今日も大量の艦娘と憲兵に揉まれながら起きてから朝食を食べた。
結局、俺と大和、武蔵で食べるようになってしまったのは仕方のないことだと思う。否、思いたい。
特段やることも無く、適当なところに居たら危険ということなので、俺はゆきが居る執務室に居座っている。ソファーに座りながら本を開く。ここに来て暇を潰せるものなんていったら、これくらいのものしかないのだ。
だが改めて本を読んでみると面白いものだ。なんとも言えない感覚がある。だがこれだけは言葉で言い表すことができる。文章で描かれた情景が、すぐに自分の頭の中で想像できるのだ。
景色や状況なんかが手に取るように解る。楽しいものだと思いながら読んでいると、誰かが急に執務室の扉を開いた。急だったので俺は本からすぐに目線を扉の方に向ける。
そうすると、そこには武蔵が居た。少し慌てているのだろうか、顔を歪ませている。
「提督、緊急だ」
「どうしたの?」
普通に執務をしていたゆきは、すぐにペンを止めて武蔵の言葉に聞き返した。
「”ヤツ”が来やがった!」
「えぇ……。分かった、武蔵。少しココに来るのを足止めしてくれない?」
心底イヤそうな顔をして言うゆきに、武蔵は言葉を発しようとした途端、また扉が開かれた。だがその勢いは凄まじく、武蔵が開けたときよりも大きな音を立てた。
そして、その扉を開いた張本人が執務室に入ってくる。
「あら、呉第ニ一号鎮守府の提督は、上官も迎えに来れない程多忙だったかしら?」
厭味ったらしくそういったのは、ゆきと同じ服装をした女性。
と言っても、着ている服はパツパツだ。今にもボタンがはじけ飛びそうなくらいに張っている。そしてその女性の後ろには数名の憲兵が控えていた。
「いいえ。何分急でしたので、手が離せませんでした」
ゆきはそう言ってペンを机に置いて立ち上がった。
「これはこれは、とんだご無礼を……。申し訳ありません」
「ふんっ! 分かればいいのよ!」
鼻にかけたような態度で、ゆきを見下す。身長的にも仕方ないのかもしれない。この女性はハイヒールを履いているのだ。
そんな風に観察している俺に、ゆきはあることを言った。
「真木さん。少し退出していただけますか? この御方と少々お話がありますので」
そう丁寧に言った。多分、この女性はゆきの上官なんだろう。
そうだろうなとは思ったが、返事を誤ってしまった。
「あぁ。少し出てくる」
ゆきが俺のことを『真木さん』と呼んだことを踏まえずに、普通に返事を返してしまったのだ。
それを聞き逃さなかった女性は、後ろに立っている憲兵に指示を出す。
「扉を封鎖しなさい!」
俺が扉に到達するまでに、憲兵が扉の前を固めてしまった。
俺は出るに出れない状態にされてしまったのだ。
そんな俺に、女性は自己紹介をする。
「私は横須賀第○九鎮守府艦隊司令部の浅倉よ。貴方、男かしら?」
「えっ?……あ、あぁ。男、ですが?」
よく分からないが、やはりゆきの上官だと思われる。態度からしてそうだし、鎮守府の人間だと分かるとそう考えてしまった。
「声も低い声ね……ふむ……」
その場で考え始めるが、なんというか嫌な予感しかしない。
「そうねぇ……貴方、ウチに来ない?」
そう言ってこちらに近づき始めた。
それに反して、俺は浅倉から離れていく。
「いえ、結構です」
「あら、遠慮しちゃって。でも、ウチに来たらこんなところよりももっといい思いが出来ると思うのだけど?」
そう言って俺は逃げられないところにまで追い込まれてしまった。
なんだかこの世界に来て、こんなことばかりだ。何で壁際に2日連続で追いやられなければならないんだ。
「貴方、真木とか言ったわね? どうしてここに居るのかしら?」
そんなことを訊いてくるが、訊くような態度ではない。
同じようなことを聞かれた経験があるが、あの時もこんな感じだった。そしてこの後は、全然関係ないことを訊いてくるに違いないのだ。
「歳はいくつなの?」
「身長凄く高いけど、どれくらいなの?」
「体重は?」
「スリーサイズ教えなさい」
ほらみた。同じようなことを訊いてくる。
経験則で言えば、これはいわゆる保護法違反というやつだ。俺はそんなこの浅倉を逮捕できる権限のあるであろう、憲兵に目を向けるが駄目だ。
目線が変なところに行ってあがる。役立たずも甚だしい。
そんな憲兵に俺は助けを求めた。
「ちょっと憲兵! この人どうにかならないの?!」
そう訴えるも、憲兵は困った表情をして小刻みに横に首を振った。
つまり、無理だということだ。
「あら、真木君。あの子たちは私の下僕よ。何言っても私に利のないことはしないわ」
そう言って高らかに笑う。まさに『オホホホ』だ。
その笑いにイラッとしたが、ゆきの上官である可能性がある以上、変な言動は出来ない。
そう考えつつ、断ることしか考えなかった。
