大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第28話  護衛が付くそうです

 今、俺の私室にはかつてないほどの人数の艦娘が来ている。

矢矧に雪風、磯風、浜風、朝霜、初霜、霞だ。雪風たちはよくつるんでいるし、たまに来るけど他は初めて俺の私室に入っている。

 俺の隣には雪風が座り、反対側に浜風と磯風が座っている。正面には矢矧たちが座っているこの状態は、どう説明すればいいのか分からない。

とりあえず、ここに集まった理由を片付けるとしよう。

 

「とりあえず皆、話は矢矧から聞いている」

 

「「「「……」」」」

 

 正座で俺の目をジーッとみている3人(朝霜、初霜、霞)に、確認のためにその話を前振りしておく。

 

「まぁ、その……よろしく頼む」

 

「「「はい!!」」」

 

 あー、今回の集まった理由が終わってしまった。一応、挨拶をしておこうと思ったのだ。

他の有象無象の艦娘だったなら、出撃で同じ艦隊になった時に挨拶を交わせばいいかと思っていた程度だったが、今回のは内容が内容だけにこうしてちゃんと面と向かって話すべきだと思ったのだ。

 それにしても、俺はこれで満足しているんだが、他の皆は満足していない様子。

矢矧も言っていたが、やはりヲ級のことだろうな。それは分かっているから、事前に呼んである。矢矧が俺の私室に来た時も、雪風と取り締まりをしていた時もヲ級は所用で俺の近くから離れていたのだ。ゆきに呼び出されて何かしていたらしい。俺も詳しくは聞いていない。

 ヲ級はすぐに俺の私室に入ってきた。

カギは渡していないが、他の艦娘たちや憲兵たちは俺の私室の前に集まったりする癖に勝手に入ってこないからな。俺が扉を開けるとああなるけど……。

そこら辺はチキンなんだろう。

それはともかくとして、俺としては"あの"ヲ級よりも断然に、矢矧たちの方がいい気がするんだ。

 

「はぁ~い!! 貴方のド変態マゾ奴隷のヲ級ち……貴女たち、誰?」

 

 そういって入ってきたは良いものの、他にも来客があることは分からなかったみたいだ。くるくる回りながら来ていたスーツを脱いでいたが、それも途中で止まっている。

そして俺と浜風の間に割り込んできた。

 

「これは一体何が起きているというんですか、ご主人様っ!! ……もしかして私の後輩?」

 

「お前みたいな特殊性癖持ってる奴、そうそう居ないぞ……」

 

 ……あれ? 数人目を逸らしたんだけど。

 

「ならあれですか? メンツ的に……」

 

「あぁ、あれだ。だからヲ級みたいにふざけている訳でもなく、"純粋"な心で俺のところに来ている」

 

 ……あれ? 雪風以外が目を逸らしたんだけど。

 

「そうなんですか? まぁ、こうやって来たのも分らんでもないですけどね。私は理解しますよ」

 

「結構分かっている上に聞き分けが良いのな」

 

「そりゃもちろんご主人様に"ご褒美"と称してちょ[自主規制]

 

「そんなことしない」

 

 ヲ級の言わんとしていることは分かる。

それにその話なら、前に矢矧から聞いているからな。今日はそれを理解した上で、俺はこうして面と向かって話(それらしいもの)をしていたのだ。

 

「ま、矢矧から説明も受けているし、何をどうするためにこうするのかは分からないがよろしく頼む。俺としても大和や武蔵、ゆき、雪風たち、それと誠に遺憾ながらヲ級くらいしか話の出来る相手がいなくてな。本当ならば俺から行って、俺自身でそういう話し相手や友だちを作っていくものなんだが状況が状況だったんだ。本当にそういう面でもよろしく頼む」

 

 俺はヲ級を後ろにどかし、浜風たちに元のところに座ってもらう。

特にこれから話すこともないが、おそらくこの流れだと自己紹介になるだろうな。俺としては全員の名前と顔は一致しているものだから、必要ないんだけどな。あちらの初霜たちはそれを知らない。

だから自己紹介をしてくるだろう。

 

