「そうだ、世界の果てに行こう」
「頭大丈夫かお前」
黒ウサギの説明が一通り終わって天幕とやらの中に入るため、俺たちは先導する黒ウサギについて行っていたのだが、その最中頭のネジがぶっ飛んだんじゃないか?ってぐらいの提案が十六夜から飛んできた。
「世界の果てだぜ?なんかこう、気にならないか?」
「全く、全然、一ミリも気にならないね」
というか今現在この道から外れる事で特大のフラグが立ちそうなんですが。お前はそういうのは気にしないのか?
「気にしねえよ」
「さらっと心読むんじゃねえ」
……まあこいつならフラグを真っ向からへし折ったり粉砕したりしそうだけど。
そんな事を思っていると、十六夜は他の二人にも声をかけていた。案の定断られていたが。
「じゃあ、しゃあねえか。とりあえず、黒ウサギにはどうにか言い訳しといてくれ」
そう言い残して十六夜は跳躍して元来た道を戻って行った。
人任せかよ。というかなんだあの跳躍力は。人間超えてるだろ。
………そういや黒ウサギが言っていたよな。人の身に余る才を持つって。
ということは…………。
「忙しないわねぇ。まあ別に構わないのだけれど」
「でも、言い訳どうしよう?」
こいつらも……人外、なのか?
見た目は普通の可愛らしい女の子なのに?ううむ、信じられない。
頭で考えるが一向にこの人たちが人外だとわかる気配がない。
俺は抱いた疑問を頭の片隅に追いやり、何が起きたか気づいてすらいない能天気ウサギに黙ってついていくことにした。
*****
「ジン坊っちゃーん!新しい人を連れてきましたよー!」
なんだそのテンションとノリは。
心の中でツッコミつつ黒ウサギが呼んだジンという少年に目を向ける。
ダボダボのローブに少し跳ねた短髪。おまけに背は小さく、いかにも小学生といった感じだった。ローブを除けばだが。
「おかえり黒ウサギ。後ろの三人が?」
「Yes!この御四人様がーーーーー」
黒ウサギは綺麗にクルリと回転し、俺たちを見て硬直。次に人差し指で人数を数えて惚ける。最後に顎に手を当て何かを思い出す。これに費やした時間わずか十秒。
黒ウサギは未だ何が起きているかわからないといった表情で告げた。
「あ、あれ……?もう一人いませんでしたか?こう、『俺、問題児!』みたいなオーラをガンガン出してた金髪の方が」
その表現は間違ってないのだが、おそらく今十六夜は世界の果てに着いてヒャッハーしているところだろう。
俺はその問いかけに答える気はさらさらなかったが、久遠さんがそれに答えた。
「彼なら『ちょっと世界の果てまで行ってくる』って言ってあっちに行ったわよ」
「……………………………………………………………………………はぁ!?」
たっぷり黙り込んだ黒ウサギは驚愕の表情を浮かべて声を上げた。
まあそりゃ、いきなり召喚した奴が消えていたらそんな反応するよな。分からなくはないぞ。
「ちょ、待ってください!どうして止めてくれなかったんですか!?」
「止めてくれるなよ、と言われたから」
「なぜ黒ウサギに伝えてくれなかったのですか!?」
「黒ウサギには言うなよ、と言われたから」
「どうして彼一人で行かせたんですか!?」
「ロマンは一人で探求するものだ、って言われたから」
俺たち三人は黒ウサギの必死の問いかけに悪ふざけで返す。だが、全てあの十六夜がいいそうなことを並べた。
これで納得するだろう、なんて思った時期が俺にもあったよ……。
だが、黒ウサギの表情は焦りから少量の怒りが含まれたものになっていく。残念ながら全く信じてもらえなかったようだ。
「嘘です、絶対に嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう!?」
