無事合同クリスマス会を終えた八幡達。
久しぶりに落ち着いていつもの場所で昼飯が食えるようになったのだが、
そこに由比ヶ浜があらわれて・・・

Pixibにて同作品集を公開しております。



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俺ガイル9巻直後のお話となります。
こちら個人的解釈に基づいて書いております。
そのためある種パラレル化したストーリーとなりますがあらかじめご了承下さい。
本作は渋に公開しているものと同じSSです。


いつか、ふたりは

合同クリスマス会も無事終わり、ようやくいつもの日常が戻ってきた。

ここ最近はメンタル的にも体力的にも辛かったから、こうのんびりできるのも久しぶりだな。

昼飯を食うためいつもの場所に来てみると何かで濡れた形跡がある。

誰かが水でも溢したか?

目の前にあるベンチが開いているので仕方なくそこで食べることにした。

 

どっかりと腰を降ろし空を見上げる。今日は曇天で今にも振り出しそうな空模様だ。

そのせいか人っ気がまるでない。天気予報では雨降らないっぽいんだけどな。

ふ、青春を謳歌(笑)するリア充共がいないと清々するな。

普段バカップル共がいちゃついて占有していたこのベンチも今は俺の制圧下にある。

ここが私のいるところ!!

 

さっそく昼飯を食おうとガサゴソとしていると横から声をかけられた。

 

「あ、ヒッキーこんなところにいた。」

 

振り向くと由比ヶ浜がとてとてと近づいてくる。

 

「どうした? 雪ノ下と飯食ってるんじゃなかったのか?」

 

普段雪ノ下と由比ヶ浜は部室で昼飯食ってるはずだ。それがなぜこんなところに、と訝る。

 

「うん。今日は用事あるからって言われててね。」

 

よいしょと俺の隣に腰を降ろし、手に持っていた弁当袋を拡げる。

よいしょってまたババくさい・・・って、いやそれよりちょっと待て。

 

「お前、何してんだ?」

「ふぇ?お弁当食べるんだけど?」

 

キョトンと、さも当然のように答える。

 

「いや、何故ここで食うんだよ・・・。雪ノ下と食えないんなら三浦達と食えばいいだろ。」

「ん~そうしても良かったんだけどね。今日はヒッキーと食べようと思って。」

 

喋りながらも手は止めない。あぁ、もう箸を装備して臨戦態勢だ。

どうあってもここで飯食う気だなこいつ・・・。

 

「はぁ・・・誰かに見られても知らねえぞ・・・」

 

いつも部室以外では極力由比ヶ浜と接触しないように心がけてきた。

俺との接触はカースト最上位たる由比ヶ浜のためにはならないからだ。

 

人は常に他人を羨み妬み、隙あらば蹴落とそうとし己の不満解消に勤しむもんだ。

由比ヶ浜を攻撃の対象とさせないためには由比ヶ浜に近づかないことがベスト。

そのために教室では近づくなオーラも出していたし、

由比ヶ浜もそれを察して用事がある時以外近づいて来なかった。

しかしクリスマス以後、また心境の変化がコイツのなかであったのかもしれない。

 

お弁当を食べようとしていた由比ヶ浜の手がピタリと止まり箸を置いた。

由比ヶ浜がこちらを正面から見据える。

 

「ヒッキー、あたしは誰に見られたって構わないし、何を言われてももう気にしないよ。」

 

声に少しだけ怒気を含んでいるが、その眼差しは迷いのない力強く澄んだ瞳だった。

由比ヶ浜のこういう眼差しは何度も見てきた。

 

最初は依頼のクッキーで雪ノ下に己の不甲斐なさを指摘されそれに応えた時。

遊戯部との対決時に俺を見据えた時。

合宿の胆試しで俺を押し留め、鶴見達を見守った時。

雪ノ下の見舞いに行き、あいつの心に踏み込んだ時。

そしてあいつの後ろ姿を見守った時。

それら幾多の場面でこの眼差しがあった。

由比ヶ浜のひた向きな強さとともに。

 

誰がなんと言おうと気にしない。

俺と雪ノ下がよく使う言葉だが、俺らと由比ヶ浜のでは意味合いがまるで違う。

俺と雪ノ下のそれは排他的で稚拙な自衛手段にすぎない。

しかし由比ヶ浜のそれは悪意も嘲笑も受け入れて、

それでも前に進もうとする決意の現れなのだろう。

 

助けたい人がいるから。

伝えたい想いがあるから。

今よりも、もっと近付きたいから。

 

