インフィニット・ストラトス Re:Dead《完結》 作:ひわたり
セリーヌさんが亡くなってから初めてのシャルロットの誕生日。
僕は何かするべきだと思っていたが、特別に何かをするとそれはそれで向こうが嫌がりそうだ。いつもはセリーヌさんがケーキを作ってくれていたのだが、流石に僕が代わりに作るわけにもいかないだろう。結果は目に見えている。
「……うーん」
シャルロットが学校に行っている間に隣町へと繰り出してみるが、どうしたものか。
僕の住んでる町とは違って大きい。人の賑わいも全く違う。遠くにはかつて僕が通っていた病院も見えた。
女の子が好きそうな物は分からない。
シャルロットが可愛い物好きであるのは確かなので、ぬいぐるみとかにしようか。
「いや、安直過ぎるか……?」
とまあ、思考の堂々巡りである。
女の子向けのショップの中で模索する勇気もないので、フラフラと歩きながら思考を回すが空回りしている気がする。こんな時ばかりは蓄えた知識など全く役に立たない。
「…………」
他に情報はないかと、ここ最近のシャルロットの行動を振り返ってみる。
世話好きだが甘えん坊である彼女は、やたらとひっついてくることが多くなった。ボディタッチなんかは普通にしてくるし、特に頭を擦り付けてくることが頻繁にある。犬っぽい。
セリーヌさんが亡くなった反動が来てるのかもしれない。まあ、思春期特有の嫌われ方とかをしていないだけ安心だが。
料理道具とかそんな物を思い浮かべるが、いまいちピンと来ない。
そういえばと、くっついてくるシャルロットで一つ当たりをつけた。
「……うん、これで良いか」
一度決めたらこれで良い。
僕はそういう店へ足を運んだ。
序でにケーキを買った僕はシャルロットの帰りを待つ。クラッカーなんかも買ってみたりもしたが、一人で鳴らしても逆に虚しくないかと今更疑ってみる。
「……ふむ」
シャルロットが帰ってくるまでまだ時間がある。本でも読んで待ってるか。
僕は借りてきた本を手に取ってソファーで読み始めた。
………………。
…………。
……。
「……ル。シャルル」
肩が揺れているのに気付いて我に帰る。
どうやら読書に没頭し過ぎたらしい。振り返ると、既に制服から私服へと着替え終えた呆れ顔のシャルロットがそこにいた。
「ああ、シャルロット。おかえり」
「ただいま。と言っても、帰って来てから結構経つけどね」
マジですか。
……あ、プレゼントとクラッカーが机の上に置きっ放しだ。
当然、それにはシャルロットも気付いているわけで。
サプライズも何もあったものでもなく。
「…………」
「…………」
シャルロットと目が合う。
「……シャルロット」
「……何かな、シャルル」
この微妙な空気感よ。
「いえーい!誕生日おめでとうー!」
クラッカーを手に取って鳴らす。紙吹雪が飛び出してシャルロットへ掛かった。
「いや、そんな唐突にテンション高くやられても」
とっても冷たい目だった。
「なんかごめん」
素直に謝る。
「いや、誕生日を祝ってくれるのは嬉しいけどさ。せめてプレゼントとか隠しておきなよ」
そういう所が杜撰だねと言われるが、全くもってその通りなので反論は出来ない。
「取り敢えず、プレゼントでございます。お納め下せえ」
腰を低くして渡す。
「うむ、苦しゅうない」
シャルロットが態と太々しい態度で乗ってくれた。何だかんだ機嫌は悪くないらしい。
「開けて見ていい?」
「もちろん」
気にいるかは分からないけど、と内心呟きながらドキドキする。
「……リボン?」
「そう、髪留め」
シャルロットの髪は肩甲骨辺りまで伸びている。抱きついてくる度に髪の毛がくすぐったいのを思い出し、結果的に髪留めでもプレゼントしようかと思い至ったのだ。
色は赤とピンクの2種類。
暖色系が好きなシャルロットに合わせた形だ。
「…………」
気に入ったかどうか凄く気になる。
チラリと表情を窺うと、目がやたらキラキラと輝いていた。
どうやら大丈夫だったようだ。
「ありがとう」
シャルロットが満面の笑顔で笑う。
「どう致しまして」
安堵しつつ僕は頷いた。
「ねぇ、シャルル。早速付けてくれない?」
「え、僕がやるの?」
シャルロットが背中を向けてくる。僕にやれとか無茶振りも良い所だ。
「だって、私こういうのしたことないもん」
「僕だってないよ」
それでも良いよと言ってくるので、今日の主役の命令を大人しく聞くことにした。
「下手でも文句言わないでよ?」
「うん」
やれやれとシャルロットの髪に触れる。絹のような手触りで、サラリと金色の糸が手の中で踊った。ポニーテールとかサイドテールとか髪型は色々あるけれど、そんなことを出来る技術はないので、うなじ辺りで髪を一つに纏めて結った。リボンは赤いのを使用する。それでさえ一苦労だ。
「……はい、これで良い?」
手鏡を渡して見せてやる。
