大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第52話  ちいさなお姫様 その2

 座って駄弁っていると、まぁ想像通りというか何というかだ。廃墟の道端、座り込んで話している集団に話しかけてくる相手等、その場に住まう怪異の類か俺が想像する相手くらいだ。

俺の目の前に白い影は立つ。背丈は小さく、肌も人間とは思えない程に青白い。ヲ級やタ級の肌と同じ色。ということは……。俺が顔を上げると、そこには俺が探していた人物が立っていた。

 

「久しぶりね」

 

「あぁ。元気してたか?」

 

 ここに居る艦娘たちのほとんどが面識のある相手だが、加賀は初めてだろう。かなり警戒した表情だ。俺たちの陣営でも立っているのは加賀だけということもあり、警戒した口調で北方棲姫に話しかける。

 

「貴方が大和くんの探していた……」

 

 その通りだ。俺のリアクションと北方棲姫の発言を鑑みれば分かることではあるが、改めて確認する必要もないだろうに。

 北方棲姫が連れ歩いていた仲間たちも、面識はあるので双方警戒することはない。夕立や雪風、足柄は特に警戒することなく挨拶を交わしているくらいだからな。

まぁ、その辺り、深海棲艦との新しい付き合い方に関して慣れてきている証拠だろう。初霜はまだ戸惑いがあるが、雪風が紹介しているから、そこまで悪いようにはされないだろうな。

 相手が相手ということもあるため、加賀が暴走することはないだろう。そう考えていたが、俺の考えは甘かった。甘すぎた。

北方棲姫をマジマジと観察する加賀が、ぽつりと呟いたのだ。

 

「こういう子どもみたいな女の子が好みなのね。私は……成長しすぎかしら」

 

 なぁ、そんなことを俺に真顔で訊いてこないでくれるか? 恐らくだが、北方棲姫は自分のことを……。

 

「……そうね。貴女みたいな"おばさん"にはない若々しさだわ。ねぇ、大和?」

 

「俺に振るなよ。しかも違うからな。小さい子が好きというのは否定しないが、それは性のt[自主規制]

 

 おおっと不味った。ついうっかり……。ゴホン。

 剣呑な空気を醸し出す2人の間に割って入り、落ち着かせる。まぁ、北方棲姫はからかって乗っただけだろうからその必要はないだろうが……。

想像通りだった訳で、北方棲姫はからかっただけ。加賀は乗せられた、という感じだろうな。加賀を落ち着かせ、ついでに誤解を解いて話をする。とりあえずは俺が北方棲姫に謝ることからだろうな。

 雪風は既に俺の膝から降りているため、すぐに立ち上がって北方棲姫に詫びを入れる。

相手は立っているんだ。謝る立場の俺が座っているなんて、ちゃんちゃらおかしい。

 

「まずは北方棲姫」

 

「何?」

 

「遅れてすまなかった。言い訳はしない」

 

 目を細めて俺の顔を覗き見る北方棲姫の目を、俺はずっと捉えたままだった。いくら脱走兵とは言え、相手は指揮官クラス。それに言い方は悪いが、ハニトラまがいのことをした相手だ。責任を取らないのはハニトラを仕掛けた奴の常套手段だが、そんな屑みたいなことはしたくない。……既に屑呼ばわりされているが。

 

「迎えに来た。北方棲姫」

 

 まぁ、ここで良い思いをさせておく方が良いだろう。かなり恥ずかしいが、仕方がない。俺は片膝を付き、北方棲姫の前でさながら王の前にかしずく騎士のような姿勢を取る。服装や艤装も相まって、そういう風に見えるかもしれない。だが、これでチャラにしてもらおう。北方棲姫。名前にも『姫』が付いているしな。

 

「うん!! どこへでも、私を連れて行ってっ!!」

 

「あぁ」

 

 差し出した手の平に、北方棲姫の小さな手が乗せられる。顔を下げていたが、手が乗った時に俺は顔を上げていた。視界に移るは、満開の笑顔をしている北方棲姫。と、その後ろで顔を真っ赤にしている北方棲姫の連れ。背後では雪風たちが談笑しているはずなんだが、どうして静かになっているんだ? ちょっとその辺り詳しく。

