これから物語動かしていけるよう精進します。
気が向いたので一筆。とっても短いけど。そして仕事疲れた。
少女は告げた。凄惨な笑みを浮かべて。幼児に似つかわしくない立派な牙を見せつけて。
自分こそがあの死にぞこないの吸血鬼だと。自分こそがキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードだと。
「ちょ、ちょっとまて!! お前は大人だったろ!? なんで子供みたいになってんだよ!?」
アポトキシン4869でも飲んだの? それともなんだ。俺の血液ってそんな危ない効力でもあるってのか。俺献血行けないじゃん。行きたくないけど。
「子供っぽくて悪かったのう」
「いや、そこじゃねーよ」
そこじゃない。というか、子供っぽくてじゃなくて子供そのものだろうが。
「お前手足失ってたじゃねーか。なんで生えてるんだ。それに赤いドレスを着た大人の金髪美女だっただろ。なんでそんな小さくなって・・・」
「質問するなら一つ一つ簡単にせい。・・・まぁ、うぬの混乱もわからなくはないがな。まぁ聞け。あの時、儂は確かにうぬの血を絞りつくした。だがの――」
牙を見せつけ、少女は笑う。揶揄う様に。
「それでも全然足りなかったのじゃ。じゃからそれ相応の姿になっておる。儂とてこの姿は本意ではない。死なぬだけマシじゃがな。とは言え、最低限の不死身しか保てぬし、吸血鬼としての能力のほとんどが制限されておる。・・・不便極まりないのう」
それでも。
死なぬだけマシじゃがな、と彼女は繰り返した。
「死にたくない」
そう泣き叫ぶ彼女が脳裏を過る。
正直実感はわかない。大人の女性を救ったつもりが女児になってるんだ。実感など沸こうはずもない。
けれど、一つだけ確かな真実がある。
俺は彼女を、一つの命を救えたんだ。生まれて初めて誰かを救えた。
そう思った瞬間、俺は思わず彼女を抱きしめていた。
腕の中で喚く彼女が、わずかに感じる体温が、指を通るあの時と変わらない金糸のような髪が、ひどく安心する。俺の選択は無駄じゃなかった。こんな俺でも誰かの役に立てたという事実が嬉しかった。いつの間にか涙が頬を伝っていた。
「吸血鬼パンチ!!」
「ぶえっ!!」
見事なアッパースイングは俺の脳髄を揺らし、間抜けな声をあげて俺の身体は地面に崩れ落ちた。
「従僕の分際で主に抱き着くとは・・・躾のなっとらん犬か。うぬは。・・・まぁ、その涙と忠誠心に免じて特別に、仕方なく、仕方なーく許してやろう。・・・なんじゃその嬉しそうな顔は? このような幼児の身体に踏まれて嬉しがるなど、うぬは底なしの変態か?」
感極まった末に8歳児に抱擁をし、あろうことかワンパンKOされた挙句、罵声を浴びせられながら頭を踏まれることに安堵を覚える高校生の姿がそこにはあった。というか俺だった。いや、覚えたのは安堵であって快楽じゃないからね? いや、本当。
「つーか、さっきから従僕だの、忠誠心だのなんなんだよ。いつから俺はお前の下僕になったんだ?」
「なんじゃ? なにも知らんのか?」
「ああ、何も知らん」
「まったく、無知な従僕を持つと苦労するのう・・・。まずはそうじゃなぁ・・・うぬは一度死んで、吸血鬼として生き返った。それはよいな?」
「いやよくねーよ」
一度死んで、“吸血鬼として”生き返った? そんな与太話、信じられるわけが・・・
「信じられんか?」
彼女の言葉が胸に突き刺さる。否定することができない。
「暗闇でもよく見えるじゃろう? いや、暗闇のほうがよく見えるはずじゃ。先ほど殴られてもすぐ回復したじゃろう? そして、なにより太陽にその身を焼かれたじゃろう?」
「・・・」
思い当たる節がある。どころか、節だらけ。見るも無残な節だらけ。
そういえば彼女は―――『並みの吸血鬼なら一瞬で蒸発しておったぞ』―――すでに俺が吸血鬼であることを告げていた。
彼女の姿に気を取られてすっかり頭から抜けていた。
「・・・俺は吸血鬼になったんだな」
「ようやく理解できたようじゃな。光栄に思うが良いぞ。この儂の眷属になれたのじゃからな。眷属を作るのは400年ぶりの二回目じゃったが・・・うむ。流石儂じゃ。太陽に焼かれてからの回復力を見た感じでは成功した様じゃな」
眷属。
即ち、俺はこいつの一族であり、親族であり、従者だと。彼女はそう言った。今の俺は吸血鬼で、人外で、化物で、人間ではない。
彼女は“比企谷八幡”という一人の人間の命と引き換えに生きながらえた。“比企谷八幡”という人間は彼女により二度目の生を与えられた。
今の俺の家族はこいつだけ。こいつと俺のふたりぼっち。
「ともかく、従僕よ」
少女は笑った。凄惨に笑った。初めて出会ったあの時のように。
「ようこそ、夜の世界へ」