大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第42話  北方方面戦役 その2

 

 少し前はしょっちゅう来ていた海域にも関わらず、妙に不気味に感じていた。さっきまでは存在が確実に確認出来ていた艦隊が2つもあったが、現在は海域の外に逃がすために離れている。

俺たち呉第二一号鎮守府派遣艦隊 機動打撃艦隊はたった6人で北方海域アルフォンシーノ方面を単独航行中だ。

 対応がしやすいということで、基本陣形(※画像

【挿絵表示】

)を取っていた。誰しもがこの静かで寒い海の全方位を睨み付けている。

深海棲艦の艦隊が居ないか。そして、通信途絶した横須賀第〇九号鎮守府の艦隊が居ないかどうか……。というところまでは、全員の共通しているところではあると思う。

その他にも、俺はあることを疑っていた。『深海棲艦による俺の捜査』だ。特異種であるが故、こんな世界だから故だろう。俺にとっての異性に過剰に敏感な大多数を占める人類はとにかく敏感だ。それに、見慣れないなりをしている艦娘を見つけたら調査をするのも当然のことだろう。しかも、1体しか確認できていないのなら猶更だ。

 

「……兄貴」

 

 序列の反対側を航行している武蔵が俺のことを呼んだ。

 

「なんだ?」

 

「……」

 

 俺に話しかけてきたのに、どうしたのだろうか。何か要件があったんじゃないのだろうか。

何故か俺の顔を見たまま、黙りこくってしまった。言うことでも忘れてしまったのだろうか。それとも、何か聞き辛いことでも聞こうとしていたのだろうか。

そんな風に俺が考えていることも知らない武蔵は、ジーッと俺の目を見たまま黙る。

 

「……」

 

「……な、何だよ、武蔵」

 

「……」

 

「……武蔵?」

 

 俺の方から目を外さない。この状況に、艦隊全員が武蔵の方を向いた。周囲警戒をしているにも関わらず、誰もが武蔵の方を……。

その刹那、武蔵は叫んだ。

 

「兄貴」

 

「……だから、なんだよ」

 

「皆もこっちを見ているのなら、そのままで聞いて欲しい」

 

 武蔵から発せられているその雰囲気に呑み込まれ、空気が震えるのを感じていた。この感覚はきっと……そうだ。殺気だ。

武蔵から殺気が放たれている。俺はそのまま武蔵の掛けている眼鏡の向こう側を覗き込む。

 

「……こちら呉第二一号鎮守府所属 機動打撃艦隊旗艦 戦艦武蔵。こちら呉第二一号鎮守府所属 機動打撃艦隊旗艦 戦艦武蔵」

 

 最初、何のことだか分らなかった。だが、それはやがて……。

 

「北方海域アルフォンシーノ方面深部へ緊急命令にて出撃中。全艦健在」

 

 "全く意味の分からない"言葉を発し始めたのだ。

 

「……提督」

 

 それにいち早く気付いたのは雪風だった。だが、首を動かそうとはしない。

 

「……大和」

 

 次に気付いたのは矢矧。

 

「すまないっ……」

 

 そして全員が気付いた時には、既に手遅れだったのだ。

 

「武蔵ッ!! 今のは広域緊急救援無線(SOS無線)ッ!! まさか針路を見失っt」

 

 そう。広域緊急支援無線は、"既に"手遅れの時に使うものだったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 頭が痛い……って言いたくなる状況。気付いた時にはもう冷たい北方海域から離れており、何やら暗いところに居る。

匂ってみると、どうやら磯の臭いがすることから、海かもしくは海の近くに居ることは分かる。それに混じってというよりも、それが圧倒的存在感を放っている匂いは嗅ぎなれた匂い。

どこに居ても、何をしていても匂ってくるこの匂いは……。

 

「……目が覚めたみたいだね!!」

 

 女の子特有の匂いだったのだ。

 現在の状況を端的に説明すると……。

 

「あははっ。やっと捕まえた」

 

