今日は特に機嫌の良い彼女は、かまってちゃんになり、マスターに甘えまくってくる。
これはマスターとカドケウスのじゃれあいの物語。
何故かカドケウス推しをしてしまう自分です。
たぶん彼女の設定が好きなんだな。
今回はほとんどカドケウスしか出ません(笑)。
あとこの物語にはマスターの事を多めに書いてます。
キル姫のキャラ読みのかたには申し訳ないと思ってます(笑)。
では少し長いですかお付き合い下さい。
今日のマスターは朝からずっと、自室の机で一人黙々と書き物をしていた。
朝からそれをやり始めていて、もう午後の鐘の音が鳴りそうな時間にまでなっている。
彼は一応武官なのだが、キル姫達の戦闘評価書や隊の収支報告書など、さらには臨時で勤めているファンキル学園での試験の採点とかもあり、机に向かっての事務作業はなかなかにして多かった。
「んー」
マスターは大きく伸びをした。
そしてひと息つこうと椅子から立ち上がり、首を揉みながら隣のキッチンに入っていった。
キッチンのカウンターの上には年期の入ったコーヒーメーカーとミルが置いてあり、マスターはポットでお湯を沸かしながら手早く豆を挽いた。
そしてドリッパーに移した挽きたての豆にポットのお湯を丁寧に注いでいく。するとコーヒーの良い香りがふわりと立ち上ぼって辺りに広がってきた。
コーヒーの淹れ方に、なかなかの手際を見せるこのマスターは、たぶん立派な喫茶店のマスターにもなれるだろう。
そして出来立てのコーヒーを大きなカップになみなみと注いだ。
ふと、マスターは今日これで何杯目のコーヒーだったっけと数えてみると、もうすでに5杯以上飲んでいた。
マスターは砂糖とミルクを入れるのはやめて、ブラックのままで飲みながらまた自室の机に戻っていった。
椅子に腰をかけて、さてもう少し頑張ろうとコーヒーを手元に置いたところで、足元の机の陰の妙な気配に気が付いた。
すると突然、足元から膝と膝の間を割って、真っ赤な大きなリボンをつけた頭が、勢いよく飛び出してきたではないか。
「おわっ!?あちち……」
マスターは驚いてコーヒーを少し手にこぼした。
マスターはそれを見て、考えるまでもなく、すぐにこれが誰だか分かった。
いつも自分の腰元の辺りをうろついているこの頭、そしてもう完全に見慣れたこの赤い髪の持ち主。
そうカドケウスだ。
カドケウスはマスターを見上げて笑うと、楽しげに話しかけてきた。満面の笑顔である。
「おっはよう♪マスター」
マスターは膝の間にいるカドケウスを見おろしてため息をついた。
「全くお前は……。いつの間に入ってきたんだよ。とりあえず学校はどうした?」
「今日は3限で終わりだよ」
マスターは不審そうに眉をひそめた。
「本当にそうなのか?」
「うん。ホント」
カドケウスはあっけらかんと答えた。
彼女はいつもの私服じゃなく、確かにファンキル学園の制服のままでやって来ていた。
マスターは嘘をついてないかカドケウスの顔をじっと見つめたが、イタズラ好きの彼女の嘘を見抜くのは並大抵の事ではないと思いすぐに諦めた。
カドケウスはマスターの足元にペタリと座り込んでニコニコしながら見上げている。
こやつは何がそんなに楽しいのだろう。
マスターは疑問に思いながら話しかけた。
「……ちょい、お嬢さん。邪魔なんだけど」
しっしっと手で払うような仕種をしてみた。
「なんで?気にしないで仕事してていいよ」
カドケウスはそう言いながら、今度は自分の両腋にマスターの両太ももを抱え込むようなかなり密着する姿勢になった。
「気になるっつーの」
カドケウスはやれやれといった仕種をした。
「しょうがないなぁ。はい」
カドケウスはそう言って、今度はマスターに向かって両手を差し出してきた。
邪魔なら抱き起こしてどかせというのか。
マスターは小さくため息をついて彼女の腋に手を差し入れると、少し力を入れてその小柄な体をヒョイとその場から持ち上げた。
体重が軽いから持ち上げるのはかなり楽だった。
カドケウスはキャハハと楽しげな笑い声をたてている。
マスターはその時、もうすでにカドケウスのペースにのせられていると気が付いた。
そしてしょうがない奴めと思いながら、カドケウスを机の脇の床に下ろしたが、彼女は手を離されるやいなや、素早くマスターの膝の上にお尻から飛び乗ってきた。
何かもう、イタズラ好きな子猫が完全にじゃれついて来ているような感じだ。
「こら!だから邪魔だっての」
