孤物語   作:星乃椿

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話を進めると言ったな。あれは嘘だ。
・・・すみません。更新頻度あげるから許してください。


010

 ドラマツルギー。

 エピソード。

 ギロチンカッター。

 

 それが、キスショットから身体の部品を奪った三人の名前らしい。

 

 ドラマツルギーが右脚を。

 エピソードが左脚を。 

 ギロチンカッターが両腕を。

 

 それぞれ奪っていったらしい。

 

 身体の一部を“奪っていく”という表現がなんとも猟奇的で、身体の一部を“取り返して来い”という表現もまるで身体が機械のようで現実味がない。そもそも自分の状況が現実離れしているのだが。

 

 

 一応、3人のそれぞれの特徴を聞きはしたものの、正直会いに行きたいとは思わない。俺はキスショットの眷属。即ち、キスショットの子供であり、分身であり、模造品である。キスショットがやられた相手に叶う道理がない。

 

 当然だが、俺は今まで殺し合いなんてしたことがない。せいぜい喧嘩程度だ。小学生の時にジャイアンポジションのやつらのサンドバックにされただけだが。喧嘩じゃない? 無抵抗という名の抵抗をしていたので喧嘩だ。誰が何と言おうと喧嘩だ。

 

 「な、なぁ、俺戦うのとか無理なんだけど・・・」

 「はぁ?」

 

 なにこの幼女。超怖い。そんなドス利かせた声出さないで。そんな睨まないで。土下座しそう。

 

 「いや、だってよ、自慢じゃないが戦い方なんて知らないし・・・。というか、運動すらしてこなかった身でどうやって戦えばいいんだよ? 銃でもあんのか?」

 「戯け。それはうぬが人間の頃の話じゃろうが。だいたい、鉄砲玉如きであやつらが死ぬわけなかろう。無論。儂もうぬもな」

 「はぁ!?」

 

 なんなの? 銃で死なないってどんな細胞してんの? というか、案の定俺もかよ。傭兵になろうかな。やっぱ怖いから無理。銀の弾丸撃ち込まれちゃう。

そんな俺の驚愕に少女は呆れながら続ける。

 

 「今のうぬはこの儂の眷属(・・・・・・)じゃぞ? この怪異殺しの」 

 「怪異・・・殺し・・・?」

 「そうじゃ。吸血鬼としては最高ランクな上、怪異の王じゃぞ。すごいじゃろ」

 

 自慢げにいってるところ申し訳ないが、どこがすごいのかまったく理解できない。キスショット自身が怪異なのだから、同族殺し。つまり、人間に例えれば殺人鬼ということなのだろうか。うわ。そう考えるとただのサイコパスじゃんこの幼女。

 

 「・・・なぁ。そうなると、怪異の王たるお前を追い込んだあいつらって相当強いんじゃないのか?」

 「そんなわけなかろう。ただ儂が油断してただけじゃ。本来ならいくら3人がかりでも儂を倒すことなんて到底不可能じゃぞ」

 「それでも、不意打ちとはいえ、怪異の王で、しかも万全の状態のお前から手足を奪っていくくらいの力量はあるんだろ? 間違っても吸血鬼に成りたての俺がやり合って勝てるとは思わないんだが」

 

 いくら最強ランクとは言え、自分の力もわからないような、まさに生まれたての俺じゃどうやったて勝てるとは思えない。血の吸い方すら知らないくらいの吸血鬼なんだぞ。吸いたいとも思わないが。

 大体、いきなり実戦で3対1って無理ゲーすぎるだろう。ただでさえ人生ハードモードなのに、吸血鬼に成った途端ベリーハードですか。そうですか。コンティニューはどこですか。あ、コンティニューしてこれでしたね。忘れてました。

 

 「仕方ないのう。不出来な従僕のために儂がとっておきの策を与えてやろうではないか」

 「おお!!」

 「ふふん。よく聞くがよい。一人一人戦えばよいのじゃ!! どうじゃ? 儂の完璧な策は?」

 

 自信満々にいうことが各個撃破かよ。どうやって分割すんだよ。闇討ちか? 俺は気配遮断スキルなんて持ってねぇよ。

 

 「なんじゃその不遜な態度は。どこから見ても完璧じゃろうが」

 「どうやって3人をバラバラにすんだよ」

 「あ」

 

 俺の主様はどうにも頭が弱いらしい。もしかしたら見た目が幼くなると同時に知能が低下してしまったのかもしれない。そうであってほしい。

 

 「仮にも一度は3人と戦ってるんだから戦略とかないのかよ」

 「あるぞ。殴って終わりじゃ」

 「お前はどこの世紀末に生きてんだ」

 

 頭が弱いというよりただの脳筋だった。

 

 「もういい。俺が言いたいのはな、いくら能力が優れていたとしても、経験が圧倒的に足りなすぎるってことなんだよ」

 「そ、それくらい知っておったわ。儂を甘く見る出ない」

 

 そんな彼女を横目に俺は一つため息を吐いた。これ以上話していても恐らく進展はしないだろう。

 

 「キスショット。一旦帰るからここにいてくれ」

 「お? なんじゃ、さっそく行くのか? さすがは我が従僕じゃ」

 

 うんうんと頷いている彼女には悪いがそういうわけではない。

 

 「家に帰って必要なもん取ってくるだけだ」

 「なんじゃ、がっかりさせるでない。そんなもの創ってしまえばよかろう」

 「作ってしまえばって・・・無理に決まってんだろ」

 

 スマホの充電器なんて構造知らないし、お金は作ったら犯罪だ。余談だが、お札をコピー機で印刷しようとすると家の両親が駆けてくるから注意が必要である。

 

 「物質創造スキルを使えばよかろうが。儂はこんな身体じゃから使えんが、うぬの状態なら使えるはずじゃろう?」

 さも当たり前のように告げられたが、物質創造スキルってなんだよ。錬金術師じゃねぇんだよ。

 

 「その物質創造スキルってどうやるんだ?」

 「説明してなかったかのう。そうじゃなぁ。創りたい物を思い浮かべて創るだけじゃ。ぐわーとな」

 

 言われたとおりにぐわーとしてみたり、手を合わせて地面に叩きつけたりしてみたが何も生み出すことができなかった。もしかして彼女は心理の扉を見たのかもしれない。

 

 結局、主に忠誠の証をした後、一人夜の街へと繰り出したのだった。 

 


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