青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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この話には残酷な表現が含まれています。苦手な方はそれを踏まえた上でお読みください。


第12話 もう1つの闇

「――あれ?」

 

 ふと目が覚めると、何か良い匂いがした。口をもごもごと動かすと、何かとても美味しい味がした。

 

「ふわぁぁ」

 

 口を大きく明けると思わずあくびが出た。

 

 っと、いけない。また先生に怒られちゃう。貴族の嗜みって難しいな。今日は私とお姉ちゃんの誕生日。お母様とお父様がパーティーを開いてくれる。

 

「よっと♪」

 

 ベッドから降りて、何だか良い匂いがする方へ向かう。疾風の様に走り出した私は、あっという間に着いた大広間を駆け抜ける。

 

「キャハ♪」

 

 目の前が真っ赤になっていた。良く分からない赤いナニカが声を出していた。

 

「逃げちゃダメ!えい!」

 

 手を振るうと、赤いナニカが沢山生まれた。動かなくなるのを確認したら、砕いて口に含む。

 

「~~~♪」

 

 あれ?何だっけ?何か忘れてる気がする。あ、お姉ちゃんだ。お姉ちゃんも一緒にやる?

 

「キャハハハハハハ!」

 

 お姉ちゃんがとても悲しそうに怒った顔をしていた。

 

 私が先にご飯を食べちゃったからかな?みんな揃って『いただきます』ってしなかったから、また先生に怒られちゃう?大丈夫。もう先生は……■■ちゃったから。

 

「風の精霊21柱! 縛鎖となり 敵を捕らえて! 魔法の射手・戒めの風矢!」

 

 そう思って居ると、すごい風が吹いてきて私の身体を縛り付けてきた。凄い風の音がして、回りの声が聞こえなくなった。

 

「むぅ~~~。」

 

 動こうとしてもまったく動けない。そうしている内にお姉ちゃんが泣きそうな顔でこっちを見ているのに気づいた。

 

 お姉ちゃん?何で泣いてるの?

 

「――『リライト』!」

 

 風の音が聞こえなくなった。そう思っていたら、眩しい光が私を包んだ。とっても眠くなって、倒れそうになる私をお姉ちゃんが抱きしめてくれて、とても優しい顔で微笑んでくれた。最近はどこか怒った顔をばかり見ていたから、とっても嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 眼が覚めると周りは木が沢山生えていた。

 おかしいな?私はお城に居たはずで、パーティーのご飯を……え?

 

 私は何を食べた――?

 

 赤いナニカ。

 

 私は何をした――?

 

 赤いナニカを作った。

 

 唐突に理解する。赤いナニカは――ヒトだった。

 

「イヤァァァァァァァ!」

「アンジェ!大丈夫だから!落ち着いて!私が居るから!アンジェ!アンジェ!」

 

 私は、私は沢山の人を。涙が止まらなかった。それでも抱きしめてくれるお姉ちゃんが嬉しかった。

 

「あ!ダ、ダメ!」

 

 お姉ちゃんも壊しちゃう!そう思って、お姉ちゃんを放そうとしたけれど、力が強くて離せなかった。どうして?私、化け物になっちゃったのに、どうして?

 

「アンジェ?落ち着いて?私も同じだから。大丈夫だから。私もアンジェと同じ。血を啜った。私達をこんな体にしたあの男の……」

 

 あの男?それよりも血を啜った?でも、私は……。

 

「大丈夫。アンジェリカちゃんは汚れてなんかいないよ?」

「え?だれ!?」

 

 声に向かって、顔を上げると……天使が居た。

 

「て、天使、様?」

 

 綺麗な銀色の髪に、透き通った翼。私が見上げるとやさしく微笑んでくれた。

 

「アンジェリカちゃんは悪くないよ。悪いのはそんな身体にした人と、神様」

 

 神様!?天使様が神様の悪口って言って良いの?

