大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第51話  ちいさなお姫様 その1

 思い返せば、海の上に居る時は碌な目に遭ってないような気がする。演習はともかくとして、任務で出撃した時なんてそうだ。

ヲ級、タ級、北方棲姫……。レベリングは抜きにして、ゆきから命じられた任務で碌なことが無かった。自称:変態奴隷のヲ級。艦隊を引き連れて離反したタ級。止む無しに懐柔させて篭絡した北方棲姫。北方棲姫の件は一概にゆきが原因だとは思えなかったが、そもそも俺を編成に入れたところで責任がある。よって、ギルティ。

 溜息を吐きながら、俺は海の上を艦隊を引き連れて航行する。

目指すは太平洋側の四国沖。話をしたかは記憶が定かではないが、北方棲姫が北方海域から離反した艦隊を引き連れて来ていると思われるところを見て回るのが今回の任務だ。大所帯のはずだからすぐに見つかると思うんだが……。

 

「加賀。偵察状況はどうなっている」

 

 通りかかったところを無理やり連れてきた加賀に、俺は振り返らずに尋ねる。今、俺たちがしていることは、軍的には不味いことだ。上層部の意向を無視した独断、深海棲艦の捕縛と共存。深海棲艦の捕縛例はあまりないらしく、情報は上層部も欲しいところらしい。もし深海棲艦を何人も隠していることがばれたら、なんやかんやの罪でゆきは投獄か悪くて銃殺らしい(本人談)。

つまり、俺たちは深海棲艦の襲撃に備えながらも、呉第二一号鎮守府所属以外の艦娘にも警戒する必要があるのだ。

 

「付近に艦影はないです」

 

「そうか」

 

「貴方に接近している艦影が1つ」

 

 出撃してからずっと、加賀はこんな調子である。最初こそ戸惑ったものの、今では適当にあしらっている状態だ。

加賀と言えば、時々俺の私室の前をどうやって侵入しようかとうろついていることのある艦娘だ。毎回のように捕まっては説教をこってりされても、めげずに俺の私室の前に来ている。普通に会って話がしたいらしいことを、加賀と仲の良い赤城が言っていた。それなら普通にこればいいものの、そういう風にして来るものだから怒られるのだ。

そうは云うものの、こうして話せる状況にあってもこれだから救いようがない。隙あらばにじり寄ってくる加賀は、頬を赤らめてモジモジとしつつも寄ってくる。表情と行動が噛み合っていないのだ。

 

「索敵に集中してくれよ……」

 

「えぇ。貴方の素敵なところを索敵中」

 

「ダメだコイツ……」

 

 頭のネジが数本外れているどころの騒ぎではない。話が全く通じないのだ。もう相手にするのを押し付けよう。それが良いな。

丁度良いところに足柄が居るので、足柄に声を掛ける。

 

「足柄ぁ~」

 

「なぁに?」

 

「ちょっとコイツどうにかして」

 

 こっちを振り向いて微笑んでいた足柄が数秒フリーズした後、表情を真顔に変えて言った。

 

「それは無理」

 

 こんな時に限って……。いつもの姉御肌どこいきあがった!!

 足柄が定位置から移動し、俺の横で並走を始めると、遠いところを見て語り始めるのだ。

 

「どうかしちゃってるんだから……今更何をしてもどうしようもないわよ」

 

 清々しいほどに加賀を貶している訳だが、否定は出来ない。否定は出来ない!!

 周りから聞く、俺が来る前の加賀の印象と、今の印象が全く噛み合わないのだ。

昔は、ザ・軍人というような人だったとか。規則正しい生活、真面目に訓練を取り組む、向上心を持って勉学に励む、へたれるゆきにグチグチ言いながらも手伝ってあげる……。最後のは優しい一面だが、大体の艦娘はそういう風に思っているらしい。

だが今は、ザ・変態。大和の私室前を徘徊し、俺を眺めては涎を垂らし、上の空になったかと思うと『大和くんと夜s[自主規制]』と唐突に呟いたりするんだとか。それ以外にもいろいろとあるらしいが、今まで築いてきた印象は一瞬にして崩れ去ったとのこと。

それが先ほどの足柄の台詞に回帰しているのだ。皆は口をそろえて『加賀はどうかしてしまった』という。いやいやいや、言ってるキミたちも十分どうかしていると思うから。犯罪スレスレや、完全に犯罪を犯しているんだからな。忘れたとは言わせねぇぞ!!

 

「……そう言われても足柄を頼っちゃう」

 

「うっ」

 

「まぁでも、確かに手の施しようがないのは見れば分かることだからな」

 

 加賀をチラッと見て、俺はそう零す。

俺からしたら、普段からヲ級のことをあれやこれや言っていたが、今考えるとアレはアレで自制してくれていたんだと思う。初対面の時から考えると、だけど。だが加賀は違う。完全に危ない人なのだ。『お菓子あげるから、おじさんといいことしない?』と道端で女子小学生に声を掛ける事案と同じレベルと言い切れる。

 

「はぁ~いいわぁ。カッコいいし良い匂い。ひゃあぁぁぁぁぁ!! 良い匂ぉぉひぃ!! 噴いちゃうわっ!!」

 

 どうしてこいつを連れてきちゃったんだろう……。

流石の護衛の初霜と雪風も苦笑いしているからな!! ……雪風が苦笑いするって相当だと思うぞ。

というか加賀、何を吹き出すんだよ……。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 警戒レベルがヲ級以上に高くなった加賀を初霜に抑えてもらいながら、俺たちは北方棲姫が上陸していると思われる無人島を発見した。

