インフィニット・ストラトス Re:Dead《完結》 作:ひわたり
「では、いってきます」
振り返り、十蔵とエリザへと頭を下げた。
「ええ、いってらっしゃい」
「私達は足手纏いにしかならないからな。気を付けて」
「はい」
千冬は頷いて、空の向こうへと飛び去った。
そこにある物を求めて、彼女は飛び立った。
半壊した脳を見て、シャルロットは吐き気を覚えて口に手を当てた。
「…………っ」
これが全ての根源。
デュノア社長は、これがそうなのかと目を光らせる。
「これが知識の塊……!コレで我が社も更なる飛躍を目指せる……!」
そして、デュノア社長がシャルロットの腕を取った。シャルロットが振り返ると、デュノア社長は笑っていた。口の端を歪めて笑っていた。
「喜べシャルロット。お前は、これから世界の為に役立つのだ」
その言葉で、シャルロットは理解した。
自分をここに連れてきたのはデータを渡す為だけではなかった。
織斑永時の脳の知識。
その全てを亡国機業が与えるわけが無いのは分かっていたが、どうやって他の政府や企業に分け与えていたのか疑問に思ったことがある。
答えは単純。
他の人間の脳に、永時の知識の一部をコピーさせるのだ。
それを受けた人間がどうなるかは想像に難くない。束が作成した、脳から知識を読み取る機械はあるのだ。脳さえ生きていれば、廃人であろうとも構わない。
「……本当に」
シャルロットは腕を掴まれたまま、デュノア社長を見た。
その醜い笑顔を見た。
実の父親を見た。
「貴方は、哀れだ」
デュノア社長の目から光が消える。
憤怒の表情へと変わった男は、シャルロットの腕をキツく握り締めた。痛みにシャルロットが顔を歪めた。
「その生意気な口も終わりだ。貴様は人形として私に一生仕えるのだ」
「貴方はアレを見て何とも思わないの?脳だけになって、ただ使われるだけの装置と成り果ててる姿を見て」
シャルロットの訴えはデュノア社長には届かない。
「思わんさ!アレは既に人ではない!寧ろアレが人に見えるか!?ただの物だ。人だった物だ!」
「人の心すら捨てたの?」
「心など下らん。そんな問答の必要などない!私の子供なら親の言うことに従え!」
デュノア社長は力尽くでシャルロットを脳の場所まで引っ張っていこうとした。
シャルロットはそれに抵抗しようとして。
ヒュン、と空気の音と共に、急に引っ張られる力が消えた。
「っ!?」
バランスを崩したシャルロットは後方へ倒れ、引っ張っろうとしたデュノア社長は前方へと倒れこんだ。
「がっ!」
顔から床へぶつかり顔面に痛みが走る。
「何が……っ」
デュノア社長は顔面を抑えようとした。
抑えようとした左手が無かった。
肘から先が綺麗な断面を見せており、直後、血の塊が噴き出した。
「……あ」
何が起こったか分からずに。
数瞬後に理解して。
理解した脳は、激痛を走らせた。
「あああああああぁぁぁぁぁ!!!」
デュノア社長は叫び声を上げた。
右手で左肩を掴み、必死に痛みに抵抗する。力を入れ過ぎた右手は爪が剥がれかけ、赤と白に染まる。
シャルロットは呆然とその光景を見ていて、自分の腕を掴んだままの、肘から先がないデュノア社長の手を見た。
「…………あ」
一つの手が伸びてきて、シャルロットから社長の手を剥ぎ取る。
社長の護衛の男がそこに立っていた。
「デュノア社長」
真剣を鮮血に染めた男が立っていた。
「貴方に父親を名乗る資格は無い」
篠ノ之柳韻が、そこに立っていた。
「貴様!貴様ァ!!腕を!私の腕を!!」
デュノア社長が喚く中、マドカがカプセルに入った脳を片腕に抱え、老人の後ろへとついた。
シャルロットはそれに気付いたがもう遅い。どちらにしろ、彼女がIS持ちなのは明らかで、力の無い自分にはどうしようもなかった。
