大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第20話  南西方面戦役 その3

 

 俺たちの艦隊を代表して足柄が、近海を同じ目的で航行中であろう呉第三九号鎮守府と佐世保第四四号鎮守府から派遣されている艦娘との簡易的な混成艦隊を組むことを提案している間、他の俺たちは艦隊の陣形を整えていた。

今までも陣形は乱雑で、そもそも陣形と言って良いのか分からないものだったので、整える必要があったのだ。その間、配置で揉めたりしたけど……。

複縦陣は決定事項だったのだ。問題というのは、俺の横を誰が航行するのか、ということだった。

 揉めているのは伊勢と夕立。

伊勢の意見は『戦艦同士だし、左右で火力の均衡が取りやすいから』。夕立の意見は『護衛対象が近い方が何かとやりやすいから』。

どっちも筋は通った意見ではあるが、それでも夕立の意見は少し力が足りなかった。この時の護衛対象というのは、俺と赤城。

赤城の方が優先度的には高いはずなのに、どうして俺の横を航行する必要があるのか、だ。その意見を出すのなら、赤城の横を航行するのが正しいのだ。

 

「私が大和くんを守るから、年増は大食艦でも守ってろっぽい!!」

 

「赤城さんに対してそれは失礼過ぎるでしょーが!! 戦闘になった場合、私と大和くんが並んでいた方が何かと良いのよ!!」

 

 そしてそんな言い争いに巻き込まれる赤城だった。

 そんなこんなしているといい加減に足柄が怒り出し、伊勢の案を採用することになった。夕立は『ぐぬぬぬ』といいた気な表情をした後、指定されたポジションに着く。

今の航行序列はこうだ。先頭左が夕張。右が足柄。中央左が伊勢。右が俺。後方左が赤城。右が夕立となっている。

これで収まり、陣形を整えた頃には足柄の方でも他の鎮守府から派遣されている艦隊との連携の話も終わったようだった。

 

「さぁーて、さっさと補給路の安全を確保して戻るわよー!!」

 

「「「「おぉーー!!」」」」

 

「おー」

 

 妙に気合の入った艦隊が、南西方面の海域を航行していくのであった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 一度、周辺を航行している艦隊と合流し、話をすることになった。

どうやら担当海域を決め、散らばることにしたみたいだ。3つの艦隊の旗艦が話をして決めたことなんだろう。

 一応、安全の確認が取れた海域に集まることになった俺たちは、その海域に到着しようとしていた。

既に遠方に艦隊のそれらしき姿が見えており、赤城の飛ばしている偵察機からも艦種の特定は済まされていた。

 

「遅れてごめんなさい。呉第ニ一号鎮守府派遣艦隊の足柄よ」

 

 と爽やかな笑顔で自己紹介をした足柄だったが、残念ながら集まっている艦娘たちはそれどころではないみたいだ。

 

「第一目標を発見したわ」

 

「現海域で必ず撃沈し、回収していくわよ」

 

 なぜなら、どちらの艦隊の旗艦も俺の方しか見ていないからだ。

目が怖いな。うん。

 

「早く担当を決めないの?」

 

「それどころじゃないわ!! あの、私は呉第三九号鎮守府所属の飛鷹っ!! よろしくね!!」

 

「あっ!! ずるいっ!! 私は佐世保第四四号鎮守府所属の祥鳳です!!」

 

 足柄を完全スルーした呉第三九号鎮守府の艦隊の旗艦である飛鷹と、佐世保第四四号鎮守府の艦隊の旗艦である祥鳳は俺に詰め寄ってきた。

男だからってそういう風になるのも分かるが、違和感を持ったらどうなんだろうか。普通は艦娘だなんて思わないだろうに。

それはともかくとして、だ。無茶苦茶近づいてくるんだけど、この2人。それにその連れの艦娘たちもジリジリと俺に近づいてきていた。怖い。普通に怖いから……。

 

「はいはい、近づかないでね~。でないと、私……」

 

 そんなにじり寄ってくる12人の艦娘と俺の間に、伊勢はスッと入ってきた。

無茶苦茶いい笑顔をしているが、その後の行動にかなりのギャップがあったのだ。

 

「貴女たちをここで切り捨てることになるから……さ」

 

 ひょええぇぇぇぇ!! 伊勢こっわ!! 伊勢こっわ!!

今、眼にも止まらぬ速さで艤装の刀を抜いたぞ、この艦娘!! 抜刀術か何かかよ!!