「私は初春型駆逐艦 4番艦 初霜です!! もう貴方のそばから離れません!!」

 

 恰好を見る限り、どうやら改二になっているみたいだな。

青い鉢巻を頭に巻いているし、生で見たのは初めてだが、小学校高学年くらいには見えるだろう。

 

「あたいは夕雲型駆逐艦 18番艦 朝霜さ。ヘマやらかして置いてかれることはもうしない。ずっと付いていくさ」

 

 気のいい雰囲気だな。こういう人は俺も好ましく思うぞ。少し顔が赤いけどな。

 

「霞よ。朝潮型駆逐艦 9番艦。アンタのことはこれから私が面倒見るわ。敵だってアンタに近づかせないわ」

 

 なんとも頼もしいこと。少し口が悪いが、ゲームの時とは断然に柔らかいな。それに霞も改二乙みたいだな。

自己紹介の後の意気込みがなんだか世話焼きっぽくてアレだったけど……。

 一通り自己紹介を聞いて、俺はふと思った。

今の、進水した艦娘が提督に自己紹介するのと同じじゃないか、と。……深く考えてもどうせ分からず仕舞いだから、まぁ良いだろう。

 

「ま、一通り済んだことだし自由にしようか。あと、ここには自由に来てもらっても良い」

 

 大和や武蔵、ヲ級も来ているからな。矢矧たちもそこまで警戒することもないだろう、と俺は判断したのだ。

 結局この後、かなり長い時間俺の部屋に全員が居座った。じっとしているのも退屈だからと言って、初霜がトランプを持ってきたので、それで大いに盛り上がった。

ちなみに矢矧は何をやらせても弱かった。ババ抜きをやらせればすぐに顔に出るし、大富豪をしようものなら手詰まりで最後まで残っていたからな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「……来たか」

 

「あぁ……」

 

 何やってんの、この2人。

 というのも、俺は今、執務室に来ている。

ゆきに呼び出されて来てみたのは良いものの、入ってみるとこの様だ。室内は薄暗く、座っているゆきと横に立っている武蔵を下から暗いライトが照らしているのだ。

何なの? そんなにエ〇ァネタやりたいの? どうせゆきが途中で地が出るからな。ま、乗っておくか。今日は。

 

「『来い』だけだなんて、一体何を考えているんだよ!! 姉さん!!」

 

 ちなみに『父さん』って呼ぶと性別違うし『母さん』って呼ぶのも歳的にはないので、姉さんと呼ぶことにした。

 

「ふっ……"出撃"」

 

「山吹……他の艦娘は出撃できないぞ……」

 

 あれー? 枠いくつも足りなくないですかね?

 

「さっき到着したじゃないか」

 

「だが、彼は……」

 

 少し間を置いたゆきが口を開く。

 

「……なら、ヲ級を出すんだ」

 

「いいのか?」

 

「死んでいる訳ではない」

 

 いやいや、死んでたら何だったんだよ、あいつ!! というかすっ飛ばしまくってるなおい!!

 

「あーやめだやめ!! それで、呼び出した要件は?」

 

「ぶー!! 途中まで乗ってくれたのに、あきらめるなんて!! ま、いっか!!」

 

 良いのかよ……。

そう言ったゆきは俺にある書類を渡してきた。

内容は『特異種である大和型戦艦 一番艦 大和に対し、常時警備をつけるように』と書いてある。

 少し考えている俺に気付いてないのか、ゆきは自分で色々と口頭で説明を始めた。

 

「それの命令の元は大本営の御雷(みかずち)さん。どうやら上申して、そのまま大本営で質疑、その後海軍上層部から命令書が下りてきたみたい」

 

「へー。それで?」

 

「だから常に大和の警備をする部隊を作って、常に横につけとけってことさぁ~。はぁあ、今の鎮守府の状況、分かってて送って来てるのかなぁ? ねぇ、武蔵」

 

 武蔵は黙ってうなづいた。

ゆきの言わんとしていることは、俺にも十二分に分かる。護衛を付けろと言っても、そういった場合はだいたいが憲兵になるものだ。だがウチの憲兵は揃いも揃ってダメなやつらばかり。取り締まりするどころかされている立場だからな……。