柳韻は警戒をしながらシャルロットへ手を伸ばす。
「すまない。立てるか、シャルロットさん」
「貴方は……?」
「剣を嗜む、しがない父親だよ。ゆっくり自己紹介の暇もないが、千冬さん側とだけ言っておこう。名は篠ノ之柳韻」
その名を聞き、シャルロットは驚きに目を見開いた。
「貴方が……!?何故こんな所に……」
「話は後だ」
柳韻は刀を振り、血を飛ばして構え直す。
隙のない姿に、怒りで我を忘れているデュノア社長も近付けない。
「この時を待っていたが、やはり私に出来る事など限られているな」
永時の脳はそこにあるが手を出せない。
自虐的な笑みに、シャルロットは柳韻を見上げた。
「どうするつもりですか」
「なに、心配はいらない。元より私の役目は脳の場所を探す事だ」
柳韻は剣を床に刺し、シャルロットの肩を掴んで身を伏せる。
瞬間、飛行船が揺れた。
激しい衝撃に足元がふらつく。
「な、何だ!?」
老人の焦った声とバランスが崩れて再び倒れるデュノア社長。
「かくれんぼは終わりさ、亡国機業殿」
「何だと……?」
剣を支えにしながら柳韻は宣言した。
「鬼が来た」
壁の左右が破壊された。
出来上がった穴から一人の女性、もう一つの穴からは二人の女性が姿を見せた。
「早いご到着だな、束」
ISを纏った千冬が正面を見据える。
「ちーちゃんもね」
ISを装着したクロエ。その後に悠々と歩く束がやってきた。
「篠ノ之束……!織斑千冬……!?」
二つの力を前にして、流石の老人も動揺を隠せない。マドカは千冬に少し視線を向けた後、自身もISを纏い、いつでも動ける体勢へ入った。
「あれ、何でここに居るの?」
束は柳韻がここに居る事実にキョトンとした。ツレない反応に柳韻は肩を竦める。
「色々あってな」
柳韻はアレからずっと一人で模索しながら時を過ごしていた。
そんなある日、デュノア社が落ちてきていることを知り、一つの予測を浮かべる。
亡国機業がもし手を出すのであれば、既に地位を確立している大企業。ISの知識を多く持つ所で、そこに知識を授けて、恩を売り上下関係を作るのではないか。
無論、ただの勘でしかなく、素人の自分にはハッキリしたことも分からない。それでもISの情報は少なからず入ってくるかと、デュノア社に勤めて、虎視眈々とその時を待っていた。
保護プログラムを行っていた十蔵とだけは連絡を取り合っており、デュノア社に可能性が出てきたと知った時は、自らの勘に感謝した。
「それより、今は目の前のことだ」
そんな長年の苦労もどうでも良いと言い切り、目の前のことに集中する。
「そうだね」
束も笑みを消し、全員の鋭い視線が一箇所に集中した。
マドカの持つ脳。
織斑永時の脳。
「……まあ、待て。交渉をしようじゃないか」
老人は落ち着いた声でそう言った。
「必要ない」
束の一言と共に、クロエが銃を放つ。火を噴く銃口と、飛び出す弾丸。銃弾が老人を貫く瞬間、それが見えない壁に弾かれた。
「!」
シャルロット達が驚く中で、束と千冬は目を細めた。
「流石に最低限の防御システムくらいは付けているようだね」
「いきなり喧嘩腰とは、噂通りのじゃじゃ馬っぷりじゃな」
老人は口の端に笑みを浮かべる。
「まあ、聞け。お主も知識が欲しくて来たのじゃろう?そこに転がっている男と同じように」
痛みで呻いているデュノア社長を一瞥し言葉を続ける。
「特に、篠ノ之束。お主の知識も何事にも捨て難い。儂はな、今の人類を、人間社会を大きく発展させたいのだ」
老人は語る。曇りなき眼で、己れの思想を嬉々と語る。
演説のように、大きな身振りを持って、その世界を語る。