「「「うん」」」
ガックリとうなだれる黒ウサギ。
俺は、否定する理由が見当たらないので頷いておく。面倒くさかったのは事実だし、正直言って、俺たちは嘘しか言ってなかった。
でも、三人ともが誰が聞いても白々しいと思うような口調だったので分かって当然だろう。
「た、大変です!世界の果てには放された幻獣たちが……!」
「幻獣?麒麟とかキマイラとかの事か?」
「一番最初はまともですが、後者が悪意しか感じませんよ!?それに幻獣かどうかですら怪しいですし……ってこんな話をしている場合ではありません」
「じゃあそんな話をする?」
「そういう事じゃないんです!というかそんな話ってどんな話ですか!?」
ジンは物凄い剣幕で叫んだ。というより俺のボケなんて無視すればいいのにちゃんと拾ってくれるとは、この子優しいな。
とまあこんな事はさておき、ジンが言うことによると、どうやら放されている幻獣は無闇矢鱈にというわけではないがギフトゲームを挑んでくるらしい。しかもそれが人の命をかけるものもあるのだとか。
つまり、だーーーーー
「「「十六夜(君)……安らかに眠れ(りなさい)」」」
「どうしてあなた方はそうやって次から次へとボケられるのですか!?」
「「「楽しいから」」」
「声をそろえて言わなくてよろしいのですよ!」
黒ウサギはゼェゼェと荒い息を吐きながらゆらりと立ち上がる。
「ジン坊ちゃんは皆さんを箱庭に案内してくださいませ。私は、あの問題児を捕まえに参りますので」
刹那、黒ウサギの青色の髪が淡い桃色に変わる。
いきなり起きたことに俺は頭がついていかない。いきなり髪の色が変わるなんて漫画や小説の中でしか見たことがない。まさかお目にかかれるとはな。
「それでは皆さん、箱庭ライフをお楽しみくださいませ!」
黒ウサギはそう言い残すと、一際大きく跳躍する。気づけばすぐに姿が見えなくなっていた。
「あんなに早く飛べるのね、箱庭のウサギは」
「黒ウサギ達、月の兎は箱庭の創始者の眷属ですから。それでは参りましょう」
ジンはそう言って踵を返して門のような場所へと歩いていく。
ふと思い出したかのように振り返ると、頭を下げられた。
「自己紹介が遅れました。僕はジン=ラッセルといいます。齢十一の若輩者ですが、よろしくお願いします」
「あら、これはご丁寧にどうも。私は久遠飛鳥よ。で、そこで猫を撫でているのは春日部耀さん、何の変哲もないパーカー男は神野司君よ」
俺の説明酷くね?まあ会ってるから別にいいんだけどさ……。
よろしくと言うとよろしくお願いしますと返された。
その後、目の前にある門のような場所にジンを先頭にして入っていく。
門のようなところをくぐると眩い光が目の前に満ちる。
その光が収まって見えた景色は、見たこともない異世界の街並みだった。
*****
「なぁ、久遠さん」
「飛鳥でいいわ。それで、何かしら司君」
「……………目の前のこの可愛らしい動物は、なんだ?」
俺と久遠さんもとい飛鳥の前にはサンドイッチをもそもそと頬張る春日部さんがいた。
リスのように頬張っている。何故だろう。この姿を見ていると自然と守りたい衝動に襲われる。これがあれか、母性ってやつ………なんか違う気がする。
「さあ?でも、今すぐにでも抱きつきたいわ」
「真顔でそういうこというのやめていただけます?」
そんな顔で言われるとガチの同性愛者かと思うからやめていただきたい。
そんな俺たちを呆れた顔で眺めているジン。まあそんな顔するよな、こんなやり取りしてたら。
そんな風に時間を潰していると、突如ドスンという音がした。意外に近かったため、そこを見るとガタイの良いデカイ男が笑みを浮かべて座っていた。
