インフィニット・ストラトス Re:Dead《完結》 作:ひわたり
プロローグ
彼が見た光景は炎の中だった。
全身に痛みが走り、頭が割れそうなほどガンガンと鳴り響く。焦げ臭い香りと、異常な異臭。身を焦がす程の熱が全身を包む。
痛みの中で視線を巡らせれば、辺りには砕け散った鉄の塊と肉の固まりが散乱していた。
霞みがかった思考の中で、生きているのは自分のみだと、何処か冷静な部分がそう判断する。
「……ああ、そうか」
今此処に、生き残りは自分だけ。
「…………」
……どうしてこうなってしまったのだろうか。
「…………」
周りには死体しかない。
人は死んだらこうなってしまうのだと、ただの物に成り果てるのだと、その結果をまざまざと見せつけられる。
「……ああ」
……このまま死んでしまおうか。
多分それが、一番救われる方法だと、彼は、そう思った。
少年は歩く。
彼の肉体年齢は十代半ばか後半程。ある程度は成長した肉体とは言え、この状態は過酷である。
生い茂る山の中、痛む体を引き摺りながら、草木を掻き分けて進んで行く。
どうしてこんな中にいるのか、少年には分からない。何処へ行けば良いのかも分からず、未知の土地を少年は歩く。暗い山の中は何も見えない。雲は月を隠し、その闇を深めていた。
「げほっげほっ」
痰を吐けば、黒い塊の液体が零れ落ちた。ヒリヒリと喉の痛みが増し、水分を寄越せと体が訴える。疲労が溜まった足からは休ませてくれと悲鳴が上がる。
その全てを無視して、少年は進む。
「……かはっ」
……ああ、何で、逃げているのだろう。
少年は死から逃げていた。
生の道へと逃げ出した。
何故生きようとしているのか。
死に方が嫌だったのか。
それとも生物としての本能か。
それは少年自身にも分からない。
「……僕は」
……全てを捨ててまで、何を求めているのだろうか。
ただ、この道を照らす光が欲しかっただけなのに。
ふと、広い場所に出る。
山を抜けたわけではない。
それでも、手入れされた野原へと出ることができた。
不意に、風が吹き抜ける。
雲が動き、切れ間から月明かりが差し込んだ。
光の指す場所に、少女が居た。
月のような金色の髪。夜空のような紫の瞳。
天使かと、少年は思う。
「……ああ、なんだ」
乾いた笑いが出た。
……やっぱり死んでいたんじゃないか。
足から力が抜ける。立つことを止めた体はそのまま地面へと倒れ
「…………!」
ぶつかる直前に、少女に抱き締められた。
少年は遠退く意識の中、彼女の鼓動を聞いた。
己の鼓動を聞いた。
生の動きを自覚した。
「…………」
生きていた。
自分は、まだ生きていた。
彼女が何かを言っている。
でも、何を言っているのか分からない。
分からない。
霧散する意識が無くなる前に、少年は一言だけを呟いた。
ごめんなさい。