スーパー飛鳥タイム☆ミ
・・・・・・・すいません調子乗りました。
ただならぬ様子に驚いた先ほどのいい猫耳の姉ちゃん(※三毛猫談)が急いで飛鳥たちに駆け寄る。
「お、お客さん!当店で揉め事は控えてくださ───」
「ちょうどいいわ。猫の店員さんも第三者として聞いていって欲しいの。たぶん、面白いことが聞けるはずよ。」
首をかしげる猫耳の店員を制して、飛鳥は言葉を続ける。
「ねえガルドさん? 貴方はこの地域のコミュニティに旗印を賭けた勝負を〝両者合意〟で挑み、勝利してきたと言っていたわね。だけど・・・・・ねぇジン君。コミュニティそのものとも言っていい旗印を賭けるなんて、そうそうあることなのかしら?」
「や、やむをえない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースです。」
猫耳の店員もそっと頷く。
「そうよね。訪れたばかりの私達でさえそれくらい分かるもの。それに強制力を持つからこそ〝主催者権限〟を持つものは魔王として恐れられているはず。それを持たない貴方がどうして強制的にコミュニティを掛け合うような大勝負を続けることが出来たのかしら。
ガルドは今にも悲鳴を上げそうな顔で、しかしその口は意に反して勝手に言葉を紡ぐ。
回りの人間は気付いた。
この女性───久遠飛鳥の命令には・・・・・・絶対に逆らえないのだと。
「き、強制させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手方の女子供を攫って脅迫すること。これに動じない相手は後回しにして、他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった。」
小者だー。とへらへらしながら真尋は罵る。
「そうね。中里さんの言うとおり小者らしい手だわ。けど、そんな手段で吸収したコミュニティが貴方の元で素直に働いてくれるのかしら?」
「各コミュニティから、数人ずつ子どもを人質に取ってある。」
飛鳥の片眉がピクリと反応した。
表には出さないものの彼女を取り巻く雰囲気には嫌悪感が滲み出ていた。
コミュニティには基本無関心のはずの耀ですら、不快そうに目を細めている。
真尋は未だにニコニコしているが、その笑顔がむしろ怖い。
「・・・そう。ますます外道ね。それで、その子供達は何処に幽閉されているの?」
「もう殺した。」
瞬間、その場の空気が凍りついた。
ジンも、店員も、耀も、飛鳥でさえ一瞬耳を疑って思考を停止させた。
ただ一人、ガルド=ガスパーだけは命令されたまま言葉を紡ぎ続ける。
「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れて来たガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食
「
ガチン!! と先ほどよりも強い勢いで閉ざされる口。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭の世界といったところかしら・・・・・・ねえジン君?」
飛鳥の冷ややかな視線に慌てて否定する。
「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません。」
「そう?それは残念。────ところで、今の証言で箱庭のほうがこの外道を裁くことはできるかしら?」
「厳しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ですが・・・・・・裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです。」
それはある意味で裁きと言えなくもない。
リーダーであるガルドが去れば、烏合の衆でしかない〝フォレス・ガロ〟が瓦解するのは目に見えている。
しかし飛鳥はそれでは満足できなかった。
「そう。なら仕方ないわ。」
苛立たしげに指をパチンと鳴らす。
それが合図だったのだろう。
ガルドを縛り付けていた力は霧散し、身体に自由が戻る。
怒り狂ったガルドはカフェテラスのテーブルを勢い良く砕くと、
「こ・・・・この小娘がァァァァァァァァ!!」
雄叫びとともにその身体を激変させた。
巨躯を包むタキシードは膨張する後背筋で弾け飛び、体毛は変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。
彼のギフトは人狼などに近い系譜を持つ。
通称、ワータイガーと呼ばれる混在種だった。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが・・・・・俺の上に誰が居るか分かってんだろうなァ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が
「
ガチン、とまた勢い良く黙る。
しかし今の怒りはそれだけでは止まらない。
ガルドが丸太のように太い剛腕を振り上げて飛鳥に襲い掛かる。
それに割って入るように耀が腕を伸ばした。
「喧嘩はダメ。」
耀が腕を掴む。
更に腕を回すようにしてガルドの巨躯を回転させて押さえつけた。
「ギッ・・・・・!」
少女の細腕に似合わない力に目を剥くガルド。
飛鳥だけは楽しそうに笑っていた。
「さて、ガルドさん。私は貴方の上に誰が居ようと気にしません。それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した〝打倒魔王〟だもの。」
その言葉にジンは大きく息を呑む。
内心、魔王の名が出たときは恐怖に負けそうになったジンだが、自分達の目標を飛鳥に問われて我に返る。
「・・・・はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。今さらそんな脅しには屈しません。」
「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ。」
「く・・・・くそ・・・!」
どういう理屈かは不明だが、耀に組み伏せられたガルドは身動きできず地に伏せている。
久遠飛鳥は機嫌を少し取り戻し、足先でガルドの顎を持ち上げると悪戯っぽい笑顔で話を切り出す。
「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度のことでは満足できないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。───そこで皆に提案なのだけれど」
飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。
飛鳥は足先を離し、今度は女性らしい細長い指先でガルドの顎を掴み、
