもない。で、あの店行くのか?」
「ええ!あの展示物、どう作ったのか気になるわ!」
なにより、当の本人である飛鳥が日頃見ないような楽しそうな表情で年相応にはしゃいでいるのだ。
自分の疲れたという言葉一つだけでその表情を壊したくはないし、邪魔をしたくもない。
そんな理由から、文句を言わずに飛鳥に付き添っているわけである。
「(ま、こういう感じは嫌いではないし、悪くはないか)」
なんとなくそう思い、英太はもう少しだけこの状況を楽しむか、と考えながら隣で目を輝かせている飛鳥の言う通りの店へと歩みを進めた。