大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第57話  低身長欧米金髪碧眼童顔ロリっ子ビッグ7(笑) その3

 俺の部屋に集合している全員にジュースやお茶を行き渡らせ、俺も定位置に戻ってくる。護衛の矢矧たちも、知りたかったことは十二分に知ることができた筈だ。

しかしながら、こうして俺が引き篭もりはじめて4日が経過していた。毎日あるレベリングには出ているものの、それ以外は全くと言っていい程出ていない。ゆきと武蔵、大和には説明をしてある。だから彼女たちが何かしらのアクションを起こすことはほとんどないと考えてよかった。しかし、それ以外の艦娘や憲兵たちのことを考えることを忘れていたのだ。

 少し真面目な話をしたからか、皆の前でおどけてみようかと考えた矢先のことだった。俺の私室に飛び込んできた艦娘がいた。

無論、合鍵を持っている人物でなければ入ってこられない。それはゆきか武蔵。大和はいたずらする可能性があったので、最初は渡していたが武蔵が取り上げた。

褐色に白髪、メガネをかけた艦娘が、息を上げて俺のいるところまで突入してきたのだ。

 

「兄貴っ!!」

 

「うおっ?!?!?! って、武蔵か。どうした??」

 

「呑気に茶を飲んでる場合じゃない!! 調査が完了したから、その報告を今日すると伝えたよな??」

 

「あー……」

 

 完全に忘れてた。

 

「……忘れてたな?」

 

「うん」

 

「全く……。今から行くぞ。護衛の皆も来い」

 

 強引に立たされた俺は、武蔵に引き摺られながら執務室へと連れてかれた(連行された)

 

※※※

 

 強引に連れて行かれた執務室。ここには今入ってきた俺と武蔵、護衛の矢矧たちの他にもいた。部屋の主であるゆきと、当事者であるコロラド。当時コロラドに随伴していた第二艦隊。捜査を行った憲兵ら等だった。

定員オーバーな気がしたが、ゆきはそのような素振りも見せることなく、話を始めた。

 

「皆集まったね。じゃあ、鎮守府で一番ホットな話題についての調査報告ね」

 

 いつものようにおどけることもなく、平静に自分の椅子から立ち上がることはなかった。

ゆきの言葉に呼応し、憲兵たちが前に歩み出て説明を始める。鎮守府に派遣されている憲兵でも、かなり階級の高い者たちばかりだ。普段は巡回などをせずに、基本的にデスクワークを行っている。そんな彼女たちの姿を見るのは、俺からしても久しぶりだった。

 全員の顔を一景し、手元に持っていた資料に視線を落とした。

 

「一週間前に発生した件に関してですが、まずは状況の整理を行います」

 

 そこからは淡々としていた。コロラドが建造された日付と、北方海域へのレベリングが決まるまでの行動・言動調査。速やかに練度を上げて、長門や陸奥らに本当のビッグ7が何たるかを教えてやりたいと、口々に言って回っていたこと。見かねたゆきがレベリングに組み込むことを決断し、同時期にレベリングを行う俺と組ませる事になったこと。主にレベリングをさせるのは俺であり、あくまでコロラドは時間を有意義に使うための第二艦隊(時間合わせ)だったこと。コロラドは俺に対していい心象を持っていなかったこと(※これに関しては伏せられた)。岸壁で釣りをしていた俺につっかかったのは、鎮守府内で繰り広げられる悪口の延長線であり、決して攻撃する意思がなかったこと。このことに対して、砲撃を受けた俺や、近くにいた雪風、目撃者の第二艦隊も認めていること。取り押さえられたコロラドから回収された艤装から、致命的な不具合が見つかったこと。これが誤射に繋がったのではないか、とのこと。

つまるところ、コロラドは俺に対する殺意はなく、砲撃自体も誤射だったことが証明されたのだった。

 

「以上のことから、コロラドによる大和撃沈未遂の容疑は晴れました。そもそも、当時の彼女の精神状態や詳細な報告からも、誤射である可能性は十二分にありました。しかしながら、絶対だとは言えなかった。そのため、本当に大和撃沈の意思があったのか、事件性を調べる必要がありました」

