昨日、ゆきが言っていたことが頭から離れないで居た。今朝も起きてすぐは忘れていたが、ゆきの顔を執務室で見た瞬間に思い出した。
ゆきは一体何をしようとしているのか、端的ではあるが教えてくれた。
大本営は大規模作戦を立案中であるということ。それが道徳に反する内容であること。ゆきはそれに納得していないこと。ゆきも独自に大規模作戦を立案していること……。俺の周りで何かが起ころうとしていることは確実だった。
だが一方で、俺は目先のことを考える必要がある。
目の前には白い人もとい深海棲艦もとい脱走兵たち。……どれも間違っていないんだがな。全員基本的に白い服か黒しか着てないし肌は白いし、深海棲艦であることに間違いはないし、脱走兵だし……。本当にカオスだ。
「で? 俺に何をしろと」
「ち・ょ・う・き・y[自主規制]」
「真面目に言ってくれないか?」
「だからぁ~、調k[自主規制]」
「ついにゆきまでもヲ級化してしまったか……」
「あんな変態と一緒にしないで欲しいなぁ。でも、言っていることは本当。大真面目に言ってるの」
目下に集められている深海棲艦たち。北方棲姫の指揮下に居た深海棲艦約1000人を見たゆきはそんなことを口零す。ただ、普段の言動行動がその言葉に信頼を持たせられないんだよな。ほら、今も立ってはいるが右手に持っているサイダーのペットボトルを置いてからの方が良いと思うんだ。威厳が微塵も感じられない。
「目的は?」
「簡単だよ?」
そういったゆきは空になったサイダーのペットボトルを後ろに放り投げ、腰に手を当てて胸を張って云うのだ。
「めんどくさいからッ!!」
「帰っていいか?」
さっき後ろに放り投げたペットボトル、どうするんだよ……。それよりも、ゆきの魂胆が見えない。
どうして北方棲姫以下深海棲艦らを手懐け? なくちゃいけないんだよ。というか、ゆきが面倒なだけじゃね?
ゆきと押し問答をしていると、目下に集まっている深海棲艦たちがざわざわし始める。
北方棲姫は静かにしているものの、周りに注意はすることはない。この場には俺とゆき以外にこちらの陣営の人間はおらず、それぞれ任務や仕事があったようだ。護衛は勿論いるが、それは人数にカウントしても良いのだろうか。
「まあ面倒だけが理由じゃないんだけどね」
「ほう」
チョイチョイと手招きして呼び寄せたのは、集められた場所の隅で立っている女性もとい変態。ヲ級だ。走っては来ないものの、俺がチラッと見るととんでもない速度で走りよって来る。何あれ怖い。
「この集団の中である声が挙がってね」
「そうらしいんですよ」
あれ? ヲ級ってあまりゆきに干渉しなかったことないか? というか、俺以外の人間や艦娘には結構辛く当たっていたような気がするんだが……。
いつの間にか仲良くなったのだろうか。それは良いことだな。うん。
「なんでも、やはり私みたいな者が多くおりまして、ここの約8割の深海棲艦がご主人様の性d[自主規制]
「は?」
「いやだから、ご主人様のs[自主規制]
アカン。頭痛くなってきた。ここに居る約8割って、だいたい数百人なんだが。人数の関係上、呉第二一号鎮守府に収容しきれなかった深海棲艦も居るというのに。それを含めた8割だとすれば、相当な人数になるんだけど。
それはともかくとして、ヲ級の言う"それ"は護衛のことを指しているのだろうか。まぁ、確かに護衛は多いに越したことはないだろうな。この世界の男性、基本的に軍が旅団を編成して護衛するほどだし。男性1人に対して。
可笑しいよな。人数で考えれば数千人だし。地上をその兵力で移動するって迷惑極まりないと思うんだが、どうもそれは大丈夫らしい。ゆき曰く『護衛旅団の半数以上は男性が通過する付近の駐屯地までヘリで飛んで移動するし、だいたいの男性の移動ってヘリだったりするもんだよ?』とのこと。んなもん知らんし。
それはともかくとして、ヲ級曰く北方棲姫の部下だった深海棲艦の殆どが護衛に志願しているとのこと。ゆきもそれは承認する……のか。適当に決めすぎな気がしなくもないが、上司の言うことだし素直に従っておこうか。どうなるかはさておき、文句は言いたい放題言うつもりだけど。
