なんかオーディションから戻ってきたら、すごいことになってた、主に俺以外の中学生組が。
なんというか、純粋に悪口として、ケバい。
無駄に厚い化粧、ボールか何かを無理にたくさん詰めたのだろう、違和感しかない歪な胸、しかもドレスのスカートは元は良いものだっただろうに、無残に切り裂かれていて、どちらかというと、お笑い芸人が女装したのが近い、間違っても似合ってはない、特に化粧が。
子供が見たら泣き出しそうなくらいの、見事な化け物っぷりだ。
「は……ハロウィンって、それどういう意味よ!」
「いや、そのままだが……まさか、それで宣材撮るつもりなのか?」
「そうよ!悪い?!」
悪いもなにも……アイドルがその顔と格好で写真はそもそもまずいだろ。
プロデューサーの方を見てみると、プロデューサーも黙って首を横に振っていた。
「プロデューサーもNGだって」
「何よ!何か問題があるっていうの……って、きゃあ!」
元々足首まで隠すようなロングドレスを、ハサミで無理やり切ったおかげで、そのスカート部分を踏んづけて伊織が転びそうになり、それを見て慌てた亜美達の胸から無理やり詰めていた詰め物が周囲に転がり、それを踏んでやよいが転ぶ……この間わずか数秒の大惨事である。
「プロデューサー」
「なんだ、夏美」
プロデューサーもあまりの光景に頭を抱えているが……いや、そもそもプロデューサーはなぜここまで放置してしまったのか。
「とりあえず、準備してきていいか?」
「ああ……四人は俺が何とかしとくよ……」
もはや俺の手には負えない事態な気もするし、ここは戦術的撤退をさせてもらうとしよう。
と言っても、準備するほどのこともほとんど無いのだが。
以前の宣材写真撮った時と同じように、軽く肌を整えて、リップクリームを塗っただけで、服については元々撮影に使うものを着ている。
いつも通りのダメージジーンズにTシャツというラフな格好だ。
まあつまり、ほとんど荷物を置きに行っただけだな。
ひとまず、待っているであろう更なる惨事に覚悟を決め、再びスタジオに戻ると、プロデューサー達は撮影道具か何かの上に座っていた、亜美達はメイクを落としている最中だった。
「やっぱ四人ともすっぴんの方がかわいいと思うぞ」
「うるっさいわね、私達はかわいいよりセクシーを目指してるのよ!」
セクシーって……お前らまだ中学生だろうが。
「改めてお帰り、そしてよくやったな、夏美!」
「おう、まあなんとかギリギリの三着だったけどな」
「それでも合格は合格だ、やっと仕事ができた……」
「プロデューサーもお疲れさん」
そう言えば、プロデューサーが担当してる中だと、俺が最初の合格者か、一ヶ月って……よく事務所も堪えたな。
でもこれで律子さんの目論み通りなら、プロデューサーも多少は自信がついて、もっと仕事が出来るようになるかな?