 

「それはどういう事ですか?あの男は、まさか教会の人間なのですか?」

 

 また少し怒った顔。お姉ちゃんは微笑んでいてほしいな。

 

「アンジェリカちゃんには、生まれる前の事で説明しなくちゃいけないことがあるんだ。でも、エヴァンジェリンちゃんだって、人事じゃないと思うの。……受け止められる?」

「はい、もちろん」

 

 お姉ちゃん……。私、生まれる前の話はした事が無いんだよね。もうあんまりハッキリとは覚えて無いけれど、私が年齢だけならお姉ちゃんより上って事も。

 

「でもこれは、残酷な現実。神様には良い神様も居るけれど、悪い神様も居る。今回の場合は悪い方ね。聞いてしまうと後戻りは出来なくなるよ?聞かないまま、生きていく事もできると思う。それでも――」

「お願いします!」

「アンジェ!?」

 

 天使様が話を終わる前に、私はそう言ってしまった。

 

「お姉ちゃん。私ね、生まれる前の記憶がぼんやりとあるの。今と同じくらいの子供だったけれど、そこで生きていた時の……」

「アンジェ……」

「もうほとんど覚えていないけど、お姉ちゃんの事は大好きだから。もう、隠したくないの……」

 

 怖かった。失ってしまう事が。ただ1人残った私の家族。だから、正直に話してしまった。

 

「アンジェ。アンジェが何だろうと、私達は姉妹だよ。私はお姉ちゃんだから。必ずアンジェを守るってずっと昔から決めてる。私もアンジェが大好きだから。私に守らせて……」

「うん!でも、私もお姉ちゃんが大好き!だから私にも守らせて!」

 

 良かった!お姉ちゃんは私のこと嫌いにならないで居てくれた!

 

「えぇっと、感動的なシーンで、申し訳ないんだけれど~」

 

 あっ!天使様困らせちゃった!

 

 

 

 

 

 

 ――黒の森上空。

 

 まさか、空を飛ぶ日が来るとは思っていなかった。あの後、とりあえず自分の家に来てほしいと言った天使様の声に従って、アンジェと2人で天使様の身体にしがみついている。

 

 バッグや大きな荷物を色々と持っていた様で、私達が抱きつかないと移動に困ると言っていた。そうしている内に、森の中に降り立った。

 

「家ってここですか?森ですよね?」

 

 随分と奥深くの様だが、ただの森にしか見えない。アンジェも不思議に思ったのか、キョロキョロとしている。

 

「うん、ここに封印してあるからね~」

 

 そう言うと抱えていた荷物を地面に置き、少し歩いて何かを探している様子だった。

 

「あったあった。さすがに260年以上経ったら、土に埋もれてるよね!」

 

 260年!?アンジェも驚いた様子で、天使様を見ている。

 

「封印解除っと」

 

 そう言って地面から何かを引き抜く。その瞬間、目の前に小さな家が現れた!

 

「なっ……!」

「すご~~い!」

 

 確かに凄い。こんな森の奥に、見たことも無い形の家があるなんて誰が想像出来るだろうか。

 

「中にバスルームがあるから、2人ともとりあえず綺麗にした方が良いと思うんだ?」

「「あっ!」」

 

 確かに私達の格好は酷い。天使様の勧めで、2人でお湯を張った浴場を借りる事にした。

 

 

 

 

 

 

「それで天使様、アンジェの事と神様と、残酷な現実って何ですか?」

 

 湯浴みから上がった私は、天使様にそう問いかけた。

 

 正直、想像が付かない。私達をこんな体にしたのは神様のせいだとでも言うのだろうか?

 

「そうだね、まず、これを見てほしい」

 

 そう言って見せてきた本を見て、絶句してしまった。

 

 

【『セフィロト・キー』の適応完了】

 

・転生時の枷『真祖に転化後は理性封印』を解除しました。

 

※以下は上位神による初期設定により変更不可能です。

 

・名前 アンジェリカ・マクダウェル

 

・種族 真祖の吸血鬼 女性

 

・転生特典

 一緒に居る事も出来る姉。

 

・真祖の魔力

 吸血鬼の能力。

 太陽光、流水、十字架などといった弱点が無効化される。

 

 

「これは、何?」

「傲慢な神様の悪ふざけ……だよ」

 

 腸が煮えくり返る思いだ。吸血鬼になる事が決まっていた?アンジェが?しかも理性を失う事を神が決め付けただなんて。

 

 それを見たアンジェは不安そうな顔をして口を開いた。

 

「あの、あの時の神様って、家族が欲しかった私の願いを叶えたんじゃないんですか?」

「うん、それは間違いないよ。ただし、曲解したり枷を付けたりとか、悪意を持ってね」

 

 悪意だと!しかも意図的に曲解する!?なるほど。確かにこの天使の言うように、神とやらは傲慢な様だ。それじゃぁ、この天使は――!?