となると、そもそもゆきが指定しているヲ級のことを護衛としても良いんだが、偽名を使えば調べられたら一発でアウトだし、だからと言ってヲ級が護衛をしているなんて報告はできないだろう。

 

「そうだな。ヲ級がやってくれてはいるが、上に報告はできないし……」

 

 2人して頭を抱えているが、残念ながら俺はそんな状況に陥って等いない。

最近そういう関係で俺のところに来ている艦娘たちがいるのだ。自分たちで勝手にやっているものだが、この際公認にしてしまえば身動きも取りやすいだろうな。

俺はそう考え、矢矧たちのことを言うことにした。

 

「そのことだが、俺から提案がある」

 

「ほんと?!」

 

「あぁ。つい最近、矢矧たちが真面目な話で俺のところに来たから話を聞いたんだ。ま、端折って言ってしまえば『近くに置いてくれ。下心的な意味はない』と言って、自ら買って出て俺の近くにいるんだ。矢矧たちをそのまま正式に護衛にしてしまえば、もう決まるんじゃないか?」

 

 護衛というよりも、最期まで守れなかったことや生き残ってしまったことに関することで、こういう風に再会(?)したから、もう近くは離れないと言っているだけなんだがな。

まぁ、やっていることは護衛と変わらないから、そのまま今の悩みの種の解決策にすればいいと思う。

 俺が言った言葉に、すぐにゆきは書類を机に出して記入を始めた。

よく見たら、今日の分の執務は終わっていたんだな。まだ昼前なのに。

 

「それで? たちってことだから、複数人いるよね? 誰なの?」

 

「矢矧、浜風、磯風、雪風、初霜、朝霜、霞だ」

 

「あー……うん、メンツ的に察したよ。仕方ないかもねー」

 

「俺も仕方ないと思ってる」

 

 ゆきは名前を書類に書き込み、そのままハンコを押した。そして書き終えたものを武蔵が持ったのだ。

これから提出するんだろうな。どうしているかは知らないけど。

 武蔵はそのまま執務室を出て行ってしまった。

執務室に残っているのは俺とゆきだけだ。

 

「……雪風とか、大和のこと絶対兄のように思ってるよねぇー」

 

「そうかもしれないな」

 

「あの接し方、甘え方、完全にそれだし……。というか大和も妹と接しているような振る舞いだもんねぇ」

 

「年の離れた妹を持った気分だ」

 

 そうかそうかと言わんばかりに腕を組んでうなづいているゆきに、俺は少し頭を掻きながら答える。

だが、そうでない時もあったりするんだ。主に俺とじゃない、誰かと接している時なんだけどな。というかキャラが変わる。

 

「……時々怖い時あるけどな」

 

「え? 何か言った?」

 

 絶対聞こえていたよな。絶対聞こえていたよな……。

ゆきのことだ。多分分かっているんだろうな、雪風のこと。俺が知らない何かを……。言及して教えてもらっても良いんだろうが、今聞いたところでゆきは多分教えてくれない。

そのまま俺は黙ることにした。言うこともないしな。

 

「ところで大和」

 

「なんだ?」

 

「これで呼び出した理由はなくなったんだけど、どうしよう」

 

 まぁ、そうだろうな。俺に付ける護衛の話をしたいがために、呼び出したんだろうし。

多分ゆきはもっと時間が掛かると目論んでいたんだろうな。

 

「……なら今から上に出す報告書を作ればいいんじゃないか?」

 

「もう名前を入れるだけのところまでやってあるんだよねぇ~」

 

「仕事早いなオイ」

 

 椅子でクルクル回りながら、ゆきはそんなことを気の抜けたように話す。

 

「ま、護衛要員は直筆で書く書類があるからさ。そっちをやってもらおうかな」

 

「そんなものがあるんだな」

 

「うん。とは言っても、人間がなることが想定されているものだから、欄が小さいんだよね」

 

「良いんじゃない? 別に書けりゃいいだろ」

 

「それもそうだねー」

 