「そうだ、夏美は今日のファッションはどう選んだんだ?」
「ん?今日のファッションか……」
唐突な質問だな……どう選んだと言われてもいつも通りだな、完全に普段着、しかも選考基準が動きやすい格好。
「いつも通りだな」
「い、いつも通りって……」
「まああえて言えば、元気一杯で活発な女の子、て感じか?」
ボーイッシュという言い方もあるな。
たとえ女の子っぽくなくても、これが落ち着くんだから仕方ない。
「活発なって……あんたそれでいいの?」
「え、何か問題あるか?」
「だってなっちー真美達よりおっきーし、もっとせくちーな格好も似合うのに」
「うーん、身長的に似合うかも知れんが、誰も俺にセクシーさを求めてないだろ」
俺に求められてるのは
というか、俺の場合セクシーな衣装を着ても素肌を隠さねば筋肉の影響で衣装のポテンシャルを活かせない、スポーティーな格好なら健康的な感じが出せると思うが。
「ファンから何を求められているか、それを考えるのもアイドルとPの仕事じゃね?」
「ファンから何を求められているか……」
「地味に俺に突き刺さるな……」
「というかそうだよ、プロデューサーもなんでこんなことになるまで放置したのさ」
「いや、俺は俺でやることがだな……」
「こっち準備できました、準備が出来た方から撮影お願いしまーす」
プロデューサーの言い訳の途中で準備が完了したらしく、スタッフが声をかけてきた、命拾いしたなプロデューサー。
ま、こういうことはゆっくり学んでいくしか無いわな。
俺はたまたま容姿と性格が合ったから、ほとんど演技もせず、素の表情で過ごすことができているし、今の状況に満足もできている。
どこかを目指すって言うのは大事だけど、合う合わないってのはもっと大事だしな、今の伊織達にセクシーとか、俺にふりっふりの衣装着せるようなものだろ。
「俺行ってきていいか?」
「ん、他の皆は準備してるし良いんじゃないか?」
よし、ちゃちゃっと終わらせるとしますか、慣れたと言っても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
撮影スペースの真ん中に立って挨拶をして、とりあえず最初のポーズを決める。
美希は撮影はリズムに乗ってパシャパシャって言ってたけど、正直よくわからなかった、これが天才というやつか。
スタッフさんがポーズを変えてと言えば変え、微調整を指示されれば、言われた通り調整する。
自分で考えるより、わかってる人に任せる方がいい事もある。
@
「もうちょっと右向いてー」
「こんな感じっすか?」
「お、いいねぇ、じゃあそのまま、撮りまーす」
まったく、なんだってのよ、私達は私達なりに考えて個性が出せるように準備したって言うのに、夏美もプロデューサーも。
夏美なんて、自分でも言ってたけど、完全に普段着でセクシーさどころか、女の子らしさすら感じない格好で撮影してるし。
「化粧、落ちたか?まあ、話はわかった……」
「結局、そうすればよかったのよ……」
「そうだよ、真美達超個性的だったじゃん」
「個性的って言っても、ただ目立てばいいって訳じゃなくてだな……」
そう言ってから、あいつはなにも言わず、ただ空中を眺めていた。
なによ、結局こいつもわかってないんじゃないの?
「よし、一緒に考えてみるか」
「……わからないんじゃない」
「うるさいな……」
でも、結局個性ってなんなのよ。
個性的って言うのは、他人より目だって覚えられやすいことでしょ、なら間違ってないじゃない。
そうじゃないなら、どうやって個性を出せってのよ。
「あれ、皆どうかしたの?」
私達がセットに座っていると、準備が終わった美希がやって来た。
緑のチェックの上着に、太いベルトを緩めに巻いた格好で、こう言うと悔しいけれど、すごく似合っていて綺麗だと思った。
なによ、美希って本当に私達と同じ中学生?
まあ、夏美は夏美で中学生とは思えないけど、亜美達と一緒にいるときはあの二人と同じ中学生っぽく感じるわね。
「なんかすっごい服だねぇ……ねえでこちゃん」
「でこちゃん言うな!」
「でこちゃんその服で撮るの?」
「え?」
「ミキね、その服ぜーんぜん、似合わないって思うな」
「そ、そんなわけないでしょ!」
「ふーん」
似合わない……そんなに私には似合わないかしら……
─うーん、身長的に似合うかも知れんが、誰も俺にセクシーさを求めてないだろ─
─ファンから何を求められているか、それを考えるのもアイドルとPの仕事じゃね?─
似合う似合わないより、何を求められているか、かぁ……
「あ、夏美ちゃん来てたんだ」
「ああ、さっき来てそのまま撮影入ったよ」
「やっぱり夏美ちゃんはかっこいいの!うーん、でもせっかくの写真撮影なんだし、もっと可愛い服着てもいいのに」
「そうか?俺はやっぱり、こっちの方が夏美らしい気がするけどな」
「それはそれ、これはこれ、なの!」
美希とプロデューサーの会話に釣られて、夏美の撮影を見てみると、確かに夏美らしいラフな男っぽい服で、動きの多いポーズで撮影していた。
可愛らしさとか、セクシーさはまったくないけど、夏美らしい『かっこよさ』があって、撮ってる本人も楽しそう……
というか、あいつ美希程じゃないけどズル過ぎじゃない?
