黒ウサギ・十六夜・飛鳥・耀・真尋の五人と一匹は〝サウザンドアイズ〟向かう。
サウザンドアイズ、箱庭の大手商業コミュニティである。
目的地への道中、真尋をはじめ異世界組は興味深そうに街並みを眺めていた。
商店へ向かうペリベット通りは石造で整備されており、脇を埋める街路樹は桃色の花を散らして新芽と青葉が生え始めている。
日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を、飛鳥は不思議そうに眺めてつぶやく。
「桜の木・・・・ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの。」
「いや、まだ初夏になったばっかだぞ。気合いの入った桜が残っててもおかしくないだろ。」
「・・・・?今は秋だった思うけど。」
「私のところは雪がすごかったよ~。」
四人が四人とも違う季節を訴えている。
噛み合わない四人は顔を見合わせて首を傾げる。
黒ウサギは笑って説明した。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いたところとは時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ。」
「へぇ?パラレルワールドってやつか?」
「平行世界ってやつだね~。」
十六夜と真尋が心当たりをつけた。
「近しいですね。正しくは立体交差世界論というものなんですけども・・・・・・今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれませんので、またの機会ということに。」
曖昧に濁した黒ウサギは振り返る。
どうやら店に着いたらしい。
商店の旗には、青い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。
あれが〝サウザンドアイズ〟の旗なのだろう。
日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、
「まっ――」
「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません。」
・・・・ストップをかける事も出来なかった。
黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。
流石は超大手の商業コミュニティ。
押し入る客の拒み方にも隙が無い。
「あはは~、商売っ気もへったくれもあったもんじゃないねー。」
相変わらず、ふわふわした雰囲気で真尋が言う。
というか、彼女がキリリとすることがあるのだろうか?と問題児一同は疑問に思うのであった。
「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」
「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です。」
「出禁!? これだけで出禁とか御客様を舐めすぎでございますよ!?」
キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めた目と侮蔑を込めた声で対応する。
「なるほど〝箱庭の貴族〟であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前と旗印を確認させてもらっても?」
「・・・・う。」
「本当に嫌味ったらしいですね~ははは~。」
真尋は内心イライラしていた。
そろそろ堪忍袋が爆発するのではなかろうか?
その証拠に、口元は笑っているのに目が全く笑っていないのだ。
そんな真尋の様子を見て、黒ウサギはドキドキしていた。
他の問題児のギフトは一応全てにはないにしろ見た。
だが、中里真尋──彼女だけ何から何まで不明なのだ。
どんなギフトを持っていて、どれほどの戦闘能力があるのかも分からない。
この場で下手に暴れられるのでは、本当に出禁になりかねない。
そんなときだった。
「いぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィ!」
黒ウサギは店内から爆走してくる丈の短い着物風の服を着た白い髪の少女に抱きつかれ・・?
・・・・フライングボディアタックを決められ、少女と共にクルクルクルクルクと空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。
「きゃあーーーー・・・・・!」
と言う黒ウサギの悲鳴は徐々に遠のき、ボチャンという音と共に途絶えた。
「「「・・・・え?」」」
突然の強襲(強襲されたのは黒ウサギだが)に目を見開く真尋を除いた問題児一同。
愛想の無い例の店員は痛そうな頭を抱え込んでいた。
「貴女も大変なんですね・・・。」
流石の真尋も真顔で同情する。
「・・・ありがとうございます。」
「・・・おい店員。この店にはドッキリサービスでもあるのか?なら俺も別バージョンで是非。」
「ありません。」
「何なら有料でも──」
「やりません。」
真剣な表情の十六夜に、真剣な表情できっぱり言い切る女性店員。
二人は割りとマジだった。
「し、白夜叉様!? どうして貴女がこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに! フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」
黒ウサギにフライングボディアタックを決めたのは美少女だった。
・・・・見た目だけは。
黒ウサギの胸にスリスリするその様は、セクハラ親父以外の何者でもなかったが。
「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」
白夜叉と呼ばれた少女を無理矢理に引き剥がし、頭を掴むと店に向かって投げつける黒ウサギ。
その動作には一切の躊躇が無かった。
くるくると縦回転をしながら真尋の方に向かってくる少女。
真尋はどうしたものか悩んだ挙句。
「せいやぁぁぁぁぁあっ!!」
タイミングを合わせて、頭部に手刀を叩き込んだ。
「へぶッ!!?」
否応なしに顔から地面に叩きつけられる少女。
あまりの痛々しさに目を逸らす女性店員や十六夜を含む一同。
真尋は彼女が現在の姿で放てる威力の何万分の一も出していないが、それでも叩きつけられた少女の顔面が数十センチ地面に減り込むほどである。
「お、おんし、飛んできた初対面の美少女を地面に打ち落とすとは何様だ!」
あんな凄惨な叩きつけられ方をしたのにも関わらず、何故か顔は無傷。
