大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第41話  北方方面戦役 その1

 

「あっ、あ、あ、あ、あ、あ……」

 

 目の前に壊れたCDプレイヤーもとい、呉第〇二号鎮守府から出撃した艦隊の旗艦、ビスマルクが人に見せれないくらいに狼狽えている。

原因はもちろん、俺。言うまでもないよな。

 

「事前に都築少将から説明を受けているだろう? ……全く」

 

 と、ビスマルクの肩を叩きながら言っているのはビスマルクと同じく派遣されている艦隊所属の長門だ。ウチにも居るのでパッと見じゃ分からないが、艤装に刻まれている所属鎮守府の番号を見れば分かる。目の前に居る長門の艤装に刻まれている番号は『02-02(呉第〇二号鎮守府)』だ。簡単に覚えられる見分け方だから、俺もすぐに覚えた。ちなみに横須賀は『01』、佐世保は『03』、舞鶴は『04』になる。他の泊地になると2桁目が1からスタートするみたいだけど、俺は見たことが無い。

 そんな真面目なことを考えている間にも、早々に合流している俺たち呉第二一号鎮守府派遣艦隊と呉第〇二号鎮守府派遣艦隊は北方海域に向かいながら交流を楽しんでいた。

俺たちは全員と話すつもりだが、いくら都築提督のところの艦娘とはいえ、女性は女性みたいだ。ウチのよりも数億倍大人しくはあるが、ほとんどの会話を俺に振ってくるのだ。

 

「あ、そうそう」

 

 狼狽えていたビスマルクは急に持ち直して、あることを話し始めた。

それは、今回の緊急命令に密接に関係している話だ。

 

「北方海域で消息を絶った艦隊のことだけどね、提督が色々と調べてくれたみたい。それも私たちが出撃する直前に分かったことだから、教えておくわね」

 

 そう切り出して、淡々と情報を口にしていった。

 

「横須賀第〇九号鎮守府所属 旗艦 戦艦榛名以下鳥海、妙高、大井、蒼龍、瑞鳳。燃料弾薬満載して北方海域アリューシャンに哨戒戦闘を目的に出撃。北方海域に到達、突入したと思われる時刻から数時間後に広域緊急救援無線(SOS無線)を恐らくだけど榛名が打診後、消息不明」

 

 11人が急に口を堅く閉じた。

 

「音紋解析の結果、打診中に至近距離で砲雷撃・航空戦を行っていたことと、該当する6名の艦娘以外にも音声を拾っていたことが分かっているわ」

 

 これが何を意味しているのか……。そう考えた時、俺はあることに気付いた。

 

―――『私たちが海上まで"受けていた"任務は、艦娘特異種の情報収集』

 

 カレー洋で投降させたタ級の艦隊のイ・ハ級が言っていた言葉だ。

敵側の多くの情報を手土産に、呉第二一号鎮守府に下ろうとしたことを口にして伝えてきた時、俺に小出ししていた情報の一部。これがキーになりそう、というかこれ以外考えられない。

だが、これを信じてしまうのもいけないことだ。全てを疑ってかからないと……。

 

「異常事態に見舞われていたことは確かみたい。それで戦場が酷く混乱していたことや、錯乱状態にあった艦娘もいたみたいね」

 

 ビスマルクの言葉に、どうやら武蔵が答えるみたいだった。

 

「なるほど……。分かった。ありがとう、ビスマルク」

 

「いいのよ。提督に言われていたことだし」

 

「……しかし、おかしい話ではあるな。通常戦闘ではないことが起きて、混乱、錯乱が起きるとは」

 

 と言って、俺の方を見てきたのだ。武蔵も……俺と同じことを考えているのだろうか。

俺は今回の緊急命令の真相が『横須賀第〇九号鎮守府所属艦隊が接敵した艦隊が、《艦娘特異種の情報収集》という特殊任務を請け負っていた深海棲艦の艦隊との接触だった』と考えていた。

戦場での異常事態は、俺や武蔵にとってこれくらいしか思いつかない。こちらの連れも、一緒に出撃したこともなければ、尋問に立ち会っている訳でもない。そうすると、何か"異常なこと"に巻き込まれてしまったと考えるのが自然だろう。

