大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第40話  曇雲の海

ザザザザザザザッ……

 

『……ちら、さ……ッ!!』

 

『こ……、……せ……ッ!!』

 

ザザザザザッ……

 

『ほ……こ……う、……か…………』

 

『……き……う………。……しき………き……』

 

ザザザザザザザッ……

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は執務室に呼び出されていた。俺が呼び出される理由なんて沢山あるが、今回は俺を呼びに来た武蔵も、執務室に入った時の空気もいつもと違っていた。

明らかに重い。そして冷たかった。

 執務室に着いてすぐ、俺はゆきの前に立ってあることを言われていたのだ。

それが……

 

「さっき帰ってきた艦隊が拾った広域緊急救援無線(SOS無線)なんだけど……さ」

 

 今さっき聞いた、ほとんどがスノーノイズ(砂嵐)で聞き取れなかったが、それが間違いなく広域緊急救援無線であることは間違いなかった。それ専用の周波数を使い、他の周波数に同時に繋げているものらしい。よく知らないが。

ともかく、その無線を傍受したこと。それに意味があり、そしてこんな空気になるほどのものだったのだ。

 

「平時、今は戦時だけど……本来はほとんど使うことが無いんだ」

 

 ゆきの説明が始まる。いつもの話し方と同じだが、声色からして真面目な話なのには変わりない。

 

「この無線が飛ぶ時は、基本的に自分たちの位置が掴めない時に発するのがほとんど。だけどね……」

 

 ピシリと、空気が張り詰める。一応、俺もその辺りの知識は覚えさせられた。ゆきに『これ、覚えてね』と言われて渡された薄い教本っぽいものに書かれていた。艦娘の心得、みたいなものだった。

 

「艦隊が壊滅状態にあったり、付近に他の艦隊が居ない時とか、自力で離脱できない時に使う……いわば遺言を残すための無線」

 

 身体が地面に押し付けられるような空気を感じる。

 

「そういう場合には決まって、こんな風にノイズが入って聞き取れなくなるんだ」

 

「……それは分かった」

 

 俺はゆきの話に口を挟んだ。説明は良いから、どうして俺を呼び出したのか……それが聞きたいのだ。

 

「今の無線を傍受した艦隊は、たまたま北方方面に居た3つの艦隊だけ。私のところと、呉第〇二号鎮守府、横須賀第三二号鎮守府」

 

 つまりは……だ。

 

「呉の都築提督が上申、大本営を通して緊急命令が下ってるの。内容は、広域緊急救援無線を傍受した該当鎮守府は艦隊を緊急派遣し、調査に乗り出せ……そういうこと」

 

 あぁ……やっぱりだ。

 

「最近の改革の影響で、出撃できる艦娘の数が少ない現状、どうしても箱入り息子だった大和を出さざるを得ない状況でね……」

 

 それは理解していた。常にドックの前には、艦娘が傷付いた艤装を癒すために順番待ちをしている状況だ。

そんな状況下で、万全な状況で出撃できる艦娘の数なんて、そうとう少ない筈。しかも状況が状況な上に、詳細が分からない状況の事に当たるために、出す艦隊は最大戦力が好ましい。ということは……ほとんど出撃しない俺が艦隊に組み込まれるのは自明だった。経験値云々なんて言ってられないみたいだから、俺を指名したんだろう。

 俺はそういう気持ちを込めて、ゆきの目を見た。

きっと、どういう意図で見ているのかは分かってくれただろう。ゆきは言葉を続ける。

 

「大本営からの緊急命令により、大和以下武蔵、グラーフ・ツェッペリン、大鳳、矢矧、雪風は機動打撃艦隊を編成。準備期間に2日与えられたから、それまでは身体を休めてね」

 

「は? 武蔵も?」

 

「うん。6隻編成にするには武蔵を出す以外、方法はなかったからね。他の子も順番的に損傷してなかったり、訳アリで残っていた子ばかりだから……」

 

