インフィニット・ストラトス Re:Dead《完結》   作:ひわたり

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日常の裂目

トコトコとラウラさんが近付き、二人の背中に声を掛ける。

「おい、不審者共」

「誰が不審者ですって!?」

鈴さんが機敏に反応した。自覚はあったようだ。

「反応してる時点で認めてるようなものだよ」

こうして穏やかに合流した所で、大所帯となる。

「で、何してたの?」

「いえ、その……」

「一夏くんと箒さんじゃないか」

彼女達の視線があった方を確認すれば、一夏くんと箒さんが水着売り場で並んでいるのが見えた。

「ストーカー?」

「違うわよ!」

いや、どう見ても状況証拠としてはストーカーだけどね。いくら好きでも変態行為は感心しないな。

シャルロットが腰に手を当てて呆れ気味に息を吐く。

「デートしてるんなら放って置いてあげなよ」

それに対して視線を逸らす二人。指を合わせて拗ねたように口を尖らせる。

「気持ちは分かるのですが、一歩先を行かれたのが悔しくて……」

「こんな所で見てる方が惨めだと思うぞ」

ラウラさんの容赦ない一言がグサリと二人の胸に刺さった。

「て、敵情視察って大事じゃない?」

「箒のことはよく知ってるだろう」

とことん容赦ない。

あ、一夏くんが気付いた。

手を振ってくるので、取り敢えず振り返しておく。

箒さんも気付いた。呆れた顔をしているのは当然の反応か。

「あ、気付かれたね」

「まあね」

こんな大人数で騒いでたら意識せずとも目に付くだろう。どちらにしろ、僕等も水着を買いに来たのだ。いつまでも此処にいても仕方ない。

「やぁ、二人共。邪魔しちゃってごめんね」

僕が近付いて頭を下げると、一夏くんがいえいえと頭を振る。

「邪魔ではないですよ」

これに関しては一夏くんの発言はアテにならないので、本当かいと箒さんへ視線を向けると、彼女は苦笑い気味に答えた。

「予想してたことですから」

予想の範疇にストーカー行為があるのか……。

わらわらと結局皆が集まって、どの水着が良いとか話し合う。これだけの女所帯で水着を選んでるのだ。一夏くんも流石に若干気不味そうだった。

「ねぇねぇ、シャルル。これどうかな?」

一団から抜け出して、シャルロットがニコニコと笑いながら水着を示してきた。

オレンジと黒のストライプの水着と、水色だけのシンプルなビキニ。

「どっちも可愛いし、シャルロットに似合ってると思うけどね」

素直に感想を述べてみると、シャルロットは少しだけ表情に照れを混ぜた。

「私はシャルルの好きな方が良いな」

「…………」

やめてください僕も少し恥ずかしくなってきます。

「…………」

適当に選ぼうとした所で、皆がこっちに注目していることに気が付いた。これではどっちを選んでも、僕の趣味と認知されてしまうではないか。

「……そういえば、シャルロット。お金はどうするの?」

「お金?お金はデュノア社から支給されてるよ」

話を変えたことにキョトンとしながらも答えてくれた。

「そこに制限は?」

「ないけど」

よし、ならば少なくとも、この場で僕が決めたという風にはならないな。

「じゃあ、二つとも買っちゃいなよ」

これから夏だし、使う機会はあるだろう。無駄な出費だとしても、デュノア社からなら心置きなく使えるし。後は二人で相談して決めたとすれば万事解決だ。

「う、うん。なら、そうするね」

何故か顔を赤くしてレジへとパタパタと小走りで走って行った。どこに顔を赤くする要素があったのだろうか。

「二着買うのですね……」

「残り一着は何に使うつもりなのかしら」

「そりゃあ色々だろう」

「エロエロなのか」

……マジっすか。そういう方向性に持っていかれるのは予想外だった。

一夏くん、その生暖かい目を止め給へ。

 

