大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第44話  北方方面戦役 その4

 血だるまになって航行する大和以下、浜風、磯風、朝霜、初霜、霞、足柄、伊勢、夕立、夕張、赤城の艦隊が怒涛の勢いで突き進んでいる状況下、俺は北方棲姫やその部下たちが大慌てしている中、解放されて間もない武蔵と話していた。

 

「なぁ、兄貴よ」

 

「あぁ」

 

「こいつらの怯えた顔ときたら昔は『自業自得。当然のことだ』と思っただろうが、今はそんな風に思えない」

 

「……同感」

 

 武蔵は腕を組んで、やれやれといった感じで話している。

 

「大和をそこまで怖がるとはな……。ただ、アレは多分……敵の手に落ちた兄貴をかっこよく助けたいんだろう。はぁ……」

 

「だからあの不規則な編成の艦隊が出撃している、と?」

 

 冷静に判断していく武蔵に、俺も静かに質問をしたりする。

 

「いいや。あの艦隊は浜風以下護衛は大和に付いて出撃。伊勢や夕立たちは多分キレて出撃。足柄は監視で赤城は多分『航空戦力が居ないとどうしようもないですよ』とか言って付いてきたか、提督に言われて出てきたんだろう」

 

 何それ。ツッコミどころ満載なんですけど。

 それはともかくとして、どうして大和があんな風になっているか。それは武蔵的にはどういう風に捉えているのだろうか。

 

「じゃああの大和は?」

 

「ん? それはだから、兄貴をかっこよく助けるための演出だろう? この前大和の部屋に血のりが置いてあったからな」

 

「……ソウデスカ」

 

 何やってるの、世界最大最強の戦艦……。俺もだけど。

と考えていると、どうやら部屋にあった血のりについて言及した時の大和の真似をしてくれるみたいだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「この血のり、一体何に使うんだ?」

 

「これはですね……いつか使えるかなーって思って通販で買っておいたんですよ。口に入れても大丈夫、服についても簡単に洗い落とせるパーティーグッズってやつです」

 

「それは分かったが……」

 

「本でよくあるじゃないですか。ヒーローのためにヒロインがズタボロになりながら助けに行くってやつ。あれ、よくないですか?」

 

「確かに熱い展開にはなるな」

 

「そうですよ!! でも艦隊戦をしていて出血なんてないですから、これを使うんです。服は戦闘していれば破けてしまいますから、ボロボロになって迎えに行くんですよ!!」

 

「それは良いが……兄貴をか?」

 

「はい!! そうしたら……うぇひひひっ」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「という訳だ」

 

 あまり似ていない大和の真似をしてくれたが、想像は簡単に出来た。俺は黙って遠くを見る。というか最後、スルーしておく。そういえば最近武蔵が、大和があの件がばれてからというもの、結構オープンになってしまっている、とかなんとか言っていたっけ……。

 解放された23人の艦娘は状況が理解できず、深海棲艦たちは『何アレ怖い!!』とか『ひいぃぃぃ!! 鬼よ!! 悪魔よ!! 堕天使よ!!』とか言って騒いでいる訳だが……。この事態はどうするんだろうか。

 

「何にせよ、助けに来てくれたのはありがたいんだがな」

 

「そうだな。……ただし」

 

「「下心丸見えだ」」

 

 そんなことを言っていると、矢矧と雪風が話しかけてきた。

 

「大和さんっ!!」

 

「大和!!」

 

 俺は2人のいる方向を見る。

 

「ん?」

 

「状況を見る限り……そのこれは……」

 

 矢矧が不思議そうな表情をしてそう言ってきた。おそらく、アレを想像しているのだろう。ヲ級とかその辺の……。

 

「想像通り。助けも望めなかったから、北方棲姫と交渉した」

 

「そう……ですか」

 

「……どうした?」

 