「昨今で溢れる多くの問題。エネルギー、人口の多さ、貧困の格差。上げていけばキリがない。人類が生きていく中で、それらは解決していかなければならない問題であり、長い期間人類が生き抜いて行く為に必要なことでもあるのじゃ」
そして、人類が繁栄を続けていく為には、知識が必要となる。一人一人の単純な知識だけではなく、世界を変えるような、巨大な知識が求められた。
人類の知識は宝だ。
故に、その宝は独り占めするものではない。
「……その為に」
その名調子に、束が小さく言葉を落した。
「……その為に、織斑永時を殺したの?」
「彼を殺すつもりはなかった。必要な犠牲があるのは仕方ないことだとは思うが、彼の死はあってはならないことだった」
老人は心外だと、緩やかに首を振った。
「彼は頑固でね。研究を開示することも知識を共有することも拒んでいたのだ。数年に渡ってずっと。何年も何年も拒んでしまってな。我々は最後の手段として、使いたくはなかった、力に訴える手段に出たのじゃが……それでまさか自殺をするとはな。誠に奇特な男よ」
老人は手を挙げる。その拳を掲げてみせた。
「だが、今は儂が、亡国機業が織斑永時の知識を手に入れた。半壊したとはいえ、まだ使える部分も多くある。お主の知識と合わされば、人類に大きな飛躍を与えられるだろう。知識の恩恵は人類が皆平等に恵み与えられるものじゃ」
老人は手を伸ばす。
束に、天災に、その頭脳へ手を伸ばす。
「お主が儂と同じ考えを持っているとも思わん。しかし、織斑永時の知識を使い、研究をして発表してくれればそれで良いのだ。世界に知識の恩恵があればそれで良い」
求めるものは人類の幸福。
「だから、協力しよう。篠ノ之束」
それだけの為に。
この男は、亡国機業は動いていた。
「成程」
束は頷き、顔を上げる。
一言だけ、返答した。
「殺す」
瞬間、束の拳と千冬の剣が老人に向かっていた。老人に届く前に、見えない壁に阻まれる。
強力なエネルギーに、不可視の壁に光が走った。
「…………っ!」
二人の強力な力は尚も増幅する。
二つの攻撃は徐々に老人へと近付いていた。
「やはり拒むか」
「当たり前。あと、勘違いしてるようだから言っておくよ」
束は淡々と、冷たい瞳で答えた。
「世界も、亡国機業も、知識も全てどうでもいい。そんな物は全ていらない」
欲しいのは、ただ一つ。
「彼を、永時を、返せ」
ただそれだけ。
「愚かな」
老人は呆れたように呟き、後ろにいるマドカに合図した。
「Mよ。ここはもう駄目そうだ。脳と儂を連れて脱出せよ」
その声にいち早く反応したのはデュノア社長だった。
「な……!待ってくれ!契約だろう!知識を、知識を私に寄越せ!」
「デュノア社には残念だがな。この事態を引き起こしたのは貴様じゃ。その責任は貴様の命で償え」
老人はデュノア社長を嘲笑う。
本気で見捨てるつもりだと理解したデュノア社長は顔を青褪め、唾を撒き散らしながら叫んだ。
「ふ、巫山戯るな!この野郎!散々人に注文しておいてそれか!!契約違反など社会人のすることか!いいからそれを寄越せ!!私にそれを寄越せ!!!」
老人はデュノア社長の様子に、呆れたように溜息を吐いた。
「やれやれ、人間とは本当に醜いの。行こう、M。あんなのを見ていては此方まで腐る。ああいうのはこのまま墜落に巻き込まれ、燃えてしまうのが良い」
「ああ、そうだな」
マドカは頷いて老人に触れ
「同感だ」
老人の背中に剣を突き刺した。
「………………あ?」
老人の口から間抜けな一言と血の塊が吐き出された。
腹から生えるように突き出された剣。全員の顔が驚きに染まる。
マドカは剣を引き抜くと、老人の背中を蹴り飛ばして車椅子と脳を持って後方へ跳躍する。