 書類をぺらっと机の上に出したゆきは、そのまま俺に頼んできたのだ。

該当する艦娘を至急、ここに呼んで欲しいとのこと。

執務室から出るのが面倒なのも分るけど、どうして武蔵はゆきの横で同じように面倒くさそうな表情をしているんだ。お前の仕事だろうが。

 矢矧たちを一度呼び出す必要があるみたいなので、俺が呼んでくることにした。

と言っても、なんとなくだが俺が行かずとも来そうな気がする。呼んでないが来たことが一度あったからな。

雪風と取り締まりをした時、俺の盗撮写真が云々って時に現れたからな。ということで、少し試してみることにする。

 

「なぁ、武蔵」

 

「なんだ?」

 

「ちょっとこっちに来てくれないか?」

 

「ん? あぁ」

 

 ゆきに来てもらうのも悪いから、ここは武蔵に頼んでみよう。

 

「どうしたんだ、兄貴」

 

「ちょっと、こう、頼めないか?」

 

「何をだ?」

 

 ついでにいつもクールぶってる妹にお仕置きだ。

よく大和がされているからな、不公平だろう。俺はスッと武蔵に近づき、頭に手を乗せる。

急なことに戸惑いはするが、まだ崩れない。ならば何か言うしかないな。

 

「武蔵」

 

「ど、どうしたんだ、兄貴。急に私の頭に手を乗せて」

 

「いつも秘書艦お疲れさま」

 

 そう言って撫でてみる。

……うん。いい具合に混乱しているな。顔が赤くなってるし、少しおろおろしている。

 

「今日はいつも頑張ってる奴らに感謝デーだ。主に俺と交流のある奴らに対してだが」

 

 全くの嘘っぱちだ。

 

「い、いや……。わ、私はそこまで頑張っているつもりは……」

 

「良いんだ」

 

 もし矢矧たちも他の艦娘と同じく、こういうこと(男にしてもらったらどうのってやつ)に興味はあるだろう。

この世界はそういう世界だからな。あんまりやりすぎるとアレだけど。これであと1手で、それが分かる。

 

「たまには良いだろう? こういうのも」

 

「そうだな……」

 

「てことで、先着7名でやry」

 

 と言いかけた刹那、執務室の扉やちょっとよく分からないところから、続々と光の速さで人影が姿を現す。

そして俺の目の前で整列したのだ。

 

「大和の」<矢矧

 

「なでなでと」<浜風

 

「聞いて」<磯風

 

「私たち」<初霜

 

「あらゆるところから」<朝霜

 

「即」<霞

 

「「「「「「 参 上 ! ! 」」」」」」<6人

 

「です!!」<雪風

 

 ほらみろ。すぐに出てきた。

……あれ? どうしてこの7人の中にゆきが混じっているんだ?

 

「……おい」

 

「なぁに?」

 

「執務」

 

「はい」

 

 とりあえず、ここから出ることなく呼び出せたので、一応やることは終わった。

なんだか俺のことを恨めしそうにちらちらとみているゆきが見えなくもないが、さっさと執務を終わらせた方がいいと思う。机の上に山になってる書類があるもんな。

仕方ないんじゃないだろうか。

 

「ひーん!! 大和がいじわるするぅ~!!」

 

「まぁまぁ良いじゃないかぁ~」

 

「武蔵はそのだらしない顔を戻してから言ってよ!! 説得力皆無ッ!! たまに書類の落書きで『おn……むごむご!!」

 

「あーはっはっはっ!! さっさとやらないと、兄貴が戻っていってしまうぞー!!」

 

 防いだつもりだろうが残念だ、武蔵。その件に関してなら、既にゆきから報告を受けているんだ。俺に、直接。どんな内容だったかは武蔵の威厳のために言わないでおこう……。

うん。それがいい。あとそろそろゆきが青い顔しているから開放してやってくれ。

……あ、気を失った。

 




 前回の投稿から結構時間が空いてしまいましたが、気にしないでください(白目)
 そろそろ鎮守府の日常ネタからも脱出する必要がありそうな気がしていますが、出撃したらしたでヲ級のような個体の相手をしなければならないという……。
まぁそれは置いておいて、今後も少し投稿の間隔が空くと思いますので、ご了承ください。

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