大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第33話  能力と実力 その2

 

 都築提督の指揮する呉第〇二号鎮守府に到着してから数時間が経った頃、昼食の時間になった。その頃には高雄とも打ち解け、都築提督とも楽しく話せるようになってきていた。

ヲ級も少し猫を被っているが、それでも普通に話せている。ウチで色々な艦娘やゆきと話してきた甲斐だろうな。

 都築提督に言われて、俺たちは普段皆で集まって食べている食堂に案内されることになった。それと一緒に俺が来ていることも皆に知らせるのだとか。執務室に向かう途中、数人とすれ違っているから噂くらいにはなっているんじゃないだろうか。そんな風に考えながらも、俺はヲ級と高雄と共に食堂の入口を潜った。都築提督は先に入って、混乱が起きないように先に説明をしているので多分大丈夫だろう。

 

「さぁ、入ってきてください」

 

 その声に呼ばれ、皆の前に姿を見せる。

 鎮守府の作りは同じなので、食堂の雰囲気はどこか見覚えのあるものだった。そして埋め尽くす艦娘たちの顔も見たことのある顔しかいない。ゆきの鎮守府にもいる顔が多くいるので、そこまで抵抗が無かった。だが、それは俺とヲ級だけだ。ここに居る大多数が『俺』という存在を認識して、何かしらのアクションをする。そう思った。

 

「今朝見かけた者もいるだろうが、こちらは呉第二一号鎮守府から招いた特異種『戦艦 大和』。男性で唯一軍籍を持つ艦娘特異種だ。ちなみに艦娘ではあるが、女ではない」

 

 誤解を招かないための説明だろう。必要ないだろうとは思ったんだがな。それでも目の前の艦娘たちは、その場から動かずに都築提督の声を聴いていた。

……凄く言うこと聞いているじゃん。なんなの、本当に。ウチの鎮守府の奴ら。

 

「鎮守府単独作戦ではあまり問題が起きないそうだが、他の鎮守府との連携作戦となると話は別だ。その存在が特殊故に、居るだけで戦場に混乱が起きる。それも既に実際に海上で起きているらしい。だから、こうして派遣されてきている」

 

 俺の方をチラチラ見ているが、それでも都築提督の話を聞いているな。

 

「皆には呉第二一号鎮守府所属の特異種『戦艦 大和』がどういった人物なのか、その目で一度見てもらうことが必要だ。という訳で……」

 

 都築提督が俺の方を見たな。多分そういうことだろう。

俺は都築提督が立っていたところに来て、挨拶を始める。ちなみにヲ級も横からぴったりとくっついていて離れない。それもそうか。ゆきに命令を受けているし、護衛だからな。

 

「俺は大和型戦艦 一番艦 大和だ。少しの間だがよろしく頼む」

 

 やっぱり本質は同じなのかもしれない。目を輝かせてるんだけども……。まぁウチのよりかはマシか。がっついてこっちに押し寄せてこない辺り。

 

「都築少将からも説明があったが、俺は自分の意志でここに居て、軍籍に置いている。そこのところは覚えていて欲しい」

 

 と言って、俺は下がった。特にこれ以上話すことも無いからな。

その入れ替わりで都築提督がまた話し始めた。

 

「ちなみに大和の横に居る女性は専属の護衛だ。ないだろうが、もし何かあれば首が飛ぶ前に額で呼吸することになるから覚えておけ」

 

 何その言い回し、怖いんだけど……。『額で呼吸』って……。いやまぁ、確かにヲ級は拳銃を携帯しているけども……。

 

「以上。食事に戻ってくれていい。質問等は秘書艦を通してすると良いが、基本的に秘書艦も大和のそばから離れない。上手くタイミングを見計らって頼むと良い」

 

 こうして艦娘の皆は俺の方を気にしながらも食事に戻っていった。そして俺たちも昼食を摂ることに。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昼食を終えて執務室に戻る頃には、秘書艦である高雄のところに早速質問が届いていたみたいだな。メモ帳をパラパラと目の前で広げている高雄が、俺に順々に質問を始めた。

 

「えぇと……『いつまでここに居るんですか?』だそうです。私も提督からは詳しく聞いてませんので、教えていただけるのでしたら教えて欲しいです」

 

「確か4日間だったと思うぞ」

 

「4日間ですね……では次。『本当に戦闘に参加しているの?』ですね」

 

「参加している」

 

「ふむふむ」

 

 なんともまぁ、普通に触れ合ってくれている高雄に感謝しつつも質問に答えていく。片っ端から質問を取っている状態だったらしく、グレーな黒な質問も結構あるみたいだな。

高雄は自分で取捨選択して質問していっているが、俺が見て判断していった方が速い気もする。

 

「なぁ高雄」

 

「……はい?」

 

「そのメモ帳とペンを貸してくれないか?」

 

「えぇ、良いですけど」

 

 貸してくれたので、俺はメモ帳に目を通す。確かにかなりの数の質問が若干殴り書きで書かれているな。それでもちゃんと読める字を書いている辺り、態度から見ても分かるくらいの優秀さだな。素晴らしい。ウチの高雄と変わってください。お願いします。

それは置いておいて、だ。確かにグレーや黒の質問もあるな。例えば『スリーサイズ教えてください!!』とか『今度抱き着いても良いですか?』とか『ケッコンしてください!!』とか……。まぁこれはまだグレーな方だけど黒いのは正直引いた。うん。