それが、俺と雪ノ下にとっては眩しすぎるのだ。

思わず視線をそらしてしまいたくなるほどに。

 

しかしそれではいけないということを俺達は理解したのだ。

視線をそらし、背を向けてもその先には何もないから。

だから雪ノ下はそれに応えようと足掻き始めている。そして俺もそうなのだろう。

たとえ、その先にどのような結末が待っていようとも。

 

「そうか・・・。」

「うん。そうだ。」

 

いつかと同じ返答。しかしいつかとはまた少し違うお互いの距離間。

たぶんこれからも変わっていくのだろう。

 

二人で昼飯を食っていると由比ヶ浜が何かに気が付く。

 

「あれ、ヒッキー耳の中に何か付いてるよ?」

「あ?」

 

埃かなんかが入ったかな。 今まで何も感じなかったわ。

手で取り払おうとするが由比ヶ浜にその手を掴まれる。

 

「駄目だよ。手でやったらもっと中に入っちゃうから。ちょっと待ってて」

 

掴んでいた手を離し弁当を急いで掻き込む。ちゃんとよく噛んで食えよ・・・・・・。

 

「いい?絶対待っててよ?!」

 

ズビシと指差して小走りに何処かへ行ってしまった。忙しいやっちゃなー。

しかし待てと言われて忠実に待っているなんて、まるで犬みたいじゃないか。

俺は誇り高き一匹狼ならぬ一匹狐。断じて飼い慣らされるわけにはいかない!

 

トンズラしてやろうかと思ったが、まぁ俺飯の途中だし?

人っ気ないとはいえ由比ヶ浜の弁当箱を放置しておくのも気が引けるからな。

仕方ない、か。

 

もそもそと食べていると由比ヶ浜が戻ってきた。

 

「お待たせ~」

 

パタパタと駆けよってくる。

手には耳掻きが握られていた。なるほど。保健室からもらってきたのか。

 

「あぁ、サンキュな。」

 

由比ヶ浜の手から受け取ろうと手を伸ばすとひょいと避けられる。おい・・・。

 

「なんだよ。」

「なんだよって、自分でやろうとしても取れないよ。」

 

そう言ってベンチに座り直し、自分の膝をポンと叩く。

 

「はい」

 

はいってまさかお前、あ、アレか?

膝枕して由比ヶ浜が取ってやるって言ってんのか?!

顔が一瞬にして熱くなるのを自覚する。

 

「ば、馬鹿かお前!そんなこと出来るわけないだろ!」

 

しかし由比ヶ浜は引き下がらない。

 

「何よ!せっかく貰って来てやったのに!あたしお弁当まだ残ってるんだからね!

ほら、早くする!」

 

ならお弁当先に食っちまえばいいだろうがと言おうとしたが

もうコイツはてこでも動かない様子だ。

由比ヶ浜はたびたび、俺も雪ノ下も手を焼く程に頑固になる。

こうなってはもうどうしようもなかった。

 

くそっ、こんなところ誰かに見られでもしたら弁解のしようがねえぞ。

由比ヶ浜はバシバシと自分の腿を叩いて催促し、どんとこいと構えて見せる。

ええい、うるさい恥ずかしい可愛いいうざったい。

 

「はぁ~~・・・・・・。」

 

観念した俺は誰も見ていないことを再度確認し、しぶしぶ由比ヶ浜の膝に頭を預けた。

 

できるだけ接触面が少なくなるように心がけたが、由比ヶ浜が両手でがっしり頭を掴み、

自身がやり易い位置へと強引に調整したので無駄に終わった。

スカート越しに伝わる由比ヶ浜の腿の柔らかさと体温。

控え目に付けられた香水と由比ヶ浜の自身の匂いに己のタガが緩みそうになる。

由比ヶ浜からは見えないように下唇を噛み理性を保つ。

 

側頭部に手を添えられ、耳穴に優しく耳掻きが挿入される。

 

「ほらもう取れたからいいだろ」

「駄目。結構カス溜まってるから、このまま掃除するよ。」

 

動きたくても耳掻きを挿入されたままでは危なすぎる。

羞恥心をこらえ由比ヶ浜に己の頭部を委ねる。

下手に逆らわずにいた方が早く終わるだろう。

丁寧な手つきで耳垢を取り除かれる。

 

「よし、はい次反対側ね。」

「ちょ、おま」

「ほらさっさとする!」

「え、あ、はい。」

 

反対向きになり、ギョッとした。

お前なんでブレザーとセーター来てないんだよ。寒くないのかよ。

ボタンとボタンの間からチラチラ素肌とおへそが見えてるだろうが!