中学生離れした身長と身体能力とか、そのくせ女の子らしい服着せたら恥ずかしがるとか、オリジナルのコーヒー淹れたりする変な趣味とか、個性の塊じゃない!
「美希ー、次撮るから準備してー」
「はいなのー!」
そんな事を考えてる間に、夏美の撮影も終わるみたいで、次の美希が準備を始める。
夏美は要領がいいと言うか、基本的に自分だけで考えて仕事はしない。
必ずといっていいほど、一緒に仕事をする人間に確認をとる、勿論全部任せるんじゃなく、自分で考えた上で改善点だったりを求める、だから早くはないけど、スケジュールを押すことも滅多にない。
そんな、大人な態度が出来るところにも、私はなんとなく劣等感を感じていた。
「こんなのとかどうですか?」
「うーん、かっこいいけど宣材には微妙かな」
「アッハイ」
……ただあいつもなんで宣材でキックのポーズなんて選ぶのかしらね、どうせかっこいいからとか言うんでしょうけど、そういうところは子供っぽいというか……ホントあいつってよくわかんないわ。
@
「いやー、緊張した緊張した」
「お疲れ夏美、かっこよかったぞ」
「ははっ、サンキュー、それでどうよ、ちょっとは個性見つかったか?」
「それが、まだ全然わからなくって……」
やよいがしゅんとして答えた、本当に可愛いなぁこやつめ、娘が出来たらこんな娘になってくれればいいのに、相手は一生できる気がしないし、見本が俺では望み薄だが。
まあそれは置いておいて、たしかに難しいよなぁ。
中学生に個性、さらに言うなれば自分の強みを考えろなんて。
そもそも、俺自身これであってるのかなんてわからないし、誰かに認められて初めて個性として成立するんじゃないだろうか。
「美希は相変わらず凄いな」
「まったくだよ、センスはピカイチだな」
その点美希は自分の武器、というかいいところをよくわかってるよなぁ……
というよりも、自然とそうなっているというか……やはり天才ゆえか。
自分がやりやすいように、自分のリズムでやれば、それが最高になるって言うんだから、世の秀才達はあいつに嫉妬しまくりだな。
あいつが自ら努力することを学んだら、一体どうなってしまうんだろうか、ちょっとその行き着く先を見てみたい。
「あ、夏美お帰り、オーディションどうだった?」
プロデューサー達と、個性について考えていると、準備を終えていた姉さんがスタジオに来ていた。
俺と同じように、ほとんど普段着だが、姉さんは俺と違ってちゃんとかわいらしいとか、女の子らしいと言われる格好だ。
濃い個性こそ無いものの、俺の自慢の姉だし、誰より女の子らしい少女だと思ってる。
「ふはははは!五月の765プロオーディション初合格者の座は戴いてきたぞ!」
「本当?!夏美おめでとう!」
どうやらプロデューサーはまだ誰にも話していなかったらしい。
まあ電話してからそれほど経っていないし当然か。
「夏美に先越されちゃったかぁ」
「姉さんだってまたすぐ仕事来るって」
「あはは、だといいなぁ」
「春香ー!次準備しといてー!」
「あ、はーい!それじゃあ行ってくるね、夏美!」
「おう、行ってらっしゃい」
姉さんは、律子さんの所に行って、撮影前の最後のセットを始める、と言うか美希の撮影早くね?まだ数分と経ってないぞ。
「なぁ夏美」
「ん?なんだプロデューサー」
「夏美から見て春香の個性ってなんだと思う?」
姉さんの個性ねぇ……
「普通なとこ?」
「なっちー……そりゃ流石にひどいと思う……ほら、ドジっ子属性とか」
「いくらはるるんの個性が薄いとは言え、もうちょっとあるでしょ……リボンとか」
いくらなんでも双子の意見が酷すぎると思う、俺が思うに普通って言うのも立派な個性だと思うんだがなぁ。
美希の撮影が終わり、姉さんの撮影が始まったから、姉さんの撮影を見ながら考える。
本当に、お手本にしたいようなかわいらしい笑顔でポーズを決める姉さん。
かつてアイドル業界でひときわ輝く存在だった正統派アイドル、彼女達のカリスマ性とはすなわち憧れられること。