 

「とにかく、よ。先を急ぐわよ」

 

 そう言って話を切り上げさせたビスマルクは、俺の方をチラッと見ると前を向いた。

ちなみに呉第〇二号鎮守府から派遣されている艦隊の陣形は複縦陣。俺たちの左舷側を並走している形だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 急いではいるものの、巡航速度で航行している。もう背中に背負っている艤装から排出される熱にも慣れてきたころで、ボーっと海を眺めていた。

特に何か考えていた訳ではない。目視で索敵しているのだ。他意はない。

 現在、左舷を航行していた呉第〇二号鎮守府の艦隊が、今は右舷に来ていた。ということは、俺の視界内にはビスマルクたちが入っている訳だ。

チラチラ見ているのは視界の隅に映っているので確認済み。多分、どうやって話し掛けようか迷っているんだろうな。

 以前派遣された時も、先ではみんなそんな感じだったのだ。だから特に思うところはない。否むしろ、ウチの奴らに見習って欲しいなとかは思ったぞ。

 そんな調子の中、ビスマルクが俺に声を掛けてきた。

 

「そ、そ、そそそ」

 

「そ?」

 

 どもり過ぎでしょ……。見てて面白いな、本当に。

 

「そそそれにしても、やま、やまままま……」

 

 面白いな。本当。ウチにはこういうタイプはいないから、本当に見てて面白い。

 

「やまままとは、その……えぇと……」

 

 両手の人差し指でつんつんしながら、しどろもどろしている姿がなんともまぁ……。

ちなみにビスマルクたちの艦隊の方からは、何やらヤジが聞こえるな。俺には聞こえない。うん。

 

「すっ、すす、きな……女、の……子とか、い、いる、のかなって……」

 

 オイ。俺の知っているビスマルクが空前絶後のキャラ崩壊しているんだが。

俺の知っている限りだと『あ、あんたって好きな人いるの? ……ッ!! 何よ!! 私が聞きたいから聞いているの!! さっさと答えなさい!!』的なテンプレツンデレセリフを吐くと思っていたんだけど……。目の前に居る金髪碧眼美女はもじもじして上目遣いで訊いてきている状況から、もう既に俺の中のビスマルクのイメージが崩壊していく。

……いや待て。既に数名崩壊しているから、今更気にしたって仕方ないな。

 

「うーん。別にいるかって言われても……このご時世というか、世の中というか」

 

 と答えておく。まぁ、納得してくれるだろう。

まだ会って1、2時間しか経っていないが、なんとなくビスマルクの性格は分かっているつもりだ。そもそも俺には前データ(艦これとしてのビスマルクや他の艦娘たちの言動)があるからな。それを加味したら、まぁ分かるもんだ。ただ、個体差があるから何とも言えないけど。

 

「そ、そうなの?」

 

「あぁ。ま、俺もこんなこと言ってたら何されるか分かったもんじゃないけどな」

 

 と言って、ビスマルクの顔を見た後に武蔵の方を見た。……なんだかこっちをジーッと見ている気がするが、まぁ……心配性の武蔵だから仕方ないか。

あんまりにアレだと、武蔵も止めに入るだろうからな。現状、そんな様子は無いから大丈夫だと思う。

 それよりも、だ。今度はもじもじし始めたんだが……。

まぁ……放っておくか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 北方海域に差し掛かる頃には、横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊とも合流できた。編成は旗艦に陸奥、神通、夕立、秋月、隼鷹、伊-168(イムヤ)だ。ちなみに呉第〇二号鎮守府派遣艦隊は旗艦にビスマルク、長門、プリンツ・オイゲン、綾波、翔鶴、瑞鶴。この3つの艦隊が混成して連合艦隊として成り立っていた。

 武蔵の提言で、北方海域に足を踏み入れる前に確認を取ることになった。

まずは周辺で広域緊急救援無線が発信されていたか、各所属鎮守府に自分たちが到達するまでに消息を絶った艦隊があるか、という2点。

 

