姉妹はプリキュア!   作:琉命

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「たああっ!」

 今度は祐巳が攻勢をしかける。跳躍してピーサードのいるメリーゴーランドの屋根へと舞い戻り、激しいタックルをお見舞いした。その勢いのまま、ピーサードを地面に投げ落とす。

 ピーサードは勢いよく大地に激突し、砂煙が巻き起こる。

 自分で攻撃をしておきながら、祐巳はその凄まじさにまたも驚いていた。

 

「くそ、忌々しい女どもめ!」

 砂嵐が晴れると、ピーサードが恨み節を言い放つ。彼は未だ五体満足だった。

 再び攻撃がくるかと身構える祐巳と祥子さまだったが、しかしそうではない。

 ピーサードは跳躍してジェットコースターの屋根上へと着地した。すると彼はポルターガイスト現象を引き起こした時同様、再び天に両腕を掲げる。

 

「怒れる天空の妖気、ザケンナーよ! 邪悪な心――闇の恐ろしさを思い知らせてやれ!」

 その口上の後、次第に空が黒雲に覆われていく。もくもくと際限なく広がり、現在は動作していないジェットコースターの車両をも包み込んだ。

 そしてようやく黒雲が晴れた時、空は闇に包まれていた。

 そして――。

 化物と表現するほかない、巨大な黒い生物は姿を現す。

「ザケンナー!!」

 恐怖の唸り声がとどろく。図体は大きく、祐巳の背丈の数倍はあろうか。

 化け物はそのままジェットコースターに飛びかかり、そして姿を消した。いや、乗り移ったのだ。

 そして、代わってこの場に現れたのは異様な風貌の黒龍。

 

 それは、さっきまでジェットコースターだったもの。

 それは、さっきまで人々を楽しませるアトラクションだったもの。

 それが、闇に包まれたことで恐怖をもたらす化け物へと姿を変えたのだ。意思を持つ巨大な兵器となったのだ。

 ジェットコースターの化け物は、その大口には鋭い牙が生え揃い、鋭い眼光でこちらを獲物を見つけた虎のごとき表情を浮かべている。そこに、人を楽しませるはずのジェットコースターの面影はない。タイヤ部分は腕となり、鋭い爪を光らせる。最後列の座席だった部分は今は鋭く尖った化物の尾となった。

 二人はその異様な変化の様子を驚愕の表情で見つめていた。

 

「う、嘘でしょ?」

「私は夢でも見ているのかしら……」

 祐巳も祥子さまも、頭上の光景に呆然とつぶやくことしかできない。今までの出来事だって十分非現実的ではあったが、ここまでではなかった。事実は小説より奇なりとは言うが、こんか事実があってたまるものか。

 祐巳はもちろん、祥子さまでさえ、暫しその場に立ち尽くしていた。

「危ない!」

 そんな最中にあっても祥子さまは、黒龍の攻撃の予兆を感じ取ったのかいち早く危機を察知し、庇うように祐巳を突き飛ばした。そのまま祐巳に覆い被さるようにして、地に伏せる。

 直後、黒龍の両目が怪しく煌めきーー放たれるは電磁砲。祐巳のいた場所に、凄まじい破壊力をもつそれが二人の元へと降り注いだ。

「きゃあああああッ!」

 ふたりの悲鳴がその場に轟き、ピーサードは喜びに打ち震える。大地すらも削る威力の攻撃だ。無事では済まないだろう。

「はははははっ! いいぞ、ザケンナー!」

  その強さを見て余裕を取り戻したピーサードは、再び勝ち誇ったように、狂ったように笑っている。

 

「はぁ、はぁ……大丈夫?」

「は、はい。あの、祥子さまは……?」

「私も大丈夫よ」

 しかしピーサードの思惑に反し、二人は無事であった。無傷とはいかないまでも、あの凄まじい威力の攻撃を考えれば上々である。

 惚けている中でも危機を感じ取った祥子さまのおかげで、重傷を免れた。

 祥子さまって、やっぱりすごい。祐巳は改めて祥子さまへの尊敬の念を深めたのだった。

 

