大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第34話  能力と実力 その3

 呉第〇二号鎮守府は指揮官である都築提督を筆頭に艦娘、憲兵共に優秀だということは、過ごした3日間で十分に分かった。

都築提督の実力は3日目にあった演習でよく分かったし、指揮下の艦娘たちも指示通りに動き、求められていること以上のことをこなしていた。憲兵たちも職務に従順、ひたむきに鎮守府の治安を守っていた。

それでも話し掛ければしどろもどろしながらも、ちゃんと返答は帰ってくるし、変なことを聞いてこないし……。俺が戦場に立つことへの理解もしてくれた。

これほど理想的な鎮守府はないと思った。思ったんだ。だがどうして……。

 

「都築。そこに控えているのが……」

 

「えぇ。3日前から招いております、呉第二一号鎮守府の大和です」

 

「ふむふむ」

 

 その舐めまわすような視線、かなり不快だ。つま先からねっとりと視線を上げていき、頭のてっぺんまで。横に立ってるヲ級が殺気立ってるしな……。

右側がピリピリするくらいの殺気を出しているのに、目の前にいるこの将官サマはそれに気付かない。

 

「写真で見るのもイイ男だけど、生だと刺激が強すぎるわね」

 

「中将殿、それ以上は……」

 

「あぁ、もう少しだけ」

 

 今日も都築提督の執務室に来た後に、ヲ級と高雄付きで別れの挨拶でもして回ろうかと思っていたのに、どうしてか今日は飛び込みで来客があったのだ。

 この中将サマは陸軍の機甲旅団戦闘団の団長を務めている。都築提督が世話になっていた知り合いらしい。

近くを通りかかったものだから、寄ってみたんだとか。アポなしでも入れたから、ちょっと顔を見に来た云々……。

それにしても、この反応は遠い記憶にある禁固刑になった海軍大将を思い出す。あそこまで傲慢ではないが、それに近い何かを感じる。いやむしろ、こういう反応が普通なのかもしれない。今まで居た環境が慣れ始めた人たちに囲まれていたからだろうか。それに右横に居るのが加わったせいで、それなりの耐性も付いてきているからな。

 

「……ウチにも来てくれないかしら」

 

 そんな言葉に、俺は背筋がゾクゾクと震えあがった。これが肉食動物に狙われる草食動物の感覚なのだろうか……。今までは漠然と感じていただけだったが、これだけ鮮明に感じ取ったことはなかった。

 この状況下で俺の心境を読み取ってか、ヲ級が動き出した。今までは殺気のみだったが、行動を開始した。

何も持っていなかった手を、自分の腰の後ろに回した。そこには拳銃のホルスターがあるといっていた。つまり拳銃を抜こうというのだ。

 

「過度な接触は止めていただこうか」

 

「む? 何だ貴様」

 

「彼の護衛だ」

 

 言葉多くは言わないが、ヲ級が伝えんとしていることは中将にも伝わったみたいだ。俺から少し距離を取ったのだ。

 

「悪かったわね」

 

「そうお思いですか?」

 

「っ……」

 

 少し離れただけではあったが、今度は元居たところまで戻っていった。

 

「……中将殿、彼はここに客人と来ています。戻った際の報告で『何かあった』などと伝えられてしまえば、私の視線が足首辺りまで落ちるかもしれません」

 

「悪かったわ……。私も初めてみたものだから」

 

 そういって中将は都築提督に何やら封筒を渡した。中々の厚さをしている封筒だったが、中身は書類だろうか。

受け取った都築提督も中を確認することはなく、脇に抱えてそのまま話すのだ。

 

「じゃあ顔を見るだけのつもりだったし、そろそろ帰るわ」

 

「えぇ。そこまでお見送りします」

 

 チラッと俺の方を見た中将は、そのまま帰っていった。都築提督が見送りに行ったので、この場に残っているのは俺とヲ級、高雄だけだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 呉第〇二号鎮守府で仲良くなったりした艦娘や憲兵たちに挨拶周りをした俺は、そのまま元の鎮守府に帰ってきた。

門を潜るなり、ギャーギャーうるさい憲兵や艦娘たちに囲まれたりしながら執務室へ向かう。

 

「おー!! おかえりー!!」

 

「ただいま」

 

 ニッコニコしているゆきに出迎えられ、執務室へと入っていく。

 

「護衛ありがとうね」

 

「ふん」

 

 俺以外にはこんな調子で無愛想のヲ級も執務室へと入っていく。

 早速帰還したということで、口頭での報告を始めることにした。

と言っても、特に何かあったという訳ではない。普通に交流をしてきただけだったのだ。

 

「まぁ、特に何かあったという訳ではないから」

 