 俺は……。

 

「さぁ、私とケッコンしよ?」

 

 深海棲艦に捕まってしまったのだ。

 

「嫌だ」

 

「なんでっ?!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 目の前でプリプリしているの少女には見覚えがある。小柄過ぎる体系に、手にミトンをはめて居る(今は取っているが)その少女はどっからどう見ても、肌の色的に深海棲艦であることは間違いなし。しかもこれまた驚き、北方棲姫じゃないですかー。いわゆる『ほっぽちゃん』ってやつ。

そんな北方棲姫から俺はたった今、求婚された訳だ。もちろん即答で断ったけど。そんなんだから、目の前でプリプリと怒っているのだ。現状説明終了。

 

「なんでよー!!」

 

 体の自由を奪われ、唯一目と口の自由のある俺の目の前をチョロチョロと走り回る北方棲姫は、最初の求婚から既に20分もの間、このような状況になっているのだ。

 

「なんでよーって言われてもなぁ」

 

 敵の捕虜(?)になっても尚、どうして俺がこんな風に反抗的な態度を取っているのか……理由なんて簡単だ。それはヲ級から聞かされていたこと、人類と深海棲艦の戦争理由にあった。深海棲艦の戦争目的は種の存続を図るため、男性を必要としていること。人類はただでさえ少ない男性を守るために戦っている、という大前提があるのだ。

それを知らされていた俺は、捕虜になったとしても俺は拷問された挙句に殺されることは先ず無いだろうと考えていたのだ。どうやらその考えは当たりだったようだがな。

 北方棲姫が無邪気に俺に言葉を投げかけてきたり、一応拘束されている俺の手を取ってみたりとしているみたいだが、それよりも俺は気になることがあった。

北方棲姫という立場上、きっと艦隊の長を任されていることは自明。それがどこまでの立ち位置に居るのかは分からない。だからこういうことになっているのも理解できる。

 

「……」

 

 そう。北方棲姫以外にも深海棲艦はいるのだ。おそらく北方棲姫の護衛だと思われる。というかそれ以外考えられない。艦種と級は分からないが、深海棲艦であることに代わりはない。特異的な肌の色をしているからな。それだけ青白い人間が居たら驚きだ。

 

「……まぁ良いわ」

 

 俺の周りをグルグルしていた北方棲姫が突然足を止め、俺の前に仁王立ちする。

そして冷たい目線と声で話し始めたのだ。……さっきまでの雰囲気はどこに行ったよ。無邪気だったじゃないか……。

 

「呉第二一号鎮守府所属 戦艦 大和……の希少種で、合ってるわよね?」

 

「……」

 

 突然変わった雰囲気から、俺は北方棲姫が切り替えたことはすぐに分かった。多分、仕事の方に移ったのだろう……。それに俺のことを『希少種』と言った。多分俺たちで言うところの『特異種』と同じような意味で使われているのだろう。

 

「沈黙は肯定と摂るわよ?」

 

「……」

 

「いいわ。……大和」

 

「……」

 

 北方棲姫がツカツカと近づいてくる。そして俺の目の前に立ち、顔を近づけてきた。その表情は何ものにも例えようのないものだった。だが、彼女から吐き出される声色が酷く冷たいことは分かる。

 

「精々考えることね。……貴方の言動、行動で"左右"するわ」

 

 そう言った北方棲姫はスッと離れ、近くに立っている艦種不明の深海棲艦に命令を下した。

 

「鍵を締めておきなさい」

 

「はッ!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 牢で気付いてから恐らく1日ほど経っている。この間に、何回か北方棲姫が俺の様子を見に来ていた。その度に意味深な発言をしてどっかに行ってしまう。言葉としての意味は分かるんだが、その裏に隠されていることが分からずにいた。おそらく『貴方の言動、行動で"左右"するわ』と言っていた言葉に関係があることは明白だった。

 

「さっぱり分からない……」

 

