孤物語   作:星乃椿

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遅くなってすみません。
10連でアキレウスとケイローンが来ました。
ギルぶりの勝利だ・・・


024

 ーーー痛い。

 体の痛みではない。そんなものはとっくに再生している。

 いや、まぁ、いまだにエピソードに押さえつけられてるし、心臓はともかく、四肢はまだ再生の途中だから痛いといえば痛いのだが、それはそれ。その痛みが感じないくらいの痛みということだ。

 痛むのは脳。まるでそれを拒むかのような嫌悪感。本能的にそれを見てはいけない。いや、見えてはいけないものだと脳が警笛を鳴らしているのだろう。

 なんせそれはーーー

 赤い線、黒い線、青い線、緑の線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線、線ーーーー

 

 視界のありとあらゆる、隅々までが線に覆い尽くされていた。

 眼を閉じてもそれは変わらない。

 そこに線が、”死”があると明確に、痛々しく鮮烈に認識してしまう。

 

 

 「ははっ。超ウケる。お前マジで化けモンだな。何回殺せば死ぬんだよ。まっ、こんだけやっても死なねぇってんなら封印してスポンサー様に売っぱらうだけだけどな。殺すってのが依頼だが、あいつらならどうせ喜んで研究材料にした挙句、(バラ)してくれんだろ」

 「そ、の、スポンサーさ、まってのは、ド変態の、集まり、かよっ・・・」

 「まだ喋る余裕あんのかよ・・・。マジモンの化物だなオマエ。ま、知ってたけどよ。仮にもハートアンダーブレードの眷属だしな。つっても、再生速度はさっきまでとは比べ物にもなんねぇし、死にかけには違いねぇだろ。せいぜい最後の会話を楽しんでろや」

 

 この会話のどこに楽しさがあるのだろうか。少し話しかけられただけでも嬉しくなっちゃうぼっち初心者の頃の俺でもこれは楽しめないと思う。というか、楽しめるやついんの?

 それはともかく、再生速度が遅くなっているのは本気でマズイ。ドラマツルギーと戦っていた時は傷口の断面を見る頃には再生していたものが、今は血が滴り落ちてから治り始めている。

 心臓はすでに再生しているにも関わらず、再生速度が潰された時と変わらない。むしろ、焦りのせいか遅く感じてしまう。

 これが『  』に辿り着いたからなのか、それとも吸血鬼の弱点である十字架のせいなのか、それで心臓を潰されたからなのかは定かではないが、この再生速度では今までのような化物染みた身体任せの特攻はできない。

 まぁ、そもそも何もできずにやられたんですけどね。

 

 「んじゃま、とっとと終わらせてやるよ。恨むんならテメェを吸血鬼にしたあの化物(オンナ)を恨むんだな。んじゃぁ始めるぜ。

−−−As the heavens are higher than the earth,so are my ways higher than your ways and my thoughts than your thoughts−−−」

 

 エピソードは巨大な十字架を前へ掲げ、言葉を紡いでいく。まるで何かに祈るように。

 

 「−−−As the rain and the snow come down from heaven, and do not return to it without watering the earth and making it bud and flourish, so that it yields seed for the sower and bread for the eater−−−」

 

 エピソードの言葉に反応して光りだした十字架に呆気を取られていると、急に伸びてきた鎖に四肢を絡めとられる。

 

 「−−−It will not return to me empty, but will accomplish what I desire and achieve the purpose for which I sent it−−−」

 

 鎖から抜けだそうとしても自然と身体から力が抜けていき、まるで咎人のように十字架に磔にされる。

 

 「−−−the mountains and hills will burst into song before you, and all the trees of the field will clap their hands−−」

 

 エピソードが言葉を紡ぐ度、鎖はより強く締め付けてくる。

 

 「−−−Instead of the thornbush will grow the juniper,and instead of briers the myrtle will grow. This will be for the Lord’s renown, for an everlasting sign, that will endure forever−−−」

 

 「ーーー”Isaias(イザイアス)”」

 

 エピソードが呪文のようなものを言い終わった頃には俺は成すすべもなく、無気力に、無様に十字架に磔られていた。

 

 「ははっ。超ウケる。この俺が聖句を口にするなんてな。コイツは怪異を縛るための封印術でよぉ。本当はハートアンダーブレードに使うためのとっておきだったんだぜ? ま、今回は同業者(ヴァンパイアハンター)ん中にマジの聖職者がいたから使うのを控えてたんだけどよ。アイツの前で使ったら俺まで退治されかねねぇからな。わざわざスポンサー様に教えてもらって、許可取んの超大変だったんだぜ? 十字架(コイツ)にも仕掛けしてもらったりして金も飛んだしな。まぁ、それもチャラになるくらいのギャラは要求するけどよ」

 

 俺を捕えたからかエピソードは饒舌に喋り始める。こっちはいきなり中二ファンタジーなことされて混乱してるというのに。能力バトルしてる時点で俺も中二な気はするが。

 というかなに? 聖職者ってこんなことできんの? 戦争になったら全員聖職者で固めればいいじゃん。ザオリクもできんだろきっと。え? 死ぬ前にザキ撃って終わり? お前ら悪魔かよ。僧侶最低だな。

