大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第18話  南西方面戦役 その1

 今日は朝からゆきに呼び出されていた。朝食後に執務室に行くと、腕を組んで厳かな様子のゆきが待ち構えていた。

険しい表情。それに何より武蔵が凄い表情をしているのだ。

何時ぞやのオイルバレルが来た時みたいな……。

 

「……大和。待っていたよ」

 

「は?」

 

 腕を組んだまま、ゆきは話を始める。

 

「大和。君に極秘任務がある。口外厳禁であり、もし漏れた場合は厳重な処罰を下さなければならない」

 

 なんでこんな風に話しているんだろうな。そんなことを考えつつ、俺は腰に手を当てる。

 

「拒否権は無い。良いね?」

 

 指をパチンと鳴らしたゆきに呼応し、武蔵が俺に書類を渡してきた。

 書類の内容は、海域掃討作戦。ただの出撃だ。

俺は首を傾げつつ、ゆきにどういうことかと訊いた。

 

「……海域掃討任務。南西諸島ね。俺みたいな資源を大量消費する艦をこんなところの掃討任務に投入してもいいのか?」

 

「うん。問題ない……」

 

 うわっ……。どっかで見たことあるようなセリフを、どっかで見たことあるような格好で言った。

なんだ? ツッコミ待ちなのか? まるで・駄目な・おっさんもとい、まるで・駄目な・お姉さん。略してマダオってか?

 

「分かった。行ってくる。それで、編成は?」

 

 スルーすることにした。相手するのも面倒だしな。

 

「大和を旗艦に据えた艦隊。傘下は伊勢、足柄、夕張、夕立、赤城。じゃあ、第一会議室でブリーフィングがあるから」

 

「へいへい。じゃあ、行ってくるよ」

 

「いってらっしゃーい!」

 

 結局、最後まで持たなかったみたいだな。ま、スルーしていたから別に良いけど。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 第一会議室に付き、俺は何も考えずに部屋に入った。

 

「うぃー……す?」

 

 ま、海域掃討任務だ。気を抜いていこうと思ったのだが、どうも変だ。空気が。

よく考えてみれば、ここに来ている艦娘は足柄以外とは初対面だな。

多分、空気が変なのは足柄以外から感じる緊張感だと思う。

 

「こんにちは、大和くん」

 

「おう」

 

 別に巷で言われているような人でもないし、普通に接しても良いだろうな。というのが、俺の足柄への評価だ。

 他の艦娘はどうだろう。遠目では見ていたかもしれないが、俺は他の4人との話をした記憶がない。

 

「話は訊いてきているわよね?」

 

「もちろん。けど、ゆきが変だったな。変なのはいつものことだけど」

 

 俺の部屋の前に居た時とは、格好が変わっていた。あの時は見慣れた服だったが、今日は違う。

多分、改二になったんだろう。

 

「……碌な説明もしなかったのね、提督は」

 

 俺を少し見て、足柄はそう言った。確かに碌な説明もしてもらえなかったが、どうしてそれが分かったのだろう。

変な観察眼があるんじゃないか、とか疑い始めていたが、足柄が教えてくれた。

 

「たまたま執務室の前を通りかかった時に、聞こえたのよ。……はぁ。私はちゃんと聞いたから教えるわね」

 

 なんだろう。物凄くお姉さんしているな。

ウチの誰か(大和)とは大違いだな。

 

「今回の目的は海域の掃討。輸送船の航路上に出現し始めた深海棲艦の排除よ。通例ならば水雷戦隊編成でやるものだけど、今回はそういう訳にはいかないみたい。南西諸島海域に重巡やら戦艦やらが出てきているみたいなの。未確認だけど空母もいるとか。だから、この掃討任務に出される艦隊がこれだけの編成になっているっていう訳」

 

「なるほどありがとう」

 

「いいえ。じゃあ、初めて顔を合わせる者同士で挨拶くらいはしておきなさいよ」

 

 やっばい。どうして足柄こんなにお姉さんなんだろう。ウチの(大和)と変えて下さい。

 くだらんことはこれくらいにしておいて、初見の艦娘に挨拶をしておく。

俺的には姿も性格もしっている相手だが、あっちは知らないだろう。それに、知らないものだと皆からの認識もある。ここは足柄の言う事を聞いておいた方が良いだろうな。

 俺は手始めに伊勢に話しかけた。

 

「伊勢、で良いんだよな? 俺は大和、よろしく」

 

「うん! 伊勢でいいよー! よろしくねっ!」

 

 やっぱり元気な感じだったか。

 

「ねぇ、ちょっと訊いても良いかな?」

 

 何を話そうか、と考え始めた時に伊勢が話を切り出してきた。

 

「ん?」

 

「日向がさ、ゴッテゴテでチカチカする瑞雲を用意していたんだけど……。あ、日向って私の姉妹艦ね」

 

 何が訊きたいのか分かったから、俺は懐からそのゴッテゴテでチカチカしている瑞雲を出した。

 

「これのことか?」

 