マスターはまたすぐ同じように、カドケウスをどかそうとしたが、彼女は今度はそれに完全に抵抗してきた。
彼女の足はマスターの足にぐっと絡めて浮かされないように踏ん張って、手は両手で机をしっかり掴んでいる。
男のマスターが力比べで彼女のような小柄な少女に負ける訳はないのだが、やはりどこか無意識の内に手加減をしているのだろう。
なかなかどうして引き剥がせない。こちらが力を抜くとカドケウスもリラックスして油断して見せて、またこちらが力を入れるとまた彼女も踏ん張るのだ。
この呼吸の読み具合はホントに見事だった。
さすがイタズラと遊びの天才と言われるカドケウスだ。
マスターはいつの間にか、この遊びに夢中になってしまっていた。ちくしょう、このやろう、と言って笑いながらカドケウスと一緒になってじゃれあっていた。
昼の鐘の音が鳴り始めた。
マスターはそれでハッと我に返った。
かなり長い間アホな遊びをしてしまったと心の中に若干の後悔がよぎる。
マスターが椅子の背にもたれながら、自分自身に呆れて脱力すると、少々息を切らしたカドケウスも力を抜いてマスターの身体にもたれ掛かかってきた。
彼女の柔らかくて温かい体が、疲れた身体に何だか気持ち良いが、もしかしてこの遊びを続ける限り自分は一生このままなのかもしれないと、何か本気で思い始めてきた。
そこでマスターはこの遊びを即刻やめにする手段をとる事にした。
「さて、そろそろメシにするかな」マスターは独り言のように言った。
それを聞いたカドケウスはリボンをピクンと揺らして振り向いた。
「うん。そうしようよ」
目をキラキラと輝かせたカドケウスはそう言って、マスターの膝からぴょんと飛び下りた。そしてドアのほうに向かって駆けていった。
しかし彼女はドアの前で一旦立ち止まり、そこで自分の若干乱れた着衣と髪を直し始めた。
マスターの前以外ではちゃんと恥じらいというものがあるようだ。
「マスター、早く行こうよー」
ドアを開けて半身の姿勢でカドケウスが催促してくる。
マスターは苦笑した。
別に食べに外に出るなんて言ってなかったが……まあいいか。
マスターは財布を手に取ると、カドケウスの後を追って部屋を出た。
部屋を出ると古ぼけた共用廊下があり左右に同じようなドアがずらりと並んでいる。
ここはこの街に多く見られる木造の集合住宅の一軒だが、他の建物と比べてもだいぶ年期が入っているように見える。築年数は50年は経っていると前に管理人から聞いた。
マスターは廊下をパタパタと走るカドケウスを声を抑えて注意した。
「こら!響くから走っちゃ駄目だと言ってるだろう」
カドケウスはピタリと一度止まってから、今度はスタスタと歩き出した。なかなか素直な娘でよろしい。
玄関から外に出ると、そこは人通りの少ない裏路地だった。住宅が密集しているので少し薄暗い感じがする。
マスターは周囲を見渡しながら、さてこれからどこに行こうかと考えていると、カドケウスが近付いて来てさも当然のように手を繋いできた。
マスターはそれにはもう慣れてきているので、その手を握り返して軽く振りながらのんびりと歩き出した。
天気が良いからなのか、何だかカドケウスの機嫌はかなり良さそうだ。何やら楽しげに鼻歌を歌いながら歩いている。
それは聞いているとどこか懐かしいような、心が休まるようなとても不思議な旋律の鼻歌だった。
街の大通りに出るとさすがに人が多くなってきた。
昼飯時だというのもあって、どの食べ物屋さんからも美味しそうな匂いが色々と漂ってきている。
マスターはカドケウスに何が食べたいかと訊ねたが何でも良いよと答えられて、そのまま少し街を散歩する事になった。
色んな食べ物屋の看板を見ながら歩いていると、道の向こうから、制服姿のロンギヌスとミストルティンが並んで歩いて来るのが見えた。彼女達は三段重ねのアイスクリームを手に持ち、とても美味しそうに舐めている。
どうやら本当に学校は早く終わっていたようだ。
彼女らはマスターと目が合うと、二人とも花が咲くようにパッと笑顔になった。
「マスター」
ロンギヌスが弾んだ声でそう言って、そのままこっちに向かってこようとしたが、何故かミストルティンに服を掴まれ止められていた。
不服そうな顔のロンギヌスにミストルティンが小声で何か言うと、ロンギヌスは思い出したような顔になってから、こちらを少し寂しそうな顔で見つめてきた。
そしてそのまま二人揃って会釈をすると人混みにまぎれてどこかに行ってしまった。
あれ……?