 それはともかくとして、この伊勢の対応はゆきから命令されていることなんだろう。

もしかしたらゆきは、この任務は他の鎮守府からも艦隊を派遣されている可能性があるだろうから、ということを予測していたんだろう。

恐るべし、ゆき提督……。

 

「何よ!! 貴女だって近づいているじゃない!!」

 

「そうですよ!! まさか海の上で男に出会えるなんて奇跡よ!! それなのに、邪魔をしてぇぇ!!」

 

 そんな伊勢の脅しをもろともせずに、飛鷹と祥鳳以下10人の艦娘たちが更ににじり寄ってきた。

そんな艦娘たちから俺を遠ざけるために、伊勢は俺の肩を押したのだ。もっと距離を取れってことだろう。口を開かず、12人を威嚇しながら俺を遠ざけるために。

そして、開いた隙間に足柄たちが入ってきた。4人で壁を作ったのである。

 そんなことをしても尚、12人の勢いはとどまることを知らない。

数で有利ということもあり、更に押してきたのだ。俺との接触を図るために。

 

「あぁぁぁぁ!! 男に触れたわよ!!」

 

「ずるいずるいー!! 私も触りたいっ!!」

 

「「「「そーだ!! そーだ!!」」」」

 

 ちゃくちゃくと俺の防衛戦が構築されていくが、そもそもこうなったのには理由があった。

南西海域の輸送路の安全を確保するためだ。そのために派遣されている艦隊同士なのだから、協力しなければならないだろうに。

 

「……おい、取り敢えず担当を決めないか?」

 

 そう俺が言うと、騒いでいた17人は口を閉ざす。

取っ組み合いに発展しかけていた夕立たちも動きを止め、俺の方に耳を傾けている。

 

「そうね。じゃあ、私たちは輸送路を航行していくから、貴女たちの艦隊はそれぞれ左右に展開して、間を取って同じく輸送路を航行しましょうか」

 

「それが良いな。じゃあ決定ということで、解散っ!!」

 

「「「「「応っ!!」」」」」

 

 俺がそう言ったのに上手く乗った足柄と伊勢たちに合わせて、俺たち呉第ニ一号鎮守府の面々は一斉回頭。直ぐに輸送路へと向かうことになった。

そんな様子を見ていた飛鷹や祥鳳の艦隊も少し遅れて動き出し、足柄が指示した通りの航路へと向かっていった。かなり不満そうな表情をこっちに向けていたが、請け負った任務を果たさずに帰れば、お小言を言われるのが自分自身だってことは分かっていないのだろうか。俺たちはそれを止めたというのに……。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 南西海域を南下しつつあるが、さっきから赤城の偵察機が深海棲艦の艦影を確認していた。と言っても、遠方を航行している水雷戦隊程度の深海棲艦の艦隊だが。

そこまで脅威にはならないし、輸送路を維持しているこの海域の泊地の艦娘たちが掃討してくれるだろうから問題無いだろう。

 妙な緊張感の中、俺たちは輸送路を航行していた。

私語はあるがそこまで騒がしくなく、定期的に入る左右に展開している艦隊からの提示連絡を全体に通達する時や、赤城の偵察機の情報を通達する時は静かになるのだ。

 

「……そろそろ例の艦隊が確認された海域よ」

 

 その足柄の言葉に、艦隊は妙な緊張に包まれた。

この辺では出没することが全く無いと言われていた大型艦が主体の艦隊。それがこの辺りで近頃確認されていたのだ。

 緊張がいい具合に俺たちを包み込んだその時、遠方で爆発音が轟いた。

その方向を一斉に確認すると、大きな水柱が立っていた。誤射を誰かがしたのかもしれないが、この海域に展開している艦隊でアレだけの水柱を作ることが出来るのは俺か伊勢の主砲だけ。

そして俺も伊勢も誤射はしていないとなると、あの水柱は誰が作ったのかが明白だった。

 

「目標発見ッ!! 10時方向ッ!!」

 

 伊勢が叫ぶ。それに呼応して、全体に足柄が指示を出す。

 

「これより艦隊戦に入るわッ!! 左翼に展開している佐世保第四四号鎮守府の艦隊と合流し、深海棲艦を撃滅するわよッ!!」

 

「「「「「応ッ!!」」」」」

 

「艦隊回頭、取舵60度ようそろ!! 大和に合わせて最大戦速で向かうわッ!!」

 

 艤装が熱を発し始める。速力を上げて、該当海域へと向かうのだ。

艦隊は回頭を始め、今は数本立っている水柱の方向へと向かう。

 戦闘用意を指示した足柄は、佐世保第四四号鎮守府の祥鳳に連絡を取っていた。

だが足柄の様子を見る限り、状況が分からない。混乱しているのだろうか。

 

「祥鳳!! 状況を教えて!!」

 

 そう叫んでいる。無線機で通信を呼びかけているんだろうが、応答が無いのだろうか。

 

「祥鳳ッ!! ……2番艦の多摩なの? 状況は?」

 

 どうやら佐世保第四四号鎮守府の艦隊の軽巡、多摩が応答したらしい。

足柄は多摩から情報を聞き出していくが、どういう状況なのかは俺には分からない。だが、それはすぐに俺たちに伝えられた。

 

「祥鳳が被弾したみたい。大破して戦闘続行不可能で、他にも小破とかが居るから佐世保の艦隊は撤退を始めているらしいわ」

 

 それは分かった。

重要なのはここからだ。

 

「深海棲艦の艦隊編成を特定してくれていたみたい。……戦艦2、重巡2、駆逐1、空母1よ」

 

「ヘビーな編成だな……」

 