趣味と特技がお菓子作りで、特別プロポーションがいいわけでもない、秀でた才能があるわけでもない─どれだけ転んでも無傷というのは除く─、そんな姉さんが、アイドルをやっている。
一体どれ程の少女達が姉さんに憧れ、次は自分がと夢見るのだろう。
そんな姉さんは、きっと俺よりよっぽどアイドルに向いている筈だ。
「姉さんは、俺よりよっぽどアイドルだよ、アイドルは人に夢を見せる仕事だからな、普通な姉さんこそ、沢山の女の子に夢を見せられるよ」
「夢を……」
「勿論、憧れられるだけが全部じゃないけどさ、自分を見てくれる人には、その人の夢を見せてあげるのが、アイドルだろ?なら、目立つことよりもっと大事なこともあると思う……俺が言っても、あまり説得力無さそうだけどさ」
我ながら目立つ個性の塊だからな、身長、体力、趣味、口調etc……
ただ、俺にファンがいるというなら、彼ら─過半数は彼女ら─が求めるものを、多少恥ずかしくても受け入れるつもりだ、それが『アイドル天海夏美』となった俺の覚悟だ。
「あ、今度は真さんです!」
「765プロのイケメン担当その1ですな」
姉さんの撮影が終わると次は真の番だった。
今真美が言ったように真の個性、というよりセールスポイントはあのイケメンフェイスと、格闘技経験者故の引き締まった雰囲気だな。
現に女性スタッフがかなりクラっと来ている。
「もう一人のイケメン担当として、なっちーはまこちんをどう見ますかな?」
「うーん、そうだな……」
俺もイケメン担当、というか女性ファンが多くなるだろうと思っているが、実は俺と真では付くだろうファン層が違ったりする。
真のファンは、王子さまに憧れる女性、いわば宝塚系のファンが多い、それに対して俺は、こう言っては失礼だががさつというか、粗っぽい男性アイドルと同じようなファン層になると思われる。
爽やかイケメンとオラオラ系イケメンの違いである。
「俺とファン層は別れるし、たぶん765プロじゃ一番ユニット組みやすいかな、得意な分野がダンスで被るし、かなり気も合うし」
「なるほど……確かに真と夏美でのユニットは女性ファンが食いついてかなり伸びそうだな」
「やっぱりあんた達生まれる性別間違えたんじゃないの?」
「俺は時々自分でも思ってるけど、真には言うなよ、真は結構本気でショック受けるからな?」
一応言うと、俺も真も男性ファンが居ない訳じゃない、その数が少ないだけで。
俺と真の名誉のために、居るという事実は重要なのだ。
「お、今度はお姫ちんだね」
貴音さんは、うん、まああれだな。
その現代には珍しい本物の貴族のような優雅さや、ミステリアスな雰囲気がファンを捕まえるのだろう。
本人はミステリアスどころか、あらゆることが『トップシークレット』過ぎてそもそも殆どが謎だ、宇宙からやって来たと言われても信じると思う。
例えば今やっている謎のポージングを生み出し、そして不思議とさまになっている所とか。
「ぶ、ぶれないわぁ……」
「夏美ちゃんは、貴音さんのいいところってどこだと思う?」
「そうだなぁ……あの独特の雰囲気と、抜群のプロポーションかな、特にヒップ」
うちのアイドルの大人組は本当にプロポーションが凄まじい、あずささんはバストが、貴音さんはヒップが90を越えるとか、いったいどうしたらそこまで育つのだろう、コツでも聞いてみたいものだ。
「ほうほう、男性目線ではそうなのですな」
「何だって真美?今すぐまたコブラツイストを受けてみたいだって?」
「いや、ちょっと待ってなっちー!冗談!冗談だからイタタタタタ!ギブアップ!ギバーーーーーップ!」
もはや慣れた体は痛めないけど、しかし適度に痛いように真美を締め上げていると、貴音さんの番が終わり、次は雪歩さんの番になった。
雪歩さんはシンプルな白いワンピースを着て、同じく白い花を使った花束を抱えて撮影をしていた。
カメラマンが男性だからカメラ目線じゃ無いが、それが余計に庇護欲をそそるというか。
俺や美希、真に貴音さんのような派手さだったりは無いけれど、雪歩さんらしい控え目で清楚な雰囲気が出ていて、実に雪歩さんに合っている。