 俺はそのまま手を取って立ち上がり、海へと向かう。北方棲姫と連れが後ろを歩き、夕立たちがまばらに散って周囲警戒をしながら歩く。

そんな俺に話しかけてくるのは足柄だ。その表情はなんとも言えず、複雑そうな様子だ。

 

「大和くん? 知らないわよ」

 

「は?」

 

「こんの分からず屋」

 

「はぁ?」

 

 何が知らないっていうんだよ。足柄も呆れた表情に変わって、少し離れたところを歩き始める始末。近くを歩くのは雪風だけ。あぁ、雪風は優しいな。

 

「大和さん」

 

「何だ?」

 

「すけこまし、って知ってますか?」

 

「あぁ。女の人と誑し込む人のことを云う」

 

「……雪風は何があっても大和さんの味方ですっ!!」

 

 何だよ。雪風まで……。だけどまぁ、雪風が何があっても俺の味方で居てくれるなら良いか。皆色々アレだが、雪風だけは違うから。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「という顛末で北方棲姫とその元部下一団を保護。後は帰路で追いかけてきていた艦隊と合流して手筈通りに」

 

「ふぅ~ん」

 

「……なぁ」

 

 俺たちはその後、無人島を出発。移動用に残していたという軽空母ヌ級の艤装に艤装を棄てていた深海棲艦が分乗。大艦隊を組んで帰路に着いた時、呉第二一号鎮守府所属の艦隊と合流し、そのままゆきからの無線に出てから、指定されたルートを通って鎮守府に帰還してきた訳だ。現在北方棲姫一団は憲兵と一緒に身体・健康検査を受けているところだ。それに異動してきた深海棲艦の人型ではない方の艤装には、深海棲艦側の軍機密文書。しかもかなりレベルの高いものを手土産として持ち込んでいた為に、それの整理に追われているらしい。

それで俺はというと、艦隊旗艦だったために報告にゆきのところに出向ている訳だが……どうしてかゆきの機嫌が超悪い。頬杖を突いて、俺を睨んでいる。

 

「なぁ、どうして俺のことを睨んでいるんだ?」

 

「理由、知りたい? ねぇ、知りたい?」

 

 机を叩く指の音が次第に大きくなり、ゆきの表情も徐々に険しく怒気に満ちていく。

そして最後、バンッと机を叩いて立ち上がった。

 

「この場に私と大和しか居ないから言うけどさ」

 

「お、おう」

 

 ギロッと俺のことを睨んだゆきは、怒りを隠しながらなのか声に平静を保たせようとしているのが分かるくらいに声が震えていた。

 

「確かにこの世界、私にとっては普通の世界だよ? 深海棲艦と男の取り合いしてさ、真面目な生存競争をしている訳」

 

「そうだな」

 

「でも大和からしてみれば、意味の分からないことだと思う。だって男は辺りを見渡せばいっぱいいたんでしょ?」

 

「あぁ」

 

「だから男に免疫のない私たちが大和を見て色々とアレになるのは分かるし、大和もなんとか避けようとしていたのも分かる。だけどさ」

 

 バンバンバンッ!! ゆきが机を叩く。

 

「だけどさぁ!!」

 

「そ、そろそろ手が」

 

「うるさい!!」

 

 ど、どうしたんだよ。いきなり……。いつものゆきなら適当に流して笑っているのに……。

 

「……男ってそういう生き物なの?」

 

「は?」

 

 ストンと座り、そのまま机に突っ伏せてしまったゆきが、籠り声でそんなことを聞いてきた。

 

「はぁ……私って」

 

 その続きは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最低だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 さっきのゆきはどこかへ行ってしまったのだろう。どこ吹く風、という調子で話を再開している。

 

「都築少将には話を付けておいたよ。もし目撃、情報漏洩した場合の特別措置は任せてあるから」

 

「……分かった」

 