 それが今の俺の現状だったのだ。割と暗い室内。牢と言ったこの部屋の外には人の気配。おそらく深海棲艦。食事は朝昼晩の3回で、おやつまである。あと言えば飲み物も出してくれるし、トイレにも行かせてくれる。お風呂は昨日、入らされた。というかぶち込まれたというのが正しいのかもしれない。かなり気を使いつつ、乱暴に扱われた。……その辺り、意味わからないんだけど。

 俺がそんな風に考えていると、どうやら北方棲姫が牢に来たみたいだ。

扉が開かれ、俺の前に来る。

 

「ねぇ、大和」

 

 俺は返事をしない。

 

「24」

 

 は?

 

「何の数字だか分かる?」

 

 分からない。というかいきなりなんだ。

 

「1日を時間に換算した数字、そう思う?」

 

 それは一瞬考えた。

 

「縁起のいい数字、とか言われているみたい」

 

 ……それは知らなかった。縁起のいい数字なんだな。

 

「……雑談に付き合って欲しいの」

 

「……」

 

「ふふっ。……最近私たちの内部で妙な動きがあるの」

 

 何の話だ? 深海棲艦の中で、何かあったのだろうか。

 

「簡単よ。私たちは艦娘たちによく撃沈されるけどね、残骸が回収されるからすぐに分かるの。誰が轟沈したのか、って」

 

「……」

 

「そうしたらおかしいのよ。中央総軍から派遣された空母が1人」

 

 ドキンと心臓が跳ね上がる。それと同時に、言葉に違和感を持つ。

だがそんな俺にお構いなしに、北方棲姫は雑談を続ける。

 

「特命で出撃していた一般艦隊が1つ」

 

「……」

 

「轟沈もされずに帰還せずに損傷のない装備だけが見つかって行方不明」

 

「……」

 

 スッと北方棲姫が目を細めて続けた。

 

「……それに同調するかのように命令無視の横行と独断専行、装備の無許可廃棄」

 

「……」

 

「数人減っただけで、私たちは痛くも痒くもないの。だけどその波は広まりつつあるみたい」

 

「……」

 

「最初は東南アジア方面の一部で始まったこの一連の動きが、最近東南アジア方面の全軍に伝播しているわ」

 

 東南アジア方面……南西諸島方面か。その辺りは確か……"ヲ級を捕獲"した海域。そして"タ級たちを武装解除させた"ところ。

この北方棲姫、俺に何を訊こうとしているのか。考えるまでもないだろう。絶対に"そのこと"だろう。

 

「この北太平洋でも、よ」

 

 北太平洋ということは、北方海域でもということになるのか。

そしてヲ級の言っていた言葉の裏をこんな形で取ることになるとは思いもしなかった。おそらくその反抗的態度を取った深海棲艦は皆、ヲ級と同じ(私利私欲のために軍から離反も平気でやる)タイプなのだろう。

少し頭が痛くなる話ではあるが、俺は平静を装い、北方棲姫の言葉を聞く。もし鎮守府に戻ることができたのなら、少しでも良いから情報を持って帰りたいのだ。

 

「さぁ、大和の話を聞かせてもらえないかな?」

 

「……」

 

 尋問らしい尋問はしてこなかったものの、今になって初めてそれらしいことが始まるみたいだ。

正直、鎮守府のことなど話しても仕方ない気もするが、北方棲姫が欲している情報を俺が持っているとは思えない。なので俺はある程度、抵抗する素振りを見せようと思う。俺に乱暴は出来ないはずだしな。

 

「答え次第では……うん。さっきの24の数字の意味、教えてあげる」

 

 そう言った北方棲姫は悪い笑みを俺に向けてきた。

 





 今回からある程度のシリアスが混じってくる話になります。ですが展開等々、平常運転で行くつもりなのでよろしくお願いします。

 詳しい場所等は書きませんでしたが、こちら側で言うところの北方海域、深海側で言う北太平洋のどこかにある深海棲艦の司令部ということになってます。その辺り、ご了承ください。

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