マスターは自分と親しいあの二人が何故、いつものようにこちらに近寄って来なかったか分からずに、少し考え込んでしまった。
何か少しショックを感じてしまったと言うのもある。
自分は二人に何かしただろうか?今自分は何か変なのだろうか?
だけどどう考えても何も思いつかなかった。
「行こっ」
カドケウスが笑顔で手を引きながら言ってきた。
マスターはカドケウスを見つめて訊ねた。
「カドケ……、お前は何でだか分かるか?」
カドケウスは黙ったまま少しマスターを見つめ返した後に答えた。
「マスターは皆にちゃんと好かれているから大丈夫だよ」
マスターはその言葉の真意をあまり掴めずにいたが、彼女がそう言うのならと、この事はあまり深く考えないようにした。
街をカドケウスと歩いていて、自分の隊のキル姫達を他に数人見かけたが、ロンギヌス達と同様に、マスターは会釈だけされて避けられていた。
カドケウスは彼女達と手を振りあっている。
相手の会釈の仕方を見る限りは、嫌われてはいなそうだと分かるが、避けられる意味は分からなかった。
マスターはカドケウスとレストラン「スキルル」のランチを食べた後に、彼女に手を引かれて目についた大きなショップに入ってみた。
そこは複合施設になっていて、ゼニーショップ、レアメダルショップ、レアメダルスロット、バトルメダルショップが並んでいる。
そして、そのさらに奥には姫石と言う魔法の宝石を売っている立派な店構えのショップがあった。その店は青い色主体の意匠を凝らした造りをしていて、とても神秘的な雰囲気を醸し出している。
その店で売られる姫石は、このマスターにはとても高価なものなのであまり買えない代物だった。
月に50個位が精一杯だろう。
(異世界換算だと3000円程と言われている)
カドケウスは色んな店を回ってねだってきた。
「あれと~……これも!買って♪」
どれも値段が安いものばかりなので、たまにはいいかと買ってあげた。
カドケウスは凄く嬉しそうだ。
カドケウスはレアメダルスロット屋にも興味を持ったようだった。ガラスに手を当てて店内の様子をじっと見つめている。
マスターはそれじゃあいいとこ見せたろか?と考えたが、子ども連れでスロットは駄目だろうと言う結論に思い至った。
マスターはカドケウスに向かって残念そうに入れない理由を話すと、彼女は中を指差して言った。
「大丈夫だよ。ほら」
マスターは中を覗いてみた。
確かに店内には少女達の姿もある。あの背の低い娘は草薙か。あとぬぼこの姿も見える。彼女らは男性の後ろにいて、何か応援しているような感じだった。
キル姫はスロ屋に連れて行っても別にいいんだと分かった。
それならとマスターはカドケウスを連れて店内に入り意気揚々とスロットを回し始めた。
速攻で貴重なレアメダルが100枚近くも溶けてなくなり、星3武器のガラクタばかりが山のように集まった。ほんとにろくな物がない。
マスターはもう無理としょんぼりとして席を立った。
後ろで見てたカドケウスは手を出した。
「3枚ちょうだい」
「ん?一回やってみたいのか。ほら」
カドケウスにメダルを渡した。
カドケウスはスロットの椅子に飛び乗ると3枚投入した。そしてガラクタの山を消沈したまなざしで眺めるマスターを見て呟く。
「しょうがないなぁ」
カドケウスはレバーを引いた。
マスターは何気なしにそのリールを見たが、強い前兆が三つ重なったのを見て、おおっと言って身を乗り出した。
そしてそのリールは武器絵柄が揃って、払い出された品物のカードは……。
「壊斧・金獅子」だった。
マスターは声も出せずにただ呆然とその光景を眺めていた。レアメダル100枚で金獅子なら大当たりだろう。
カドケウスがはいどうぞと、マスターにそのカードを差し出してきた。
マスターはそれを受け取りながら言った。
「お前……凄いな」
カドケウスは別に何て事ないような感じで椅子から降りると、外に向かって歩き出した。
マスターも彼女の後について外に出た。
夕方の鐘の音が聴こえて、マスターはヤバイと感じた。
書き物がまだ終わってないのを思い出したのだ。
マスターは目の前で、どこか遠くを眺めているカドケウスに向かって言った。
「カドケ。俺は仕事中だったんだ。もう帰るよ」