「雪歩さん綺麗です~」
「ホントね」
「雪歩さんは、ああいう大人しい感じがよく似合うしな、凄く綺麗だ」
ああいう控え目な人、
姉さんも大人しい方だが、なんだかんだ転んだりなんだり騒がしいので除く。
「ねえ兄ちゃん、ゆきぴょん全然じゃじゃーんって感じじゃ無いのにいい感じだよね、なんで?」
「そうだな……やっぱり雪歩らしさが出てるからかな」
「ゆきぴょんらしさ?」
雪歩さんは花で例えるなら百合だよな、性的嗜好ではなく、男性恐怖症とか真と仲がいいのは考えないものとして。
物静かで、積極的なわけではないけれどちょっとした気遣いが出来て、緑茶を淹れるのが凄く上手で、周囲に癒しの雰囲気を放っている、やよいと並ぶ765プロ癒し系筆頭だな、マイナスイオンでも放ってるんじゃないだろうか、あと不思議なことによく茶柱が立つ。
「ああやって静かに佇むだけで絵になるのって、凄く難しいし、雪歩さんだからこそだよな」
「雪歩だからこそ……」
「わざとじゃなくて、ああするしかないって言うのはあると思うが、確かに夏美の言うとおり、あれが今一番雪歩が輝く方法なんだろうな」
さっきから伊織達が皆の撮影をしっかりと観察して、疑問を消化しながら考えている。
なんだか自分が教師になったような気分だ、勿論そんな教えられる程理解している訳じゃないが、なにかを教えて理解してもらうって言うのは嬉しいものだ、引退したら教師か塾講師になるのもいいかもしれん。
「今度は響ね」
雪歩さんの撮影が終わると次は響、響は俺や真と同じで特にダンスが得意なだけあって、動きの多いポーズで撮影している。
ところで俺と真の蹴りはNGで響の蹴りのポーズがOKなのはどういう違いなんだ、格闘技かポージングかの違いなのか?
……俺のは別にポーズだけのはずなんだが。
まあそれは置いておくとして、響の肩の上にはいつものようにハム蔵が─何故かガイナ立ちで─乗っかって撮影されていた。
そしてハム蔵の助言通りに撮影すると、カメラマンさんも気付いていなかった"いい角度"で撮れたらしく、順調に撮影が進んでいく。
「さっすがハム蔵、ひびきんのいいとこ誰よりわかってますな」
「まあ長く一緒にいれば、ふとした瞬間に気付くこととかあるしな、俺も姉さんが綺麗に見える角度と可愛く見える角度両方知ってるし」
「へぇ、春香が綺麗に見える角度ってどんな感じなんだ?」
「斜め下からのアオリで見た感じだな、凄く大人っぽく見えて綺麗だった、伊織達はそういうの無いのか?」
半目で撮影すると怖いことは黙っておくとしよう、そのうち面白い感じで使えるかもしれんし。
ありゃ女王様の風格漂ってるぜ、マジで。
「亜美、真美のめーっちゃイケテる角度知ってるよ!こっちからこーんな感じっしょー」
「真美だって、亜美のめーっちゃいい感じの角度知ってるもんね!亜美はこっちっしょー?」
交互にポーズを取って指で四角を作って仮想のフレームでお互いを撮影し始める亜美と真美、やっぱり生まれてからずっと居るとお互いのいいところも知り尽くしてるんだな。
そして双子とはいえ、ベストショットの向きは違うのか。
「いいんじゃないか、それ」
「ああ、それで二人のらしさが出せるなら、お互いに助言しあって撮影すればいいじゃないか」
「そっか……それもそうだね!」
「亜美達、先に準備してきていい?めーっちゃいい写真撮って兄ちゃん達ビックリさせちゃうから!」
「ああ、行ってこい」
すぐに衣装直しに走る亜美と真美、まあこれで二人は大丈夫そうか。
二人ともなんだかんだ素直だし、ちゃんと話せばわかってくれるのだ。
「いいわよね、響も亜美達も……」
「そうだ伊織ちゃん、シャルルは?」
「シャルル?シャルル・ジ・ブ○タニア?」
「違うわよ!シャルル・ドナテルロ18世!私がいつも持ってるぬいぐるみの!というか誰よそいつ!」
伊織って本当ツッコミ体質だよな、キレッキレでツッコミ所をしっかりつっこんでくれる。
だけどシャルルって男性名じゃね?