「……手懐ければ良いんだろ? 要は」
「そういうことになるねぇ~。そうしてくれた方が、私としても扱いやすいからさ」
「そういうなら分かった」
こうしてゆきに言われ、俺の護衛の数が一気に数百倍になってしまったのだった。ちなみに対応はヲ級と同様で、服装と固有名詞を持つこと。服装はゆきから支給、名前は自分で考えろということだ。それに武器も支給されることとなったが、ヲ級1人なら問題なかったものの一気に数千丁という拳銃と弾丸を調達するのは無理だということで、ある程度の数で保留にすることになった。これに並行して色々と行うことが出来たとのことで、護衛に編成された深海棲艦でも特技等で部隊を分けることとなり、ゆきに数十人引き抜かれて編成完了。
それでも数千人という大部隊が完成してしまったのだった。
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護衛が幾ら増えようが、俺の生活は変わることはなかった。隣には相変わらずヲ級が住んでおり、俺の部屋には武蔵と大和の出入りはあるし、艦娘の方の護衛も頻繁に出入りする。矢矧らにはやはりいい顔されなかったが、ゆきの命令ということで認めざるを得なかった。その中でも霞は妙に落ち着いていたような気がしたが、それよりも長である矢矧が鼻息荒く反対していたのは何故だろう。理由不明。下らない理由の可能性しか無いが、聞き出したところでうんざりすること間違い無しだ。うん。触れなければ祟られないとかいうしな。
そんなこんなで、今日の俺は仕事がある。
「補給艦の護衛任務、か」
「えぇ?! 確かに、今日の任務は可笑しいですけど、嫌でしたか?」
「嫌では無いんだが……嫌では無いんだ。うん」
今日は補給艦 速吸を護衛しての回航。目的地は呉第○二号鎮守府。目的はゆきが『機密に付き教えてあ~げない!!』と云ったので、非常に殴りたいのを我慢して受領してきた。
まぁ、それでも艦隊の中では色々と聞いている方ではあると思う。先ず、今回はコンテナを受け取るという任務であること。引き換えに渡す物はなく、俺が証明証の代わりで速吸への積み込みをするとのこと。もし都築提督から伝言か手紙があれば、俺が受け取って俺がゆきに渡すこと。これだけだ。
俺以外の艦娘には、ただただ荷物を受け取るだけだということしか知らされていない。それがどういうものなのか、どういう要件であるのかも知らないのだ。それを受け取るのが、何故か都築提督からであることを不審に思うかもしれないが、それはそうだろうな、と。
隣を航行する速吸を筆頭に、この艦隊は本意を知らない。俺もだけどね。ただ、気心の知れているメンツしかいないことは確かだ。
護衛要員である矢矧、浜風、朝霜と、たまたま暇をしていた足柄が付いてきている。ぶつくさ文句を最初言っていたが、今では真面目に任務を遂行している。
「本来ならば水雷戦隊を付けるような護送任務なんですけど、どうしてこのような重編成なんでしょうか?」
「さぁなー。俺が知りたいところだ」
知っているが、真意は知らない。
「速吸は今日も輸送任務だと思っていたんですけど、どうも空気が違うように感じます」
「編成が重いからじゃない?」
「そうかも知れませんが……」
「普通、水雷戦隊を護衛に付けるのが普通なのよ。今回の輸送はそれだけ機密性が高いのかしら?」
「そのようなことがあれば、話を提督さんから聞いているんですけどねぇ」
「聞いてないんでしょ?」
傍ら、速吸と足柄がそんな風に話しながら航行する。俺たちの呉第二一号鎮守府と都築提督の呉第○二号鎮守府まで、海を使って行くと1時間ほど掛かるところにある。まぁ、ここからして、どうして陸路を使わないんだと思っただろうが、それに関しては誰も突っ込まない。海運の方が良いときもあるというからな。
そうこうしていると、すぐ近くにある呉第○二号鎮守府に到着する。
接岸して上陸すると、そこには高雄が待ち構えていた。
「お久し振りですね」
「そうだな」
あれ? どうして全員首を傾げているのだろうか?