 今の鎮守府の状況を鑑みるに、そうなってしまうのは致し方のないことなのかもしれない。俺はそう思った。

なので、今回は何も反論することなく、命令を受理することにしたのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ブリーフィング室は他の艦隊が使っているらしく、艦隊で集まって待機できるところはなかった。そのため、執務室の横にある倉庫が俺たちの待機部屋になった。

俺と武蔵が訪れる頃には、既に他の艦娘たちも集まっていたみたいだ。

矢矧と雪風は分かるとして、他の2人は顔を合わせたのも初めてだった気がする。自己紹介はしておこう。

 

「俺は大和だ。特異種の方の」

 

 そう言うと、グラーフ・ツェッペリンが反応を返してくれた。

 

「存じている。私はグラーフ・ツェッペリン。このような形で貴方と相見えるのは非常に悲しいことではあるが、そうも言ってられない。よろしく頼む」

 

 何だろうな。……何だろうな。なんとも言えないこの感じ。セリフ自体は特段違和感は持たないが、何というか……その辺の男が言うと歯の浮くようなセリフ……。否。この場合は、その辺の女性が言うと歯の浮くようなセリフ、か。

まぁ、別にグラーフ・ツェッペリンがどうこうって訳では無いんだが、アレだな……。

 

「あ、あぁ。よろしく」

 

 とりあえず、他の初見のメンバーにも挨拶しておかないとな。

 次は大鳳だ。まぁ、こっちは目に見えて緊張しているというか、アワアワしているというか……面白い。

そんな大鳳相手に、俺は普通に挨拶をする。

 

「よろしく頼む。大和だ」

 

「……っ、え、えぇ、よ、よろしくお願いします」

 

「はははっ、そんな風にされるとなんだかなぁ」

 

 と笑いかけてやることにした。まぁ、これまでの経験則だな。男性に免疫のない女性相手に、まぁこんな風にフレンドリーに接しつつもある程度の距離感を保てば、相手も自然に打ち解けてくれる……はずだ。うん。

視界の端で眉間を抑えている武蔵は見えなかった。見てないからな。

 そういう訳で、大鳳と話をする。

適当に話題を作って、少し話せば大丈夫だろう。

 

「中破しても発着艦できるその装甲、期待するよ。頼りにしてる」

 

「……は、はい!! 精一杯頑張ります!!」

 

 こうはいっているが、この大鳳、俺よりも練度は上なんだよな。

 

「わ、私もその……」

 

 大鳳から話を振ってきたな。これはいきなり効果アリなんだろうか。

 

「ん?」

 

「私も、大和さんのこと、頼りにしています!! お噂はかねがね。先走ることはなく、ちゃんと周りを見てくれると聞き及んでいますから」

 

「あー、そのことね」

 

 こう初対面で艦隊を組む時、いつも言われることだな。他では知らないが、だいたいの艦娘が戦闘突入直後に吶喊をする。空母を置いて……。

それを見かねたというか、そもそもそういう考えがあった俺は、空母護衛に残ることをしているのだ。聞いている限り、他の艦隊でもそういう風らしいから、俺は特に何も考えてないんだがな。

 大鳳はこう言ったものの、今回は苦笑いをして同意することもない。何故なら……

 

「今回はその心配はご無用」

 

 そう。今回に限って、そういう心配はしなくても良いのだ。

 

「大鳳とグラーフ・ツェッペリン以外は良く知ってる奴らだし、そういうこともしないだろうから」

 

 ……あれ? 何そのリアクション。大鳳はさっきまで顔を火照らせていたのに急に白くなり始めるし、グラーフ・ツェッペリンに至っては『失敗した……失敗したぁ……』とか言ってて、なんだか幼児退行していないですかね? 気のせいですか? そうですよね?