 想像している通りだとは思うが、口に出して状況を説明する。だが、矢矧は悔しそうな表情をするのだ。せっかく助かったというのに、どうしてそんな表情をするのだろう。

 

「私が不甲斐ないばかりにこのようなことに……。それに大和が助けてくれたのでしょう?」

 

「……そう、なるのか」

 

「……ありがとう」

 

 そういって矢矧は離れていってしまった。残っているのは雪風だけ。

 

「雪風?」

 

 近くに来て顔も上げずに一歩も動かない雪風に、俺は声を掛ける。

 

「どうしたんだ、雪風?」

 

 顔を上げないが、雪風が何かを言おうと口を開いたその時、砲撃音が耳を劈く。それに少し遅れて、状況がスピーカーから知らされる。

 

『艦娘の艦隊が急速接近ッ!!』

 

 どうやら大和たちが来たみたいだ。俺が北方棲姫のところに行こうとすると、雪風が俺の手を取った。そして付いてくるのだ。どうしたのだろうか、と考えつつも俺は北方棲姫のところに向かう。

 北方棲姫は対応に追われているようには見えなかったが、接近中の艦隊のことを知らせることにした。

 

「北方棲姫」

 

「何?」

 

「攻撃しなくても良いぞ」

 

「え? どういうこと?」

 

 俺の発言が理解できるわけもなく、眉間にしわを寄せた北方棲姫から説明を求められた。

 

「あの艦隊は迎えだ」

 

「……そうなの?」

 

「あぁ。多分、俺たちが消えた知らせを受けた鎮守府が出撃させた艦隊だ」

 

「でも、攻撃されているわ」

 

「足柄に声を掛けたら大丈夫だから。俺の名前を出してくれれば多分止まる」

 

「……そう」

 

 どうやら対応を変えるみたいだ。北方棲姫はすぐに知らせを出し、対応艦隊に連絡が行く。そしてすぐに、砲撃音が止んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 北方棲姫と話をしていると、騒々しい音を立てている足音が多数接近してきた。しかも艤装を身に纏ったままだからうるさいことこの上ない。ガシャンガシャン言いながら近づいてきて、俺の近くで足を止める。

北方棲姫から目を外し、音源の方に目を向けるとそこには……。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 血塗れでボロボロになっている大和や伊勢の姿があった。その後ろにはすまし顔をしている浜風と磯風、あわあわしている初霜と朝霜、顔を赤くして頬を膨らませている霞、特徴的な髪がピコピコ動いている夕立、呆れ顔の足柄と夕張、ニコニコしている赤城が居た。多分この中で一番肝っ玉が据わっているのは赤城だと思う。

そんなことは置いておいて、だ。肩で息をしているこの2人に見下ろされ、状況がよく分からないんだが、俺は一体どうすればいいのだろうか。そう考えていると、大和が俺に話しかけてきた。

 

「お、お怪我はありませんか?」

 

「あぁ、特に」

 

「知らせを聞いて……飛び出してきてしまいました。敵も多かったですが、なんとか……」

 

「見れば分かる」

 

 フェイクだけどな。……視界の端で赤城と武蔵が声を殺して笑っているんだけど、俺もそっちに行きたい。

 

「さ、すぐに帰りましょう。ですがその前に……」

 

 大和の主砲が旋回する。砲門が狙う先は無論北方棲姫だろう。周囲には他の深海棲艦が立っているが、46cm砲の前では紙切れ同然だろうな。そんな状況下、北方棲姫は初めて会った時と同じ態度で口を開いた。

 

「あら?」

 

「ここの飛行場を使えなくしないといけませんね」

 

 うん。セリフは決まっているんだ。だがな、どうも演技臭い。それに見るからに北方棲姫も乗り気じゃないしな。

既に軍から離反している身の上、状況によっては艤装を棄てて付いてくるだろうから、これからは仲良くしないといけないのだ。いくら敵同士だったとはいえ、この北方棲姫が云々かんぬんという訳でもないだろう。ヲ級とかタ級もそうだったしな。