「ああ、あいつか……あいつオスなのか?」
「女の子よ!見なさい、ちゃんとリボンついてるでしょ!」
「そういやそうだったな……」
果たして伊織の勘違いなのか、それとも俺が知らないだけでシャルルは日本で言う『
「でもやっぱり、伊織はそれ抱いてないとな」
「そうだな、シャルルを抱いてる姿を見慣れてるからか、その方がしっくり来る」
「伊織ちゃんとシャルルはいつも一緒だもんね!」
常にぬいぐるみと一緒と言うと、子供っぽいかもしれないが、だからこそ伊織によく似合っていると俺は思う。
伊織は今はまだ花の蕾なのだ。
伊織は既に、誰もが羨むような綺麗な女性になる将来を約束された容姿を持っている。
だがそれは、まだ数年先の話だ、今はまだ将来に向けての準備と、その姿に夢を見る時間。
だからこそ、今は多くの人に目を止めてもらい、今の可憐な姿を見てもらい、未来の美しい姿を夢想してもらうべきなのだ。
「そう……そうね、いつも一緒だものね、今日だけおいてけぼりなんて、"らしく"ないわよね」
そう言いながら優しくシャルルを撫でる伊織、その手の中のシャルルはあちこち修繕された跡があって、大事にされてきたのだとわかる、お前はいいご主人様に会えてよかったな。
ひとまず伊織もこれで大丈夫そうかな。
あとはやよいだが……正直言うこと無い気がする。
「私はどうしよう……私はシャルルみたいにいつも一緒に居る子いないし……」
「やよいは、やよいのままでいいと思うぞ」
やよいはただそこに居るだけで元気がもらえる気がする、いわば太陽のようなものだ。
沢山日光を振り撒いて、その恩恵で植物は大きく育ち、それを食べる動物達が育つ。
あるいは向日葵もいい、太陽の方向へ目一杯体を伸ばし頑張る姿は、いつも一生懸命なやよいにとても似ていると思う。
「私のまま?」
「そうだな、やよいはいつも通り元気一杯な姿が魅力なんだと俺は思う、夏美もそうだろ?」
「ああ、やよいが頑張ってると俺も頑張ろうって思うし、見てるだけで元気出る、な伊織」
「そうね、確かにやよいは飾らずに、やよいらしく笑ってるのが一番かもね」
「えへへ、そうですか?うっうー!それじゃあ私頑張って笑顔目一杯で撮影しますー!」
満面の笑顔を浮かべるやよい、やっぱりこの子は太陽の子だ、眩しすぎて直視できない、大人になって色々汚れちまった心ごと浄化されそう。
結論、やよいは大天使、異論は認めない、むしろ今すぐやよいのために天使の座を新たに作るべき。
「私達も着替えてくることにするわ、行きましょうやよい」
「うん!」
天使を引き連れて伊織も着替えに向かった。
これで全員無事撮影終わるかな?
てか、なんで俺がプロデューサーみたいなことしてるんだろ……
とりあえず飲み物でも買ってこよ。
廊下に出てすぐの自販機で適当な缶ジュースを買って戻ってくると、千早さんとプロデューサーが何か話している……ちょっと聞こえる内容的にうまく笑えないって感じか。
千早さんはクールビューティーな感じだし無理に笑わなくてもいいんじゃないかと思うが……ひきつった笑顔怖。
笑うという行為は本来攻撃的なものとはいうが……
どうやら結局千早さんは真顔で撮影することになったらしい、確かに無理に笑うよりいいとは思うが……いや、でもやっぱり綺麗な人は笑っている方がよっぽど綺麗だよな、なんとか笑顔の写真撮れないかな……
周囲を見渡して使えそうな物を探す、ありゃ新年の撮影にでも使った鏡餅の食品サンプルか?