「やっぱり……。受け取らないでねって言おうと思ったんだけど、受け取ってたかぁ~」

 

 アチャーと言いたげな身振りをした伊勢が、俺の手から瑞雲を持っていった。

 あの日から、ゆきに瑞雲のことを聞いてはみたが、搭載を認めないと言われていたから返そうと思っていたのだ。

オブジェとしてもゴッテゴテのチカチカだからな。正直、目が痛い。

 

「ごめんねぇ……」

 

「別に気にしてない。日向だって善意でやったんだろう?」

 

「そうだと思うんだけど、航空戦艦じゃない大和くんに渡したところでどうしようもないじゃない?」

 

「もちろん。持っているだけだからな。俺は紫雲を飛ばしている」

 

 要らないのなら、日向に返しておくと伊勢は言ったが断って置いた。日向の善意も無碍には出来ないからな。

それを言うと、心底伊勢は驚いた表情をする。俺の返答に驚いているんだろうが、今までどんなんだったんだろうか。

 

「ま、まぁ、大和くんが良いならいいよ」

 

「そうか? じゃあ」

 

 そう言って俺は伊勢から離れていく。一通り挨拶をするつもりだからな。

 次は夕張だ。

夕張に関しては、あまり危険は無いと思う。巷であるような性格だったの話だが。

 

「よろしく頼む」

 

「えぇ、よろしく。私は夕張よ」

 

「俺の自己紹介は良いだろう?」

 

「もちろん」

 

 夕張が手を出してきたので、俺は握手だと思って手を取った。

どうやらそのつもりだったみたいだが、ほんのり顔が赤くなっているのは気の所為だろうか。そうだろうな。うん。

 

「私は足が遅いってよく言われるけど、頑張って付いていくから!!」

 

「あー、それ……」

 

 よく言う話だ。夕張の足が遅いというのは、水雷戦隊編成の時に夕張を入れると遅くなるという話だ。

航行速度はそこまで遅い訳じゃない。標準的な速力を出していたと思う。

 

「別に気にしない。俺の方が断然遅いから」

 

「そう? ありがとう!」

 

 なんていい笑顔をするんだろう。夕張の笑顔が眩しい。

この世界に来てからこの方、下心が見えている笑みしか見てこなかった。こういう無垢な笑顔って良いな。最高。

俺まで笑顔になってしまう。

 

「んじゃ」

 

「えぇ!」

 

 次は夕立だ。どうだろうな。見てくれから察するに、改二になっているんだろう。

髪の癖も絶妙に犬耳だ。犬耳だ。重要だから2回言った。

尻尾生やしたらもう犬だな。

 

「よろしく」

 

「うん! 私は夕立。よろしくね!」

 

 うん。犬だ。

犬耳に見える髪がぴょこぴょこ動いている。何だか頭をなでたくなる衝動に駆られるが、ここは我慢だ。

初対面でいきなり頭撫でとか、嫌われるコース一直線だからな。

 

「……大和、私のこと犬っぽいって思ったっぽい?」

 

「そう思うっぽい?」

 

 感は冴えているみたいだな。それとも、今までの経験則か何かか。

 

「まぁ……そうだな」

 

「そう?」

 

 小首を傾げるその姿は可愛らしいんだが、一応初対面だから警戒しないわけには行かないな。

 

「なんにせよ、よろしくな」

 

「うんっ!!」

 

 あぁ。どうして大和はあんな風になってしまっているのだろう……。武蔵も然りだけど。

 それは置いておいて、次は最後だ。

赤城。これはもう完全に安牌だろ。疑う余地なし、意味なし。

絶対、大丈夫っ!

 

「よろしくな」

 

「私が最後でしたか。……はい、よろしくお願いします。私は航空母艦 赤城です」

 

「あぁ。頼りにしている」

 

 うん。表情が笑顔のままだ。

やっぱり、赤城はまともだったか。こういう人材は嬉しい限りだ。

 

「私も頼りにしていますよ?」

 

「ん? どういうことだ?」

 

 いろんな意味を込めて『頼りにしている』と言ったんだが、赤城はどういう意味で俺を頼りにしているんだろうか。

俺はこの鎮守府でも練度は下の方だし、そこまで強いとは思えない。それを考えると、何を頼られているのか、さっぱり検討が付かないのだ。

 

「戦闘になると、皆さん前に出ていってしまいますからね。大和さんは全体を見て、よく空母護衛に残るとか……。そういったところを、です」

 

「あぁ……。分かっている。空母を守らなけりゃ、自分の頭上だって守れない。当然のことだ」

 

 何だか赤城の顔が真っ赤になった気がするが、この際気にしないでおこう。

それにそろそろ出撃の時間だ。

俺は全員に声を掛け、海に出ていくことにした。

 




 久々の投稿です。前回と同じことを言いますけど、投稿の間隔が約1ヶ月になってます。
これはまぁ、はい。

 ということで題名からも分かるような内容になります。
ちなみに本編みたいなアレではありません。

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