「くっ……何なの、あの攻撃は!」

「ど、どうしたら……」

 とはいえ、あれほどの攻撃を目の当たりにして、祐巳も祥子さまも対抗手段が浮かばない。手をこまねく祐巳たちに、黒龍の追撃はなおも続く。

 ジェットコースターの車輪--今は数倍ほどまでに肥大化している上に無数の棘が付いている--を、祐巳たち目掛けて容赦なく飛ばしてきた。車輪は高速回転しながら容赦なく二人を襲う。跳躍してなんとか回避に成功したが、車輪は対応もまた素早かった。二人が回避したことで、後方へと飛んで行った車輪がまるで意思を持っているかのように祥子さまの背後から再び迫ってきたのだ。

 それに早く気が付いたのは、今度は祐巳だった。祥子さまから少し離れた場所に着地していた祐巳の目は確かにそれを捉えていた。

 

「祥子さま、後ろっ!」

 このままでは危ない。瞬時にそう感じ取った祐巳は端的に叫んだ。

「きゃあっ!」

 しかし、遅かった。祐巳の声で再度攻勢に転じてきた敵に気が付いた祥子さまは、咄嗟に両腕を胸の前にクロスして防御態勢を取ったものの、堪えきれずに、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「祥子さま!だ、大丈夫ですか!?」

「え、ええ。ありがとう」

 

 小さく笑顔すら見せる祥子さまに、祐巳は一安心する。

 変身したことで、身体能力が向上しただけでなく、身体そのものがかなり頑丈になっているらしかった。そうでなければ、あの攻撃で祥子さまは重傷を負っていたはずだから。

 しかし、事態はちっとも良くなっていない。黒龍に攻撃が通っておらず、ダメージを与えられていないのだ。助かった二人に再び魔の手が迫る。今度は車輪ではなく本体が、直々に攻撃をすべく襲ってきた。

「さ、祥子さま……」

「ええ、これは少しまずいわね……」

 この危機的状況に、二人は怯えて身を寄せ合う。祐巳は祥子さまの腕にすがりつき、恐怖に打ち震えた。

 もうだめだ。自分なんかが戦えるわけがなかったのだ。

 

 諦めかかった、その時。

 祐巳の腰に装着されたポーチ--正確には、変身と同時にそこに収納されたメップルさんが、暴れはじめた。何かを伝えたがっているのかもしれないと、祐巳は藁にもすがる思いでメップルさんを取り出す。

「二人で手をつなぐメポ!」

 ようやく発言出来る環境に戻ったメップルさんは、開口一番にまたそんなことを言った。

 

「えっ?」

「こ、こんな時に何をっーー」

「いいから早く繋ぐミポ!」

 メップルさんよろしく祥子さまのポーチから取り出されたミップルさんも、やけに急かしてくる。

 どうしたものか、と二人で顔を見合わせる。そして祥子さまが溜息をついてから先に口を開いた。

「……手を出して」

「さ、祥子さま?」

「ミップルたちの言う通りにしてみましょう。もしかしたら希望がみえるかもしれないわ」

「は、はい!」

 

 ぎゅっ。

 強く、硬く、祐巳は祥子さまと手を繋いだ。

 たったそれだけで祐巳の内なる恐怖は払われ、すっと心が晴れる。

 祥子さまと繋がるこの手だけは、ほんのりとぬくもりを帯びている。それが祐巳をここまで安心させた。

 祥子さまと手を繋いでいれば、なんだって出来る気がした。

 そう、祥子さまとなら、あんな怪物だって倒せるんだ。

 ぎゅっと手を強く握ると、祥子さまの手にも力が込められる。

 

 さあ、あの化け物を、倒そう。

 もはや祐巳の意思は確固たるものとなり、不思議と自信に満ち溢れていった。あんな途方もない化け物でも、祥子さまと一緒なら勝てると、何の根拠もなく思ったのである。

 そして祐巳は祥子さまと繋がっていない方の手を空に掲げ、祐巳は絶対の意思を持って。祥子さまも、同様に空いている手を翳す。

 そして二人は思いのままに--叫ぶ!