 

健康的な色の素肌が呼吸で艶かしく動き、可愛らしいおへそが見え隠れする。マズイ。

視線を変えて上に向けると二つの大きな山がそびえ立ち、

うっすらと模様までがかいま見える。ヤバイ。

下に視線を向けるとチェックの海が拡がり、

よく目を凝らすとかすかに海底の白い大陸棚が・・・、モゥガマンデキナイ!

 

いや我慢しろ。馬鹿か俺は。

 

しかしコイツ何気に耳掻き上手いな。

由比ヶ浜にしてもらうのは最初かなり恐怖感があったが、今では安心して任せられる。

苦手なのは料理や工作といった創作系だけなのかもしれない。

 

「お前、以外と上手いな。・・・・・・誰かにやってやったりしてんのか。」

 

口に出してから、探るような質問になっていたことに気が付き焦る。

しかし由比ヶ浜は気付いているのかいないのか、普通に返答してくる。

 

「ん~パパには2、3回してあげたことはあるけど、それっきりかな。

パパ、その時すっごくだらしない顔してキモいから」

 

お父さんカワイソス!

そりゃ愛娘に耳掻きされたら どんな親父でも頬が緩むってもんだろ。

 

「じゃあ俺はキモくないのかよ。」

「キモいよ?」

「おい!」

 

今もの凄く傷付くこと言われた気がするぞ。雪ノ下のウェットな毒舌よりもグサリときた。

 

「でもヒッキーのキモさは平気なの」

「なんでだよ・・・・・・」

「なんでだと思う?」

 

由比ヶ浜は愛おしげに俺の髪を撫でる。

 

「・・・・・・」

 

俺は返事ができなかった。

想いのこもった手のしぐさが、俺を見つめている温かな視線が、その答えをものがたっている。

 

今まで俺が嘲笑い、蔑み、信じてこなかった感情。

しかし今ではそれを疑うこともしなくなった。

いつからか、自分の胸の内にも淡い温もりが宿りはじめたことを自覚したから。

 

「はい、おしまい。」

「お、おぅ・・・ありがとな」

「どういたしまして」

 

俺の周囲をぐるりと回って自分の作品の出来を確認し、ムフーと満足気だ。

見た目なんて何もかわってないだろ・・・・・・。

 

「耳掻き余っちゃったな。」

 

由比ヶ浜は俺と耳掻きを交互に見やり、にへらと笑う。おい、まさか・・・。

 

「はい」

 

そういって残りの耳掻きを渡してくる。思わず飛び退いた。

 

「あ、アホかお前は?出来るわけないだろ!」

「あたしはやってあげたじゃん。それに養われる気はあっても施しは受けないんでしょ?

ほら、早く座る!お座り!」

 

だから犬じゃないってばよ。

こんなときどうすればいいのか分からないよ。笑えば良いの?

 

「あ~くそっ」

 

頭をガリガリかき、由比ヶ浜の手から耳掻きを引ったくり、ベンチにどっかりと座り直す。

 

「ほら、来いよ」

「あ、うん」

 

えへへ、お邪魔しますとぺこりと頭を下げる。上下した頭でお団子がぴょこりと動く。

 

「あーでもお前、団子あると邪魔じゃね?」

「あ、そだね」

 

そう言って由比ヶ浜は自身のトレードマークであるお団子を自ら解いた。

纏められていた栗色の髪がほどけてふわりと拡がる。

髪をほどいた由比ヶ浜は大人びて見え思わず一瞬見とれてしまった。

癖毛がついてしまった髪をいつものようにくしくしと撫でて落ち着かせる。

 

「何?」

 

俺の視線に気がついたのか小首を傾げて聞いてくる。

 

「あ、いやなんでもない。ほら飯まだなんだろ。早く済ませようぜ」

「はいはい」

 

お前に見とれてたなんて、言えるわけがないしな・・・・・・。

 

由比ヶ浜が俺の膝の上でポスンと横になる。

一人の女の子の重みを確かにそこに感じた。

あんなに元気いっぱいだった少女が

今では俺の膝の上で大人しくなっているのに妙な感動を覚えた。

 

「ヒッキーの膝、硬い・・・」

「そりゃ男と女では肉の付き方が違うだろ。なんならやめとくか?」

「やめないし!」

 

ちっ、駄目か・・・・・・。膝の硬さは我慢することにしたらしい。

 

「えへへ、ヒッキーの膝枕だ。」

 

集中できん・・・・・・。おい俺の膝をナデナデするな。そのタッチの仕方ヤメテ!