 

女性達は女性達で燥いでいるようなので、僕と一夏くんは自分達の水着を適当に選んだ。

男の性というか、性格というか、すぐに選んですぐに購入してしまった為、やることがもう終わってしまった。

「偉い人曰く、女性の買い物は長いそうだよ」

「誰ですかそれ」

「僕だよ」

「名言ですね」

虚しい会話である。

「人によるでしょうけど、アレだけ集まったら長いでしょうね」

自動販売機で適当な飲み物を買う。一夏くんの分も買って渡すと、ありがとうございますと頭を下げてきた。苦しゅうない。

片手で缶を持って、プルタブを人差し指で開ける。カシュンと空気の音が鳴った。

「器用ですね」

「掃除は苦手だけど、細かい作業は得意だよ」

無駄な特技であるのに違いはない。

「女性の買い物って、何であんなに長いんでしょうね?その上買わないこともありますし」

「それに関しては男の脳と女の脳の違いだね。脳の構造の話をすると、それこそ長くなるけど、聞くかい?」

「いえ、余計に疲れそうなのでやめておきます」

折角語ろうとしたら断られた。悲しい。

「お前ら、こんな所で何をしている?」

声に振り向くと、千冬さんと山田先生が立っていた。こんにちはと、一夏くんと揃って頭を下げる。

「水着を買いに来たんですよ。シャルロット含め、他の娘達はお喋りしながら買い物してる最中です」

「で、暇な男共は端で寂しく飲んでるわけか」

「そんなところです」

やれやれと大袈裟に肩を竦めて見せた。

「そういう千冬姉達も水着買いに来たの?」

「まあな。私は別に良かったんだが……」

「何言ってるんですか。折角整った体してるのに勿体ないですよ!」

「……この調子でな」

どうやら山田先生に変なスイッチが入ってしまってるらしい。一夏くん曰く、自分のことにはズボラらしい千冬さんだから、多分碌な水着も持っていなかったのだろう。山田先生はそれを見兼ねて、ここまで引っ張ってきたのかもしれない。

「そうですか。では、水着選び頑張って下さいね」

「止めてくれてもいいんだぞ?」

笑って誤魔化しておく。

本気で嫌なら、彼女もちゃんと拒絶するだろうし、良い機会だから少しは普段の身嗜みにも気を遣ってもらおう。

頑張れの意味を込めて去り行く二人に手を振った。恨めがましい視線は無視をした。

「シャルルさんて強いですよね」

「そんなことはないよ?」

自分の強さくらい自分が把握している。

「いや、千冬姉にあんなことできる心臓を持ってる人はそうそういないかと」

「大袈裟だな、一夏くんは」

僕は笑いながら飲み物を呷った。

「千冬さんだって女の子なんだからさ」

可愛いもんだよと、僕は笑った。

 

 

臨海学校前日。

放課後の時間。

 