 

「ブラック・サンダー!」

「ホワイト・サンダー!」

 二人の声が同時に空へと響き――天より黒き稲妻と白き稲妻がそれぞれの手に飛来する。落雷ではない。二人が行使する力として、今ここに舞い降りたのだ。

 

「プリキュアの美しき魂が!」

「邪悪な心を打ち砕く!」

 

 ぎゅっ。

 改めて互いに手を繋ぎ直し、狙いを定める。

 

「「プリキュア・マーブル・スクリュー!」」

 

 二人の掌から黒と白の稲妻が黒龍目掛けて迸る。黒と白の稲光は祐巳と祥子さまつながった手を介して混ざり合い、その威力は更に増していく。

 聖なる稲妻はそのまま闇に包まれた黒龍の身体を射抜き、その絶叫とともに闇が払われる。

 光が消える頃には化け物の姿は消失し、ただのジェットコースターだけが当たり前のようにそこに在った。

 

「ゴメンナー、ゴメンナー……」

 ジェットコースターに取り憑いていた闇に包まれた生物--ザケンナーが幾百の小型の生物に分裂し、あちこちに飛散していく。たくさんのゴメンナーとなってそれぞれ別れ、散り散りに逃げていった。

 

 その様子を見て、祥子さまがつぶやく。

「終わった……のかしら?」

「み、みたいですね……」

 祥子さまの一言で、張り詰めていた緊張が一挙に解ける。そのまま祐巳は腰を抜かして地にへたりこんでしまった。ただの女子高生だった祐巳がここまでの戦闘を繰り広げていたのだ。精神と身体の疲労からか、その双眸にはうっすらと涙を湛えている。

「良かった……」

 祐巳は心の底から安堵する。

 本当に、一時は大袈裟でなく死ぬかと思った。ごく普通のありふれた学生と自負している通り、今迄そうした危機に遭遇したことなどなかった祐巳だから、その恐ろしさを身を以て実感した。

 

「……あの方ももうどこかへ行ってしまったようね」

「あ、そ、そういえば、いませんね」

 

 件の化け物を生み出した元凶、ピーサードも気付けば姿を消していた。最後の奥の手だったであろうザケンナーを打ち破られ、逃げていったのだろうか。

 事実は定かでないが、祐巳はとにかくようやく戻った平穏に浸っていたかった。だから、ピーサードの事は意識の埒外に置いておくことにした。

 祐巳たちを襲う敵はもういない。戦いは終わったのだ。

 

 ポーチにはいったメップルとミップルが、再び二人の腰元で暴れはじめた。それを見た祥子さまが訝しげにつぶやく。

「出してほしいのかしら?」

 ポーチを開封すると、即座にメップルとミップルが飛び出してきた。

 

「メップル~!」

「ミップル~!」

 ポンッ! と気の抜けるような音とともに、メップルさんとミップルさんはその全身をあらわにした。実体化、というのが最もふさわしい表現かもしれない。まさしくその顔のイメージ通りの小動物の姿。丸いしっぽがかわいいと、祐巳はふと思った。

「ずっと会いたかったメポ~」

「私もミポ~」

 二人は頬を擦りあわせて再会を喜んでいる。一年に一度だけ相見えることができる織姫と彦星のごとき喜びようだ。

「結局、この子たちはどういう生き物なのかしら」

 完全に二人だけの世界へと入り込んでしまったメップルさんとミップルさんを見て、祥子さまが溜息まじりに言った。

「もう、訳がわかりません……」

 

 流石に我慢の限界に達したか、祥子さまはいい加減にしろとばかりに咳払いした。

「お取り込み中大変心苦しいのだけど、説明してほしいことがたくさんあるの。教えてくれるわよね?」

 祥子さまの言う通り、今はわからないことが多すぎる。なにやら知っている様子だったメップルさんたちを問い詰めるのは当然の流れだろう。

「君たちは、プリキュアのパワーを授かったんだメポ」

「プリキュア……私たちのことね」

 理解の早い祥子さまに、焦りながらも祐巳は思い出す。そういえば変身するとき、無意識にプリキュアがどうとか口走っていたような気がする。

 