「機動打撃艦隊旗艦武蔵より呉第二一号鎮守府」

 

 無線だ。通常無線ではあるが、広範囲に電波が飛んでいるため、北方からでもその無線はキャッチすることができる。それに呉第二一号鎮守府用の周波数を使っている。すぐに応答があるはずだ。

 

「あぁ。確認だ。私たちの出撃から今までの間に、他に消息を絶った艦隊は? …………そうか。私たちはこれより北方海域に入る。以上」

 

 どうやら終わったみたいだ。それに他の旗艦も連絡を入れたみたいで、情報交換がなされる。

そこであることが分かった。都築提督は俺たちが移動している間にも、執務の合間を縫って情報収集をしていたみたいだ。そうすると、どうやらこれまでの間にも北方海域で消息を絶った艦隊があったみたいだ。どこの艦隊かまでは特定できなかったみたいだが、消息を絶っている艦隊があるのは事実だということ。

 それを踏まえて、俺たちは北方海域へと足を踏み入れた。

 

「……定時連絡だ。異常、接敵無し」

 

 北方海域に入ってから1時間が経っていた。突入と同時に、俺たちの連合艦隊は3つに分かれた。捜索範囲を広げるためだ。

海上からじっくりと探しつつ、航空隊によって空からも探す。そんな手を取りつつも、別れた艦隊と相互に定時連絡を交わしていた。それに接敵時にも緊急連絡を入れるように話を付けてある。

 そんな静寂の海が突如、張った線のようになる。波打つ余裕もなしに、一筋のただ何の異物もない緊張に。

そんな雰囲気を感じ取ること、数秒後に全員に緊急無線が飛び込んできた。北方海域に派遣されている艦隊で共有している周波数だ。

 

『こちら横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊、横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊ッ!! 哨戒機が付近の海域に未確認艦隊を発見!! ただし、"艦娘"の艦隊ではない!!』

 

 武蔵がその無線が終わったのを皮切りに、怒号を飛ばす。それは少し緩んでいたかもしれない気を引き締めるためだ。

 

「針路変更、方位048!! 全艦両舷砲雷撃戦用意!! 航空攻撃隊も発艦させろ!!」

 

「「「「「針路変更、方位048ようそろッ!! 全艦両舷砲雷撃戦用意ッ!!」」」」」

 

「「航空隊発艦開始ッ!!」」

 

 休んでいた間に決めたことの一つはこれだ。旗艦が下す命令の復唱だ。……まぁ、確認するのは重要だな。うん。

 

「最大戦速で突っ走る!! 速度は私に合わせてくれ!!」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 となると、おそらく27ノットまでは出さないだろうから、せいぜい24ノット辺りだろうか。

速度を合わせて、出る限りの最大戦速で現場に向かう。もし相手が、横須賀第〇九号鎮守府所属艦隊が消息不明になった原因だとしたならば、事に当たる時には持ちうる限りの最大戦力で臨むのが望ましいだろう。恐らく呉第〇二号鎮守府派遣艦隊も横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊が居る海域に向かって針路変更をするだろう。

 武蔵が次々と指示を出していく中、逐一陸奥からの報告が無線で届いていた。

最初は未確認艦隊だったのが、深海棲艦で編成された敵性艦隊であることが分かった。そして編成に通常艦の他に、特殊艦が存在していること。アリューシャン諸島付近で同じく哨戒中だった艦載機が、島に何かを発見したこと……等々が報告されていった。俺的には前2つが今のところ重要ではあるが、最後の報告は、戦闘終了後に確認する必要があるだろう。だがそれもこれも前2つでもたらされた情報から、戦闘で勝たなければならない。それも、大破艦が出ないように……。

 

『こちら横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊。未確認艦隊を視認!! 深海棲艦と断定!! 編成は戦艦1、空母2、重巡1、駆逐2。航空戦が劣勢のため、砲雷撃戦に突入!!』

 

 数分後に入った緊急無線に、該当海域に向かっていた俺たちの心臓は跳ね上がった。今向かっているところでは、味方が劣勢になっている。相手の艦隊が通常編成であることは分かっているものの、航空戦で劣勢の横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊が戦線離脱してしまうかもしれない。そう考えると、海域到着を急いでしまう。