昔、島民が本州に移民してしまったために放棄された島だ。今では廃墟が広がっており、放棄された後に軍の補給基地にもなったがこれまた放棄されたところだ。コンクリートで出来た補給基地時代の建物がまだ立っており、掃除すれば不便はあるだろうが住めるかもしれないように見えた。

 それは置いておいて、だ。俺たちは海から島に上陸をする。

艤装を背負ったままでも陸上での活動は可能なので、俺たちはそれぞれ砲門の仰角を水平に保って歩みを進めていた。

 

「廃墟みたいですね!!」

 

「雪風、廃墟みたいじゃなくて廃墟なんだよ」

 

「そうですね!! 確かに廃墟です!!」

 

 物珍しそうに、雪風は辺りをキョロキョロと見渡しながら歩みを進めている。出撃以外でほとんど鎮守府から出ることのない艦娘たちからしてみれば、このような環境は初めて目の当たりにするものなのだろう。

 一応、空には加賀の艦載機が飛んで偵察をしているが、地上でしか確認できないところも多い。そう言ったところを警戒しながら進まなければならないから、俺たちはこうして島の奥へと進んでいるのだ。

この島に上陸してからというもの、廃墟ばかりで生物のようなものはあまり見かけない。昔飼われていた犬が野犬化したりだとか、猫が野良猫になっているだとかその程度なら見かけるのだが……。

 

「……ん?」

 

 一番前を歩いていた夕立が何かを見つけた様子。歩みを止めたので、俺たちも足を止めて警戒態勢に入る。目は多方向、夕立の声に耳を傾けている状態だ。

一抹の静寂の後、夕立から報告が入ってきた。夕立のみ、その場から動いて数秒後のこと。

 

「開封されて間もない缶詰を見つけたっぽい」

 

 そう言って、夕立は詳細を報告する。開封されて間もない缶詰。缶詰なんて開けれる生物、普通に考えて人間や艦娘くらいだろう。猿なら教育すればできなくもないかもしれないが、そんな猿がこんなところにいる訳もないだろうに。

そして、重大な情報を夕立が口にする。

 

「少し中身が残っているけど、まだ腐ってすらないから本当に時間が経ってないぽいよ!!」

 

 一気に艦隊に緊張が走る。上陸した島は無人島の筈。なのに開封されてすぐの空いた缶詰を見つけた。普通に考えれば誰かが居ると考えるのが正しい。

海には民間人が出て来れないように法律が整備されているので、民間人は絶対に考えられない。残留していた島民の可能性も零に等しいだろう。と考えるならば、民間人や艦娘以外の何者かがここに居ることになる。しかも、さっきまでここで飯を食っていたのだ。

 俺は思考を巡らせるが、途中で考えることを止めた。

状況を整理していけば簡単なことだったのだ。民間人はいない、無人島に上陸するような艦娘も俺たちを除けば居ない、近くに北方棲姫が来ている。つまり、この島には北方棲姫の軍が居るということになるのだ。簡単なことだったのだ。

 

「あー止めだ止め!! 全員警戒態勢を解いて聞いてくれ」

 

 俺は主砲の仰角を通常状態に戻し、全員の顔を見る。

 

「恐らく、ここに北方棲姫が居る。部下たちも一緒だろう」

 

 そう言うと、全員が遅れて考え始めて、俺と同じところまで行き着いたようだ。

 

「こっちから出向かなくとも、多分迎えに来てくれるだろう。俺たちが来たんだからな」

 

 俺はそう言って、近くにあった縁石に腰を下ろす。艤装が地面に当たって座れないだろう? そんな訳あるか。座れるんだよな、これが。そういう風に出来ているのだ。

 

「『俺たちが』じゃなくて『俺が』でしょ?」

 

「そうとも云う。実際そうだしな」

 

 自然な流れで、隣に足柄が座ってきた。それを見ていた雪風たちもすぐに行動を開始する。初霜は足柄の反対側に早々に席を取り、雪風は定位置(膝の上)に落ち着いた。夕立は加わるつもりはあまりないらしく、初霜を挟んだ反対側に腰を下ろしている。残るは加賀だが……その加賀が問題だ。そのものも問題ではあるけれども……。

出遅れたことを察知した加賀は、この後どういう行動を取ろうかと悩んでいる最中らしい。足柄は俺が信頼しているため、普通に隣に座っていても文句を言われないこと。初霜は護衛という大義名分を掲げているため問題なし。夕立はそもそも問題外。雪風は俺が可愛がっていることを皆が知っている上に、雪風自身も下卑た考えでこうしている訳ではないことも皆が知っていることだ。

ともすれば、加賀はどう行動するのか……。

 

「さぁ大和くん。私の胸に飛び込んできなさい」

 

「意味分からねぇから」

 

 ムッとした表情から、加賀はそんなことを口走る。手を広げ、おいでのポーズをするが俺はそれを白い目で見る。

ぶっちゃけ美味しい話でもある訳だが、色々と問題だらけだ。まず、加賀がヲ級レベル以上に警戒する必要があるということ。仮に素直に行ったとしても、その後に何をされるかなんて想像もしたくない。何故ならアレだ。公然の場で『大和と[自主規制]戦したい』とか云うような奴だ。それにさっきの言動からも、問題以外の何物も感じられない。

 

「どうすれば、私の胸に飛び込んできてくれるのですか?」

 

「何をしてもやらない」

 

「むぅ……」

 

「膨れてもだめだ」

 

 そんな押し問答を、俺たちは無人島の廃墟のど真ん中で繰り広げていたのだった。

 




 題名と内容があってないですって? そのうち合うんですから良いんですよ!!
この頃更新頻度が上がってきたような気がするのも気のせいですし、そもそも余裕が出来たのも気のせいです。……気のせいって便利な言葉ですね。

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