カドケウスは振り返るとあっさり頷いた。
「うん。遊んでくれてありがとう。もう仕事の邪魔はしないよ、またね♪」
カドケウスはそう言って通りの向こうに駆けていった。
マスターは最後はあっさりだったなと思ったが特に気にしなかった。
そして自室に戻って書き物の続きを始めた。
「んー」
マスターは大きく伸びをした。
やっと仕事が終わった。
もうだいぶ夜が更けてきている。
何か今日は色々あった1日だった気がした。仕事も遊びもどちらもこなした充実した1日だ。
マスターは強張った体をほぐしながら風呂に向かった。
ここの共同住宅は風呂とトイレも共同なのだが、ここの風呂はなかなか広くて気持ちがよいのだ。
マスターは脱衣場で服を脱いだ。籠を見る限り誰も入ってなさそうだ。久しぶりにこの風呂場を独占出来る。
マスターは鼻歌まじりに風呂場の戸を開けた。
この鼻歌は昼間カドケウスが歌ってた旋律と同じだった。
やはり誰も入っていない。
石壁に灯されたランプの明かりが、湯けむりの立ち込める風呂を情緒よく照らしている。
ここの湯船は一段落ちの石造りで、大人5人はゆうに入れるほどの広さがあった。
マスターは機嫌よく、ふんふーんと鼻歌を歌いながら、洗い場で頭を洗い出した。
その時背後で扉の開く音が聞こえた。
ちぇ、これで独占ではなくなったかと思ったが、しょうがないとあっさり諦めた。
入ってきた人物が、ひたひたとこちらの洗い場に歩いてくる気配がする。
体を洗ってから風呂に入るのが常識だから当たり前と言えば当たり前だ。
入ってきたのは誰だろうか。
マスターは、それが知り合いなら挨拶くらいはしようと思って横に座るのを待っていたが、その誰かは座ろうとしない。
髪を洗っている最中なので、目があまり開けられないのがもどかしい。
だが気配は確実にある。
しかもその気配は自分の背後でピタリと止まっている……!?
ぞっとしたマスターは顔の泡を手の甲で払いのけて後ろを振り向いた。
そこにいたのは……!
カドケウスだった。
彼女は裸にタオルをまいた姿でマスターのほうをニヤニヤしながら見ていた。
「な~に焦ってんの~♪」
「おまっ……!」
マスターは顔をしかめながら言った。泡が目に入って痛いのだ。
「まあまあ、体を洗うなら手伝うよ」
カドケウスはマスターを押し留めて、髪を揉むように洗い始めた。
混乱していたマスターはなすがままに髪を洗われていた。なかなか気持ちが良い。
だが、マスターはやっと我に返った。
「おい、カドケ!ここは他の人も入る風呂なんだぞ。そんな格好で入ってくるな」
「さすがマスター。あの一瞬で分かったんだ」
「そう言うことじゃなくてだな」
「でも大丈夫。扉の前に貼り紙しといたから。『今マスターとキル姫がスキンシップ中です。時間をずらして来て下さい。206号のマスター』って書いて。マスターの人望なら大丈夫でしょ?」
マスターは頭が痛くなった。確かにそう書けば大丈夫かもしれないが、あとでこの一帯に色んな噂が広がるだろう。
マスターが後の事について色々思い悩んでいると、カドケウスは甲斐甲斐しくマスターを洗い続けていた。
頭の泡をお湯で流して、そしてタオルで背中を洗い始めていた。
久しぶりに誰かに背中を流してもらって、とても気持ちが良かった。
だけど黙っていると彼女は全身を洗って来そうなので、タオルを取り上げる事にした。
タオルを取り上げられたカドケウスはつまらなそうな顔でふくれている。
マスターはこんな格好になって、ここまで来た彼女を追い返すのも何だから、とりあえず一緒に風呂に入る事にした。
並んで座りながら体を洗った。一応お礼としてカドケウスの背中も流してあげた。
小さい彼女の背中を見て、力加減があまり分からなかったので、そうっと洗ったら、彼女はくすぐったがって笑っていた。
そして体を洗い終えて二人揃って湯船に浸かった。
カドケウスは気持ち良さそうにして、周りを興味深そうに眺めている。
マスターはカドケウスの事を少しは胸があるんだなと思って見ていた。
その時カドケウスと目が合ってしまい、マスターは照れ隠しに手で水鉄砲を作ってお湯を飛ばした。
カドケウスはそれをすっと避けて笑った。
「そんなのには引っかかりませーん♪」