俺はまだ見えない遥か向こうの水面を睨むのだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 先に該当海域に到着していた呉第〇二号鎮守府派遣艦隊が支援攻撃を開始してから10分後に到着した俺たちは、少し離れたところから支援砲撃・近接航空支援を行った。その戦闘に参加して数分後に、深海棲艦の艦隊を全て轟沈させたことにより、戦闘終了をした。被害はそこそこあり、横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊で小破が2、中破が1出てしまった。旗艦の陸奥がその中破をしている。

 戦闘終了後に集合した俺たちは、少しばかり会議をしていた。

これからの方針を決めるために。

 

「……原因が分かっていない以上、引き返してもまた同じことが起きるでしょうね」

 

「あぁ。俺たちが戻って、態勢を整えて戻ってくるまでにまた艦隊が行方不明になるかもな」

 

 現在、北方海域の中腹まで来ており、横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊をどうするかについて話していた。

先の戦闘で大破艦はいないものの、戦闘続行をするのにはいささか辛いところではあったのだ。旗艦陸奥の中破や、隼鷹の小破はかなりの痛手。普段でもこの損傷を被ったら、すぐに引き返していたという陸奥たちは、横須賀第三二号鎮守府の白華提督の方針に従い、帰還することを考えていたのだ。

だが現在の海域が海域なだけに、帰還するのも現状を鑑みるとリスクが大きいのだ。ならば、と言って損傷艦のない俺たちや呉第〇二号鎮守府派遣艦隊が護衛しつつ、撤退するのが一番安全だということになったのだ。

結局は、悪循環になってしまうことを恐れて、決定を下すのを渋っていたのだ。全艦隊が帰還するか、横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊だけを帰還させて、残りで任務を続行するのか……。

 

「……悩んでいても仕方がない」

 

 そう切り出した武蔵が、あることを提案したのだ。

 

「現海域には艦隊を1つ残し、それ以外は撤退。任務を続行するのも、損傷艦を安全に海域外に連れ出すのもこれで続けることが出来る」

 

 提案にすぐに反論をしたのは陸奥だった。

 

「ちょっと待って!! そうしたら、この不気味な海域に単艦隊を一定時間残していくことになるわよ!?」

 

―――戻ってこれなくなるかもしれない

そう陸奥は訴えてきたのだ。だがそれも考慮しての提案でもあったし、何より武蔵は全てを言い切っていないみたいだった。

 

「まぁ待て。現海域から離脱させれば、いつも通りだからそこから先は単艦隊でも帰還することができる。付いて行った艦隊はそこから引き返し、こちらに合流すれば良い」

 

「ッ……」

 

 陸奥は苦虫を噛み潰したような表情をした。それは陸奥の艦隊の皆でも言えることではある。

 

「まぁ、言い出しっぺの法則に乗っ取り、私たちが残る。……たかが2時間だ。心配するな」

 

 この後、否定的な意見が多数出るものの、代替案が出てこなかったため、武蔵の案が採用されることになった。

 そして決定が下されてから数分後、ビスマルクたち呉第〇二号鎮守府派遣艦隊の護衛を付けた横須賀第三二号鎮守府派遣艦隊が離脱していった。ちなみに3つのそれぞれの鎮守府には連絡済み。承諾を得ている。

そして艦影が米粒ほど小さくなった頃、武蔵が号令を出した。

 

「これより、捜索を続行する!! 対艦・対空警戒を厳となせッ!!」

 

 単艦隊による、この謎の失踪を遂げた艦隊の捜索を再開するのであった。

ビスマルクらと合流出来るのは、おそらく3時間以上後になるだろう。さっき武蔵が言ったのは虚言で、本当は捜索を続行する気だったのだ。

 




 前回からスパンは短いですが、投稿させていただきました。

 内容のことはまだ……言えませんね。ですけどサブタイトルで察しの良すぎる人はすぐに分かると思います、はい。
ということで、これ以上後書きを書いているとネタバレしてしまいそうなので、これにて。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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