 とまぁ、そんなことを内心考えていた訳だ。それはもちろん武蔵も同じようで、俺の横で苦笑いを浮かべている。

そんな中、大和だけが一触即発の雰囲気を出していた。もう滑稽としか言いようがないな。そろそろ切り上げた方が良いんだろうか。……いいや。もうちょっと観察して行こう。

 

「貴女が周辺海域で艦隊を拉致し、挙句の果てに大和も攫った犯人ですか?」

 

「そうじゃないとしたら、貴女は相当な道化ね。この北太平洋海域を管轄下に置いている私たちでないとしたら、それは"お仲間"ではなくて?」

 

 あれ? 北方棲姫、乗っちゃうんだ。……あぁ、そういうこと。乗った方が面白いって思ったんだろうな。

 

「聞いた私がバカでした」

 

 ほんとバカだよな。

 

「ふふふっ。でもね。……もう大和は私のもの」

 

 スマンが一言良いか? と言い出したいところではあるが、まぁ、観察していた方が良いかもしれないな。

 

「なんですってっ!?」

 

 ちょっと待った。伊勢、何本気にしているんだよ。

今すぐそこの純粋乙女に説明してやれ!! オイ赤城!! 笑ってないで早く!!

 

「いいえ。大和は、私の弟は……私のものですッ!! 誰にも渡しはしませんッ!!」

 

 大和の艤装の主砲が再指向。確実に北方棲姫を捉えている。一方、北方棲姫はというと、自分の艤装がこの飛行場なので何もすることができない。周囲の深海棲艦たちも動けずにいた。自分らが動けば、自分の将が吹き飛ぶことは分かっているのだ。

一触触発の雰囲気で誰も動かない中、最初に行動を起こしたのは北方棲姫だった。俺とはそこまで離れていない距離に居るので、すぐに動けば良い。それに大和の主砲はその威力から脅しであることは分かっていた。実際に砲撃するとは思えない上に、おそらくこの距離なら生身の肉体で格闘戦をした方が早いだろうからな。

 

「っ……」

 

「なっ、……な」

 

 北方棲姫が選択。それは、俺の近くに来て俺の膝の上に座ることだったのだ。それを見た大和は顔を真っ赤にしている。

ちなみに伊勢は白くなったし、赤城とかもう膝叩いて笑ってるしな……。絶対助ける気ないだろ。

 

「私を攻撃してみなさいよ。ほら。貴女の弟を盗ったのはこの私よ」

 

「うぐぐ……っ」

 

「ほらほら~。良いのかしら?」

 

 と、完全に煽りモードに入った北方棲姫は、大和に見せつけるように膝の上で俺の肩を撫でたり、首に腕を回してみたりしている。ちなみに顔が火照らせながらしているから、結構無理しているんだろうな。

そんな北方棲姫の状況も見抜けずに、大和の怒りは最頂点に達していた。顔を俯かせて、握りこぶしはプルプルと震えており、見るからに力んでいるのが見て取れる。そして、バッと顔を上げた大和は言い放ったのだった。

 

「うううっ、う" ら" や" ま" し" い" っ" !」

 

 涙声になりながら、そんなことを言い放ったのであった。もうこの大和、ヲ級の影響受けすぎなんじゃないかなって思う。

 この後、すぐに飽きてきていた武蔵が介入。事の顛末を説明した後、帰還することになったのだった。ちなみに北方棲姫たちはそのまま離反し、北太平洋から脱走を図る。

軽空母ヌ級の艤装に艤装を投棄した深海棲艦たちは乗って、そのまま北方海域から脱出。哨戒線外にある無人島に身を寄せることになったのだった。

 




 今回もオチはそういう風になりました(真顔)

 大和が血濡れだったのは演出でしたので、勘違いのないように……。それと、血濡れだったことの言及は、次の話でしようと思います。

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