「ま、代わりに色々とまた要求されちゃったけどねぇ~」

 

 そう言って、ゆきは椅子でクルクル回りながら、要求内容を羅列し始めた。

 

「深海棲艦の拿捕による獲得した情報の一部提供、1回の尋問の立ち合い、交流もしてみたいってさ」

 

「それなら……別に要求しなくても、頼めば」

 

 俺がそう切り出すと、ゆきは首を横に振った。

 

「情報の提供は、私たちだけが知っている情報の提供。情報の質が違うんだよ。尋問も私たちがやっているところをずっと見ていることになる。内容も聞かれちゃう。交流なんて、尋問をするようなものじゃん」

 

 その後にゆきは『情報は私たちだけの中で留めておきたかったのに』と一言添えて、これからのことを口にする。

 

「情報の鮮度っていうのはね、どれだけの人が知っているか、というところだよ。幸いにして尋問には数名の信頼のおける艦娘と憲兵がやっている。この時点では10人未満だね。でも深海棲艦がここに居ることを知っているのは、鎮守府に常駐している憲兵全員と艦娘たち。人数は3桁だ」

 

 クルクル回り続けながら、ゆきは説明を続ける。

 

「それが一気に倍になる。深海棲艦の機密情報なんて、それ以上の人間、艦娘に知れ渡るかもしれない。そうなったら厄介だし」

 

 回ることを止めたゆきの目からは、さっきの怒気とは全く違うものを感じる。

もしかしたら、これがゆきの本質なのかもしれない。

 

「私たちの"優位"がなくなる」

 

 シーンと静まり返る執務室に、一抹の冷めた空気が流れるが、それもすぐにどこかへ行ってしまう。

 

「深海棲艦との戦争も拮抗状態が長いんだ。政府が裏で工作していたりすることもあるけども……ってこれは大和も知っていることだね」

 

 指を空でクルクルとし始めたゆきは、目を閉じて淡々と話す。

 

こちら側(人類側)は既に長期戦を続けられる程、物的・人的資源がないんだよ。そもそも男が少ないからね。死んでいっちゃう兵士の供給、国内物資の生産・運搬のサイクル……その周りが悪くなっているんだ。一方深海棲艦はどうだろう。話を聞く限り、虚言である可能性を除けば、十分に長期戦をするだけの人員は居る筈。物資も潤沢。後方は分からないけどね」

 

 空で回していた指を止め、ゆきは俺に指さした。

 

「倒しても倒しても湧き出る深海棲艦。後がない人類が取る手段は、今も昔も変わらないよ」

 

「……道徳を無視するのか」

 

「うん」

 

 そう言ってゆきは茶封筒を2つ、机の上に置いた。

 

「片方は御雷さんから届いたもの。内容は……言いたくないな。でも、見て欲しくもない」

 

 そこにあるだけ、とゆきは言った。

 

「片方は……私が考えている大規模作戦の計画書」

 

「……」

 

「準備は始めているけど、まだまだ時間は掛かるかな」

 

「大規模、作戦?」

 

 そうつぶやいた俺に、ゆきは頷いた。

 

「人類と深海棲艦の戦争を、すぐに終わらせるための、ね」

 

「そんな……」

 

「それもこれも……」

 

 ゆきの表情が崩れた。柔らかい表情になり、ニコッと笑う。

 

「大和、大和のお陰っ」

 

 そう言い放ったゆきは、立ち上がって俺の背中を押し始める。どうやら出て行け、とのこと。

俺はされるがまま、執務室から押し出されてしまう。

 ゆきからもたらされたさまざまな情報、それをどうして今俺に言う必要があったのか……俺にはまだ分からない。

だが最後に言った言葉『大規模作戦』『人類と深海棲艦の戦争の終結』は、どうしても俺の頭の中に残ってしまった。

 




 北方棲姫の話も前半だけですが、後半の方が重要だということは話を読まれたなら分かることと思います。
まぁ、話の重要な基点ですよ。必要でしたから、このようなシリアスな場面を入れ込みました。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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