彼女らは汝の敵を愛さない   作:出井兎りんで

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1-4 魔術師

 紅音の能力がはっきりしていない以上、こちらの能力がばれるような行動は控えておきたい美羽だったが今はそんな悠長なことをしている場合じゃないと行動に移る。

 美羽は懐中時計を握りしめ飛んでくる業火に向かって念じる。――――止まれ、と。

 次の瞬間、業火はまるで時間が止まったかのようにその場で|静止(・・・・)した。不可解な現象に紅音は驚きを隠せない表情を浮かべる。

 生まれた偽りのない一瞬の隙、美羽はその瞬間を逃さない。今度は“動け”と念じ、今までよりも更に速い速度で紅音の懐に飛び込む。

 業火の壁も美羽が近づいた瞬間、一部が動きを止め、その隙に美羽は完全に懐へ潜り込むことに成功する。――――そうなると超近接戦だ。この距離では大鎌はその利点を完全に殺されてしまい、むしろ小回りが利かないことで不利な状況を生んでしまう。無論、美羽はそれを望んであえて超近接戦闘を選んだ。

 紅音が反応しきる前に美羽はまず全体重を乗せ胸部への肘打ち加える。呼吸を止められたような衝撃に紅音がバランスを崩したところへ追い打ちかけるようにして顎に掌底、勢いを生かしたまま腹部へ強打。

 打撃を上下に散し、確実にダメージを負わせる猛攻は女子学生がするものとは思えないものだった。しかし相手が大の男でも悶絶するような攻撃でも紅音の目には光が宿ったままだ。

 

「なめるなッ!!」

 

 紅音の怒号と共に紅く光る大鎌。身の危険を感じた美羽は咄嗟に距離をあけようとしたがギリギリ間に合わず、紅音が爆炎と共に生んだ衝撃波に巻き込まれそのままフェンスに叩きつけられた。

 

「ぐ……っ、力任せてに吹き飛ばすとか本当に脳筋ですね……!」

「ここに優希がいなかったら全力であんたを吹き飛ばしてたわよ。ま、惜しかったわね」

 

 一瞬だけ足をよろめかせた美羽だったが姿勢を立て直し紅音を睨む。一方の紅音も再び大鎌を構え飛び込んで来るであろう美羽に備えた。

 口では強気な紅音だが実のところかなりのダメージを受けていた。並大抵の攻撃なら無効にしてしまうはず防御を誇る紅音の鎧をあっさり貫いた美羽。でも、この威力でも美羽は手加減していたはずだ、と紅音は考察する。可能なら殺さずに捕えておきたいのだろう。

 もし再び懐に飛び込まれたら容赦のない攻撃に今度こそ意識を持っていかれるだろう。紅音は決心する、“こちらも手加減はやめる”と。紅音の方も可能なら殺さないようにしたかったが、そんな甘い意識で勝てる相手ではない。

 殺すつもりで斬り伏せる。――――途端、紅音の瞳が鋭くなる。それは美羽の方も同じで互いに本気で殺し合う状態に入った。

 

 

 命のやりとりをしている紅音と美羽、そんな二人を屋上の隅で見ていた優希は理解できない光景に唖然としていた。

 目の前に広がるのは圧倒的な非日常。歳の変わらない女の子たちが人を殺せる武器を手にして屋上を駆け巡る――――爆音と共に地を蹴り、宙を舞って、目にも止まらぬ速さでぶつかり合う。隅にいる優希に被害が及ばぬよう、手加減している二人だがそれでも屋上にはおおよそ人がつけたものとは考えられない傷跡が生まれていた。

 驚くのはそれだけではない。これだけの騒動だといのに誰一人として屋上にやって来ないどころか、屋上を見上げる生徒が一人もいないことだった。まるでそこには何もないかのように、屋上(ここ)の非日常以外は日常が守られている。