 

「うん……そっか。ありがとう」

 

 皆はそれを静かに聞き、ゆきも報告をした憲兵に礼を言うと立ち上がった。

 

「さぁーて、ということでコロラドの容疑は晴れた訳だし、誤射であったと処理されることになったよ!! 色々災難だったね、としか言いようがないけど、このことは水に流そう。終わったことなんだよ、諸君!!!」

 

 いつもの調子に戻ったゆきは、タタタっと俺に走り寄って来たかと思うと、そのまま俺の左腕を掴んだ。

 

「という訳で解散っ!! 通常の業務に戻ってね!! 第二艦隊だった皆も、各々自由にするといいよ。武蔵は執務の続き、工廠でコロラドの艤装調査終了の命令と点検・修理・整備の指示を出しておいてね。大和の護衛は廊下で待機」

 

 手短に指示を出したゆきは、追い立てるように皆を執務室から追い出した。

残った俺は、ソファーに腰を下ろす。何か理由があって俺を残したんだろう。やがてゆきは黙って俺の正面に座り、足を組んだ。

 

「残された理由は分かる??」

 

「んぁ?? 分からないが、どうせ今回の騒ぎに関係のあることだろ」

 

「ごめいさつぅー」

 

 空で人差し指をくるくる回したゆきは、そのままその指を俺に向けた。

 

「どーしてか、この数日間は大和の姿を見なかった。それに関して私は言及したーーいっ!!」

 

 事故調査報告での態度から反転したゆきに俺は呆れる。しかし、ゆきに俺がどう思って行動したのかを説明しなければ、一向に開放されないことは目に見えていた。なので諦めて説明をすることにした。

 

「コロラドが攻撃されるのを防ぐためだった」

 

「……??」

 

 コイツ……全然伝わってないぞ。

 

「俺に対してだけ当たりが強いのは、ゆきも報告を受けていることだろう??」

 

「まぁね」

 

「そんな状況の最中、起こったのがあの事故だった。事故前にも既にコロラドの鎮守府内での印象は悪い方だったと思うんだが、どうだろう」

 

「確かにね。大和に対するあの態度。男性女性抜きにしたって、コロラドの大和への言動は褒められるものではなかったよね」

 

「あぁ。印象は悪い方から最悪へと変わりつつあった。そんな状況下であるにも関わらず、能天気に出歩いている野郎とコロラドが接触したらどうなるか……言うに及ばないだろう。きっとコロラドはまた憎まれ口を叩く筈だ」

 

「その分析は正しいね。実際、事故後にコロラドと意図せず接触した大和は、その場で罵倒されているもんね」

 

 何故知っている……。

 

「だから距離を取った。火のないところに煙は立たない。火を消すなら火種から、火種に引火させたくないなら可燃物の排除する」

 

「そうだね。でも、そう上手くいかなかった。大和は部屋から出てこなくなって、鎮守府内がどうなったから把握できなかったと思う。何せ、部屋に来るのは私か武蔵、大和、護衛、ヲ級くらいだもん。しかも、皆そんな話を大和の前ではしたがらない筈。私はそうだったからね」

 

「まさか」

 

「うん。大和の思い通りにはならなかった。既に煙は立っていたし、火元は燃え上がっていた。燃料は勝手に焚べられるし、それらも湿気っている訳じゃない。燃え続ける可燃物を取り除いたとしても、火の粉は舞い、また別のものに乗り移る」

 

 ゆきは語った。俺が私室に籠もるようになってから、より一層コロラドの立場が危うくなっていたということを。事故前にもあれだけ口撃しているところが目撃され、事故後も変わらず口撃している姿が散見されていた。このことから、一見誤射も実は事故ではなかったのではないか、と。度の過ぎたコミュニケーションだったのかとも言われていたみたいだが、表面上あれだけ攻撃的になるのにも理由があるのではないかと探りが入った。しかし、そのようなことは一片も出てくることはなかった。ならばもう私怨に近い何かかもしれない。虐めて楽しんでいるのかもしれない。そういう考えが先行し始めると、止まることはなかったという。