 

 とまぁ、現実逃避もそこそこにして、現実を見よう。

 奴曰く、”怪異を縛る封印術”とやらのせいで吸血鬼としての力が一切使えない。人外染みた怪力で拘束を破ることも、身体を千切って抜け出すことも出来やしない。

 完全な詰みーーーと奴は思ってるだろう。

 俺自身そう思う。が、しかし。

 さっきまで痛んでいた脳が訴えかける。

 

 ーーー「線を切れ」、と。

 

 鎖に見える紫の線ーーーではなく、十字架に見える赤い線を指先で切った。

 十字架は不格好な鉄の棒と化し、鎖は最初から存在しなかったかのように消え失せていった。

 おかげで地面に頭から落ちた。だって仕方ないじゃん。さっきまで力入らなかったんだから。

 

 「は? てめぇなんで・・・」

 

 唖然としているエピソードに全力で近づき腹を蹴り飛ばす。

 エピソードは苦悶の表情を浮かべながら、ただでさえ鋭い目を怒りに滲ませていた。

 

 「テメエ・・・一体何をした!? ありゃあ怪異を完全に封じるモンだ! 指一本動かせるワケがねぇんだよ!」

 「さぁ? アンタが似非聖職者だからじゃねーの?」

 

 実際、指くらいは動かすことができたから俺の予想も的を得ているのかもしれない。

 まぁ、あの”線”を切らなきゃ終わってたけど。

 

 「ははっ。全っ然ウケねぇ。こうなりゃてめぇが死ぬまで殺し尽くしてやるよ」

 

 そう言ってエピソードは霧に姿を変える。

 恐らくヒット&アウェイで地道にこちらの命を削っていく算段なのだろう。

 だが、俺には見えている。霧の中に蠢いている線が。

 なら、それを切るだけだ。

 霧へ駆け出し、手を伸ばすが、霧に入った途端に切り刻まれる。

 

 「ははっ。何をするつもりか知らねぇけどよ! その程度かすりもしねぇんだよ!」

 

 線を切ろうにも手ではリーチが足りないし、線に触れる前に霧が流動して線の位置が変わってしまう。どうしよう。

 

 「ははっ。超ウケる。やっぱり死にかけか。全然再生してねぇじゃねぇか」

 

 そうなのだ。

 さっき切られた傷がまったく再生しない。それどころか、武器を創造しようにも創造スキルが使えない。

 本当にどうしような、コレ。と、悩んでいるとあるモノが眼についた。

 霧のせいで活躍することが叶わなかった朱槍。

 それを手に取り、全身全霊で投げた。

 

 「はっ。んなもん今更ーーー」

 

 槍先が線を捕えると同時に霧が人型へ収束していく。

 左腕の欠けた人型に。

 エピソードは苦悶の表情を浮かべ、のたうち回っている。

 

 「なんで・・・。その槍じゃ俺を捕らえられるはずねぇのに・・・」

 「知らねぇよ。線を切っただけだし」

 

 いや、本当に腕で良かった。もし首とか胴体と真っ二つだったらトラウマ背負うわ。中学の時のトラウマなんてかわいくみえるレベルの。

 

 「線・・・。そうかてめぇあの魔眼をもってやがったのかよ。くそっ。事前に知ってりゃこんな仕事乗らなかったのによぉ。降参だ」

 「・・・は?」

 「だから、てめえの勝ちだって言ってんだよ。左脚はあのアロハ野郎に渡す」

 

 さっきまで殺意に満ちてたのになんでコイツはこんなにあっさりと降伏宣言しているのだろうか。

 殺し合いが始まる前もバトらなくてもいいとか言ってたし、また罠のつもりだろうか。

 

 「んだよそのツラは。もう戦う気もねぇし、勝てるとも思ってねぇよ。それともなんだ? この国にあるDOGEZAってのすりゃいいのか? ははっ。超イヤだ」

 

 エピソードは超嫌々と地面に頭を下げる。余程嫌なのかひどく不格好だ。

 初めて知った。

 嫌々と土下座されるとすげぇぶん殴りたくなるけど、ぶん殴ったらこっちの負けになりそうな気分になるんだな。

 なんだ、土下座って最強だったんだな。次から絡まれたら嫌々土下座しようかな。

 つーか、ドラマツルギーも土下座してたし、吸血鬼って日本人をなんだと思ってるの?

 

 と、そんなわけで。

 学園異能バトル第二回戦目は色々失って、よくわからない力とキスショットの左脚を得て幕を下ろした。

 




段々と八幡のキャラが迷走してきた。
あと「ーーー」が多くてすみません。
なんか美しくないなぁと思ってたら投稿遅れてしまいました。
ちなみにエピソードの詠唱はイザヤ書55章9節〜13節を引用しました。
格好良く和訳しようと思ったけどエピソードが難しい日本語使ってたら違和感あったのでやめました。別に詠唱が思いつかなかったからじゃないんだからね。本当だからね。

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