車椅子が壁を作っていた装置のようで、束と千冬の手から抵抗力が消えるのを感じた。
「…………き、さま……」
老人は痙攣を繰り返して地面へ這い蹲る。血の池が音もなく広がっていった。
束はそんな老人には目もくれず、冷たい瞳でマドカを射抜く。
「……貴方は何?ちーちゃんにそっくりだけど」
「大方、クローンか何かだろう」
千冬の言葉にマドカは頷いて答えた。
「その通りだ。亡国機業で作られた織斑千冬のクローン、名は織斑マドカ。織斑永時の知識から作られたことは言うまでもないな」
マドカは少しだけ笑ってみせる。
「初めましてとでも言おうか?オリジナル。そして……」
千冬を見て、束を見る。
「篠ノ之束。……いや、織斑空」
ピクリと、束の体が僅かに揺れた。
「……どこまで知ってる」
「ここで長話する暇もないだろう。もうすぐコレは落ちる」
飛行船が激しい爆発音で大きく揺れる。千冬も束も飛行船を落とす程の被害は与えていない。
ならば、原因は目の前の少女だと分かる。
「話をしよう。戦いではなく、話し合いをな」
マドカは後方へレールガンを放ち、大きな穴を作った。
「IS学園で待つ」
マドカは永時の脳を持ったまま飛行船から飛び出して行き、そのまま遠くへと消えて行った。
「くっ……!」
「待って、クロエ」
すぐに追い掛けようとしたクロエを束は止める。
「ですが……!」
「大丈夫。目的地は分かったし、多分嘘でもない」
束は歯を噛み締め、空いた穴の向こうを、日本を見た。
IS学園を見た。
そこにいる、一人の男を見た。
「君の仕業だね、シャルル」
永時の魂の欠片を持つ、彼を見た。
「まあ、ここに長居する事もない。行こうか」
束は背を向けて、顔を見ずに告げた。
「向こうで会おう、ちーちゃん」
返事を聞かず、クロエと共に飛び去って行く。束も夜の闇へと姿を消した。
千冬は剣を収め、小さく溜息を吐いた。
「!」
再びの爆発音。天井が崩れ始める。
シャルロットと柳韻の真上にも崩れ落ち
「…………!」
千冬がそれを拳で吹き飛ばした。
自力の魂のエネルギーに加え、ISの力も加わったそれは強力な力だ。瓦礫は簡単に吹き飛ぶ。
それを考えれば、先程の車椅子に備え付けられていた装置は余程の物だったのだろう。
永時はISを作る為に束の分野に手を伸ばしていた。束ほどではないにしろ、その知識も大いにあったに違いない。
「……まったく、とーさんは」
千冬は呆れながら少しだけ笑った。
「ありがとう、千冬」
「礼には及びません。さて、行きましょう」
千冬が降り立ち、柳韻とシャルロットに手を伸ばす。
「待って下さい」
シャルロットが顔を向けた先にはデュノア社長が転がっている。先程の衝撃で天井の瓦礫に巻き込まれ、苦しげに声を上げている。
「もう、奴は無理だ」
鉄骨が脇腹に刺さっている。今は生きているが、もう助からない。
「それでも……」
だからと言って、このまま見捨てられない。
どんな人間であっても、目の前で命を落とそうとしているのなら、それを見過ごす事は出来なかった。
「…………」
千冬は小さく息を吐いて、一丁の拳銃を取り出した。
「奴が死にゆくことに変わりはない」
その拳銃をシャルロットへと手渡した。
「だから、最後の情けだ」
シャルロットはその拳銃を受け取り、デュノア社長の元まで歩んで行く。途中で、ズシンと、新しい爆発音が生まれた。
血を吐き出し、腕を斬られ、腹を貫かれた彼は、それでも尚、強い意志の目で睨みつけている。
「デュノア社長……いや、お父さん」
シャルロットは拳銃を地面へ置いた。
「せめて、苦しまずに死んで」
その引鉄は自らの手で。
「巫山戯るな……!死ねるか……!」
デュノア社長は抵抗した。死へと抗った。