なんと言うかその……気持ち悪い。その笑みが作り笑いだということも嫌という程わかるし、何かドス黒いものを抱えているというのもなんとなくわかる。
本能が告げる。こいつに関わるとロクなことがないぞと。
そんなこともつゆ知らず、その男は俺たちに話しかけてくる。
「やあやあこれはこれは、名無しの権兵衛のジン=ラッセル君ではありませんか」
「……ガルド=ガスパー」
「黙れこの名無しが。俺の名を気安く呼ぶんじゃねえ」
ガルドと呼ばれた男に強く言われると、ジンは悔しそうに口を塞いだ。
俺はその態度に少しだけ苛立ちを覚えた。仮にも今案内してもらっている子がバカにされたのだ。苛立ちを覚えるな、という方が不可能だろう。
「おい、あんた誰だよこのガチムチド変態紳士」
「ガ、ガチムチ……?わ、私は"フォレス・ガロ"のガルド=ガスパーというものです」
「あ?"烏合の衆"の変態代表ガルド=ガスパールだって?」
「誰がそんなことを言った!?"フォレス・ガロ"のガルド=ガスパーだ!」
「五月蝿いなおっさん聞こえてるっての」
「き、貴様ぁ………」
とりあえずムカついたので色々と挑発してやった。後悔はしないしする気もないし反省する気もない。
「あなたの名前は分かったわ。それで、あなたの目的を聞かせてもらえるかしら」
飛鳥はそこが最も聞きたかったのか、ガルドを睨みつけながらかなりキツめに言った。貧弱な心の持ち主ならすぐさま怯み涙目になる程の。
というかそんな目つきできるんですね。今時の女の子って怖すぎる。
「…………ゴホン。この度、私は皆さまを我が"フォレス・ガロ"に招待したいと思いまして、あなた方に接触を図りました」
なんだと?"フォレス・ガロ"に招待だと?
「断固断る」
「う…………な、何か非礼をしたのであれば」
「団欒しているのを邪魔した、親睦を深めているのに図々しくも勝手に同席した、下卑た笑みを浮かべた、嘘をついた、隠し事をした、存在した。これだけの非礼をどうやって詫びるんだ?」
「ちょ……最後の方がただの嫌味にしか「嫌味で何が悪い。お前のせいで機嫌が悪いんだよ」ぐ、ぐぅ……」
ガルドはぐうの音しか出ないようで、悔しそうな顔をしている。
隣にいる飛鳥が俺を肘でこずくと、顔をこっちに寄せてきた。
「(そんなに挑発してどうするのよ)」
「(……仕方ないだろ。あいつの顔見てると無性に腹がたつんだから)」
「(それは……そうだけれど。ここは少し私に任せてみなさい)」
ヒソヒソと一言二言交わすと飛鳥はコホンと可愛らしい咳払いをして、目つきを鋭くしてガルドに問いかける。
「なぜ、あなたの所に行かなきゃいけないのかしら。説明してくださる?」
「ええ、構いませんよ。理由は簡単。このジン=ラッセル率いる"ノーネーム"よりうちの"フォレス・ガロ"の方が優遇できるからですよ」
ガルドは得意顔で下卑た笑みを浮かべながら告げる。
それよりもだ、"ノーネーム"つまりは名無し。ガルドが最初に言っていたことと同じだ。
一体全体どういうことだ?
飛鳥も俺と同じことを考えていたらしく、疑問符を浮かべている。春日部さんは………未だにサンドイッチ頬張ってるけど。
「その顔は、説明を受けてないようですね。ジン=ラッセルのコミュニティの現状を」
「そ、それは…………!」
「黙れ小僧。テメェに口出しする権利はねえよ」
「………………………」
またもや悔しそうに口を塞ぐジン。泣きそうな顔でうつむき、それ以来黙り込む。
ガルドは清々しい笑みを浮かべて告げた。
「それではお話ししましょう。コミュニティ"ノーネーム"に起きた悲劇とその顛末を」
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