なるほど。どうして外部の鎮守府の奴と顔見知りなのか、という疑問か。別に外部の艦娘と交友があっても良いじゃん。
形式上、どこからどういう目的で来ているのかを伝える。
「呉第二一号鎮守府から輸送目的で来た。呉第二一号鎮守府所属の大和だ」
「ようこそ!! 私も提督から伺っていますので、すぐに作業を始めますね」
そういった高雄は周りに集まっていた妖精に声を掛けて、作業を始めた。どこかの倉庫から箱が運ばれてくる間に俺は束の間の雑談タイムに入る。
「高雄、変わりないみたいだな」
「えぇ。それよりも大和さんは北方で大変だったようですね。提督から話は」
ゲッ。耳に入っているのかよ。
まぁ、それもそうか。あの後、都築提督には援助要請をしているからな。今、俺たちの鎮守府に何が起きているのかもだいたいは把握しているだろうし。
『聞いています』と言いかけたのだろう。高雄がそう言いかけた刹那、俺たちが居るところに艦娘がやってきた。高雄と同じく、仲良くしてもらっている長門と陸奥がやってきた。どうやら今日は、いつもの服みたいだな。それにビスマルクも混じっている。
「港に艦隊が来たと聞いて見に来てみれば、呉第二一号鎮守府からだったか」
「久しぶりねぇ、大和」
「こ、ここここここ、こ、こんにちゅわ!!」
オイ。噛んでるぞ、ビスマルク。
「久しぶり。まぁなんだ。これ積み込んだらトンボ返りだ」
「そうか。しっかし、おかしな任務だな。輸送のように見えるが、護衛が厳重過ぎる」
腕を組んだ長門はおかしい点を挙げていく。普通、短距離輸送ならば護衛は駆逐艦1人が2人らしい。それなのに、今回は人数が多すぎる上にメンツもかなり重めだ。次に積み込み荷が重要書類でもなければ、量が多い訳でもないこと。何故、木箱1つだけなのか。
俺も疑問には思っているが、恐らく高雄は俺よりも知っていることは多いかもしれない。
「え? 私もあまり聞かされていませんよ? 呉第二一号から来た輸送隊に大和さんが居た時に渡して欲しいと言われた物があるだけで」
と言って丁度速吸に載せている荷物に目を向ける。それは木箱1つ。
「ですが、これだけだとは聞いてもないですね。と言うか、これが目的?」
「そうみたいだが……。何にせよ、ここで開封するのは不味い。取り敢えず、積み終わったみたいだし帰る」
「分かりました。提督には報告しておきます。山吹提督によろしくお伝えください」
「分かった。じゃあ出航」
少々会話を交わし、俺たちは呉第○二号鎮守府を後にした。
改めて思ったんだが、やはり呉第○二号鎮守府の艦娘は落ち着きがあって接しやすいな。うん。いや、こっちのはこっちので足柄や雪風たちが接しやすいんだが、絶対数が違い過ぎる。
ウチの奴らは色々と素直過ぎるんだよ……。
お久しぶりです。しゅーがくです。エタった風な雰囲気を出していましたが、ただただ書けなかっただけです。そう。ネタが思いつかなかった!!(ドォン)
プロットはありますが、大筋しかないです。一話一話の詳細なプロットはないので、こういうことになるんですよね。えぇ。仕方ないです(強引)
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