「ーーーーということになります」
一通りガルドからの説明が終わった。
内容は、ジンのコミュニティは以前、この地で名を馳せ流程の実力を持ったものだった。だが、箱庭に蔓延る天災、魔王によって数年前にコミュニティのシンボルである旗と名前を奪われ、挙げ句の果てには仲間まで散りじりにされたという。
そして、現在の弱小コミュニティに至ったというわけらしい。
最悪、と言っても過言ではない。途中、ジンが飛鳥に現状を聞かれた時に、今残っているメンバーを言ったのだが、残っているのが全員まだ十五もいっていない子供だという。
頼みの綱が黒ウサギだけ、そんな現状のコミュニティが弱小と言わずなんというか、とガルドは言っていたが。
「それで、どうです?うちのコミュニティならば、そこの小僧がリーダーの軟弱コミュニティよりは随分マシかと思いますよ?」
胡散臭い笑みを浮かべながらそう提案してくる。
よくもまあ、こんな胡散臭い顔ができるものだ。作り笑いに慣れているとしか思えないぞ。
そんなことは置いておくとして、ガルドの提案は経済的、戦力的においては魅力的な提案だろう。でも、
「「遠慮する(わ)」」
飛鳥も同じことを考えていたのか、声がハモる。
ちらっと飛鳥の方を見ると、何か確信したような目つきをしていた。多分、俺は目の前の似非紳士を睨みつけているだろうけど。
俺たちの返答が拒否だと予想していなかったのか、ガルドとジンは目を見開いて驚いている。
「そ、それはどうして………」
「だって、ジン君のコミュニティで間に合ってますもの。ねぇ、司君?」
「ああ、俺たちにはジンぐらいのコミュニティが丁度いい」
「は、はぁ!?どういうことだ!?何故、何故そっちをーーー」
「『黙りなさい』」
俺と飛鳥の言葉に腹を立てたのか、立ち上がって抗議の声を上げようとした途端、ガルドの口は言葉の途中でガチンと固く閉じてしまう。なるほど、これが飛鳥のギフトってやつか。
ガルドはいきなり何が起きたのか把握できず、困惑した表情を浮かべる。
「さっきあなた、コミュニティの説明の時に言ったわよね。旗と名前はコミュニティのシンボルだって」
「お前のコミュニティの"フォレス・ガロ"だっけ、ジンによればここ数年で飛躍的に大きく成長したとか。どうしてだ?」
「だいたい、一つの組織が大きくなるには相当な時間が必要なはずなのよね。最低でも十数年ぐらい。それなのにどうしてあなたのコミュニティはそんなに飛躍的に、かつ短時間で成長できたのかしら。『そこに深く座って教えてくださる?』」
飛鳥が再度ギフトを使ってガルドを座らせる。ガルドはドスンと音を立てながら椅子に深く腰をかける。
飛鳥のギフトを例えるなら人身掌握ってところか。
などと推測していると、猫耳のウェイトレスがこっちに急いで向かってきた。
さっきの座った時の音で気付いたか。
「ちょっとお客さん!店内での争いごとはまずいですって!」
「あら、丁度よかったわ。あなたにも聞いていただきましょうか。この外道の真実ってやつをね」
不敵に笑みを浮かべる飛鳥は優雅かつ聡明、そして小悪魔のようだった。こいつ、今の状況楽しんでるとかないよな?…………なんか不安になってきた。
そんなことを思ってると、ガルドは話し始めた。
「ね、狙ったコミュニティから女や子どもを攫って負けざるを得ない状況にした」
「あら、これは酷い外道ね。それで、その攫った人たちは?」
「もう殺した」
その言葉で、空気が凍った気がした。
今、こいつはなんて言った?コミュニティを大きくするがためだけに攫ってきた人たちを、殺した?