「私の方に来れば大艦隊の旗艦よ。そして鎮守府の顔! それに私は今後も出世すると思うから、元帥閣下のお付でもうそりゃ……」
途中から聞くのをやめた。聞いたところで何があるというのか。
「……てなわけで、山吹」
「はい。何でしょうか」
「この子、貰っていくわ」
すっごい横暴なことを言っているのは、俺でも分かる。ここの世界がどういうもので、どういう風に成り立っているのか分からないが、とりあえずこの浅倉がジャ○アンみたいだということは分かった。
風貌からしてそうだし。
だから俺が言った。こんなク○バ○アに付いて行く気なんてないね。ゆきの方が若いし。というか、若すぎるような気もしなくはない。20と言われても納得してしまうレベル。
「嫌です。行きません」
俺はそっぽ向く。本当に行く気はない。俺に選択肢が無かったとしてもだ。
そんな俺に、浅倉は理由を訊いてきた。
「何故かしら? ここよりも大きいし、戦績もいい。会社で言うと大企業よ」
案外、普通なところもあるものだなと思いつつ、俺は息がかかる程の距離まで詰められている浅倉に答える。勿論、そっぽ向いて。
「俺、こじんまりしてて、社長とか平社員とかが仲が良い方が良いんですよ。それに急に来いとか無理です。本当に無理です」
拒絶した表情をして浅倉に訴える。
そんな俺の顔をキョトンとした表情で見る浅倉は、数秒間固まった後に俺の腕を掴んで引っ張った。
案外その力は強く、少し身体がふらついたがすぐに引っ張り返して踏ん張った。
「何よっ! 良いじゃない! というか、こんなこじんまりとしたちんちくりんで小汚いところが良いなんて、男の貴方が居ていいところじゃないわ!」
ヒステリックに叫ぶ浅倉とは俺は正反対で、かなりヘラヘラしている。
面倒だし。いきなり叫びだして、この人どうしたのって考えていた。
「大体、何でこんな所に男が居るのよ! アンタ、何処から拉致ってきたのっ?!」
俺の腕を離したと思ったら、ゆきに矛先が向いてしまった。
これはしまったと思った。理由は分からない。だが、そんな風に感じてしまったのだ。
多分だが、憲兵に言い寄られた時や、歓迎会の時に囲まれた時のゆきを見ていたからだろう。あれが出てくるんじゃないか、そう思って『しまった』なんて思ったんだろう。
だが、よくよく考えてみれば、相手は上官の可能性が高い。そんな相手にゆきが軍刀を抜くのか否か。
だが、ゆきは何も行動を起こさない。
どうしてだろうか。やはり、上官なのだろうか。それどころか、何も言わないのだ。
「そうでもしなけりゃ男がここに居るのはおかしいわ! 上申してアンタを軍法会議にかけてもいいんだからね!」
そう浅倉が言った途端、ゆきは動き出す。
「そんな! 不当ですよ!」
「じゃあなんて男がいるのよ! しかもこんな国宝級の!」
何が国宝級なのやら。
「分かりません! 先日、任務中に出てきました!」
何というか、こんな光景を見ているとやっぱり軍人なんだなとつくずく思う。
映画で見るような感じなのだ。
「訳がわからないわ! 男が湧いて出ていたのなら、こんなにも男が不足することなんて無かったのに!! ……まぁいいわ、山吹。この子は連れて行くわね」
そう言って再び俺の腕を掴んだ浅倉に、俺は徹底抗戦する。
引かれたら引き返して、手から離れようと手を振って暴れてみたりなど。
出来る限りはしてみる。だが、やはり俺の元いた世界でのアレが抜けないんだ。どうしても強引に抜け出ようとすることは出来なかったのだ。
「暴れないで! ほら! ちょっとっ! 貴女たちも手伝いなさい!!」
数分間の格闘をすると、浅倉は増援を呼んだ。呼んだのは勿論、浅倉に逆らえないであろう憲兵たちだ。
そのままこっちに近づいてきて、俺の背後から脇に腕を通すが身長的に届かず、押さえつけることに失敗。浅倉が掴んでいる手の反対側を掴んだ憲兵も居るが、浅倉と同様に腕を振って振り払おうと俺がするので、それから離れまいと精一杯。
残りの2人も俺の腰を掴んで固めるが、全然動けるので力が弱いみたいだ。
こうして合体ロボが再び出来上がったのだ。
かなり規則的な動きは出来ないがな。
そんな俺の徹底抗戦に浅倉はヒートアップ。完全に押さえつけて無力化することを、憲兵に命令したのだ。
それを聴いた憲兵は俺から一度離れ、一斉に俺に飛びかかる。体全体を使って両腕と両足をホールドしたのだ。
だがこの憲兵、勢いで行ったのはいいが、この先を考えてなかったみたいだった。
俺の動きを止めはしたが、この先の行動を取れずにいたのだ。
「浅倉閣下! 私たちが抑えていますから、拘束をして下さい!!」
そう、俺の右腕を抑えている憲兵が言った。
ちなみに総じて言えることだが、ここにいる憲兵は美人が多い。というか3/4で美人だ。