左手で由比ヶ浜の頭を優しく押さえ、恐る恐る耳掻きを挿入する。

 

「ん・・・・・・」

 

由比ヶ浜の唇から艶やかな音が漏れる。

そんな色っぽい声出すなよ・・・。

 

「わり、痛かったか?」

「ううん。へーき。」

 

由比ヶ浜は安心しきってしているのか目を閉じたままだ。

こいつは俺を信用しているのか?

その滑らかな頬に、その可愛らしい唇に触れたいという衝動を

こちらは必死に堪えているというのに。

 

いっそわからせたろかとも思うが、それこそ思う壺なのかもしれない。

きっと昼飯を一緒に食うことになった時点でこいつの術中にはまったのだろう。

尻に敷かれるとはこう言うことか。・・・・・・うん、悪くない。

 

「ほら、次は反対側だ」

 

由比ヶ浜が体勢を入れ替え今度はこちら側を向く。ちょ、顔が近すぎる。

目を閉じてスンスンと鼻を動かす由比ヶ浜。

 

「・・・ヒッキーの匂いがする・・・・・・」

 

どこの!?何の!?

今膨張したら完全アウトだ。こう言うときの対処法はマスターしている。

お袋の裸を想像するんだ。ほら一瞬で収まった。

男子の皆はこういうとき便利だから覚えておこうね。

 

耳掃除が終わりようやく開放された。

 

「あー気持ちよかった!」

 

由比ヶ浜が伸びをする。

 

「へいへい。良かったな。さっさと飯食っちまおうぜ」

 

こっちは精神的疲労でクタクタだった。

 

「はいはい。ヒッキーにご褒美あげる。」

 

唐揚げを箸で摘まんで俺の口元に持ってくる。おいそれ間接・・・・・・。

避けようとするも逃げ場無し。

 

「はい。」

 

迫り来る唐揚げ。俺は覚悟を決めて口を開けた。

 

ダラダラしてたおかげであっという間に昼休憩が終わってしまった。

 

「そろそろ行くか。」

「そうだね。・・・おっと」

 

立ち上がろうとしてよろけた由比ヶ浜を支えてやる。

 

「大丈夫かよ。ほら」

「う、うんありがと」

 

手を引いて立ち上がらせてやる。

手を離そうとすると、あっと残念そうな由比ヶ浜の声がかすかに漏れる。

離れる直前、互いの小指と薬指が絡まり合った。

由比ヶ浜の声に反応して勝手に指が動いてしまったのか、それとも由比ヶ浜の意思か。

 

お互いに手と顔を交互に見やり、顔を赤くする。

たぶん、どちらでも同じなのだろう。

お前、いつも押せ押せなくせに、こういう時だけ恥ずかしがるなんてずるいぞ・・・・・・。

ふぅと息をつき視線を外す。

 

「・・・・・・校舎に入るまでな。」

「うん!」

 

視線を外していても由比ヶ浜がどんな顔をしているのかがわかる。

わかってしまう。

不安定な繋ぎ方で共に歩き出す。

 

いつか、その手をちゃんと握れる日が来るのだろうか。

いや、おそらくそれは遠くない未来かもしれない。

己の胸の内からこんこんと沸き上がる、この想いの答えを出す時はきっとすぐそこだ。

 

手が離れないよう、由比ヶ浜の指が俺の指にきゅっと絡み付く。

俺はそれに応えるように彼女の指をそっと繋ぎ直した。

 

FIN




書きたいことを書きたいだけ書いたらとんでもない文章量になってもた。
長文おつきあいありがとうございました。

原作の八幡を意識したら勝手に動いてラブコメキャンセルしようとする、
実にめんどくさいやつでした。
しかし作者が作中本人にめんどくさい言わせるのは、
読者を馬鹿にしてるようでイラっとする不思議!

イチャラブさせるための状況作りに悪戦苦闘しました。
強引のオンパレードでしたね。反省はしない。
そこらの補足はあるんですが余分だと思ったので今回カットしました。

ちょっと天然ちょっと策士で、ちょっと強引でちょっとエロいガハマさん。
最強じゃないか。
私にも膝枕・・・え?キモい無理?我々の業界では(以下略)

ガハマさんに調教されて、ゆきのんと八幡が成長していく様はニヤニヤものです。
苦労が絶えないガハマさん。最後は幸せになってくれるといいなぁ。


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