 それが聞きたかった。どうやら本当に大型艦で編成された艦隊だったらしい。駆逐艦は紛れ込んでいるが、それでも5/6が大型艦。

下手したらこっちも無傷ではすまないような相手となると、自然と輸送路を航行していた時の緊張感とはまた違った緊張感を肌で感じざるを得なくなっていた。

肌にビリビリとくる緊張感は、俺が今までに味わったことのない緊張感。艦隊の皆も、自然と顔が強張っていた。伊勢も眉間にシワを寄せて、真剣な表情をしているのだ。

 

「……第一次攻撃隊、発艦開始ッ!!」

 

 後方で赤城が攻撃隊の発艦を始めたみたいだ。もう航空戦に入るというのだろうか……。

俺は背後から赤城の弓矢で発艦していく航空隊を見上げて、少し気を落ち着かせる。

 この世界に来て痛い思いをしたことはなかった。今まではほとんど北方の掃討しかやってこなかった。小型艦の相手ばかりをしていたから、大型艦とやり合うのは初めてなのだ。

そんな初めてを目前に、俺は落ち着いてなど全く居られなかった。

ここに来て、俺は初めて『死ぬ』という言葉に直面していた。

自分よりも遥かに小さい小型艦を相手に負ける気はしないが、自分と同じ大きさであろう深海棲艦が相手となると話は別だ。一撃で艤装に大穴を開ける主砲を持ち、強硬な装甲板を艤装に仕込んでいる大型艦は、幾ら俺の艤装よりも貧弱であったとしても、攻撃の威力は小型艦とは段違いだ。それで『沈む』ということを考えると、俺は底知れぬ経験のない恐怖に、今更ながら怯え始めていたのだ。

 そんな俺の様子にいち早く気付いたのは、真後ろを航行していた夕立だった。

序列を動かずに、俺の背後から声を掛けてきたのだ。最初は俺の様子がおかしいことを聞き出そうとしたのかもしれない。

 

「大和くん、どうしたの?」

 

「い、いや……」

 

「っ?!」

 

 俺の声色を聞いて、すぐに事態を理解したんだろう。

夕立はそのまま俺の背後から声を掛け続けてきたのだ。

 

「そういえば出撃先は北方以外はなかったっぽい?」

 

「……あぁ、そうだ」

 

「レベリングして、結構前に戦った海軍大将との演習以来はずっと鎮守府に居たって聞いたっぽい」

 

 俺は自分の心を喰い潰していく恐怖と戦いながら、夕立に返事をする。

この時、俺の耳はかなり敏感になっていた。巻き上げる潮や切る風の音、自分の鼓動の音が耳の近くで聞こえていたのだ。その中に夕立の声が混じってきていた。

 

「……今から戦う相手は確かに強いかもしれないっぽい。砲撃や航空爆撃を食らって大破するかもしれないし、もしかしたら轟沈するかもしれないっぽい」

 

 ゾクゾクゾクっと、背筋を冷気が逆撫でしたように感じた。

 

「痛い攻撃を何度も何度も食らって、痛みを耐えれそうにない傷を負うことも……。だけどね、大和くん」

 

 刹那、突風が真正面から吹いた。それは海面をゆったりと流れる潮風ではない、別の風。

 

「戦わなくちゃ轟沈するっぽい。痛い目みたくなければ、あっちよりも先に痛い目に遭わせてやるの」

 

「……っ」

 

 今気づいたが、足柄以外の皆が俺の顔を見ていたのだ。夕張も伊勢も赤城も……。

俺のことを見ているその眼は全て、真剣そのものだった。男だからと云って顔を火照らせているような時とは全く違う、まさしく戦場に立つ兵士そのものだった。

 

「……」

 

 俺は何も言えずに黙ってしまった。その間にも刻々と深海棲艦の艦隊との距離は詰まっていっていた。

今すぐに逃げ出したい、そんな風に思ったが動けずに居た。そんな俺に、横を航行している伊勢が声を掛けてきたのだ。

 

「……逃げたくなった?」

 

「っ?!」

 

「……『怖い』って思った?」

 

「……」

 

 心の中を言い当てられて、俺は驚いた。まぁ、状況を見ていればそれくらいは分かるだろう。

だけど、俺にはそんなことも分かるような余裕は無かったのだ。

 

「逃げちゃ駄目だよ」

 

「ど」

 

 『どうして』と理由を聞きそうになるが、伊勢にそれを止められた。

 

「男の子でしょ? それに貴方は大和。世界最大最強の戦艦、大和じゃん」

 

 今まで頭の隅からもすっかりと消えていたことを、俺は思い出した。俺は大和なのだ。

 

「私たちの"いちばん"強い仲間、友だちなんだから……。経験が少なかろうが、大型艦が怖かろうが、大和くんは轟沈させやしないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――私たちが守るから……それに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 一気に今までの本作から雰囲気が外れてしまいましたね。作者の好きな展開ではありますけども、作者の作品を読んでいる方々が想像するような話にはなりません(断言)
この作品はそういう意図を、基本的には含む気はありませんからねー。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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