大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第30話  プロパガンダってなんだっけ? その2

 時々相手してもらっているとはいえ、やはり少し怯んだ様子を見せることが多い。

戦闘開始の号令があってから航空戦を終え、砲雷撃戦に入っている。今回もゆきの狙い通り、航空戦ではこちら側の圧倒的有利な状態で砲雷撃戦に突入していた。

こちらの偵察機は翔鶴・瑞鶴の戦闘機隊の大層な護衛を付けており、相手の迎撃機・対空砲火をもろともしない安定した弾着観測が行えていた。

 

「目標、敵艦隊左列!!」

 

 俺と足柄、古鷹は一列に並び、T字有利の状態だ。

 

「右舷斉射!!」

 

 阿吽の呼吸で主砲斉射を行う。

南西諸島方面への出撃以来、足柄と一緒に出撃することは増えてきているので呼吸が合わせやすい。古鷹は今回が2度目の出撃ではあるが、タイミングをうまい具合に合わせてくれるのでとても戦いやすいのだ。どちらも改二であるのがアレかもしれないけどな……。俺よりはるかに練度は上だからな。

 戦況は拮抗していた。足柄と翔鶴が損害軽微。古鷹が小破していた。俺と大井、瑞鶴は無傷。一方で相手はというと、長門は軽微、羽黒は小破。木曾と蒼龍、飛龍は無傷だった。

大局を見ると若干こちらの方が劣勢だ。

 

「距離を取って再度攻撃を行う!! 離脱!!」

 

 回頭号令を出すと、これを待っていたかと言わんばかりに演習相手が攻勢に出てきた。戦況を見れば、態勢を整えるために一時撤退を選択したかのように見えるだろう。

複縦陣後列の大井と足柄が後方に向かって砲雷撃をしながら離脱を図る。

 

「回頭してもこっちは手負いが多いから速力が出ない!! 追いつかれちゃう!!」

 

 次列の瑞鶴がそう訴えてきた。普通に考えればそう考えるのが正常だ。だが、今の状況を好転させるためには、こうする必要があったのだ。

 

「良いんだ!! 好きにやらせろ!!」

 

「っもう!!」

 

 経験も何もかもがこの艦隊で一番下の俺ではあるが、旗艦であることには変わりはない。判断を下すのは俺で、その判断に従うのが僚艦の務めなのだ。

瑞鶴は渋々といった感じに引き下がったが、左隣を航行している翔鶴が俺に話しかけてきた。

 

「私もここで回頭したことは良い判断とは思えません。あのまま有利状態を維持して持久戦に持ち込むべきだったかと」

 

 それは今更言っても遅いし、その考えは俺にもあったのだ。だがあえてその手を取らなかった。

俺は翔鶴に説明はせず、返事だけをした。

 

「これで良いんだ」

 

 そう言うも、翔鶴は眉をひそめて不満げな表情をする。

 時が来るのはすぐだった。俺は追いかけられているこの状況を、劣勢であることと共に鎧袖する手立てを伝えることにする。

変わらず隣を航行する翔鶴に声を掛けた。

 

「翔鶴」

 

「な、なんですか?」

 

「そのまま瑞鶴らと共に離脱を続けてくれ」

 

「え?」

 

 俺は急速回頭をして戦列から外れる。その行動は艦隊全体に動揺を走らせることになる。

だが足柄は違っていた。俺が何をするために、どうしてこういう行動に出たのかを理解していたのだ。

 

「翔鶴の出せるだけの最大戦速で離脱!! あと後ろを見るんじゃないわよ七面鳥っ!!」

 

 そういって、後ろを見ようとした瑞鶴の頭をはたいた。俺はそのまま艦隊から孤立し、艦隊はそのまま俺が居なくなったことで速力を増して離脱をして行く。

目の前で起きたことに少し戸惑いを見せた演習相手ではあったが、相手が孤立したことに変わりはない。これ以上ない好機と判断するのが自然だろう。

獲ったといわんばかりの目つきで、長門たちがこちらに突っ込んできたのだ。

 

「大和型戦艦を……舐めたら痛い目見るぞ……ッ!!」

 

 艤装を動かし、砲撃戦に入る。

これまでは斉射ばかりをしていたが、斉射を行わずして絶え間なく攻撃を加える方法に変えた。9門ある46cm砲と15.5cm副砲12門。大型艦に対して有効打を出せる砲はこれくらいなものだ。

これを絶え間なく撃ち続けることで、相手に何らかのスキを見せないようにしたのだ。

 単艦での戦闘に代わってから1分、2分と過ぎたころには、俺は被弾をしていた。

左舷に長門の41cm砲の通常弾が夾叉、木曾の14cm砲弾が直撃していた。被害は軽微。戦闘に支障はないが、対空兵装がいくつか吹き飛んでいる判定が出ている。相手の空母が艦載機を出す様子もないから問題ないだろう。

