これも皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
今回は非常に短いです。ですが、割と濃いつもり(例の如く脳内補完お願いします)。やっと書きたいところの入り口までこれた。
「で? 話ってなんじゃ?」
初めての青春を味わってから二晩、いや二朝経ったあの日。俺は大事な話があるからと何時もとは違う教室にキスショットを連れだしていた。
「なんじゃ? 愛の告白かの? 生憎儂はそう簡単に靡くような安い女ではないぞ?」などとからかってくるキスショットが正直鬱陶しいと思う俺は悪くないはずだ。
「・・・キスショット。お前は人間をどう思う?」
「なんじゃ藪から棒に。人間なんぞただの
わかりきっていた答え。あの街灯の下ですでに身を持って知っていたことだった。身に余って思い知っていたことだ。
だけど、だからこそ一つ。わからないことがあった。
「じゃあ、お前にとって俺はなんだ?」
「儂の眷属じゃ。それ以下でもそれ以上でもない」
そう俺はキスショットの眷属。でもそれは現在の話だろう。そしてこれからも。何百年もずっとそれは変わらない。
「じゃあ、なんで、なんで俺を眷属にした?」
「じゃから言ったでおろうが。儂の気まぐれじゃと。さっきから一体何なのじゃ? 今日のうぬはどこかおかしいぞ。気でも触れたか?」
たしかに今の俺はおかしいだろう。らしくもなく自暴自棄になって、らしくもなく偽善者を気取って、らしくもなく命を散らして、らしくもなく幼女に従って、らしくもなく何の見返りもない仕事をして、らしくもなく青春を味わって、そしてらしくもなく―――
「お前は気まぐれで
「人間じゃってそうするじゃろう? 儂だってそこまで鬼ではない」
吸血鬼じゃがな。と続ける彼女は狼狽える様に乾いた笑みを浮かべる。
唇から覗く牙がやけに小さい。
「じゃあ、今の俺はなんなんだよ」
「だからさっき言ったでじゃろうが。うぬは儂の眷属じゃと」
「だから。なんで食料が急に眷属に、同等の存在になるんだよ。おかしいだろ。それも600年のうち1度しか眷属を造らなかったお前が、だ。それともなにか? 俺はお前のペットかなにかなのか?」
「違う!」
俺の予想に反して、彼女は感情を顕わにして否定する。
「なにが違う? 人間と吸血鬼ってだけで見た目はなんら変わらない。違うのは化物染みた能力の有無があるだけだろ。なのにお前は数日前の俺は食料で、今の俺は眷属だって言い張る。その理由が気まぐれ? ふざけんなよ」
捨てる様に吐いたその言葉を彼女がどんな風に捉え、どんなことを思ったのかは知らない。
ただ彼女は俯きながらアスファルトを見つめていた。
どれくらい時間が経ったのかはわからない。
漸く見ることができた彼女の目には寂寞と赤くて朱くて紅い雫が浮かんでいた。
「うぬは・・・人間に戻りたいのか? また儂は失敗したのか?」
その言葉が胸を締め付ける。胸が熱く、心臓が張り裂けそうになる。けれど、それでも止めることはない。
「正直、戻りたいか戻りたくないかで言えば微妙だ。この身体は便利だし、働く必要も、余計な
「じゃったら!!」
「でも、心が人間のままなんだよ」
遂に教室の床に朱ができる。
「俺には人間は人間にしか見えないし、食べたいとも思えない」
「なぜじゃ? うぬは人間が嫌いではなかったのか?」
「好きじゃない。だけど食料には見えない」
「いずれ見れるようになる」
「そうかもな。でもそれはきっと大事な人間が死んでからだ」
「それは誰じゃ」
「妹」
「ならば」
「却下だ」
俺と違って小町はいずれ死ぬ。それは変えようのない事実で、それを捻じ曲げるには小町を吸血鬼に、俺の眷属にする以外に方法はない。
けれど、そんなことを小町は望まないだろうし、俺も望んじゃいない。
小町には小町の人生があって、それを捻じ曲げることなど家族ですら許されることではないのだ。
「・・・なぜ妹子にそこまで拘る?」
「家族だからだ。たった一人の妹だからだ」
「家族・・・」
それっきりキスショットは黙り込んでしまった。
もしかしたらキスショットにも兄妹がいたのかもしれない。もしくは遠い昔に造ったたった一人の眷属に思いを馳せているのかもしれない。
やがて彼女は肩を震わせて泣き始めた。
こんな状況というか、本心を吐露することにすら慣れていない口下手な俺がとった行動は彼女の少し成長した小さな身体を抱きしめることだけだった。
そして、優しく頭を撫でた。
「いって」
彼女は泣きじゃくりながら俺の身体に喰らいつく。吸血鬼としてのスキルであるエナジードレインを使わず、がぶりと。
歯形がつくとか、血が出るとかそんな生易しいものじゃなくてそれはもうがぶりと肉を喰らう様に。
噛み千切られて喰らっては再生してまた噛み千切られての繰り返し。
正直めちゃくちゃ痛くてめちゃくちゃ泣きそうである。
けれど、それを我慢して片腕でひたすらに撫でた。
しばらく不毛、というにはあまりに過激で意味のありすぎる行動を続けること数分、いや十数分か。
彼女は漸く口を開いた。
「なぜ忠誠を誓う?」
「お前のたった一人の眷属だから」
「・・・」
彼女はそれっきり何も言葉を発せずに教室の隅で体育座りをして塞ぎ込んでしまった。
「キスショット。今夜の戦いが終わったら妹に、小町に会ってやってくれ。そしたらまた続きを話そうぜ。まだ言いたい事は言えてねぇんだ」
彼女の小さな背中が少し揺れた。
それだけで十分だ。
らしくもなく誰かのために身体を張って、らしくもなく本気で人を想った俺は学園異能バトルのために学習塾跡を後にした。
校庭へ向かう道中、なんだか死亡フラグを建ててしまった気がして少し気落ちしたのは言うまでもないことだった。
最近、八幡の口調があやふやになってきている気がする。これも全部怪異のせい。