 圧倒的すぎて理解が追いつかず混乱の中にいた優希だったが、二人が動きを止めて再度互いを睨みあったところで我に返る。

 このまま二人を争わせちゃいけない、止めなきゃ。人外の争いだと言うのに優希は本気でそう考えた。

 

(理由はわからないけど、僕のせいで二人がこんな状況になっているのなら)

 

 良くも悪くも他人を優先してしまう悪い癖。それが尚更自分のせいだと感じてしまった優希の行動は早い。

 今すぐにでも殺し合いを再開させようとしていた二人の間に割って入るようにして優希は立つ。両手を広げて、美羽と紅音を交互に見たあと、震える声で叫んだ。

 

「二人ともやめて! まずは話をしようよ、じゃないと何もわからないよ!? 少なくとも僕は何もわからない、だからどうして二人がこんな怖いことをしているか教えて欲しいんだ!!」

 

 叫ぶ優希の姿を前に武器を構えたまま紅音と美羽は動きを止めた。二人はじっと睨みあったあと、どちらからともなく武器をしまう。

 

「変な動きをしたら首を撥ねるわよ」

「それはこちらの台詞です。名波くんに手を出そうとしたら殺しますので」

 

 言葉を交わした二人は反りあうようにフン、と顔をわざとらしく逸らして優希の元へゆっくり歩を進めた。

どうにか危ない状況を回避することができたと理解した優希は安堵したせいか、遅れてやってきた恐怖感に苛まれぐったりと座り込む。そんな優希を見た美羽は慌てて駆け寄り、腕を掴んで支え、心配そうに顔を覗き込んだ。

 

「大丈夫ですか名波くん!?」

「う、うん大丈夫だよ白兎さん。ちょっと腰が抜けちゃっただけ、あはは」

「それならよかったです。私はてっきり何処かの脳筋が後先考えずに炎を撒き散らすので、怪我をしたのかと心配しました」

 

 そう言って美羽は優希に優しげな笑みを向けたあと、ゆっくりと歩いてきた紅音を一睨みした。

 

「自分の攻撃くらいちゃんと把握してるわよ、馬鹿にしないで。――――で、さっそくで悪いのだけど、優希には今目にした光景について知ってもらなわきゃいけないことがあるの」

「……そうですね、私も名波くんに話さないといけないことがあります。それを知ってもらったあとの名波くんの判断次第では貴女ともう一度殺り合うことになると思いますが」

「そうね、その時は今度こそ殺してあげる。ま、でも今は優希に知ってもらうのが先決ね」

 

 優希は聞かされるであろうこと“何か”を前にし、既に“ありえない”光景を目にしてしまったため退くこともできず、不安で押しつぶされないよう支えてくれている美羽の手を握る。

 握られた美羽はほんの少しだけ驚いた顔を浮かべた後、優希を不安を和らげるために優しく微笑んで手を握り返す。聞く覚悟はできた、そう感じたところでゆっくりと紅音が口を開いた。

「何から話したものかしら……――――そうね、まず見ての通りこの世界には優希の知らない一面があるの。人はそれを魔法とか異能とか呼ぶけど、私たちの中では魔術で統一しているわ。普通の人ができないようなこと行使する者を幅広く“魔術師”と呼ぶの、まぁここまでは似たようなことを書いた書物がそこらにあると思うから優希にも理解しやすいと思う。あたしやそこの白兎美羽もその魔術師の端くれみたいなものね、正確には違うもの(・・・・・)だけど」

「基本的には魔術師は異能を扱う者達全般を称して言います。手のひらから炎を出すものや、人の限界を超えた身体能力を保持する者、果てには身体の一部に怪物を宿すものも全て魔術師です。それらは家系だったり生まれつき異能を持っていたりと理由は様々ですが確かに世界には裏の顔があり……――――名波くん、貴方も裏側の関係者なんです」

 

 紅音の話に耳を疑い、美羽の言葉に凍りつく優希。そんなはずはない、僕は普通の人間だ! そう声を荒げかけたが、どうにか自分を落ちつかせた。

 

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