 

「単艦でここまでやるのかッ!!」

 

「いくらなんでも硬すぎるわ!! 大和型の装甲板ってこんなに硬いものだったかしら?!」

 

 そんな弱音が向こう側から聞こえてくる。俺への攻撃が直撃したところで、致命傷と与えるまでには未だに至っていないのだ。

だが着々と蓄積ダメージは溜まってきていた。度重なる夾叉、直撃弾。たとえ大ダメージに繋がらなくとも、徐々に使えなくなった装備が増えてきた。艤装の動きだって鈍ってきている。

 俺がそんな風に交戦している最中、離脱した翔鶴らはきっと態勢を整えて再攻撃を敢行するだろう。そう考えていた。

今回の俺の艦隊離脱は、ある意味今日行われている広報用の撮影のためともいえる。普段ならばこんなことしないが、その意図はきっと足柄が汲んでくれているはずだ。俺が艦隊から離脱した時、動揺を見せた艦隊に言葉を掛けていたからだ。

 

「離脱した艦隊が接近!!」

 

 相手の艦隊、蒼龍がいち早く戦場の様子を伝えた。

だが時はすでに遅い。俺との戦闘で陣形を崩してしまっていたのだ。すぐに俺の攻撃を注意しながら陣形を戻していると、艦隊到着までに離れることなんで出来ない。

これが狙い目だったのだろう。足柄も結構えげつないことを考えるんだな。広報用の撮影のためにわざと離脱した俺の意思をくみ取り、しかもその演習を勝利に導こうだなんてな。流石は『飢えた狼』の異名を持っているだけある。

 

「大和に群がるアマに斉射っ!!」

 

「「応ッ!!」」

 

 ただし、口が悪い。

 

「……ッ?! しまったっ!! 敵編隊の中に艦爆が紛れ込んでッ!!」

 

 咄嗟に気付いた飛龍のその言葉も言った甲斐なく、離脱していた艦隊と共に来た航空隊の中に紛れ込んでいた艦爆に接近を許してしまう。

急降下を始めるこちらの艦爆隊と共に、戦闘機隊も降下を始める。その対応をする相手も、どれを目標にすればいいのか分からずに我武者羅に対空砲火を始めていた。

 いっきに優勢に変わった瞬間だった。

態勢を取り直した艦隊が引き返してきたことにより、相手の陣形では対処しきれなくなったのだ。そして本来ならば支援しなければならない空母も、思いもよらぬ航空爆弾の雨に遭ったために中破してしまったのだ。

 

「しまった!!」

 

「飛行甲板がっ!!」

 

 ここからは早い。

混乱する艦隊に北上が魚雷をたらふく打ち込み、その後足柄と古鷹がインファイト(物理)を仕掛ける。なんか魚雷で木曾が大破判定を食らって呆然と立ち尽くしているわ、インファイトを仕掛けられた陸奥と羽黒は『やめて!!』とか『姉さん!!』とか言ってるけど、あんまりその言葉も功を奏してないしな。

そもそもそっちの羽黒とこっちの足柄はそんな関係でもないだろうに。いや、そういう関係か……。

そして長門はというと……。

 

「……」

 

「……」

 

 風で長門の長い黒髪がたなびき、一抹の静寂に俺は喉を鳴らしていた。

一進一退の攻防戦(ただし動いていない)。決着がつくのは一瞬だ。

 

「……」

 

「……ッ!!」

 

 先に動いたのは長門だった。少し足を滑らせ、こちらに突撃を仕掛けようとしてきたその時……ッ!!

 

「せい、やっ!!!」

 

「ッ!! 何っ?!」

 

 その動きよりも早く、俺は振りかぶる。そして、密かに握っていた九一式徹甲弾から手を放した。

徹甲弾は1秒も立たずに、長門へと吸い込まれていき……。

 

「うぐッ!!?」

 

 着弾した。腹部だ。

 

「……クソっ」

 

「残念だったな……」

 

 長門が抑えていた手を放すと、そこにはべっとりとペンキが付いていた。

そして判定が出たみたいだ。長門は大破したみたいだ。

そりゃそうだろう。46cm砲弾なんて食らったらそうならない方がおかしいからな。

 俺がそんなことを長門としている間に、どうやら足柄たちが残りを片付けてくれたみたいだった。呆然と立ってるあちらの艦隊が目に入る。

皆ペンキだらけ。良い恰好だな。

こうして演習は終了した。こちらの勝利で。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 海岸に戻ってくるなり、俺は面倒なことに巻き込まれていた。

 

「ふっふーん!! 凄いでしょ!! 私の大和っ!!」

 

「ううっ……あれで本当に、参加艦隊で一番練度が低いのかぁ?」

 

「ねー! ねー! 透子ぉ~!!」

 

「なんだい。今私は忙しいんだ」

 

