1-1 白兎美羽
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夢を見る。とっても怖い夢を。
その夢は優しくて、愛されていて、恨まれて、最後には塗りつぶされる怖い夢。
けれどもその夢は…………――――
「名波くん、起きてください。放課後をずっと寝て過ごすつもりですか?」
「…………あれ」
聞き慣れた声に呼び起された
ぼーっとしている優希の瞳に映る笑顔を浮かべている女生徒、名前は
そんな美羽が優希に声をかけたのは親切心からではなく、とても親しいからだった。周りから見れば恋人同士に思えるほどに仲が良い二人だが、まるで進展しない関係は周りが呆れてしまうほど。
以前の優希からすればどうして美羽と親しくなったのかわからないでいた。確かに優希は人が良いこともあって友人は多いが、特段カッコいいわけではなく、どちらかというと中性な可愛い男子。部活で活躍しているわけでもないし、学力面も平均よりも少し高い程度だ。特別なことは何もしてないのにいつの間にか仲良くなっていて、気が付けば一番親しい人物といえる間柄に。――――今となっては気になることではないが、最初のころは戸惑った優希だった。
しかしそれは以前の話。といっても仲良くなってからもどちらも踏み込もうとはせず、何だかんだもうすぐ二年になる付き合いだ。優希にとって美羽はとても大事な人であることは間違いない。その方向性がどこにあるのかはさておき。
。
今日も今日とてクラスメイトにとってはいつもの光景。優希にも美羽にも友人と呼べる人間は多く、さっさとくっつけよお前らとクラスメイトも含め温かい視線で見守る。
「っと、起こしてくれてありがとう白兎さん。危うく寝過ごすところだったよ」
「いえいえ、お礼を言われるほどじゃないです。私としても名波くんの寝顔を拝見できたので役得でしたし」
美羽はそう言うと舌をペロッとと出してどこか妖艶でありながらも幼さを感じる、小悪魔なような笑みを浮かべた。
誰にたいしても親切で優等生な美羽が優希にだけ見せる顔の一つだ。そんな光景を他の席から見ている男子生徒達は羨ましそうな視線を向ける。そこに悪意がないのは優希の日頃の行いの賜物、といったところ。
「ところで名波くん、このあと予定は空いていたりしますか?」
「特に何もないよ。いつも通り家に帰るくらいかな~」
「そうですか! でしたら、そ、その、よければどこかに遊びに行きませんか? 近場でもかまいませんので」
「僕と白兎さんと二人?」
「はい、ミニデートのお誘いです。……名波くんさえよければ、ですけど」
お? お? おお!? と騒ぐ周りを置いて、ニッコリと笑顔を浮かべる美羽だったが、その瞳は不安で揺らいでいた。
美羽自身も優希と親しい自信はあった。それでも断られる少なからず可能性があることが美羽の不安を焚き付けるが、優希は悩むことなく返事する。
「僕でよければお供するよ」
「大丈夫です! むしろ名波くんじゃなきゃ困ります! じゃなくて、えーっと、私の方で行ってみたい場所とか調べてありますので……って、わわ、ミニデートだって言ったのに何を口にしてるんでしょうね私!? ――――こっほん。改めて、快い返事ありがとうございます名波くん! 実は柄にもなく緊張してたんです、本当によかったです」
両手を合わせて嬉しそうにする美羽につられて優希も自然と笑顔を浮かべていた。
よくよく考えてみると明確にミニとはいえ“デート”にはじめて誘われたことに今さら気が付く優希。恥ずかしさが遅れてやってくるが、振り払うように頭をふって、なるべく平常心で美羽と向き合う
「僕はすぐにでも行けるけど、白兎さんはどう?」
「私もいけ――――……っ」
それは唐突だった。優希が席を立つのと同時に立ち上がった美羽の笑顔が一瞬歪んだ。〝笑顔が曇る”なんてレベルではなく〝歪む”と感じてしまうほどに強張った美羽の表情に優希は息をのむ。よく知る美羽からは想像もできないような顔、まるで仇にでも会ったような顔に言葉をなくした。
ゆっくりと教室の中を見渡す美羽の表情は笑顔を浮かべていたが、その目には先ほどのまでの彼女はなくひらすたに鋭い。
「――――……ごめんなさい名波くん、急用を思い出しました。でもすぐに終わらせてきますので、少しだけ待ってくれませんか? 終わったら連絡しますので」
まるで別人に見えて美羽だが、優希に接する彼女は普段と変わらない。
優希はその急用が何なのか気になった。気にはなったが、踏み込んでいいものではないと自粛する。いくら親しくても線引きくらいはできる。
――――というのは建前、優希は踏み込むのが怖かった。藪をつついたら彼が知らない白兎美羽が出てきそうで。
「うん、それじゃあ適当に時間を潰して待っているよ。あ、僕に気を使って無理しなくてもいいからね?」
「いえ、無理してでも早く戻ってきますよ! だってすっごく楽しみですからね。――――ごめんなさい名波くん、それでは行ってきます」」
だから無難に返事して、無難に送り出す。今、優希が気になった言葉は彼の思いこみかもしれないし、ちょっと不安になったからと変な妄想を抱いたのかもしれない。
……美羽が口にした〝ごめんなさい名波くん”がまるで別のことにたいしてのもの、なんて感じたのは。