インフィニット・ストラトス Re:Dead《完結》   作:ひわたり

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第4章 君想う故に
一発の銃声


教壇の前に立つ。

僕の人生の中で、少なくともシャルルとして過ごしてきた中では、こんなに注目を浴びる機会はなかった。

「えー、それでは講義を始めます」

どこかミスしたらフォローお願いしますね、という意味を込めて千冬さんに視線を向けると、ニヤニヤとした笑みが返ってきた。

……絶対に楽しんでるなこの人。

その後の授業進行は問題なかったと思う。緊張して変に肩が凝ったこと以外は、特に異常はなかった。

 

 

「……うー、疲れた」

食堂で食べ終えた後、ぐでっと力を抜いていると、シャルロットがそのまま僕の体を横たえて膝枕させてきた。いや、この姿勢だと他の人と話せないし遠慮したい。恥ずいし。

「えへへー」

そう言おうとして顔を向けると、ぽわぽわとした緩い笑顔がそこにあった。やめてと言い辛い。

「見せつけてくれますねー」

鈴さんの呆れた目が僕に刺さる。僕が悪いのか、これ。

「僕の授業どうだった?お世辞は要らないから、素直な感想が欲しい」

手を机の上に出して、顔代わりに皆を見渡して尋ねてみる。クラスが違う鈴さん以外に尋ねる形になるがご容赦して欲しい。

「特に問題なかったと思いますよ。寧ろ分かり易かったくらいですわ」

「ISの構造に興味はありませんでしたが、面白かったと思います」

「教官……ではなく、織斑先生程ではないですが、良かったかと」

「教科書より全然分かりました」

「真面目な顔も格好良いよ」

概ね好評なようで安心した。一人違う意見な気がしたが。

「結構堂々としていましたけど、人前に出るの慣れてるんですか?」

「いや、まさか。大勢の人の前に立つなんて初めてだよ。ただ、ポーカーフェイスが得意なだけ」

シャルロットさん、頭を撫でるのやめてくれませんかね。ポーカーフェイスにも限界あるんですよ。

「午後の授業はISの実践だっけ?」

「そうですよ」

うむうむ、実際に見てみるのは楽しみだ。

「……そんなに女の子たちが見たいのかな?」

「誤解ですよ、シャルロットさん」

「知ってる。冗談だよ」

冗談?本当に冗談だよね?さっきの黒い笑顔は演技だよね?

確認するのも怖いので追求はしないでおく。

「今日は銃の実践だったな……。俺、どうすれば良いんだろ」

「うん?一夏くんは専用機あるんだから、別に問題ないんじゃないのかい?」

「いや、俺の専用機、剣しかなくて」

……え、何それ。

僕は身を起こして普通の体勢に戻った。シャルロットの残念そうな顔は敢えてスルーした。

「不便だね」

「不便ですよ。まあ、初心者ですし、コレだけに集中出来るので、別に構わないのですけど」

今の所、一夏くんは千冬さんのように将来ISで食べて行く気もなさそうだ。世界で唯一の男性操縦者にそれが許されるかどうかは置いておいて。

「一夏くんは将来何になりたいの?モデル?」

「何でモデルなんですか?」

「いやぁ、男性操縦者って触れ込みだけで売れそうじゃないか。顔も良いし」

「いやいや、そんなことないですし、そんなこと出来ないですし」

笑顔で否定する一夏くん。そのルックスと甘いフェイス使えば結構イケる気がする。

「うむ、一夏はやらない方が良い」

「やっちゃダメよ」

「ええ、一夏さんは今のままで良いですわ」

「モデルって結構大変だぞ」

一人普通の感想だったが、ライバルを増やしたくないであろう彼女達が進言してきた。

ほらね、と一夏くんは素直に受け取ってしまっている。うむ、しかし勿体無い。

「そういうシャルルさんは、このまま教師を目指すんですか?」

「いや、どうだろうね」

今は流れでこんな事になっているが、将来的にずっとこれで食べて行くのとはまた違うだろう。フランスの頃はそんなの考えてる余裕はなかったし、教えるのは意外と楽しい面もあったので、その方面で見てみるのも面白いかもしれない。

そう考えると、将来に関してそんなに真剣に考えていなかったなと思い知る。

「知識多いし、大学の教授とかでも目指せば?」

「それは一つの道かもね」

そんな簡単になれるわけもないのも知っているけれど、目指す事自体は悪い事ではないだろう。

「シャルロットは将来何になりたいの?」

「お嫁さん」

「…………」

昨日は待ってくれるって言ったのに、グイグイ来ますね。

「待つことに同意はしたけど、こちらから攻めないとは言ってないよ」

心の声を読まないで下さい。

……あと、お手柔らかにお願いします。

「あはは、シャルルさん押されっ放しですね」

一夏くん、笑ってるけど、君の周囲見てみなよ。餌を前にした獣の群れがそこにいるよ。早く逃げることをオススメするよ。

 

 