僕は臨海学校前の最後の仕事をしていた。

と言っても、構内の見回りだが。

構内の構造を覚えるついでにとこの仕事を与えられたので、あまり重い仕事ではない。イジメ現場とかに遭遇してしまったら、それは対処しなければならない問題だろうけれど。

しかし、共学ではないから、男女の不純異性交遊云々は関係ないので、その辺りは楽だ。一度女性同士の現場を目撃してしまったことはあったけどスルーした。世界って広いね。

「……ん?」

まだ踏み入れてない知らない廊下へと来た。

あまり人の気配がしないエリアだが、一つの部屋から光が漏れている。

覗いてみると、眼鏡をかけた一人の少女がパソコンと睨めっこしていた。

確か、資料で見覚えのある少女だ。

日本の代表候補生、更識簪。

一年生だから、彼女も臨海学校に参加する筈だ。何かの作業中のようだが、切り上げるように伝えよう。

「失礼、大丈夫かな?」

ドアをノックして声を掛け、僕の方へ注意を向けさせた。

ビクリと肩を跳ねさせて、慌てた様子で近寄って来た。

「ど、どうも、シャルル先生」

小さな声でおっかなびっくりに対応してくる。僕が怖いのか、男が怖いのか、それとも人が怖いのか。或いは単に人見知りなだけか。

極力、優しい声を意識してみる。

「やぁ、更識簪さん……であってるよね?」

一応確認してみると、コクリと頷きが返ってきた。

「見回りしてたんだけど、ここら辺は初めてなんだ。ここって何の部屋だい?」

「研究室の一つです……。ここは、開発などのデータを纏める所です……」

「開発か。何か武器とか作ってたの?」

「あ、いえ、その……」

シュンとしてしまった。変な事を言っただろうか。

「私の専用IS、まだ出来てないんです……」

「え?」

代表候補生なのに専用ISを持ってないなんて有り得るのだろうか。疑ったわけではないが、この落ち込みようだと、彼女が持ってないのは確かなのだろう。

「どうして?手続きミスとか、故障かなんか?」

「いえ……」

簪さんは口をモゴモゴとさせながら、しかし、目にはどこか怒りを携えながら答えた。

「……男性操縦者のISが優先されたので」

「……ああ、成程」

一夏くんが悪いわけではないのだが、これもまた、男性操縦者という存在が生んだ恨みの一つなのだろう。

突如出現した男性操縦者という存在により、日本の代表はある意味其方に移ったのと同意義であり、本来優遇される筈の彼女が疎かになっているのだ。それは分からなくもないし、ある意味当然とも言える処置だが、簪さんの立場からすれば憤慨ものだろう。

「それにしたって、遅い気がするけどね」

「良いんです……」

簪さんはそう言って、置いてあった未完成のISに目を向けた。

「アレは、私が完成させるので」

その言葉と表情から考えると……。

「一人でかい?」

予想通り、肯定の意を示した。

しかし、それは何とも。

「いくら何でも無謀じゃないか?」

僕が言わずとも、他の誰かが進言してるであろう台詞。言われ慣れてる台詞に、簪さんは何度もした返答をした。

「お姉ちゃんは、やりました」

だから、私もやります。

そう、どこか悔しげに答えた。

「…………」

お姉ちゃん?

その単語と、頭にある構内生徒の名簿を確認する。更識の苗字があった生徒は、簪さんともう一人。

更識楯無。

確か、生徒会長だった筈だ。彼女がISを一人で完成まで持って行ったということか。

「……挑戦する心は立派だけど、明日は臨海学校だ。今日はもう休んだら?」

「もう少し、調整して良いですか?」

「……程々にね」

そう答えて、興味が少しだけ湧き、訊ね返した。

「少しだけ、それを見ても良いかな?」

「ええ、構いませんけど……」

そして、僕は中に入って、パソコンを見せてもらった。

画面に映る数式の羅列。

無数の文字。

ISの構築式を見た。

 

見てしまった。

 

その根源を、見てしまった。

 

激しい頭痛が僕を襲い。

 

それが痛みだと気付かない程の衝撃で。

 

僕の思考は、一瞬、何かに飲まれた。

 

「……先生?大丈夫ですか?」

「……っ」

ハッと意識が戻る。

頭痛はない。

吐き気もない。

ただ、頭が、思考が、やけにクリアだった。

「……ああ、大丈夫だよ」

僕は立ち上がり、少しだけ頭を抑えた。

「じゃあ、僕は戻るけど、早めに切り上げるようにね」

「はい」

部屋のドアを開けて廊下へ出る。

「ああ、それと」

その序でに、一つ助言を残しておく。

 

「君を一番混乱させてるのは、上から百十五番目の式と三百八番目の式の影響だから、そこをもう一度見直してみると良い」

 

簪さんの返答は聞かずに、部屋を出た。

僕は何かから逃げ出した。

 

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