「最初に攫ってきたガキはギャアギャアうるさく喚くから腹が立って殺した。それからは、攫った奴らはその日のうちに殺した。したいが見つかると厄介だから部下にそいつらをーーー」
ーーーー黙れ。
ガルドの動いていた口は突如止まる。口を開けたまま、続きを話すこともなく止まる。
俺は己の中で何かが蠢き、それが体全体を侵食するような感覚に見舞われた。それは奥底からドス黒い何かがふつふつと湧き出るような感覚だった。
「殺した、だと?罪もない子供を、平和で安らぎのある生活を送っていた女性を、そんな人たちを殺したっていうのかお前は」
「グ、ガァ…………!!」
俺が殺気を込めて睨み付けると、ガルドは苦しそうにもがき始める。首のあたりに何かが掴んでいるように締め付けられているが、俺は気にせず睨み付ける。
すると、飛鳥は俺の肩を掴んで言った。
「司君、そんなに殺気だってどうするのよ。それに、ここでこの外道に制裁を加えちゃダメよ」
「じゃあ、どうするっていうんだよ。こいつをこのまま野放しにするっていうのか?」
「いえ、そんなことはしないわ。ちゃんと制裁を加えるわよ」
そう言って飛鳥はまた不敵に笑みを浮かべてガルドに告げた。
「ねぇ、似非紳士さん。私たちとギフトゲームをしましょう。あなたの人生と、私たちの誇りと命を賭けて」
*****
「フォ、"フォレス・ガロ"とゲームをする!?しかもこれ何のメリットもないじゃないですか!デメリットしかありません!それにゲームの準備もする暇がございません!それを踏まえてどういう経緯でこんなことになったのですか言ってみなさい御二方!」
「「後先考えずにむしゃくしゃしてなんとなく喧嘩を売った。後悔はしないし反省もしない」」
「少しは反省なさいこのお馬鹿様方!」
黒ウサギと合流した俺たちは、ガルド達とのことを話すとそんなことを言って少し説教された。
というか俺って煽って睨みつけたぐらいしかしてないんだけど。本格的に喧嘩売ったの飛鳥なんだけど……。
そんなこんなで、俺と飛鳥は小一時間ほど黒ウサギに説教されました。
一方、十六夜と耀はというと、
「そういや、春日部は黒ウサギのコミュニティでいいのか?」
「私は別にどこでも構わない。友達作りに来ただけだから」
「へぇ、そりゃ珍しい。なら俺が友人第1号に立候補しよう」
「うん、別に構わない。で、なんであの二人怒られてるの?」
「お前一緒にいただろ?」
「ご飯食べてて話一切聞いてなかった」
「………………マジかよ」
「マジ。大マジ」
「ヤハハ……………、これは結構な大物と友人になっちまったみたいだな」
「………?」
*****
足が痛いです。
「我慢してください」
「さらっと心読まないで」
小一時間ほど黒ウサギのありがたいお話を聞かされたことによって、石畳の上に正座させられていた俺の足はすでに限界気味だった。正直言って歩くのも結構痛いです。
「まったく、せっかくいいお店の予定をしていたのに散々な結果に終わりました」
「本当、散々だよな」
「司さんのせいでもあるということ分かってますか?」
「えー、ナンノコトカワカンナーーー俺が悪かった。今の嘘だからその釘バットらしき物はしまって。物凄く怖いから」
ふざけようとした途端、黒ウサギの瞳から光が消え、どこかから釘バットらしき物を取り出して振り上げたので全力の土下座で謝る。流石にそんな物で殴られた日には、頭部に赤い生々しいお花が咲くこと間違いなしだ。
とまあそんなことはさておき、俺たちは黒ウサギについて行っていた。何しろ、ギフト鑑定なるものをしてもらうらしい。それで所持するギフトがわかるだとか。
俺としてはすぐさまでも自分の力が知りたい。何も持ってないのにこんな人外魔境に呼び出されては、たまったもんじゃないからな。
そう思いつつ歩いていると、黒ウサギはぎょっとするや否や走ってどこかに向かう。
「まっ」
「待った無しです。うちは時間外営業をしていませんので」
そこは後片付けをしている割烹着がいる女性の店だった。何の店かは全くわからないが。
「酷いです!閉店5分前に客を締め出すなんて!」
「うちはそういう決まりですので。それ以上何かをいうのでしたら貴女を出禁にします」
「な、出禁ですって!?」
ギャアギャアと騒ぐ黒ウサギをあしらう割烹着の女性。俺には割烹着の女性が全てを本気で言っているようには思えなかった。
目や声音に少しだけ作られたようなものが感じられる。多分、5分前に店仕舞いをするのが決まりというのは嘘だろう。出禁というのは本気で言っているようだが。
そんな時だった。
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!会いたかったぞ、黒ウサギィィィィィ!」
店仕舞いをしていた店の中から、和服を着た幼女が飛び出してきた。物凄い速度で走り、そして黒ウサギに飛びかかる…………はずだった。
「むほほ〜、この硬さと絶壁のようなまな板が………………うむ?」
和服幼女は何かに気づく。幼女が飛び付いたのは、黒ウサギではなく俺だということに。
ちなみに、黒ウサギは俺を盾にするように後ろに隠れている。
「えらく凹んだのぉ黒ウサギよ」
前言撤回。こいつまったく気づいていやがらねぇ。
俺はイラっとして抱きついている幼女を引っぺがし、地面に叩きつける。
ヘブッという幼女らしからぬ声を上げて地面にへばりつく。
「おいコラ和服幼女。俺を残念駄ウサギと一緒にすんな」
「な、なぜ黒ウサギが罵倒されてるんですか?」
「五月蝿い駄目ウサギ」
「なんか司さんが辛辣になってます!」
そりゃそうだろう。男なのに幼女に胸を弄られる気持ちがお前にわかるのか?
俺は怒りが収まらぬまま、幼女を睨み付ける。
すると、幼女は起き上がって笑顔を浮かべる。
「いやぁ、すまんすまん。ちと間違えてしまったわい」
「間違えるにしてもほどがあるだろ」
「それで、うちの店に何の用じゃ?」
いや、そんなこと俺に聞かれてもねぇ……。そう思いつつ、俺は黒ウサギを見ると、黒ウサギは俺の前に出て幼女に言った。
「今回は白夜叉様に頼みたいことがあるのでございます」
「ほほう、この"サウザンドアイズ"
幹部の白夜叉に頼みとな。ならここで立ち話もなんだろう。入るが良い」
そう言って白夜叉は店の中に消えていった。
………………幹部とか言ってたけど、結局なんなんだあの幼女は。
そう疑問を抱きながら、俺はその姿を呆然と眺めるのだった。
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