恐るべきギャグ的耐久力である。
「ええと、真尋です。すいません。流す気にはなりませんでしたが、受け止める気にもなりませんでした。ええと・・・和ロリ様?」
その時問題児一同はふと気付いた。
真尋がのほほんとしていないことに。
・・・こちらが真尋の素であるのだが、初めからこの態度だと友人が出来ないらしいので、演じていただけの話だった。
一連の流れで話しかけるタイミングを失っていた飛鳥が、思い出したように白夜叉に話しかける。
「貴女はこの店の人?」
「おお、そうだとも。〝サウザンドアイズ〟の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割に発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ。」
結局中身はセクハラ親父であったが。
「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」
セクハラ上司に対しても冷静な声でツッコミを入れる店員さん
真尋はふと思ってしまった。
「これは店の方針をどうこうする前に、
「私も思いました。一度真面目に考えておきます。」
妙に意見が合ってしまっている女性店員と真尋である。
気を取り直したように白夜叉が十六夜たちをニヤニヤしながら見回す。
「お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たという事は・・・・遂に黒ウサギが私のペットに──」
「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」
ウサ耳を立てて怒る黒ウサギ。
何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店に招く。
「まあいい。話があるなら店内で聞こう。」
「よろしいのですか?」
「〝ノーネーム〟でも私が身元を保証する。それでボスににらまれても、全責任は私が持つ。それなら問題あるまい?いいから入れてやれ。」
女性店員は少し拗ねた様な顔をしているが、ぶっちゃけ可愛いだけである。
「なんかすみません。」
「いえ、貴女だけならまともなのでいいのですが・・・。」
なんだかんだで認められた真尋。
この二人はうまくやっていけそうなものである。
「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」
五人と一匹は和風の中庭を進み、縁側で足を止める。
「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている”サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸している──」
「黒ウサギがいつもお世話になってます。」
と、頭を下げる真尋。
あまりの変わりように絶句する白夜叉を除く全員。
「ちょっと待って、貴女相手によって態度を変えてるの?」
真尋は、え?といったん困惑した表情を作った後、しまった、といった表情へと変化した。
「す、すみません!騙すつもりは無かったんですけど・・・。」
「別に気にしてないわ。まあ素でいてもらったほうがこちらとしてはありがたいけど。──それで」
飛鳥ではなく耀が言葉を次ぐ、
「その外門、って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若い程都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです。」
と、黒ウサギは絵を描いて説明するが、それに対する問題児の反応は、
「・・・・超巨大たまねぎ。」
「・・いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら。」
「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ。」
「何でもいいです。」
「なんて身も蓋もない捉え方を・・・。」
黒ウサギは肩を落とす。
「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分にあたるな。更に説明するなら、今いるここはその七桁の東側にあたり、そのすぐ外は〝世界の果て〟と向かい合っておる。あそこには強力なギフトを持ったものが達が棲んでおってな――例えば、その水樹の持ち主などがな。」
黒ウサギとは相反して白夜叉は呵呵と哄笑をしていた。
そして、もう耳に入っているらしい水神と水樹の苗の話に移り、十六夜が素手で叩きものめしたことに流石の白夜叉も驚いていた。
「あの、白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いもなにも、アレに神格を与えたのは私だぞ。もう何百年も前の話だがの。」
「へぇ? じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の〝
〝最強の主催者〟――――その言葉に、三人の問題児達たちは一斉に眼を輝かせる。
もう一人───真尋は相変わらず冷めた目をしているが。
「そう・・・・・ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私たちのコミュニティは東側で最強、という事になるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
全く隠す気の無い闘争心を白夜叉に向ける三人。
それに対し、白夜叉は高らかと笑い声をあげる。
「抜け目のない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」
「え? ちょ、ちょっと御三人様!?真尋様もニヤニヤしてないで止めてくださいますか!?」
白夜叉は着物の裾から〝サウザンドアイズ〟の旗印が刻まれたカードを取り出し、壮絶な笑みを浮かべ、
「おんしらが望むのは〝挑戦〟か――――それとも、〝決闘〟か?」
直後、周囲の光景が爆発的に変化した。
終わらない白夜と太陽の二面性。
それが白夜叉の持つ性質であると、真尋と十六夜は理解する。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝白き夜の魔王〟―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への〝挑戦〟か? それとも対等な〝決闘〟か?」
今再び夜叉が問う。