海外艦は数が少ないため、ひとまとめにされることが多い。その中でもコロラドは同艦種であり欧州艦であるアイオワしか、最初から親しくはなかったという。そのアイオワと比較されたこともあり、コロラドはすぐに攻撃を受けるようになったという。事故前は少なかったものも、今では相当数だという。

とは言っても、そこまで陰湿なものはないようだ。面と向かって抗議されることや、詰問、俺にしていたことをそのままやられていただけのようだ。更に、本来ならば第二艦隊も旗艦以外はローテーションを組まれていたらしいが、それらに名前が挙がっても拒否する艦娘が続出したという。理由は至極簡単で『誤射されたらたまったもんじゃない』からだ。

これらを纏めて、コロラドの鎮守府内での評価は酷いの一言に尽きるという。レベリングでの艦隊行動に関する報告では、まだまだ練度不足であるということ以外は問題が見られないというが、鎮守府内での生活では惨状だという。

 ゆきに伝えられたことを咀嚼し、俺は考える。手を打つ方法を間違えたのだ。それがコロラド孤立を増長させていたのかもしれない。

 

「調査結果は早々に鎮守府全体に知れるように手配はしてあるから、時間の問題だとは思うよ」

 

 そうは言うが、最初に植え付けられた印象が変化することはほとんどないという。それをゆきに言うまいか悩んだが、結局言えなかった。

 ゆきからの話はこれで終わり、静かに俺は執務室から出て行った。向かうのは私室。廊下で護衛と合流し、黙って歩いていると、通りを歩く艦娘や憲兵の話し声が聞こえてくる。

 

「コロラドが男性保護法違反だって」

 

「えー?? それって大和くんを撃ったって奴??」

 

「そうじゃない?? それ以外にも、違反項目はいっぱいあったって。さっき正門に外から来た憲兵がたくさん来てたよ」

 

 その話を聞き、踵を返して執務室に飛び込む。ゆきはボケーッと外を見ていたようで、大きな音を立てて入ってきた俺に心底驚いたようだ。躰が浮き上がっていたからな。

 

「ど、どどどどどうしたの?!?!」

 

「今回のコロラドの件、事故として処理したんだよな?!」

 

「えぅ、うん。報告は今朝の内に憲兵には知らせてあったし、もう報告はさっきも言ったけど艦娘たちにも告知は」

 

「正門前に外から憲兵が来てる!! 目的はコロラドの逮捕だ!!」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

 ゆきにそう言い残し、俺はすぐさま正門に向かった。

 

※※※

 

 突然執務室に戻った俺を待っていた護衛の矢矧たちも置いてきぼりにし、全力疾走で正門まで向かうとそこには人集りができていた。

艦娘、憲兵、艦娘、憲兵と押しのけていく。全員が呉第二一号鎮守府所属だ。やっと掻き分けて行った先には、見慣れない憲兵たちと両腕を手錠で繋がれて拘束されたコロラドがいた。

 

「ぁ……、ヤマト」

 

「コロ、ラド……ッ!!」

 

「あははっ。あれって事故、だったわよね??」

 

 ポロポロと涙を零しながら、コロラドは俺に尋ねる。

 

「事故だ。調査だってそう結論付けられた筈だ」

 

 そう。あれはどう見ても事故だった。コロラドの意思を持った犯行でなければ、誰かの悪意が介在したものでもなかった。偶然が折り重なって起きた事故だったのだ。

 

「……最後まで、素直になれなかったなぁ」

 

 そう言い残し、コロラドは憲兵たちに連行されていった。この場には、呉第二一号鎮守府の艦娘と憲兵たちがいるが、この状況に誰も理解が追い付いていなかった。

"俺"が建造されてから初となる、鎮守府内からの逮捕者。呆然とその場に立ち尽くした俺は、後から追いついた霞ら護衛に引きづられて正門を後にしたのだった。

 




 前回に引き続きお送りしています。オチは決まっているので、それまではお付き合いください。

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