彼女はやり返してきた。マスターより数段うまい。
お湯をかけられまくったマスターが降参してやり方を教わったが、どうやっても彼女ほど上手には出来なかった。
カドケウスがすっと立ち上がって言ってきた。
「のぼせちゃうから先に上がるね」
彼女は脱衣場に駆けていった。
マスターはそれを見送って少し時間をおいてから自分も風呂を出た。
脱衣場にも廊下にもそして部屋の前の扉にもカドケウスの姿はなく、もう帰ったのかと思った。
部屋の鍵もきちんとかけたままだ。
マスターは部屋に入って明かりをつけた。もしかしたらと思ったが誰もいなかった。
そして机で明日の仕度を整えて、キッチンで歯磨きをしてから寝室に入った。
そしてベッドを見るとこんもり膨らんでいる掛け布団を発見した。
マスターはそこで大きなため息をついた。
何で俺に気づかれずにこっそり入れるのだろう。隠し通路でもあるんじゃないか?この部屋。
マスターはベッドに近寄り、掛け布団をめくってみた。
やっぱりカドケウスだった。
しかも可愛いパジャマに着替えているではないか。
しばらくカドケウスを見おろしていたが、すやすや寝ている彼女を叱るのも何か馬鹿らしくなってきた。
そして、マスターは部屋の明かりを消して回ると彼女の隣にもぐり込んだ。
布団の中はとても温かった。
しばらくあお向けで寝ているとカドケウスがすり寄ってきた。少し寒いのだろう。
この部屋の夜は何か冷える感じがするのだ。
マスターはこの温かくて柔らかいカイロのおかげで今日はよく眠れそうだと思った。
しばらくまどろんでいると、カドケウスがまたもや、もぞもぞ動いて今度は顔を布団から出してきた。
眠さで霞む目で横を見てみると、彼女も目を開けているようだった。
カドケウスはマスターに向かってささやいた。
「……今日はありがとね、マスター。私のわがままに色々付き合ってくれて」
彼女の吐息が耳にかかる。
「……あのね、実は今日、私がマスターのところに来てちょうど一年目なの。私がそれを覚えててみんなにそれを言ったら、この計画を立ててくれたんだ。今日だけは私をマスターと二人っきりにしてくれるって」
彼女はためらいがちに続けた。
「だから今日だけは我慢してよね。明日からはしつこくしないから」
マスターは何言ってんだと思いながら、カドケウスの頭の下に腕を通して、腕枕をしてあげてから少し引き寄せた。
そしてぽんぽんと軽く体を叩くと囁き返した。
「俺はお前のマスターだ。別にいつ来てもいいよ」
マスターはそう言って眠りについた。
実はあまり知られてないがカドケウスは眠りと死を司るキル姫なのだった。
彼女を傍らに抱いて横になれば、快眠を得ることなどとても簡単なことなのだ。
朝になり、マスターはパチッと目を開けた。
よく寝た感じで目覚めもかなり良い。
そして隣を見たがカドケウスの姿はなかった。
そして部屋のどこにもいないので帰ったのだと分かった。
マスターはコーヒーを淹れて飲みながら、朝食を作って食べた。献立は焼いたパンと目玉焼きと野菜ジュースで、もちろん二杯目のコーヒー付きだ。
そして仕事に出かけた。
今日はファンキル学園での授業がある。
ファンキル学園に向かう際に登校中の生徒から挨拶をされた。
このマスターに従うキル姫達もいる。彼女らは今日は我先にとマスターの元へとやって来た。
マスターは昨日の件で色々と質問攻めにあったが笑って流していた。
校内に入り廊下を職員室に向かって歩いていると、いきなり背中を叩かれた。
振り向いたが誰もいない。
……と思ったが自分の腰の辺りに真っ赤なリボンが揺れているのが見えた。
「おはよう。カドケ」
マスターは笑顔で言った。
カドケウスも弾けるような笑顔を見せて言った。
「おっはよう♪マスター。さーて、今日は何して遊ぼうねぇ~」
彼女はいつもの決めセリフを、まだ朝一の学校内で、しかも今は教師であるマスターに向かって堂々と言うであった。
{終わり}
カドケウスは可愛いなぁ。
でもまあ、可愛い娘を見守る父親の心境のようですが(笑)。
これでどうしても書きたかったキャラは書いたので、次は他のキル姫もちょこちょこ出してみたいと思います。
数が多いから設定の読み込みが大変だけど……。
では次も良かったら読んでみて下さい。