「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね。」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「な、なんであの短時間に〝フォレス・ガロ〟のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」
黒ウサギと十六夜が戻ってきて、先程あった出来事を聞いた黒ウサギが驚愕していた。
「しかもゲームの日取りは明日!?」
「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」
「準備している時間もお金もありません!」
「一体どういうつもりがあってのことです!」
突然の展開に嵐のような説教と質問が飛び交う。
「聞いているんですか四人とも!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています。」」」
「私は何もしてないけどねー。」
「黙らっしゃい!!!」
誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。
「別にいいじゃねーか。見境なく選んで喧嘩を売ったわけじゃないんだから許してやれよ。」
激怒する黒ウサギを、ニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止める。
「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ? この〝契約書類〟を見てください。」
その〝契約書類〟を要約すると、こちらが勝てば、ガルドは罪を認め刑に服す。
ガルドが勝てば、こちらは奴の罪を黙認する。そう言った内容だ。
「まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮するんだからな。」
ちなみに真尋たち側のチップは〝罪を黙認する〟こと。
今回に限ることでなく〝金輪際〟である。
「あの外道を裁くのに時間なんてかけたくないわ。それにあんなのを野放しにすれば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」
飛鳥の言うことももっともである。
「ま、まあ・・・・・逃せば厄介かもしれませんけれど。」
「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない。」
人も同調する姿勢を見せ、黒ウサギ諦めたように頷いた。
「はぁ~・・・。仕方がない人たちです。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。〝フォレス・ガロ〟程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう。」
それは黒ウサギの正当な評価のつもりであった。
しかし十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、
「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」
「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ。───もちろん中里さん、貴女もよ。」
「あいあい。分かってるからだいじょーぶだよ~。」
フン、と鼻を鳴らす二人と相変わらずのほほんとしている一人。
黒ウサギは慌てて三人に食って掛かる。
「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと。」
「ちっちっ、それは違うんだなー黒ウサギ。」
相変わらず愛らしい笑みを浮かべつつのほほんとした雰囲気ではあるが、少しだけ、本当に少しだけ真面目な表情で黒ウサギを制する。
「いい?この喧嘩は飛鳥と耀、ジン君が
「あら、分かってるじゃない。」
「要はそういうこった。」
「・・・・。ああもう、好きにしてください。」
丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す力も残っていない。
どうせ失うものは無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれど・・・・不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を──」
「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」
飛鳥からの指摘を受け、ジンの申し訳なさそうな表情を見た黒ウサギは、自分たちの事情を知られたのだと悟る。
そして、ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。
「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが・・・・黒ウサギ達も必死──いえ、これももう言い訳になってしまいますね。本当に申し訳ありませんでした。」
「いや、俺は気にしてないよ。君たちの事情なら、無理もないことだと思う。」
「私も気にしてないわ。組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」
「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのはどうでも・・・・あ、けど」
思い出したように迷いながらつぶやく耀。
「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来ることなら最低限の用意はさせてもらいます。」
「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は・・・・毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから。」
耀がそう言った瞬間、ジンの表情がビシッと固まった。
このコミュニティの状況をふと思い出し、流石の耀も慌てて訂正しようとしたが、黒ウサギは嬉々とした表情で水樹を持ち上げる。
「それなら大丈夫です!十六夜さんがこんな大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させることも出来ます♪」
水源が確保できたことを知り、和やかなムードになる一行。
それにともなって、元の世界との文化の差も理解することとなったのであった。
水樹のこともあり、ギフトの鑑定に向かうことが決定した。