あんなに大人しくても、やっぱりアレだわ。

俺はメモ帳に答えれるだけの回答を書いていき、高雄に返した。

 

「ほい。こうすれば手間も省けるだろう?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いいって。さぁて、これからどうするかなぁ」

 

 そんなことを呟いて、ソファーに浅く座る。そんな俺の横でヲ級が小さい声で話しかけてきた。

 

「私みたいな人は居ましたか?」

 

「いない、そんな奴」

 

「ふひひっ。ならまだ私だけがご主人様のドM性奴隷な訳ですねっ」

 

 中々のトロ顔をしているが、残念ながらそれもう見飽きた。だって毎日最低20回はやってるし。そもそも、そんな連発してたってどうしようもないだろうに……。

いやまぁ、俺も男だから反応しちゃうけど……。

とりあえず、それは置いておこう。話が全然関係ない方向に進んでしまう。

 

「……結構色々答えていただきましたけど、話したら不味いこととかなかったですか?」

 

「そういう質問は全て回答しなかったから、別に気にすることもない」

 

 会話が止まってしまった。ヲ級が早々に本性剥き出しになるから、高雄も若干引き気味だし……。

どうしたものかと悩んでいると、机に向かっていた都築提督が話しかけてきたのだ。

 

「ウチはどうですか?」

 

「どう、と言いますと?」

 

「雰囲気ですよ。……まぁ、私でも分かるくらいには違うところもあるんですけど」

 

 何が聞きたいのか分かった。

 

「やはり落ち着きがありますね。艦娘、憲兵共に。ウチのは元気ですし結構しっちゃかめっちゃかしてます。憲兵が憲兵らしくないとか大問題でしょうに」

 

「ふむ……確かにそういうところは見て取れましたね。ウチの憲兵は堅苦しいのが多いですからね。規則規則とね」

 

 確かに、憲兵らしい憲兵のように見えたな。うん。

 

「艦娘の皆も規律には従順で、良くないことはしないですからね」

 

「はい。そのように見えました。……ウチの奴らに垢を煎じて飲ませてやりたいですよ」

 

「あははっ」

 

 苦笑いで返された……。やっぱりウチの鎮守府はちょっとアレなんだな。絶対そうだ。

長がアレだもんな。どうしようもない。

 

「まぁ……あれはあれで面白い奴らですから、毎日飽きないですけどね。どこかしらで騒ぎ声が聞こえてきますし、歩いていれば必ず面白いものに遭遇しますからね」

 

「ほぉ、それはどのようなもので?」

 

「えぇ。例えば巡回経路から外れる憲兵だとか」

 

 一瞬眼光が鋭くなった気がしたが、気のせいだろうか。

 

「他には?」

 

「冤罪で連れて行かれる青葉だとか」

 

「……まぁ、そうみられても仕方ないような」

 

「サボりに来る秘書艦だとか……まぁそれくらいですよ」

 

 いいや。もっと他にもいるぞ。むっつりスケベの最強の戦艦だとか、しょっちゅう怒られてる一航戦だとか、口を開けば卑猥な言葉しか出てこない青白い自称性奴隷とかな……。この辺は言ったら不味そうだし、何よりその例の1つが隣にいるしな……。これ以上羽目を外されると自主的に強制送還されるから嫌だ。もう少し落ち着いているここに居たいんだ。

 とか考えつつ、俺は都築提督の顔を見る。

俺の言った言葉から情景を連想させているのだろうか、少し目が遠くを見ていたがすぐに戻ってきた。

 

「なかなか楽しそうな感じですね。以前訪れた時にはすぐに執務室にお邪魔して、用事が終わった後にはすぐに帰りましたから」

 

 そう言った都築提督は微笑んだ。

 

「……呉第二一号鎮守府の山吹 ゆき少将に関しては、噂はけっこう聞きます。貴方関連の話でなくても」

 

「そうなんですか?」

 

「鎮守府を訪れた海軍大将が突然無期禁固刑になったりだとか」

 

「……」

 

 それ、俺が関係している奴ですね……。

 

「着任からあまり時間が経っていないにも関わらず、艦娘の練度は高く強いです。装備は高性能なものが潤沢にあり、余裕のある戦闘をすると」

 

「確かに……装備の余裕は感じますね。全体に高性能な装備が行き届いていますから」

 

「えぇ。あと山吹少将は何でも引退してしまってますが、とんでもなく強かった鎮守府を指揮していた方の下で教育を受けていただとか……」

 

 何それ初耳なんだが……と思ったが、そうでもない。きっとそれは大本営の御雷(みかづち)さんのことだろうな。

確かにあの人がゆきに色々と仕込んだとは言っていたから、そうなんだろう。あの人、昔は提督をしていたんだな……。そんな風には見えなかった。

 

「多分あれは生まれ持ったものと、特殊な教育を受けた賜物です。"実力"なんですよきっと」

 

 都築提督はそう言って座っていた椅子から腰の位置が落ちていった。

姿勢が崩れていったんだろうな。

 というよりもまず、都築提督がゆきのことをそこまで評価していることに驚きだった。

確かに異例なのかもしれないが、普段がアレだからな。時々怖いけど……。

 





 今回は少しいつもとは雰囲気が違うと思います。内容が内容でしたので……。
それと、次の次くらいから話を切り替えていこうと思います。云うことは特にありません!!

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