 すっごい笑顔のゆきに、演習で負けた白華提督がうなっているところだ。

一見これが面倒事には見えないだろうが、俺にとっては面倒事以外の何物でもない。

まぁ、見ていれば分かる。

 

「その名の通り最大最強っ!! 自分の主砲以外の攻撃をもろともしない堅牢性っ!! 主砲の攻撃力はそれに勝るものはなく、しかも何故か砲弾を投げちゃう!!」

 

「……」

 

「何といっても男の子!! なにあれイケメンじゃん!! きゃー!! きゃー!!」

 

「……」

 

 むっちゃ喧嘩売ってるんだけど、ウチの提督。

いやほんとごめんなさい、白華提督。貴女の白い顔がイチゴ大福も驚きの赤さになってますけど? ねぇ?

 

「ねぇ大和!! ケッコンしよぉー!! ひゃあぁぁぁ!!」

 

「ピキッ」

 

 ちなみに今のは効果音である。その音源は白華提督。

 

「大和と」<矢矧

 

「ケッコン」<浜風

 

「できると」<磯風

 

「聞いて」<初霜

 

「あたいら」<朝霜

 

「即」<霞

 

「「「「「「「「 参 上 ! ! 」」」」」」」」<6人

 

 そしてこれだ。というか、本当にどこからでも出てくるのな……。今回は雪風が居ないようだけど、どうしたんだろうか。

 この混沌とした状況をどうすればいいのやらと俺が考えている一方で、青葉と中尉が話しているみたいだ。

海上で撮影していた写真を見ているみたいだな。

 

「とりあえず撮り続けましたが、どうですか?」

 

「ふむふむ……良いですね。どのアングルも素晴らしいです!!」

 

「ありがとうございます!! そう言っていただけると、青葉もとてもうれしいですぅ!!」

 

 肩を寄せ合って一眼の小さい液晶をのぞき込んでいる様子……。まぁ仲良さそうにしているよな。

 それは置いておいて、だ。今にも一触即発しそうなゆきと白華提督をどうにかしないと不味い。

一触即発というか、ただ白華提督が一方的に怒り出す可能性がなきにしもあらず、というような状況ではあるけれどな。

 

「と、とりあえずありがとう」

 

「ん? どういたしましてっ!!」

 

「その妙に元気なところを見ると、どうも何か仕出かしそうな気がしてならないよ」

 

「そうかなぁ!!」

 

「それなんだけどね……。まぁ良い。……大和を艦隊に組み込んでの演習で、他の提督とやる時には注意しておいた方がいいよ」

 

 どうやら抜きそうになっていた矛を収めたみたいだな。流石、外見相応の性格をしていらっしゃる。

とても大人びているな。ゆきも見習って欲しいものだ。

 

「どうして?」

 

「まぁ、目の前で特異種である大和の自慢をされたらね……うらやましいって思うんだよ」

 

 そう言った白華提督が俺の方を見た。

 

「私だってうらやましいって思うんだ」

 

「そーう? へっへーん」

 

「そういうのを止めておくんだよ。聞いているこっちは良い気はしないからね」

 

 そりゃごもっともだ。

 

「うー……分かったよぉ。でも、私だって他の提督とやる時には大和はなるべく編成しないようにしているんだからね」

 

 それは俺も知っている。俺が演習に呼ばれる時はたいがいが白華提督のような、俺が直接会ったことのある提督のところとしかしないからだ。

とは言っても、他のところだと横須賀六三号鎮守府の小鳥提督のところくらいだろうか。それ以外のところとの演習では出たことないからな。

 

「尚悪い気がする……。まぁいい、気を付けるんだよ」

 

「分かってるー!!」

 

「……はぁ。本当に分かっているんだろうか」

 

「分かってるってば!!」

 

 白華提督、士官学校時代から知っているって言ってたけど、その銀髪ってゆきのことで悩んでそうなったんじゃないだろうな。

本当は白髪だったってオチは止めて欲しい。本当にゆきが迷惑を掛けているみたいで、それだったら友だち料金徴収してもいいくらいだと思うぞ。

 演習も終わり、俺たちは執務室へと戻ってきていた。

大本営から派遣されている広報課の人たちが、やり残しがないかを確認するためだ。それを終わらせたら帰るみたいだけどな。

あんまり長いしても迷惑が掛かるだけだし、滞在期間は短い方が良いと言われているみたいだな。上の命令にはちゃんと従って、本当に軍人の鑑だよ貴女たち。

どっかの憲兵(ウチの)とは大違いだ。

ちなみに建前で付けられていた憲兵たちは現在、拘束された後に反省文を書いている最中だという。何をしたんだろうな。

どうやら矢矧たちは何か知っているみたいだけど、どうも教えてくれないんだよな……。

 




 今回は戦闘シーンが多かったですが、戦術に関する考察などはまぁ……ほどほどにお願いします。自分、そこまで詳しくないものですから……。
 
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