お、これならいけそうだわ。
持ってた缶の上に鏡餅に乗ってたミカンを乗せて頭上に掲げる。
そう、それは古来から受け継がれてきた
『アルミ缶の上にあるミカン』
何故唐突にこんなことをしたのかというと……
「……?……っ!~~~~~っ!」
千早さんの笑いの沸点が驚くほど低いからである。
以前一緒にレッスン中に、まったく意図していなかっただじゃれを聞いて爆笑していた事から、これでも十分笑わせられると思っていた。
そしてカメラマンさんも、このベストタイミングを逃さずにしっかり撮影してくれた。
流石プロ、一瞬の隙を逃しはしなかった。
意味を理解できずに、ちょっと間抜けな顔から吹き出し笑顔になる瞬間までバッチリフィルムに押さえたようだ。
こっちを向いたカメラマンさんと目が合い、お互いにサムズアップを向ける。
この瞬間のアイコンタクトの内容を文字に起こせば。
─いい仕事してくれたな。
─いえいえ、
─わかっている、いい仕事にはちゃんと報酬を出そう。
─有り難き幸せ。
この間実に一秒である。
ちなみに千早さんはまだ笑ったままである、こうなると回復まで時間はかかるが、宣材用の写真は既に撮れているから問題はない。
後は問題のある人も居ないし、このままつつがなく撮影は完了した。
完了したといったら、完了したのだ。
@
「夏美ちゃ~ん」
「ん、呼んだか美希?」
ほとんど皆の撮影が終わってきたところで、今日のメインディッシュと行くの!
既に周囲には
その為の罠はミキ自身、まあ誰が呼んでも来るだろうけど、ミキは事務所の中でも特に夏美ちゃんと仲がいい自信があるの。
「じゃーん、どう、似合う?」
更衣室のカーテンを一気に開いて夏美ちゃんの前に登場する。
ちなみに今の服装は、多すぎず足りなくない程度にデコられてる白いドレス、うーん、この為だけに用意したドレスだったけど、結構気に入っちゃったかも。
当然夏美ちゃん用のサイズもあるの、デザインはちょっと違うけど。
「おぉ~、いいじゃん、やっぱり美希は何着ても似合うな」
「むぅ、夏美ちゃんはもうちょっと女の子を喜ばせる褒め方を覚えるべきだって思うな」
「いや、俺もその女の子だからな?」
うん、そう夏美ちゃんは女の子。
だったら……
「そうそう、夏美は女の子なんだからもっとおしゃれしないとね」
「姉さん?」
「うふふ、私って一人っ子だったから、妹の洋服選んであげたりとかしてみたかったのよね~」
「あずささん……」
「夏美ちゃん身長あるし、真ちゃんより似合う格好も……」
「ゆ、雪歩さん?」
「こんな面白そうな事は逃せませんなぁ真美殿?」
「そうですなぁ亜美殿?」
「「んっふっふ~」」
「お前らまで……」
それぞれが夏美ちゃんに着せてみたい衣装を持って夏美ちゃんににじり寄る。
千早さんとならんで、せっかく素材がいいんだからもっともっとおしゃれしないともったいないの。
同意見の春香とあずさ、雪歩、それと捕獲要員の亜美と真美を巻き込んで今日は一杯おしゃれしてもらうね!
夏美ちゃんはなんとか脱出しようとしてるけど、いくら夏美ちゃんでも逃げられるほどスペースはないから大人しくお縄につけばいいって思うな。
「姉さん足元!」
「えっ、な、なになに?!って、きゃあ!」
むっ、流石夏美ちゃん、春香の扱い方が完璧なの。
でもまだまだ甘いよ。
「あら夏美、どこに行くのかしら?」
「げぇっ、千早さん!」
一番突破される可能性が高いとしたら、当然一番親しいし、癖も知ってる春香!
だからこそそこを一番厚くしたの!
さっきの流れで夏美ちゃんが千早さんの恨みを買ってる事はリサーチ済み。
さあ、諦めてミキ達の着せ替え人形になるがいいの!
そしてミキの夏美ちゃん写真集をより充実させるの!
やよいは天使、異論はさらに持ち上げるもの以外認めない。