「ふーん、そうなんだぁ。私はてっきり『襲われそうになった~』とか『あちこちまさぐられた~』とかあるんじゃないかなーって想像してたんだけど」

 

 少し視線を逸らす。

 

「と、特になかったな」

 

「……」

 

 なんだかゆきのいる方からの視線が痛い。

 

「『ケッコン迫られた~』とか『女の子の趣味聞かれた~』とか?」

 

「そ、それも特に……」

 

 なんだか更に視線が痛くなった気がする。

 

「『ウチに来ない? あそこ動物園でしょ?』とか『いつも苦労してるらしいね。ウチ来ない?』とかぁ……?」

 

「うーん……」

 

 視線が痛いのには変わりないんだが、なんだかすする音が聞こえるな。

そう思い、ゆきの方に視線を向けると……

 

「う、うぅぅ……」

 

「え"っ?! ちょ!!」

 

「わ、わたしの、やまとがぁ……やまとがぁ……」

 

「な、なんでぇ?!」

 

 口をハの字に曲げ、目じりに涙を溜めているゆきの姿がそこにあった。

 

「うぇぇ……」

 

 直感で分かる。というか見れば分かる。これはやばい。

もう決壊寸前の状況にまでなったゆきが、手の甲で涙をぬぐい始めたのだ。

 

「とられちゃう……わたしのところがどうぶつえんだからってぇ、とられちゃうぅぅ」

 

「ちょ」

 

「どうぶつえんのたいしょーのわたしなんかのところいやだってぇ……」

 

「あっ」

 

 そして、俺は何も出来ずに……

 

「すてないでぇ」

 

 完全に幼児退行してますやん……。どうするのこれ。

横のヲ級とか完全に引いてるんだけど。『全然前後の関連性が見いだせないんだけど』とか言ってて、確かにその通りだけど。

 

「……ないから、そんなことないから!!」

 

「ぐすっ……ほんとぉ?」

 

「本当!! 本当!!」

 

 なんだこれ……。

 

「わたしのやまとでいてくれる?」

 

「いるから!! 第一、移籍なんてないだろ!!」

 

 そう言うと、袖で涙を拭いたゆきがいつものにこやかの表情に戻り、

 

「それもそうだね!!」

 

 と言い放ったのだ。

 

「ウソ泣き?」

 

「違うよー。マジ泣きだよー」

 

「……いいや、ウソ泣きだろ」

 

「マジ泣きだからねっ!! んもう!!」

 

 とぷりぷり怒って執務していた席に戻って言ってしまった。そして、書類の山に頭を隠してしまう。

……確か都築提督『ほとんどが見なくて良いものばかりですから、基本的には表紙を見てそのまま流すんですけどね』とか言ってたな。やっぱりゆきってバカなのかな?

今も、確か都築提督は流していた書類をゆきは熱心に見ているしな……。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 都築提督の呉第〇二号鎮守府に俺が派遣されていたことが軍内部で話題になり、案の定なことが起きていた。

 

「ひーん!! 鳴りやまないよぉ!! 書類多いよぉ!!」

 

「俺は分かってたけどな」

 

「ひどいっ!! 鬼!! 悪魔!! 戦艦っ!!」

 

 現在執務室の固定電話には他の鎮守府からの問い合わせ連絡が鳴りっぱなしで、手元には山のように俺の派遣を促す書類が届いているのだ。今もこうしている間にも届いてきているという、なんという波状攻撃。

それの対応に追われているゆきは泣きながらも処理をしているのだ。

ちなみに俺は、ソファーにもたれながら書類に目を通している。委任印をゆきから受け取って、代わりに内容をチェックしているのだ。流石に1人で処理するのもかわいそうだからな。秘書艦の武蔵はというと、執務室と鎮守府の郵便物受取窓口を行き来しているからここには居ない。

 だらけながら見る催促状には工夫を凝らしているものも多く、酷いものだとその鎮守府の提督の加工しまくった自撮り写真とかが同封されていたりする。そして鎮守府以外の陸軍基地からも来ているから、これまた面倒なんだよな……。

ちなみに、ゆきからは『全て却下で』って言われている。海軍の先任少将やそれ以上のポストのからのものは避けて、それ以外は切り捨てろとのこと。その通りに仕事をしている訳だ。

 この処理は結局、夕食の時間までかかった。電話は鳴りっぱなしのままだったので、3時間くらしてからゆきが電話線を根っこから引っこ抜いて以来かかってきてない。そりゃそうだろうな。鳴る訳ないんだからな。

 




 途中変な風になりましたが、これで『能力と実力』は終わりです。
次回からは、読者の皆さんが気になっているであろうことを書きます。お楽しみに。

 最近は更新頻度が落ち気味ではありますが、1か月とか2か月とか放置はしませんので、ご心配なさらずに。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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