そんなこんなで、午後の実践。

こういう時に、見本として駆り出されるのは各国の代表者やクラス代表らしい。

「今回はシャルロットとセシリアさんなんですね」

「銃の扱いが上手いからな」

隣で立っている千冬さんが答える。

ちなみに、一夏くんはシャルロットから銃を借りたらしい。専用機で銃が無いのは千冬さんも承知だが、授業なので何もしないわけにもいかないのだ。

「一夏くんの武器って、剣の一振りのみですよね。増設しないんですか?」

「増設出来ない仕様だからどうしようもない。それに、あいつはアレで良い」

千冬さんにどんな考えがあるのかは知らないが、良いと言っているのならそれを否定する要素はない。

「それでは始めます」

山田先生が手を挙げて合図する。宙に出現する的を撃ち抜くものだ。的自体は映像なので、何処からでも出現する。

反射神経と腕前が試される。

「開始!」

そして、ISが銃を撃つ。

銃声が鳴る。

ドンと、重たい響きが空間を震わせた。

 

銃を撃った。

 

銃が

 

銃弾が

 

『嫌だ!』

 

爆発が

 

『死なないで!死んじゃ駄目!』

 

鳴いて

 

泣いて

 

頭痛がした。

何かが、僕の中で。

記憶が。

僕が、僕の。

体が、揺れて。

誰かが僕を支えた。

視界が真っ暗になって、黒く塗り潰された。

そして、白く。

 

白い髪の少女がそこにいる。

 

ベッドの上で、そこにいる。

 

『貴方の名前は、何?』

 

僕は

 

僕は、誰だ?

 

僕は何を言っている。

 

『本ばっかり読んでないで、外にも出ようよ』

『相変わらず体力ないね』

『偶には僕の代わりに家事したらどうだい?』

『絶対に死なせない』

『逃げろ!』

『家族だけは守る』

 

引鉄を引いた。

 

撃った。

 

撃って、殺した。

 

僕が殺した。

 

誰を殺した?

 

君は誰だ。

 

幼い子供がいる。

 

黒い髪の少女がいる。

 

子供が料理を作っている。

 

『全然うまくできない』

『練習すれば出来るようになるさ』

『そうかな?』

『そうさ』

『じゃあ、今度は教えて』

 

僕は、答えた。

 

『良いよ、ちーちゃん』

 

 

「おい、シャルル!」

「!」

ハッと意識が戻った。

腕を掴まれて体を支えられている。

「どうした、大丈夫か?」

意識が遠退いたのは、多分一瞬だけ。周りで僕の様子に気付いた者はいない。シャルロットとセシリアさんが銃を撃ち、リズム良く的を撃ち抜いていた。

「……シャルル?」

「……ああ、うん、ごめん」

足に力を入れて自分の足で立つ。深呼吸をして意識を整えた。もうフラッシュバックはない。見えた欠片達が霧散していく。

「本当に大丈夫か?顔色が悪いぞ」

僕は彼女を見た。

幼い子供の幻影に、彼女を重ねた。

「大丈夫だよ」

僕は、大丈夫だよ。

「心配しないで……ちーちゃん」

自然と出た言葉。

当たり前のように、呼び慣れたように、するりと零れ落ちる。

「…………っ」

ビクリと、僕の腕を握っていた手が震えた。

「……ぁ」

僕は。

「…………」

甲高い音が鳴る。

ブザーが鳴り響き、訓練終了の合図が耳に届く。

「……っ」

手が離れた。

「では、皆さん。各自分かれて練習して下さい」

山田先生の合図で皆が分かれる。

シャルロットと一瞬だけ目が合った。不思議そうな瞳が僕を見ている。

「……山田先生、少しだけお願いします」

「え?はい、分かりました」

千冬さんが背を向けて足を遠ざけた。

その背中は小さく、まるで幼い少女のようで。

僕はそこに何を見たのだろう。

僕は何を失ったのだろう。

大切な何かを、決定的な何かを、致命的な何かを、確かに失ってしまったのだ。

誰か教えてくれ。

引鉄を引いた。

引鉄を引いた手は、僕の手だ。

なら、その先は?

誰か教えてくれ。

 

僕は、誰を殺したんだ?

 

僕は、誰だ。

 

 

ドンと、激しい音が鳴る。

授業が行われている時間、利用者のない部屋が並ぶ廊下で、千冬は壁を叩いた。

千切れそうな程に力を込めた拳。

砕けそうな程に食い縛った歯。

頭をぶつけ、潤んだ瞳から涙だけは零さないと、必死に耐える。

「……くそっ」

何て言おうとした。

あの時、思わず出かかった言葉を。

私はそれを封じたのに。

永久に口にすることはないと誓ったのに。

「くそっ!!」

また拳を叩きつけようとして、その手が止められた。

「駄目だよ、ちーちゃん。そんな本気で殴ったら、壁が壊れるよ」

聞き慣れた声。

長年聞いた声。

「…………だって」

だってと、子供のように縋りつく声で。

「……私は、受け入れたんだ」

「うん」

「私は貴方とは違う……!」

「うん」

「だから、私は……!」

「うん」

千冬は泣かなかった。

ただ耐えて、耐え抜いた。

漏れる苦しみの声を、束はそっと抱き締めた。

「ちーちゃんは強いから」

だから、耐えられる。

「でも、私は無理だから」

だから。

「だから、私は……」

 

私は、貴方を。

 

例え、シャルルを殺してでも。

 

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