 とまぁ、そんな地獄絵図になった訳だが、すぐにそれも持ち直してくれたからよかった。

すぐに俺たちは待機室もとい倉庫にある机と椅子を引っ張り出してきて、時間が存分に与えられているということで、戦術面の共有を図り始める。それには皆賛成してくれたし、今回の旗艦である武蔵も『確かに必要だな。より密な連携があれば、損傷艦が出ないかもしれない』という具合に意見に同意してくれたからな。

 

「基本的陣形だが、輪形陣で行こう」

 

 武蔵はそう切り出して、陣形を紙に書き始めた。

 

「中央には大鳳とグラーフ・ツェッペリンを配置。その周囲は4隻で囲む形になるが良いか?」

 

 俺的には異存はない。だが、空母組はあったみたいだ。理由は言わずとも分かっている。

 

「俺が外縁に居るのは、戦術的に常套手段であることと、空母は優先して守るべきだからな。近接戦闘になった場合、特例(何故か赤城は弓で深海棲艦を叩く)を除いて、その戦闘が出来ないからな」

 

 そういうと、グラーフ・ツェッペリンが反論しようとする。それを今度は雪風は遮った。

 

「グラーフ・ツェッペリンさんは確かに対艦戦闘をできるだけの装備を持っていますが、それはほとんど役に立たない可能性があります。雪風も主砲では重巡以上にはあまり攻撃しませんからね」

 

 最もな意見だ。

 

「そうすると左列1、中央4、右列1の編成になるが、まぁ、これは……」

 

 武蔵はそう言いながら、序列を考えていく。が、さっきの提案で作っていたものから切り替えた。

艦隊を密集隊形にするために、配置を少しだけずらしたのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「こうすれば、カバーしやすくなるんじゃないか? 空母は左舷か右舷を見せることになるが、1・4・1よりも露出率は減ると思う」

 

 誰も何も言わない。とりあえず、この序列で決定みたいだ。

次は何を決めるか……と考えていると、矢矧が一言。

 

「航空戦を仕掛ける前に、大和による砲弾の投擲を行ってはどうでしょう。先制攻撃としてはうってつけですし、武蔵が出来れば1門から2門になる」

 

 あ、空気が凍った。俺知らないからな。どういう理由でこうなったか分からないが、とりあえず俺は黙っていることにしよう。それが良い。きっと。

 基本戦術を煮詰め切ったのは、出撃日前夜だった。丸1日使って考え切った戦術はこうだ。

基本的に通常航行時は当初決めた序列のまま。戦闘と最後尾の矢矧・雪風は肉眼にて前方警戒。哨戒機も常時飛ばす。戦闘時には臨機応変に変更するが、初戦は輪形陣を崩したような序列を取る。初撃は俺と武蔵による砲弾投擲。最初は九一式徹甲弾。その後に零式通常弾を投擲する。接敵した深海棲艦が戦闘態勢に入るの前に砲弾投擲を中断し、グラーフ・ツェッペリン、大鳳による航空戦に移行。制空権を奪取するのと同時に、相手へ航空爆撃及び雷撃を行う。後に艦隊は纏まって各個撃破されないように動く。場合によっては俺か武蔵が空母の盾になる。

というものに纏まった。

 後は出撃時間を迎えるだけだ。そう皆が意気込んでいた時のこと、ゆきが俺たちの待機部屋に入ってきたのだ。

 

「都築少将から命令が繰り上げられたぁ~!!」

 

 つまり、今から出撃しろということらしい。

俺たちは黙って頷き、ゆきに見送られながら海へと駆り出た。時刻にして、夜の11時前。

 




 物語ですので、いつまでもハーレムしている訳ではないです(真顔)
今回は物語を更に進めるため、今後数回に分けて節目を作ろうと思います。
ということで、こういう手のモノが嫌いな方も、嫌わずに読んでもらわないと先の話が意味不明になると思います(汗)
 この節目を乞えれば、また日常パートに戻りますから……。
それまでの辛抱ですよ。

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