「これから二人には、光の戦士プリキュアとして私たちと一緒に戦ってほしいミポ」

「戦うー!?」

 この平和な島国日本にいれば普通はあり得ない言葉に祐巳が驚いて声を上げる。ごく普通の、大した取り柄もない、ザ・平均点の祐巳が戦うだなんて、そんなのありえない。

「僕たちのお世話もしてほしいメポ!」

「これからもよろしくミポ!」

 しかし、そんな祐巳の内心の思いをよそに、メップルさんたちはすでに乗り気になっている。断られるなんて全く想像すらしていなさそうな様子だ。

「……どうして、私たちがそんなことをしなくてはいけないのよ……」

 

 祥子さまは心の底から溜息を吐き出す。

 このよくわからない生き物を相手に、流石の祥子さまもたじたじなのご様子だった。

 

 ――

 

 あれからだいぶ時間が経っていたようで、気付けば辺りはすっかり暗くなっていた。変身も解け、例の露出度の高い衣装も元の制服に戻っている。

「さて、帰りましょうか」

「は、はい!」

 あんな戦いを繰り広げていたのに、祥子さまは優雅に黒髪を靡かせながら歩きだす。

 そのまま歩いて帰るのかと思いきや、そこは祥子さま。祐巳のような似非お嬢様とはワケが違う。近くの公衆電話の受話器を取ると、なにやら話し始めた。どうやら、ご自宅から車を迎えに来させるらしい。流石である。

 祥子さまがお家にご連絡を取っている様子を端から見つめながら、祐巳はやはり自分とは住む世界が違う、と改めて感じた。

 

「貴女、ご自宅はどちら?」

「え?」

 そこに、通話を終えた祥子さまに声をかけられる。

「もう暗いから、ご自宅まで送るわ」

「えええええっ!」

 祥子さまからのまさかのお誘いに、祐巳は今日一番の大声を上げた。祥子さまのお車に同車させていただけるなんて、と。自分なんかがおこがましいとも思ったけれど、ここで断るのも失礼というもの。

「あ、あの、私なんかが、ご一緒してもいいんですか?」

「なんか、って。一緒に戦った仲じゃない。遠慮しなくていいわ。……」

 言葉の途中で口を閉ざし、うーん、と、祥子さまはなにやら考えるそぶりを見せた。どうしたのかな、やっぱり気が変わってしまったのかな、って思っていたら。

 

「ーーそういえば、貴女のお名前を聞いていなかったわ」

「あっ」

 思わぬ祥子さまの台詞に、祐巳は頭が真っ白になった。

「も、申し遅れました! 一年桃組、福沢祐巳ですっ!」

 慌てて自己紹介をして、祐巳はペコペコと頭を下げ非礼を詫びる。祥子さまに名すら名乗らずに、あわよくば祥子さまのお車に乗せてもらおうなどと考えていたのだ、祐巳は。

 ああお許しくださいと必死に謝り続ける祐巳をみて、祥子さまは何を思ったのだろうか。無礼な下級生だとお怒りになったわけではないだろう。だって、祥子さまはくすくすと笑いだしたから。

「ふふっ、面白いわね、貴女」

「え、ええっ!?」

「一緒にいて飽きなさそう」

 それは褒め言葉として受け取ってもよろしいのでしょうか、祥子さまっ!?

 なんて突っ込みは、もちろん心の中だけにとどめておく。

 暫く、口許に手を当てて上品に笑っていた祥子さまだったけれど、それが治まってきた頃合いに、きりと表情を直して祐巳に向き直った。

 

「ねえ……私たちは不本意ながらも、プリキュアになったのよね。

「は、はい。私なんかでお役に立てるのか分からないですけど……」

「そんなことないわ。これからよろしくお願いね、祐巳ちゃん」

 そう言って差し出される祥子さまの御手。

 --祐巳。

 家族から毎日呼ばれている自分の名前なのに、祥子さまに呼ばれるとなぜかドキドキした。祥子さまに名前を呼んでもらう。ただそれだけのことで、今日一日は祐巳にとって幸せな日となった。

「は、はい! よろしくお願いします!」

 自分なんかがおこがましいとか、そんな思いは忘れて、ただこの幸せな気持ちに浸っていたいと思った。

 だから、祐巳は祥子さまの御手を握りがっしりと握手を交わしたのだった。

 




第1話終了です。
書き溜め分なくなったので今後は不定期更新となります。
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