「……下手くそだね」
いやまあ、そりゃあリボンとか曲がってたり髪が微妙に跳ねてたりするけどさ。だから下手くそって言ったじゃないか。
「解いても良いよ」
「ううん、これで良い」
シャルロットは頰を赤く染めて、照れながらはにかんだ。
「ありがとう、シャルル」
この笑顔が見れたのなら、やって良かったなと、そう思えた。
その後、2人してケーキを食べながら、髪を結ぶ練習をしたのだった。
▽
そろそろ、シャルロットの受験の時期が近づいて来る。
……と言ってもまだ期間はあるのだが、セリーヌさんが亡くなってから、正確に言うなら倒れてからここまでずっとバタバタしていたので、時期を早めに見繕っても悪いことではないだろう。
シャルロットの頭なら何処の高校でも大丈夫だと思っているが、問題は金だった。残してくれたお金などはある。しかし、それに手を付けるのは憚る。勿論、こういう時の為のお金でもあるのだろうが、極力使いたくない。使うにしても、出来るだけ少量にしようと、僕は仕事の回数を増やしていた。
ちなみに、僕の仕事場は昔シャルロットとも行ったことがある喫茶店だ。僕が何気なく仕事のアテを相談した所、ウチで働かないかと話が来た。気を遣ってもらってるのかと最初は断ったが、どうやら奥さんの方が妊娠したようで人手不足になるらしい。それならばと働かせて貰っており、今に至る。
僕が働いて既に数年経つので、子供もそれなりに大きくなってきた。
偶にシャルロットも遊びに来ては子供と遊んでいる。
「そうか、シャルロットちゃんもそんな時期か」
「ええ、そうなんですよ」
午前中でのお客は少なく、僕はランプの埃を取りながら店長と話をしていた。
「ということは、シャルロットちゃんも遠くへ行くのかな」
この町は小さな町だ。ある程度成長したら町を離れていくのは珍しくない。
「それなんですがね……」
この町に高校はない。隣町にあるが、もっと良い成績があるのだからと、僕は遠くの高校を勧めている。寮もある高校なのだが、どうにもシャルロットがそれを了承しない。
僕がその相談をすると、店長はどこか楽しげに笑った。
「それは君、シャルル君と離れたくないんじゃないか?」
「それはあると思います」
シャルロットは人を失うことに敏感になってしまった。誰かの言うことに流されるというマイナス点は克服出来たと思うのだが、一人になること、或いは一人にすることを嫌がるようになっている。
そんな話をすると何故だか、鈍いねと、店長に言われてしまったけれど。
「だからと言って、自分の経歴を下げるのもどうかと。折角その学力があるのに勿体無いと思いませんか?」
「それは勿体無いだろうね」
店長はすんなり同意して
「だけど、大切なのは本人の意思だよ」
そして、あっさりと意見を覆した。
「シャルル君だってその辺り、分かっているんだろう?」
「だから悩ましいんですよ」
自分のことでない分余計に頭を悩ませてしまう。
近くの高校を選ぶ理由が僕に無ければ、それは別に構わないことなのだが。
最終的に僕はシャルロットの選択に頷くだろう。それは自分でも承知している。
「なに、じっくり悩めば良いさ」
僕はこれから先の事を憂いで、大きく溜息を吐いた。
僕は帰り道を歩きながらシャルロットの将来について考える。
これから先、シャルロットは果たして独り立ち出来るのだろうか。
セリーヌさんの死から立ち直れたのは良かったが、これから先、僕が居なくなったらどうなるのやらと思わずにはいられない。
「…………ん」
僕は足を止めた。
知らず知らずの内、僕は僕自身がシャルロットの元から居なくなることを想定している。
シャルロットから離れたいか、または将来的に家族ではなくなると考えているかと言われれば、それは否である。
「…………」
拳を握り、コツコツと軽く頭を叩く。
何故こんなことを考えているのか。
僕自身のことが僕には分からない。
死ぬつもりでもあるのかと自身に問えば、場合によるという答えが返ってくる。
仮にシャルロットの身に危険が及ぶのなら、僕は命を懸けて守ろうとするだろう。
絶対にと断言できるほどに、確実に。
家族を守る為なら
「…………」
家族に手を出すのなら、その相手を殺して
「やめよう」
思考を止める。
出そうとした結論に冷や汗が流れる。
……危険思想家か、僕は。何てことを考えている。
寒くもないのに身震いをしてしまう。吸った息がやたら冷たく、喉が痛く感じられた。
別に人を傷つけたいとか、そんな事は思わないけれど、しかしこれは、この思想は家族の身の危険だけに適応されるのだろうか。
「…………」
かつての僕の家族は飛行機事故ではなく、誰かによって殺されたとかあるのか。
まあ兎に角自重しよう。
僕を抑えられるのは僕しかいない。
シャルロットの将来だけでなく、僕の未来にもまた一抹の不安を抱えながら、僕は帰路に着くのだった。