ちなみに右腕の憲兵は普通といったところだろう。俺がそうやって女性を選別するのもどうかと思うがな。
「うふふっ。さぁ、真木君? おとなしくしててね?」
そう言ってワキワキしながら近づいてくる浅倉から逃げようにも、両手足を拘束されていて身動きの取れない俺は顔を背けることしか出来なかった。
あともう少しで連れて行かれるということろで、突然、ゆきが声をあげたのだ。
それは力強く、凛々しいものだった。
「その辺りで止めていただけないですか?」
口調こそ丁寧だが、別の感情が込められているのは一目瞭然だった。
怒っているというか、よく分からない感情。
「なに? 佐官の癖に調子乗って口答えする気なの? 落とすわよ?」
この『落とす』という単語の意味は分からないが、ゆきに不利益が生じるのは目に見えていた。
だが、そんな浅倉にゆきは敢然とした態度で話した。
「権力を振りかざして落とすとか……恥ずかしくありませんか?」
もうこれは敢然云々ではない。喧嘩腰だ。どう見ても。
勿論、浅倉はその喧嘩を買うみたいだ。だが、殴り合いや何か裏で工作するのではない様だ。
「ならば演習で勝負よ。私の最強連合艦隊に勝てるとは思えないけどね」
そう宣言してズカズカと浅倉は憲兵を引き連れて出て行った。
俺はそれと同時に開放されたのだが、服のポケットに紙切れが入っていたことは気にしないでおこう。何やら電話番号とメールアドレスだったみたいだが、そのままゆきに渡した。面倒だし。第一、携帯電話なんて持ってない。元居た世界では携帯は持っていたが、この世界には持ち込めなかったみたいだ。というか、俺の所持品なんてものはない。
精々日用品くらいだ。
連絡先の書かれていた紙を受け取ったゆきはそのままそれを机に放り込んで座り、俺にあることを言ってきた。
「あんのク○バ○アに吠え面かかせて、ついでに色々貰うよ。後でこっちから条件やら色々付けるから」
そう言って目を輝かせたゆきは、あれやこれやと欲しいものをリストアップしていく。各資材や開発資材、バケツ。その他にも何やらよく分からない特権や書類なんかもリストアップしていった。その作業も数分で終わり、やっと俺にあることを言った。
「大和、これから短期レベリングやってもらうけどいい?」
「レベリング?」
「そう。貴方をローリングバレル(※多分浅倉のこと)から白ワインを絞るだけ絞り出すのに使う艦隊の旗艦に貴方を使うのよ」
「ほぉ」
俺はゆきの前で立ちながら話を聴く。
「でもそうしたら吠え面通り越して、大慌てするだろうなぁ」
凄く嬉しそうな顔をするので、とりあえず理由を訊いてみた。
「どうしてだ?」
「ん? 一昨日話した男性保護法ってのはね、『いかなる時に於いても、女性は決して男性を外傷及び内傷若しくは心的傷害を犯してはならない』ってあるのよ」
なんだかよく分からないので、詳しいことを折り返して訊いてみた。
「つまりどういうことだ?」
「そうねぇ……。大和が旗艦をすることで、こちらは無敵艦隊になるってことかな? バルチック艦隊や米海軍太平洋艦隊も驚きの超々弩級の倒せない相手になるってこと。保護法違反したら”ブタ箱”行きだからねぇ」
手をひらひらしながらそんなことを言うゆきが一瞬、俺には悪魔に見えた。
それもただの雑魚悪魔じゃなくて、魔王城とかにいる強い悪魔。
「勝利は確実っ! 迷惑なオイルバレル(※多分浅倉のこと)はとっとと”ブタ箱”行きね! やったぁ!!」
大げさに喜んで見せているように見えるが、多分本当のことだろう。
ゆきの説明からすると、本当にこの勝負は勝てる。編成によっては一方的に嬲って終わりな気がしなくもない。
そんなことを考えていると、俺も笑い始めてしまった。
可笑しくて仕方ないのだ。
「ははははっ!! 楽しみだ!!」
「でしょー?」
ゆきは少し頬を赤く染めながらそう言う。
なんだか色っぽいが、煩悩は横に置いておく。
「でも短期レベリングあるからさ。行ってきなよ」
「え”っ?」
「練度1で出せる訳ないじゃん」
そう言ってゆきは俺に編成表を渡してきた。
多分、俺のレベリング用に編成した特別艦隊なんだろう。
俺はそれを読みながらソファーに座り、メンバーを見た。するとそこには見覚えのある名前が2つ。というか全部見覚えあるが、直接会った名前が2つあったのだ。
それを見て、俺は頭を抱える。
(先が思いやられる……)
そんなことを人知れず呟いたのだった。
お久し振り?です。
まぁ、今回は例外なく続きの投稿なんですが、まぁ……忙しいですよね。
この時期って色々ありますから。テストとかレポートとか親戚の集まりとか……。
嫌じゃないんですけどね。疲れがたまるのと、夏バテでやる気が出ないですね。
内容に関しては、元作の金剛君と同じ下りですはい。文句は言わんといて下さい(切実)
ご意見ご感想お待ちしています。