 

「先に確認させてください。貴女は、その神の味方なのですか?私達を助けても良かったのですか?」

 

 こんな所であの帝王学が役に立つとは皮肉だ。精一杯怒気を押さえて、笑顔を貼り付ける。

 

「それは思うよね。信じてもらえないかもしれないけれど、私も、アンジェリカちゃんと同じ転生を経験した、元々はただの人間なんだ」

 

 人間!?どう見ても天使だ。それに人間にしては顔も整いすぎている。

 

「うん、こっちのページを見てもらえるかな。あ、シルヴィアって私の名前ね」

 

 そう言って自身の経験を語り、見せてもらったページを捲くっていく。

 

 

 

 しばらくして――。

 

「とても、信じ切れないけれど。事実、なんですよね?」

「うん、そうだね」

「お姉ちゃん……」

 

 安々とは信じられない内容だ。しかし彼女を否定するという事は、アンジェの出生を否定する事になる。何よりこの本。アンジェから離れたら、書かれていたアンジェの情報が消えたのだ。

 それに、城でアンジェに使った魔法の杖のようなもの。あれでアンジェが正気に戻り、天使となった彼女まで目の前に居て、これで信じないわけにはいかなかった。

 

「分かりました。信じます。それで、シルヴィアさん。これで話は終わりですか?」

 

 彼女には悪いけれど、天使様なんてもう言えなかった。アンジェは分からないが、神を傲慢と言い切った彼女なら分かってもらえるだろう。

 

「まだ、残酷な現実があるんだけれど。アンジェリカちゃんは、覚えてるかな?」

「はい。この世界の事ですよね?」

 

 何……?アンジェは何か知っている?知っていて言えなかったほどの秘密?前世に関係があるのだろうか?

 

「言ってください。アンジェが知っていて私が知らない事。アンジェを失わないためにも、私は知りえる限りの知識と力が欲しい」

「アンジェリカちゃん、良い?」

「はい!」

 

 アンジェの瞳が覚悟を決めたような視線を送ってくる。秘密と言う言葉と緊張で、震える拳を押さえつけながら目を逸らす事無く見つめ返す。

 

「この世界は、ある物語を元に、さっき言った傲慢な神様が作った世界なんだよ」

 

 物語?例の傲慢な神が?

 

「それだけ、ですか?」

「え?驚いたり怒ったりしないのかな?」

「それでも私達は今、ここにこうして生きています。神が世界を作った。それは結局、他にどんな世界が有っても同じですよね?私としては、これ以上その神が何かしてこないかと言う方が心配です」

「あ、それは大丈夫。その神様はもう罪を罰せられて存在して居ないんだ。この世界は私の上司の女神様と私が管理してるって事になるみたい」

 

 ……むしろ警戒するべきはこの女か!

 

「そ、そんな眼で睨まれても困っちゃうかな!」

「お姉ちゃん、助けてくれたんだから、睨んじゃダメだよ」

「それで、その物語ってどんな内容なのですか?」

 

 そうだ、この女が何かをするよりも、物語が元の世界ならば何かが起きるはず!危険が分かっていれば対処は出来る!

 

「うん、物語の開始は大体600年後かな、西暦2003年の初頭ね」

「「600年!?」」

 

 って、アンジェまで驚いてるのか!何でだ!

 

「待ってください!600年も先なんて関係無いじゃないですか!」

「あるよ、あなた達不老不死だし」

「は!?」

 

 今なんと言った?不老不死?

 

「うん、不老不死。年はとらないし、死なないの」

「……ちなみに、シルヴィアさんの寿命は?」

「あまり考えたくないけれど、無いみたいなんだよね~」

 

 何でそんな気楽に言えるんだ!ま、まぁ、そうなるとアンジェと一緒に居る事は確定。やはり問題はこの女か!

 

「物語ではエヴァンジェリンちゃんは大きく関わるらしくって、絶対に居なくちゃいけない存在みたいなんだ。だからきっとアンジェリカちゃんも一緒に居るなら巻き込まれると思う」

 

 巻き込まれる!?アンジェが私に?それでは一緒に居たら、アンジェは……。

 

「私はお姉ちゃんと一緒に居たいな」

「アンジェ!?」

 

 私と居たい!?何か事件にこれから巻き込まれるかもしれない私と!?

 

「うん。大好きだから」

 

 アンジェ……。強くなろう。神にも負けない様に。誰よりも強くなろう。傲慢な神の正義などに負けない!誰よりも誇り高い悪になろう!悔しいけれど、だから今は!

 

「お願いします!私に力を!魔法を教えてください!」

「うん、良いよ。それから、大きな事件は少しだけど情報があるから、一緒に確認して欲しいな」

 

 良かった。時間はまだまだある。未来まで、その先も私がアンジェを守りぬいてみせる!


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