「こんなことで、こんな所で、こんな死に方など出来るか……!そんなことが許されるか……!」
切れ切れの呼吸音で、目に血を走らせながら床を必死で掻き毟る。
「私が死ねば、社員が路頭に迷うぞ!デュノア社に関わる企業もだ!社会が混乱する!そうだろう!だから、私を助けろ!私を死なせるな!!」
「それは、無理だよ」
シャルロットの言葉に、デュノア社長は怒りで目を見開く。
「巫山戯るな!私が助けろと言ってるんだぞ!つべこべ言わず助ければ良いんだ!」
「無理だよ」
シャルロットは身を屈めて、広がる血に手を当てた。真っ赤に染まった掌をデュノア社長へ見せる。
「コレで助かると思う?」
「…………っ」
溢れ出る血を自覚した。
弱っていく鼓動を感じ取った。
冷えていく体に支配されていく。
「あああぁぁぁ……!巫山戯るな……」
握った拳は弱々しく、痛みなのか体の反射なのか、溢れ出すのが涙なのか血なのかも分からない。
「娘だろう……!親が死んでも良いのか……!」
「娘だからこそ」
出来るのは、死に方を選ばせるのみ。
「コレが私に出来る精一杯だよ」
これが娘として、家族として、最後の親孝行。
「さようなら、お父さん」
シャルロットは背を向けた。
背を向けて、千冬と柳韻の元へ去って行く。
「巫山戯るな……!」
デュノア社長は拳銃を手に取った。
銃口が狙う先は、シャルロットの背中。
「ならば道連れだ!!」
引かれた引鉄は、カチンと、虚しい音だけを立てた。
「……は」
最初から弾など入っていなかった。デュノア社長の底など千冬は見抜いていた。
「ああ……おい、待て。待ってくれ。頼む、助けて……!死にたくない……!頼む……!」
最後は命乞いで。
それは、あまりにも。
「本当に、哀れだ」
どうしようもないほどに、哀れだった。
その一言だけを残し、千冬は両手にシャルロットと柳韻を連れて飛行船から飛び去った。脱出したシャルロットは一度だけ飛行船に振り返った。
燃え落ちて行く飛行船は、巨大な火の塊となって海へ落ちて行った。
「……私達以外にも、沢山の人が乗ってたんだよね」
「ああ、そうだな」
シャルロットの言葉に、千冬は誤魔化さずに肯定した。
「シャルロットさんが苦に思う必要はない。これは、我々の責任だからな」
柳韻はそう言ってから、千冬に顔を向ける。
「私は適当な所で降ろしてくれ。君達はIS学園に向かうと良い」
「ですが……」
「後は、君達家族の問題だ。私はゆっくり帰るとするさ」
日が昇る空の向こう。
全ての結末が待っている。
だから、彼女達は飛んで行く。
彼の元へ。
デュノア社長が意識を失っていく中、老人は床を這いながら必死に捥がく。
海へ沈み行く飛行船は、穴が空いている為に簡単に沈んで行く。海水が老人の足元まで迫り、血液を失う彼を飲み込んでいった。
「何故……儂がこんな……」
動かない体は海へ呑まれていく。
「世界の為に動いてきた……!この人生を全て捧げて……!」
その仕打ちがコレかと、手を伸ばす。
どこにも届かない虚空へ手を伸ばす。
「儂は……」
何処で間違えたのだろう。
飛行船は全てを巻き込み、海の中へと消えて行った。
「あの二人を前にした時は流石に肝が冷えたぞ」
「それはご苦労様」
「まったくだ、労われよ」
IS学園のアリーナに辿り着いたマドカは、シャルルにカプセルに入った脳を手渡した。
「これが、織斑永時の脳か」
シャルルの横に居た一夏がそれを見て顔を引き攣らせる。
「ぐ、グロテスク……。シャルルさん、よく平気ですね」
「ん?まあ、医学書なんかも読んでたしね」
一先ず、これで役者は揃った。
「後は家族会議だね」
ただの話し合いで終わるとは到底思えない家族会議が始まろうとしていた。